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    日久生情 サンプル暗躍していたファデュイを倒し、復活した上古の魔神を退けるという活躍を見せた空の名声が日毎に上がっているのを、俗世に疎い魈でも肌に感じていた。モンド、璃月と二度も厄災を払い退けた彼は真の英雄だとまことしやかに囁かれている。けれども当の本人の顔色は冴えない。曰く、知名度が上がりすぎた、と。

    「……どうした?」
    いつものように望舒旅館の最上階の露台で風に当たっていた魈は階段を登ってくる足音に気付き振り返る。そこには顔を青くして、窶れた様子の空がいた。魈の顔をひと目見て眦を下げ笑顔を作るが、無理やり表情を作っているのが分かり痛々しいばかりだ。
    「あ……えっと……ちょっと疲れてて」
    座って休むかと尋ねると、青い顔をさらに青くして階下には降りたくないと首を振る空は何か事情を抱えているようだ。とはいえこの露台には何もなく、欄干に背中を預けて座り込むくらいしかできないが、欄干のそばにも寄りたくないと空は珍しくあれこれと注文をつけてくる。仕方なく少し熱っている身体を抱くと建物を支える巨木の枝へと飛び移り、腕にぐったりと体重を預けている彼を下ろす。今日は日の照り付けが弱く全体的に薄い雲が広がっており、朝の爽やかな空気も相まって木陰では少し寒いくらいだ。風通しも良く、見える景色も美しいそこは魈の定位置となっている。
    「ここならいいか?」
    「うん。ありがと……」
    目の下には深いクマが刻まれており、瞼は重たそうに半分閉じかけている。身体も怠いのか太い幹に体重を預けている彼から何か話し始めるまで辛抱強く待つ。聞き出すようなことをしたくなかった。そばにいるパイモンですら普段の賑やかさを失い、心配そうに周囲に浮かんでいる。
    「みんな俺のことすごいすごいって持ち上げてくれるのはいいんだけどさ……」
    独り言のように静かな声で空は口を開いた。聞けば知らない人間から迫られることが多くなった、と。異国の装いと輝く金髪を持つ彼は、誰が見ても旅人だと気付いてしまうと言う。敵意を向けられるよりはましだと話す空だったが、その声には辟易が見え隠れしていた。見知らぬ者から向けられる身勝手な好意の気色悪さには魈にも覚えがある。先日より熱狂的な者につけられており、怖くて眠れず夜中でも逃げ回っているため連日ちゃんと休めていないのだと話した。
    「だから、少しの間でいいから匿って欲しいんだけど……」
    「構わない。……横になりたいのであれば部屋を貸そう」
    ゆったりとした口調に彼が本当に疲労を抱えてくるのが伝わってくる。気を遣わなくていいと首を振ったが、その拍子にぐらりと体勢を崩すのを咄嗟に支えて、彼を休ませた方がいいと判断した。眠たそうにしている空を抱き上げて、望舒旅館の最上階にしつらえられた魈の部屋に飛ぼうと枝の上に立つと、パイモンが声を上げる。
    「またアイツがいるぞ!」
    その言葉に驚いたのかびくりと身体を震わせ胸元に縋り付き、隠れたいのかなるべく丸まろうとする空に危ないと声をかけながらも、余程怯えながら過ごしてきたのだろうと心中察する。地上からは空の名を呼ぶ男の声が聞こえてきた。木陰の隙間からその姿を視認するが、普通の璃月人のように見える。落ち着いた紅色の服を身に纏った壮年の男性だ。
    「……この間あの人の娘さんを助けたんだけどね、えらく俺のこと気に入っちゃったみたいで娘と結婚してくれってしつこいんだ」
    ぎゅうっと首に巻き付く腕の力を強めた空の指先が震えていることに気付き、安心させるように強く抱き締め返すと、魈は縮地を使って私室へ移動する。元々は宿泊客の中でも要人専用に使っていたという最上階のこの部屋を、野外で活動することの多い魈は正直持て余しており一度も使用したことはない。この要地の守りを任せられた際、モラクスから指示を受けた当時の七星によって与えられたものだ。必要ないと切り捨てるのは簡単だが、この待遇は業障の影響で寝込むこともある魈の身を慮ってのことだと理解はしている。それに初めの頃視察に来たモラクスが、その洗練された調度品の質や内装の感性にいたく興味を示しかつ喜んでいたことを思い出すと、とても無下にはできなかった。二人は優に横になれる広い寝台の上におろすと、空は久しぶりのベッドだと声を上げて横になった。パイモンも嬉しそうにその隣で寝転び大の字になる。ここは私室なのかと問われ逡巡の後に頷き、一度も使用したことのない旨を話すと、枕に顔を埋めていた空は頬擦りしながら勿体ないと声を上げた。
    「俺、今までこんな広くてふかふかのベッドに横になったことないよ」
    「我には必要のない物だ」
    絶対試した方が良いと鼻息荒く話す。しばらく寝台の広さや寝具の手触りを確かめるように寝返りを打つなどしていた空だったが、過去は要人専用に使われていた部屋だと告げると奇怪な声を漏らしてぴたりと動きが固まる。
    「……本当に俺が使って良いの?」
    「今の所有者である我が許可するのだから問題ない。今日はここに篭っているといい。食事が必要なら話を通しておく」
    隣に寝転ぶパイモンに声をかけるが、既に眠っているのか返事がない。空は悩む素振りを見せ、やがて首を横に振った。
    「大丈夫、あんまりお腹すかないんだ」
    ありがとうとようやく心からの笑みを見せると、眠気の限界がきたのか糸が切れたかのように眠りに就いてしまった。人間の見よう見まねで備え付けてあった毛布を身体の上にかけてやると、魈様と自分を呼ぶ声が扉の外から聞こえてくる。
    「……なんだ?」
    空たちの姿が見えないように自分の身体で隠しながら扉を開けて顔を出すと、旅館の主人が困った顔をして立っていた。空が先ほど最上階へ上がっていくのを見たが、どこに行ったのか知らないかと尋ねてくるので、見ていないと簡潔に答える。彼もまた件の男に請われて仕方なく尋ねたのだろう。申し訳なさそうにぺこぺこと数回頭を下げて階下へと戻っていくのを見送る。耳をすませば階下に降りずとも会話が聞こえてくる。主人が最上階まで確認したが空の姿はないと話すと、男は平坦な声で返事をし玄関広間から去ったようだ。何かに憑かれている様子もなく、ただ純粋に空のことを気に入っただけなのだろう。しかしいき過ぎた好意はかえって恐怖でしかない。現に空は嫌がっているというよりも最早怯えている。すうすうと寝息を立てている空とパイモンの邪魔をしないよう部屋から出て務めを果たしに出た。

