その村 薬師の集まる村の領主が変わり、圧政が始まった頃。
待遇に耐えかね、領主に直訴しようと集まっていた薬師たちの前に、白く長い髪をした吸血鬼の子供が現れた。子供が「自分は現領主の親友だ、自分から説得しよう」と言うので、薬師たちは深く感謝し書状を託した。しかし圧政は変わることなく続いた。
次に子供が現れた時、子供は「領主は直接話が聞きたいらしい。数人一緒に城まで来てくれないか」と言った。薬師の中でも勇敢な者が数名選ばれ、共に城へ行った。どれほど待っても、誰一人として帰ってこなかった。賢明な者が数人、領地を去った。
3度目に子供が現れた時、残っていた薬師たちは城へ行った者の行方を尋ねた。子供は驚いた顔をして、「前回は話し合いが長引きそうだから先に帰ったのだ。領主に行方を尋ねようと思うが、自分は連れて行った者の顔を覚えていない。数名一緒に来てほしい」と言い、数名を伴い城へ行った。数日後、彼らは帰ってきた。しかし一様に人が変わり、領主を賛美し薬を作っては上納するようになった。
そしてあの日、子供が訪れた時。大人たちが責め立てると、子供は嬉しそうに「ああ、いい感じになってきたね」とうっとり呟いた。気味の悪さに声が出なくなると、子供は「どうしてやめてしまうのかな?怒りと疑念、そして恐怖の滲み出たいい音だったのに……声が出ないなら仕方がないね、心を演奏してもらおう」そう言って、指揮棒のように剣を振るうと大人たちは椅子に縛り付けられ、それぞれ楽器を手にしていた。
「さあ、滅びゆく者たちよ。決して埋まることのない種族としての差、生まれによる理不尽、搾取され用が済めばいたずらに殺される恐怖を奏でてくれ。安心してくれ、領主の許可は取っているよ。逃げ出そうとした者に薬の製法は吐かせたから、若めのを残して全滅させなければいいとさ」
初めて手にする楽器を震える手で奏でようとする人々。満月が沈む頃には、広場は静寂に包まれていた。