オーカイSS・クッキーと太陽「こら、だめだろ」
その一言で、楽しかったオーエンの気持ちがすっと冷めた。声の主は、先ほどまでオーエンがおどかしていたヒースクリフとハイタッチをしている。
「ヒース、大丈夫か?」
「ありがとう、カイン……」
カインは、ヒースクリフを背に隠すようにしてオーエンの前に立った。
オーエンは舌打ちする。魔法舎近くの森で、一人で読書していたヒースクリフをからかっていたのだった。ヒースクリフはオーエンを前にすると、びくびくするので楽しい。彼の自分に自信のないところを突いて、オーエンは不安を煽っていた。それを、カインに邪魔された。目の前の赤髪の騎士は、オーエンより弱いくせに、誰かを守ろうとする。オーエンはそれを見ていると、いらいらするような、そわそわするような、そんな感覚がしていた。
「騎士様、出しゃばるなよ」
「ヒースを泣かせるな」
「泣いてないよ!」
ヒースクリフが後ろからカインに反論した。カインはそうだったか? とへらへら笑っている。
「ネロがパイを焼いてた。シノを誘って行ってきたらどうだ?」
「でも……」
「俺は大丈夫だから。修行の成果を出したいし」
カインはそう言いながら、剣の柄に手をかけていた。オーエンはにやりと笑った。カインは手向かってくるつもりらしい。邪魔した罰に、怖いもの知らずの騎士をいたぶってやろうとオーエンは思った。
ヒースクリフは迷っていたものの、カインに強引に背を押され、魔法舎のほうに帰って行った。
オーエンとカインの間に、さあっと風が吹き抜ける。カインが一歩踏み出したのが合図だった。
「グラディアス・プロセーラ!」
「クーレ・メミニ」
飛んでくる剣撃に、オーエンは攻撃魔法をぶつける。魔法を食らったカインの体が吹っ飛んでいった。
「ぐっ……」
「修行の成果って、そんなものなの?」
オーエンがからかうように言うと、カインはぎゅっと剣を握る力を強めた。瞳はしっかりとオーエンを捉えている。カインは剣を振り上げてオーエンに向かってきた。
「うおおおお!」
「ふふ」
オーエンはそれを軽々と避けた。カインは諦めず、何度も剣を振ってくる。人間であれば敵う者は多くないであろう、素早い剣筋だった。だが、北の国で殺し合いに明け暮れていたオーエンには、簡単に見切ることができる。あくびが出そうだった。
カインはむやみやたらに攻撃するのをやめて、剣を構えたままオーエンを見つめた。別の手を打ってくるつもりらしい。
カインの魔力が強まる気配があった。カインが地面を蹴り上げた。
「グラディアス・プロセーラ!」
カインの剣はオーエンをかすりそうだった。だが、当たらない。オーエンは口角を上げた。
「おまえって、ほんとう弱い」
「言ってろ!」
カインは下がって、剣に魔力を込め始めた。荒く呼吸をして、じっとオーエンを見据えている。先ほどよりも大きい魔力を感じた。
オーエンはカインの眼前に降り立った。
「こら、だめだよ」
「⁉︎」
オーエンはカインの剣先に人差し指で触れた。魔法でカインを動けなくさせた。目と口は動くので、カインはオーエンをにらんできた。
「なにを……」
「力が入りすぎ」
オーエンが剣を指で軽くはじくようにすると、カインはすてんと転んだ。カインが貯めていた魔力も、体を強張らせていたものも、オーエンの魔法で霧散させたのだった。
カインは驚いて目をぱちくりしている。
「え?」
「そんなに力が入ってたら、動きが固くなる」
カインは地べたから立ち上がって、土埃を払った。そして、首を傾げる。
「アドバイスしてくれてるのか?」
「違う!」
オーエンはカインの足を踏んだ。カインが「痛っ」と飛び上がる。
オーエンはいらいらしながら、カインの腰のポケットを指差した。
「ポケットにクッキーがあるだろ」
「あ、うん。よく分かったな?」
「魔力を一気に発露させたら、衝撃で粉々になる」
「そうなのか。……って、おい!」
オーエンは魔法でカインからクッキーを取り上げた。クッキーがふよふよと空中を浮かんで、オーエンの手元に収まる。
「僕を邪魔した罰だよ」
「邪魔しなくても、奪っただろ」
カインは笑っていた。クッキーを奪われているのに、なぜ笑顔なのかとオーエンはむかつく。
「くやしくないの?」
「それ、もともとオーエンにやるつもりだったんだ」
木々の合間から陽が射す。森を流れる小川がきらきらと輝いていた。
オーエンは、がりっとクッキーに噛みついた。オーエン好みの甘さだ。
オーエンはカインを横目で見た。こいつはこちらを不快にさせたいのか、喜ばせたいのか、わからない。カインは目を細めてオーエンを見ている。まぶしいのはこっちだ、とオーエンは思った。