    渦の魔神オセルが復活したからなのか、近頃は胸騒ぎを感じていた。妖魔ともまた違う。けれども何らかの力が地下に潜んでいる感覚がある。南天門の付近ではその波動が顕著だ。あそこに生える伏龍の木のそばには若陀龍王が今も封印されている。あまり良い兆候ではなさそうだと直感した。俗世では数日前より層岩巨淵の方で行方不明者が出たと聞く。しかし人が治めることとなったこの国に対して必要以上に手を加えないようにと、オセルを退けた後に残った仙人たちで決めたからには、七星をはじめとする人間たちがどのように対処するのか見守る日々だ。とはいえ、三千七百年もの間、神と共にあり守られ続けてきた国が一朝一夕で体制を整えられるはずもない。まずは神を失った民の不安を取り除き、万全の体制を築く方が先であろう。彼らには時間が必要であった。それを理解できるからか、絶雲の間を拠点としている留雲借風真君や削月築陽真君などとは南天門で顔を合わせることも多い。人間だけでは対処できそうにない問題や、取りこぼした問題は解決に導いてやろうという考えが見てとれる。彼らもまた璃月のことが心配なのだ。

    はっと我にかえると足元に転がる絶命したアビスの魔術師から纏っていた邪気が抜けていくのが見えた。思考に耽りながら戦闘するなど命取りだ。周囲には誰もおらず、振り返ると点々とヒルチャールの死体も転がっている。ふう、と息を大きく吐いて、儺面を外す。仙人の中でも上位の存在である魈にとって妖魔退治は難しいことではない。しかしこの身に蓄積する業障は周囲にも、そして自身の思考にもあらゆる影響を及ぼす。あまり隙を見せるような真似はしない方がいいだろう。辺りを見回してここが霊矩関であることを確認し、行方不明者が出た件が妖魔による連れ去りではないか調査をしていたことを思い出す。しかしたまに見つける個体は全て魈の身体から漏れ出す業障の影響を受けてしまったものばかりだった。崩れかけた遺跡の間を抜け高台に登ると、穏やかな風が流れて魈の身体を通り抜けていく。風の行先である層岩巨淵の方を見つめ、行方不明の仲間のことを思い出し目を伏せた。彼の地を見る度に言い表し難い感慨が湧いてくる。もう戻ろう、と踵を返す。じきに日が暮れるのか、雲の隙間からは西日が差し始めていた。

    寝台の上には相変わらずパイモンが大の字になって眠っていた。空はその隣で身体を丸めている。すっかり眠っているものだと思い近付くと、ゆっくりと開かれた瞼の内側にある明るい金眼と目があった。同じ色の睫毛がぱちぱちとしばたたく。
    「……起きていたのか」
    「いまおきた」
    くあ、とあくびをしながら上体を起こして大きく伸びをした空は眦に涙を浮かべながらおかえりなさいと頬を緩めた。よく眠れたか尋ねるとお陰様でと言葉が返ってくる。おおよそ半日ぐっすり眠ることができたらしい。一安心していると、地の底から響くような大きな腹の音が聞こえてきた。彼我の間に気まずい空気が流れる。
    「……聞こえちゃった?」
    「聞こえぬ方が難しいと思うが」
