ある女学院の慣習「この学院ではね、これが制服みたいなモノなのよ……」
二一世紀も半ばとなった今では、普通の中学・高校では制服は、ほぼ廃止されている。
学校の制服なんて、あたしにとってフィクションの中のモノだった。幼稚園の頃からずっとだ。
しかし……選ばれた少女しか入学出来ない、この女学院は違う。
「サイズの調整は、これでいいかしら?」
「はい、お姉様」
この学院では先輩と後輩が擬似的な「姉妹」となる。
そして、新しく入学した「妹」の制服の最後の仕上げをするのは「お姉様」の役目だ。
あたしも、いつか「妹」が出来た時には……「お姉様」と同じ事をするのだろう。
学院の「外」の人達が考えるような、甘酸っぱい擬似恋愛では無い。
何から何まで本気の……訓練の一貫だ。
「貴方がここを卒業した時、この服を脱ぐ事になるでしょう。でも、この制服のAIは貴方の分身として、一生、貴方と共に有るわ」
そうだ……この「制服」の制御AIは、あたしの動きを覚え、卒業後にあたしが着る事になる「仕事着」に移植される。
あたしは、「お姉様」が最終調整をしてくれた強化装甲服の起動ワードを唱える。
あたしにも、いつか、強化装甲服の整備の訓練を終えた後、「妹」が付く事になる。
胸に有るこの女学院の校章……異能力を持った「正義の味方」や「レスキュー隊員」を養成する為の学校のシンボルに光が灯った。
まだ、ぎこちない……でも、いつか……あたしの分身となった強化装甲服の制御AIは、あたしの動きを一瞬前に予想出来るようになり……そして、パワーとスピードだけでなく、滑かで自然な動きを兼ね備えたものとなるだろう。
その頃には……この姉妹関係は終り……あたしと「お姉様」の絆は、青春の短い間だけの関係から、大人同士の友情に変貌しているだろう。
あたしは、今、この時、伝統あるこの女学院の過去から未来へと続く歴史の連鎖の一環となったのだ。