婚礼の時にはまだ早く「──そういえばもうすぐジューンブライドの時期ね」
「ジューンブライド?こっちにもあるんですね」
「あら知ってたの、なら話が早いわ」
キョトンとする監督生の顎を指で持ち上げながらヴィルは微笑む。
「監督生。アンタはタキシードとドレス、どっちを着たい?」
「……はい!?」
「何よその不細工な顔は」
「ヴィル先輩がいきなり変なことを言うからですよ!」
「撮影に使う衣装選びのどこがおかしいのよ」
「……さ、撮影?」
唖然とする監督生に対し、ヴィルはにんまりと笑う。
「あら、何をどう勘違いしたのかしらね?」
「っ──わざとやってますよね!?」
「今更何言ってんのよ、この学校はそんな連中ばっかりじゃない」
「……そうでした」
がっくり肩を落とし、監督生は深く溜め息を吐いた。
「しゅ、種類が多すぎる……!」
分厚いカタログのページを捲りながら監督生は悲鳴を上げる。
「良いから早く選びなさい」
「そんなこと言われましても……あ、」
たまたま開いたページに掲載されていた一枚の写真に監督生は目を惹かれる。
「──ふぅん、そういうのが好みなのね」
「へ、」
「良いじゃない。それでいきましょう」
席を立ち、ヴィルは呆然としている監督生の首根っこを掴んだ。
「──で、結局どっちにしたの?」
「折衷案としてパンツドレスを着ることになりました……」
「そっかそっかー」
ヴィルにジューンブライドをテーマとする写真撮影の話を振られた翌日、モストロ・ラウンジの一角でテーブルに突っ伏す監督生を眺めながらケイトはブラックコーヒーを一口啜る。
「絶対エースとデュースにからかわれる……」
「心配性だなぁユウちゃんは。デュースちゃんならストレートに褒めてくれるって」
「エースがからかうことは否定しないんですね……」
「意地悪だからねー、エースちゃんは」
「ああいうのは性悪って言うんですよ」
愚痴を溢しながら監督生は顔を上げ、パッションフルーツのムースを一口食べる。
「そういえば撮影っていつやるの?オレも一枚撮りたいなー」
「えっと、来週の──」
そして写真撮影の当日。
「背筋を曲げない!」
「はいぃ!」
シックなデザインのパンツドレスを着せられた監督生はヴィルのスパルタ指導に苦しめられていた。
「口角を少し上げて──そう、その表情」
「はーい、撮るよー」
荘厳な空間に無機質なシャッター音が数度響く。
「ヴィルくんどう?」
「……及第点ね」
「ユウちゃーん、オッケーだってー」
「や、やっとですか……」
極度の緊張から解放された監督生はその場にしゃがみ込む。
「お疲れさまー、はいお水」
「ありがとうございます……」
ケイトに手渡されたペットボトルの水を一口飲み、監督生は軽く息を吐く。
「──監督生」
「はい何で……って近!」
いつの間にか目の前に立っていたヴィルに驚き、監督生は後退りする。
「………………」
「あ、あのー……?」
「……今じゃないわね」
「えっ」
「機会を改めるわ」
「え?え?」
ヴィルが口にした言葉の意図が全く読めず、首を傾げる監督生の傍にどこか面白くなさそうな顔をしたケイトが歩み寄る。
「──ねぇユウちゃん」
名前を呼ぶのと同時に監督生の手を取り、ケイトは微笑む。
「折角だし愛を誓っちゃおっか?」
「へ、」
「なーんてね、ウソウソ」
「っ……そう言うの、良くないと思います!」
「ゴメンゴメン!さすがに今のは悪ふざけが過ぎたね!」
顔を真っ赤にした監督生に肩を叩かれながらケイトは謝罪の言葉を繰り返し述べた。