    恥ずかしそうにはにかんで、お腹すいちゃったと素直に吐露する空は顔色もずいぶん良くなっている。安心できる環境に身を置いたことにより失くしていた食欲も戻ったのだろう。一緒に何か食べないかという誘いを断る理由もなく、階下に降りて言笑に料理を注文する空の隣に立つ。寝起きだというのに余程空腹なのか二品三品と注文していく様に、食べ切れるのかと魈の方が不安になるほどだ。余ったら包んでパイモンにあげるから問題ないと話す空と共に、料理を待つため最階下に降りようと厨房の階段を上がり玄関広間を出ようとした時だ。空さんと聞き覚えのある男の声が正面から聞こえてくると、足音を立てて露台から石段を上がって中へと入ってきた。
    「お前は……」
    今朝見た空につきまとっているという男がそこにいた。彼は辺りで聞き込みをしても、誰も空の姿を見ていないというからきっとまだここにいると思った。待っていて正解だったと興奮した様子で矢継ぎ早に語り出す。この間の話は検討して貰えたかと掴みかかる勢いで迫る男と怯えて動けない様子の空の間に割って入る。男からは悪意を感じない。むしろ好意的だ。とはいえ、嫌がる者を追いかけ回すのも良くはないだろうという判断からであったが、魈の様子に何かが閃いたらしい空に右腕を絡め取られる。何事かと隣を見ると、意を決したような表情をした空は、俺はこの人とお付き合いしているので娘さんとは結婚できませんと大きな声で言い放つ。
    「はぁ!?」
    その場にいた全員が空の発言に耳を疑い、注目を集めた。目の前の男も、会話が聞こえていたのであろう主人たちも全員が驚いている。魈は一人周囲を見回すが、彼らは驚きはしているものの、疑っているような表情をしていないことが気になった。まさかこんな突拍子もない嘘を信じてしまうのかとそちらの方に驚いてしまう。空は眉を八の字にして切なげな瞳で、驚きを隠せない魈の顔を見つめる。話を合わせてくれと言外に請われるが、このような内容の頼み事は初めてだ。どのように補助してやればいいのか見当もつかない。
    「だんっ……いや、ぐぅ……」
    男は何かを言いたげに声を荒らげかけたものの、魈の鋭い刃のような気配に只者ではないと察したらしく、みるみるうちに勢いを失ってしまう。魈の剥き出しの腕への密着度を高める空を一瞥すると、彼は大きく嘆息し無言で立ち去った。諦めてくれたのだろうか。欄干に身を乗り出して、地上に降りた男が帰路に就くのをしっかり見届けてから、ようやく空は緊張が解けて脱力し、大きなため息と共にくたりと欄干に身体を預けた。
    「……仲が良いとは思っていたけど、あなたまさか魈様とお付き合いしていたなんて」
    受付台の前で立ち尽くす魈を迎えにきた晴れやかな表情の空は、女主人の言葉を聞いてぶわりと顔を赤く染めた。安心してようやく自分の発言を思い出したのだろうか。
    「ま、まあね……」
    しかし意外にも否定することなく、へへへと乾いた笑いを浮かべるだけの対応に疑問を抱く。何故今の発言は男を追い払うための方便だったと真実を告げないのか。じゃあ下で料理が来るのを待つと告げる空に腕を引かれて、魈はされるがまま連れて行かれた。昇降機を使わずに木製の階段を降り、地上に着くまで空は無言だった。隣を歩いていると表情もうまく確認できない。しかし、触れ合う素肌から彼がじっとりと汗をかいていることが伝わってくる。魈と同じく、彼もまた平常心を保っているように見せかけているのだと分かって少し安心した。

