Who are you. ゲートが開けば光と共に歓声が広がった。
ステージに踏み込み上空を仰ぐ。障害物の無い空間を臨みつつ視線を下げると、反対のゲートから彼が現れるところだった。靴先で地面をなぞりながらチームメイトのアイスクライマーと談笑している。自分の頭にもぴょんと小さな体が飛び乗ってきた。小さな手がくしゃくしゃと髪を撫でる。
「ぴぴ」
「……好きにしろ」
言葉の意味は分からなかったが、恐らく彼との直接対決がしたいのだろう。再度相手方を見やれば、遠く視線がかち合った。
試合開始のゴングが鳴る。
先陣を切って駆け出す青に、頭上を離れた黄色が飛びかかった。スピード勝負は彼らに任せ、自分は此方に向かって来るアイスクライマーに手榴弾を投げつける。進行方向を制限されて、重なっていた二人が左右に分かれた。一度に相手にするような無茶はしない。確実に一人ずつ仕留めていく。
序盤は相手との距離を見定めることと自分の足場を固めることに重点を置いた。先制は相手に譲って構わない。致命傷さえ受けずにやり過ごせればいい。本格的な攻勢に入るのは中盤以降だ。空中戦は不得手だが、それが得意な面々はこの場にいない。
仕掛けておいたC4で、まずは一人を場外に叩き出す。視線で追いかけたもう一人を狙おうと右手の手榴弾を握り締めたところで、背後から風圧を感じた。振り返れば吹き飛ばされた黄色い背中が目前に迫っている。咄嗟に抱きとめようと左腕を伸ばして、自分の迂闊さを呪った。
無防備になった体目掛けて、当然の如く追撃を狙った彼が駆けて来る。手には光る刀剣が握られていた。短剣でも持つかのように柄を逆手に握り締めている。違和感を捉えた瞬間、すぅっと心臓を撫でられた気がした。
斬る、なんて優しいものじゃない。
抉るつもりだ。
「……!!」
相手が振り下ろすより早く手榴弾を投げつけられたのは幸運でしかなかった。無論安全ピンを外している暇など無い。相手の軌道を逸らすことだけが目的だった。
腕を振り下ろした反動のまま身体を丸めて転がる。抱えた小さな体が潰れぬよう庇いつつすぐさま立ち上がった。あちこち打ち付けたが気にしている場合ではない。狙いを外した彼はその勢いを殺さぬままくるりと身を翻す。
「Wow……」
すげぇ反射神経、と呟いて相手が笑った。迎撃しなければならない。そう思いつつ視線は彼の瞳を探ろうとしていた。逆光で影は濃く、伺うには難しい。逆手に持った剣が回転して握り直される。動かねばやられると言うのに、その色を確かめなければと二重の焦りが押し寄せる。
風の切れる音がした。
「ピガッッ!!!」
硬直しかけた己の腕から電光石火の影が飛び出した。ハッとして後ろへ飛び退る。速さでは優位を誇る彼が一瞬ぎくりと身を引いた。空気が爆ぜる。
轟音。
「!!!」
ぐらりとよろめいた彼に追い討ちの電撃が入る。受身を取れなかった身体が場外へ吹き飛んだ。復帰したアイスクライマーが助勢に回ろうとするも、間に合うものではない。浮き上がっていた黄色い背中がぽてりと着地する。
抱えられている僅かの間に雷雲を呼んでいたとは思わなかった。彼も気がついていなかったらしい。場外に叩き出されたその身を待たずして試合は終了した。タイムアップと同時に小さな功労者が腕に飛び込んで来る。今度はしっかりと受け止めてやった。
「ぴー」
「…………あぁ」
お前の勝ちだなと言ってそっと体を撫ぜる。発した声に動揺の名残は無かったらしい。伺うような黒い眼が和らいだと思えば、その身は再び腕から飛び出して行った。その先にはステージに戻って来た青い姿がある。普段なら真っ先に彼の元へと駆けて行くものを、今日に限って気遣われた事実が苦かった。
足元に留まった好敵手に、彼がゆっくりと指を伸ばす。
その手が優しげに添えられたのを遠目に捉え、視線を外した。