ビヨンド・ザ・ゴブンスレイヤー・バース「ち……違う……俺はみんなと同じゴブリンスレイヤーだ……」
「ふざけんなッ‼ その緑の肌は、あの自称『ゴブリン』どもと同じじゃないかッ⁉」
リーダー格の人間のゴブリンスレイヤーは、冷く、そう言った。
「信じてくれ……俺は、何度もみんなを救ってきただろ……」
「はぁ? なら、何で、変身能力が有る事を隠していた? 何故、本当の姿じゃなくて人間に化けていた?」
続いて、ドワーフ族出身のゴブリンスレイヤーが問い詰める。
「これは……俺達の種族の生まれ付きの能力だ……。俺達は、元居た世界で迫害されてきたんだ……。この能力のせいで……」
「全員で採決を取る。こいつは……俺達の敵である緑のゴブリンか……そのスパイだと思うか?」
様々な平行世界の様々なゴブリンスレイヤーの生き残り達。
大半が人間の男だが……若干の女や他種族の出身者も居る。
文明の度合や……科学と魔法のどちらが主流かさえも出身世界により微妙に違うらしい。
だが……その違いを乗り越えて……彼等は心を1つにした。
「こいつをゴブリンと見做し、処刑する」
もっとも、「心を1つにした」と言っても……スクラルという種族の出身だと自称していた、その緑色の肌にエルフ耳の「ゴブリンスレイヤー」を除いてだが……。
「ま……待て……。あの『ゴブリン』どもの正体を……知ってるかもしれん……。それを教えるから、命だけは……」
「見苦しい。死ね」
「あの緑色のゴブリンどもの正体は……ある世界で我々の女王を殺した地球人……うげっ……」
何故、こうなったのかは……出所不明の噂でしか判らない。
ただ……その噂によれば……多元宇宙が丸ごと滅んだのだと言う。
だが、ある世界の魔法使いにして科学者が、多元宇宙を滅ぼした彼方よりの者を名乗る超越者の力を奪い取る事に成功し……無数の世界の破片を繋ぎ合せて、新しい世界を創造した……。
その世界こそが……様々な領域からなる、この「戦乱の世界」と呼ばれる世界だ。
ある領域では……空気が毒と化し、普通の人間は機械仕掛けの鎧を着装わねば生きていけないらしい。
ある領域では……一般人を護る筈の「スーパーヒーロー」と呼ばれる者達が、何故か2派に分れ内戦を続けているらしい。
ある領域では……大地そのものから「ガンマ線」と呼ばれる魔力が放出され、その魔力を長期間受けた者は……強大な身体能力と引き換えに怒りに心を支配された怪物と化すらしい。
そして、この領域では……。
「お前たちは、それぞれの世界で『ゴブリンスレイヤー』と呼ばれていたそうだな……」
それぞれの世界の崩壊を運良く生き延びた「ゴブリンスレイヤー」達を、この領域に連れて来た、超越者の力を奪い「神皇帝」となった鉄の仮面の魔法使いは、かつて、そう告げた。
「ならば、好きなだけゴブリンと戦い続けるがいい」
だが……その「ゴブリン」達は……小鬼では無かった。
大半が人間サイズ……そして……多大な犠牲を払ってようやく倒した数少ない「ゴブリン」の死体を調べると……。
ある者は……何らかの魔法薬によって「人間サイズの緑色のゴブリン」の外見に一時的に変身していた。
別の者は……緑色のゴブリンを思わせる仮面を被っていた。
死体と化した「ゴブリン」達の正体は、皆、中年から初老の人間の男だった。
まだ、十人……もしくは十匹前後の自称「ゴブリン」しか倒していないので……情報は少ないが……自称「ゴブリン」の人間の男達は皆良く似た顔で、特に髪型に関しては……何とも独特なタワシのような髪型の者が一番多かった。
♪ちゅど〜ん。
謎の空飛ぶ鉄の翼に乗った自称「ゴブリン」が落したカボチャ型のオモチャが爆発した。
一気に十数人の「ゴブリンスレイヤー」達が肉片と化した。
最早……生き残り達も心が荒み切り……。
「いつまで……こんな事が続くんだ……」
逃げ込んだ洞窟で……1人が、そう言った。
「もうすぐ……終るさ……。俺達が、あいつら1人を殺す間に、あいつらは、俺達を何十人も殺していく……。あの『神皇帝』がやれと言った、この戦いは……俺達の全滅で幕を閉じる……」
「この領域の外に逃げる事が出来れば……」
「ソー達の噂は聞いた事が有るだろ……。『神皇帝』の許可なく、自分の住む領域の外に出ようとする者は……」
「噂だろ? 見た者は居るのか?」
それも噂だった。
この世界を構成する複数の領域の「国境」は、「神皇帝」に仕えるハンマーを持った雷神達が巡回しており、「神皇帝」の定めて掟に背き、自分の住む領域の外に出ようとする者は、容赦なく殲滅されるのだ、と。
「ソー達の襲撃を乗り越えても……他の領域が、ここよりマシとは限らないだろ?」
ガンッ‼
その時……洞窟全体に凄まじい轟音が響いた。
「な……なんだ……?」
だが、その声は……他のゴブリンスレイヤーに届かなかった。
ほとんどの者が……轟音で耳をやられ……。
洞窟の天井に巨大な穴が開く。
数少ない生き残りの半数以上は……土砂に飲み込まれ……。
そして……更に僅かになった生き残り達も……1匹の絶望を見上げる羽目になった。
「こ……こんな……『ゴブリン』が居てたまるかッ‼」
たしかに、それは「筋肉質のゴブリン」に見えない事も無かった。
だが……身長は人間の倍以上。
背中にはコウモリのモノに似た巨大な翼が有り……。
最早、それは……「ゴブリンを模した姿の上位デーモン」としか呼べない何かだった。
そして……無数の平行世界から集められたグリーン・ゴブリンことノーマン・オズボーンの中でも、最強最大の個体は……ゴブリンスレイヤー達の生き残りを1人づつ……。