    屋外で食事ができるように卓や椅子が設置された露台まで降りると、ようやく空が口を開いた。あそこにしよう、とかけられた声は静かで普段の穏やかはあるものの明るさは感じられない。指差す方向をみると、周囲に客もおらず食事をするにも会話をするにもちょうど良い場所だった。
    「……ごめんね。俺、咄嗟だったとはいえ魈のこと巻き込んじゃった」
    勧めた席に腰掛けると、すぐさま顔色を悪くしていた空は頭を下げた。何と返すべきなのか悩んで硬直したままでいると、魈の返事のない様子を見てううと唸り声を上げ、空はますます元気をなくしていく。怒っていると勘違いしているようだが、ただただ困惑していた。すると集中していて何も聞こえなかったのだろうか、普段通りの様子の言笑が何皿も抱えて料理を運んでくる。四人での使用を想定しているはずの机上があっという間に皿で埋め尽くされた。ほかほかと湯気の上がる皿を挟んで見つめ合っていると、空が苦笑を浮かべながら先に食べようかとそれらを取り分け始める。いただきますと真っ先に岩港三鮮に箸を伸ばして、ひとつ野菜を口に放るとふた口は米をかきこんでいた。頬を膨らませ咀嚼している姿は齧歯類とそう変わらない。元気がないように見えたが空腹には抗えないらしい。そんな食べ方をしているからか、いつのまにか椀に盛られた米を食べ終えてしまったようだ。彼に倣って、取り分けてもらった真珠翡翠白玉湯を匙で掬ってひと口啜ってみるが、あまり美味しいと思えず豆腐を飲み込むのもやっとだ。小さく嘆息したあとに匙を机上へ戻す。それほど嘘の内容と、誰もが信じてしまった事実と、嘘だと取り消さなかった衝撃は大きかった。一体何を考えているのだろう。やはり人の感情は理解し難い。魈の冴えない表情に空も箸の手を止めてしまったのが目に入る。心配そうに見つめられ、彼も食事を中断するのならばと疑問を口にする。
    「……ああいった手合いはよくいるのか」
    「あそこまで熱烈な人は初めてだったけど、たまにいるよ」
    無言ののち、空は視線を彷徨わせ言いづらそうな表情と共にあのさと切り出し、このまま俺の恋人ってことにしてくれないと小首を傾げた。想像もしていなかった展開に目を丸くする。しかし、先ほど彼が方便だと否定しなかったのはこのためかと合点もした。
    「このままみんなに俺と魈が付き合ってるって話が広まれば、自然とこういうこともなくなるんじゃないかって思ったんだ」
    確かに、魈がその場にいるだけで男は諦めて立ち去った。最初から空の隣に立つ者がいると知れば、無謀な挑戦をする輩も減るだろう。今朝の空の様子を思い出す。睡眠も食事もろくにとれずに窶れた姿、無理に作る引き攣った笑顔、些細なことにも怯える様子。それを考えると、後顧の憂いを断つ手伝いをした方が良いのではないかという気持ちにもなる。友の辛そうな姿は見たくなかった。それに本当につがい関係を結ぶわけでもない。今、魈が首を縦に振り了承する。ただそれだけで空は今後も安心できるのだ。何も男性体である自分でなくても良いのではないかとは思うが、あの場にいたのは魈だけであったから仕方なかったのだろう。
    「……関係を匂わす位なら問題ない」
    「本当?!」
