今も届かない。 いつも、ひどく鬱蒼とした感情の中にいる。
それが誰のものか考えるのはもう止めた。限りなく物質的に見えるようになったリアリティを咎める気持ちはまるで無い。こころよいなにか。うつくしいなにか。傷つけたい何かと斬りつけたい鋭さで、心はこんなにも柔らかく鋭利であったと思い出しては血を流す。流れる赤に、アァまだ生きていると眩暈がする。もういつのことだか分からない。俺は、おれは、嘗て人形ではなかった。涙もきちんと流せたし、痛みを耐えて笑ってもみせた。今はもう貼りついて全てがシステマティックだ。何者か、なんてキャラクター性に殺される。
それだから上手に生きてもいけるだろうと思っていたのに。
「……ッ!」
無言で組み敷く暗い瞳を見上げている。問えもせず、見上げていた。さめざめと此方を見下ろす瞳の揺らぎ無さに、嘗ては自分もそうであったと思うのだ。それぐらい未来も自分も現実も盲信していられた頃が、自分にもあった。世界全てが自分の領分に収まると思っていた。過信ではなく、有り得ないことはきっと有り得ないだろうと思っていられた頃があったのだ。だってさぁ、俺、まだ15なんだぜ。夢も見れば妄想もする、過信もすれば落胆もする、そんなお年頃だったんだ。夢を見て、そのままに実現だってしてしまえた。できないことがあるとは想像できても、やらないなんて退屈に甘んじる言い訳だと思っていた。信じていいと思ったし、信じてくれと無謀も吐けた。なんだって手に入ったし、零れ落ちたもののために流す涙も持っていた。もう失くしてしまったもの。誰かを好きだと胸掻き毟って叫ぶ心だとか、もう忘れてしまったもの。
今更思い出させてどうする?
さめざめと此方を見下ろす大人の眼。悲痛を覆い隠すことを覚えた双眸が、お前はまだそうはなるなと懇願するのが見えるから、頷いてはやれないんだって子供に説明させるのか。お前は、そんなに大人じゃないんだって言えば顔を顰めるんだろう。童心を忘れた風に気取ってる。そのくせヒーローがいたらと願ってしまった、こんな世界に飛ばされて、見たくもない夢を見た。もしかしたら、なんて。お前がお前の世界にいたならけして見ない夢だったよ。
それでも、どうか夢をみてほしい。
そんな可能性もあった。そんな未来もあった。平和もあったし不幸もあった。禍も業も嫌悪も憎悪も運命もすべてがあって、だから一握りのパンドラだって眠っていたんだぜ。Snake。お前が疑った全てが顕在したように、お前が望んだ全ても実在する、そんな残酷で柔らかい世界が、きっとあった。傷つけず疑わず切り裂かず。
ごきりと首の折れる音がリアルになる。
教えたかった言葉は、