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    Dark Victory 朝テレビのスイッチを入れると、ニュースキャスターが「おはようございます。世界の終わりまであと七日になりました」と言う。
    「世界各国の政府は、残存人類の皆様に『今度こそ人類絶滅を成功させる』と確約しました。ようやく、我々、人類はあの悪魔達に勝利出来るのです」
     まぁ、せいぜい、頑張ってくれ。
     時に、西暦2049年。
     俺達が、うっかり、あの「脚本ブック破り」の「事故」を起こしてしまってから約50年後の事だった。
     今回も、人類が自分達の「安楽死」に失敗したなら、次にこの手のニュースを知るのは、ラジオか紙媒体を通じてで……更にその次は口コミだろう。

     2035年。
     人間界が「地獄」になってしまった事で、この世界の法則が、どう変ったかが、段々と判ってきた。
     人間が自分の手で「希望」を生み出せば、別の人間が、その「希望」をあっさりブッ潰し、より深い「絶望」が生まれる。
     それがこの何十年間かに起き続けた事だ。
     人間達は、自分達が自由意志を行使した結果、どんどん不本意な事態になっていってると思ってるだろうが……実は、まるで自然現象のように希望が絶望を生む負の連鎖が自動的に起き続けているのだ。
     どうやら……その事に人間も気付いたようだった。
     そして……「最後の審判」が永遠に来ないのなら……自分達の手で、それを起こしてしまえ……。
     そう考える人間が出始めた。

     2033年。
     希望は、またしても潰えた。
     人間の社会に平和をもたらした世界統一政府は、各国の旧政府・旧軍・旧警察などの関係者からなるテロリスト達の絶え間無い攻撃により、瓦解した。
     テロの遠因は……俺の同胞の何人かが人間達に、あの日起きた事を教えてしまったせいだ。
     でも、俺は人間社会がどう変ろうと死ぬ事も殺される事も無いだろう……多分だが……。
     しかし……ここ十年近い混乱のせいで……いくつかの社会インフラがズタズタになった。
     インターネットと云う暇潰しには最適なモノが再び使えるようになるのは……何十年後になるだろうか?

     2031年。
     俺の同胞達が人間達に捕えられ始めた……。
     いや……正確には「自首」だ。
     人間の科学技術がいくら進歩したって、俺達に対抗するすべなんて無い。マンガのキャラが読者を絞め殺す位に有り得ない事態だ。
     だが、俺の同胞達は、もう、30年以上も人間のフリして人間社会で暮してきたヤツがほとんどだ……。
     その中から人間に同情する者も出て来るだろう……。
     そして、ヤツらは全てをゲロした。
     人間達に全てを教えた上で、人間達に人間達自身の未来を選ばせるつもりで。

     2030年。
     少しは人間を見直した。
     俺達の存在が明らかになった事による混乱は5年と少しで治まり……そして、機能しなくなった世界各国政府に代って、世界統一政府が生まれた。
     だが……一抹の不安は有る。
     もし……「地獄」をマシにしようとする時、何かの反動が有るとするなら……?

     2024年。
     アメリカ大統領選の年だった。
     その日、俺は、アメリカの大統領選の討論会の様子をネット中継で見ていた。
     だが……あれが起きてしまった時、俺は、思わず叫んでしまった。
    「ば……馬鹿野郎……」
     大統領候補の片方を銃撃しようとした暴徒に言ったんじゃない。
     馬鹿は……それを身を挺して防ごうとしたヤツだ。
     十五年ばかり連絡が無いと思ってたら……アメリカに行ってたのか……。
     けど……いくら緊急事態だからって……人の命を救えりゃいいってモンじゃねえだろ……。
     更に事態はややこしくなるぞ……。
     次のアメリカ大統領候補の内、マシな方を、悪魔が身を挺して救った場面が……全世界に生中継されちまったんだから……。

     2009年6月。
    「あの……センパイ、これからどうなるんですかね?」
     後輩は携帯電話でいつもの愚痴を零した。
    「うざいよ、オマエ。この十年で、その話、何度目だよ?」
    「センパイ、今、どこですか? 電話から変な歓声みたいな音が聞こえんですけど……」
    「プロレスの観戦だ」
    「はぁ?……もう、人間社会での生活を楽しみまくってますね……」
    「悪いか? これから、この世界がどうなるか……あの事態を引き起こした俺達にだって判んないんだ。これからは、俺達にとって永遠の余生みたいなモノだ。好きに楽しませろ。いつもと同じ話なら、もう切るぞ……。おらぁ、三沢‼ やれ、頑張れ‼ おい、どうした? お前なら、これ位……あれっ?」
     翌朝、広島市内のホテルで、ファンだったプロレスラーがリング上で事故死したと云うニュースを聞いた時、俺は絶叫した。
     人一人の死のせいだけじゃない。
     約十年前に俺達がやった「やらかし」がフラッシュバックしたせいだった。

     2001年9月。
    「あ〜あ……始まっちゃったか……」
     人間として、この世界で生きていく事を決めた俺は、TVのニュースを見ながら、そう呟いた。
     そうだ……これは始まりに過ぎない……。
     俺達が約二年前にやった失敗のせいで……人間の世界は、どんどん悪くなっていく。
     しかし……人類は簡単に滅ぶ事は出来ず……地獄と化したこの世界で生き続けるしか無いだろう。
     どうすればいいのか、原因である俺達にさえ判らない。

     1999年7月。
    「あの……どうすんですか、これ?」
    「い……いや……それは……その……」
    「こんな『事故』起こしたら……下界で何が起きるか知れたもんじゃ……」
    「わかってるけど……あいつらが、ここまで調子悪かったなんて思わなかったんだよ……。いや、あいつらだったら、多少は調子悪くても、俺達の総攻撃ぐらい受けきってくれると……」
     俺達、悪魔は「脚本」とは逆に、うっかり、滅ぼしてしまった「神」と「天使」達の死体の山を目にしながら……呆然と立ちつくしていた。
     この戦いで滅び去る筈だった俺達は……その後の事なんて、何も考えてなかった以上、「どうすればいいんだ?」と云う問いの答は、俺達の誰一人持っていない。
    「おい……これ……」
    「マズい、全員、逃げろ‼」
     主を失なった「天国」は崩壊を始め……。
    「見てみろ……下界したもエラい事態ことになってるぞ」
     そして、人間達は気付いていなかったが、この時、人間達の住む世界「地球」は「地獄」と融合を始めていた。

     2049年。
     人類の政治・軍事指導者達は、残存する全ての核兵器を爆発させたが……地球も人類も完全に滅ぶ事は無く……残された人類は更なる地獄で生き続ける事になった。
     もちろん、人間界が「地獄」と化した以上、「ここ」は地獄の底ですらなく……この先には、もっと酷い地獄が待っているが……人類は滅ぶ事は有るまい。
     「地獄」が囚人達の解放を許す事など有り得ない。
    便所のドア Link Message Mute
    2021/05/22 16:05:04

    Dark Victory

    想定外の勝利のせいでもたらされたのは……混乱と世界そのものの変容だった。
    某コンテストへの応募作の転載です。
    「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「pixiv」「Novel Days」「ノベリズム」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。

    #ディストピア #悪の勝利

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