    がたりと音を立てて空は立ち上がる。その勢いで箸を地面に落とし、足元まで転がってきたそれを拾い上げた。迷惑じゃないかと念を押して尋ねる彼に箸を返して、首を緩く横に振る。元より人間との関わりが薄い魈だ。誰に知られたところでこれまでと大きく変わらないのではないかと考えた。そして空が自身の知人や友人に話をしたとしても、彼の性格上この件で魈を面倒ことに巻き込むようなこともなさそうだ。一番関わりのある旅館の者たちに誤解されたままでいるのは多少落ち着かない気分だが、彼らですら信じきっている以上、他者から真相を疑われることもないのだろう。
    「じゃあ契約だね!」
    考えついたような明るい声で空はそう言うと笑顔を向けた。以前降り立った世界で恋愛関係になかった者同士が双方の利益のためだけに結婚するという劇を見たことがあると少し興奮気味に話し始める。その時に契約結婚と呼んでいた、と。魈にとって異世界の話は、俗世の話をされるよりも難しい。何を言っているのか言葉を理解できても内容を理解できずにいると、呆けた魈の表情を見て空は恥ずかしそうに咳払いをして静かに着席した。
    「……ごめん。そのドラマ、妹と結構ハマったんだ」
    楽しかった頃の記憶が蘇って気分が上がったのだろう。話を続けてもいいと言ってみたが、照れてしまった空は本題に戻ると言って聞かない。大人びて見える彼だが、このように年相応の幼い一面もあるのだと魈は頬を緩めた。
    「えーと、だからね。俺ばっかり魈の名前や顔を借りて助けてもらうのは忍びないし、俺も魈の力になれたら良いなって」
    俺にできることなんて何もないかもしれないけどと前置きをして、何か対価になるものを考えておいて欲しいと話す。魈にとっては友への手助けのつもりが、いつのまにか契約という話で落ち着いてしまった。心身健やかであるのならば望みなど何もなかったが、それでは空の気が済まないのだろう。まあ今すぐ考えなければならない問題でもない、と深く考えることをやめる。じゃあ冷めないうちに食べちゃおうと空は地面に落ちた箸についた汚れを軽く払うと再び食べ始めた。水晶蝦に箸を伸ばし、黒酢をつけてひと口頬張り美味しいと目を輝かせると、魈もひとつ食べてみると良いと匙で掬ったそれを差し出される。にこにこと笑顔を向けられて断れそうにない。空はただ自分が良いと思ったものを共有したいだけなのだ。仕方なく匙の中のそれを望み通りに食べる。透明の皮の柔らかく弾力のある食感と、桃色の餡の弾けるような食感が口の中で混ざると、蝦の旨味と風味が広がっていった。こくんと嚥下したのを見守っていた空が美味しかったでしょうと嬉しそうに微笑む。何事もなかったかのように日常が戻った、ように見えた。実際は食事を終えて、腹が膨れすぎて動けないと甘える空に肩を貸しながら部屋に戻ると、既に誰かからこの話を聞きつけたパイモンが盛大に拗ねていた。いつも一緒にいるのに他人から聞かされるなんてひどい話じゃないか、と。ぽかぽかと軽い調子で背中を叩くパイモンに命じられた空は先に注文したと話す食事の調達のため再び階下に降りていってしまい、むくれているパイモンと二人っきりになりとても気まずい思いをした。ましてやそれまでの態度は演技だったのか、しおらしい様子で空のことを頼むぞと耳打ちされ、彼我の関係を何故近しい者であっても誰一人と疑わずに信じてしまうのかと頭が痛くなる。魈はまだこの判断が自分たちの関係を大きく変えてしまったことに気付いていなかった。
    紗紅緋 Link Message Mute
    2022/11/02 21:43:15

    日久生情 サンプル

    人気作品アーカイブ入り (2022/11/05)

    契約恋人のはずがマジ惚れしていく話

    1/8開催 神の叡智7にて頒布しました
    (B6/184頁/価格1,000円/R-18)

    ※サンプル部分は冒頭ではありません
    ※バージョン1.3から2.7に至るまでのあらゆるイベントネタが詰まっています
    ※実際はタイトル部分は箔押しとなります
    ※通販はFOLIOを利用しています。どうぞよろしくお願いします
    https://www.b2-online.jp/folio/13072300003/001/
    ※成人指定してあります。表示されない場合はユーザー情報で表示するにチェックする必要があります。


    #gnsnBL #空魈

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    Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    2022/11/03 22:11:10
    サンプル拝見しました。全文読めるのとても楽しみにしております!通販はご無理のない範囲でイベント後にされる等でも良いかと思います。
    > BOOO
    2022/11/04 14:50:28
    いつもお世話になっております。まだちょこちょこ推敲しないといけませんが何とか一冊出せそうです!通販はこの時勢なのでやるつもりはあるのですが、自家か委託で悩んでおります……
    2022/11/04 22:29:46
    コメント失礼致します。本、非常に楽しみにしております!当日は会場に向かえないため通販をご検討されているようでしたらとても嬉しいです…!
    > 長閑
    2022/11/04 22:36:57
    のどかさんお久しぶりです。時勢が時勢ですので通販は検討しております。どう対応するかに悩んでおりますので、イベント開催日までにまたお知らせいたしますね
    2022/11/05 13:22:26
    いつも作品楽しみにしております!何があっても絶対に買わせていただきます…!御本という形で手に取るのを想像するだけで、今からとても楽しみです!
    > 紗紅緋
    2022/11/05 14:48:46
    部数次第では自家のが安上がりかもしれません…。手間を考えると委託が楽だと思います!色々まだご準備大変かと思いますが2冊目も応援しております!!
    > BOOO
    2022/11/05 22:19:27
    なるほど!アドバイスありがとうございます!2冊目も頑張ります!
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    • 海誓山盟マルチしようとしたら過去の仙人と出会う話。謎設定と魈の過去捏造しかありません

      何が出てきても大丈夫な方のみお進みください。
      #gnsnBL #空魈
      紗紅緋
    • 碧悟4後ろ向きな空と前向きな魈の話
      *ありとあらゆる台詞、キャラクターストーリーへのネタバレ配慮をしていません。
      *プレイ時中国語音声なので、声や細かい言い回しなどはそちらをイメージしてます。間章で感情大爆発させるCN魈はいいぞ
      *作業用BGM:周深『大鱼』の影響を若干受けています
      #gnsnBL #空魈
      紗紅緋
    • 結婚する空魈6/30の朝、唐突に結婚する自CPがみたいと思ったので書いたら精神が健康になりました。
      現パロです。
      #gnsnBL #空魈
      紗紅緋
    • 結婚する空魈2数年後にちゃんとプロポーズする自cp。1万文字ある蛇足みたいなものです。

      #gnsnBL #空魈

      追記:
      先日、ようやく溺愛の続きもアップしました。興味のある方はフィルターを一般からR18に切り換えてご閲覧ください。
      紗紅緋
    • 暗恋両片想いしていた空魈話です。
      魈の過去を含め全てが捏造。 #gnsnBL #空魈
      紗紅緋
    • 耽溺キスする空魈が書きたかったです。2ページ目は蛇足です #gnsnBL #空魈紗紅緋
    • 碧悟2空がひたすら鬱々している話。少し女々しいかも。

      *ありとあらゆる台詞、キャラクターストーリーへのネタバレ配慮をしていません。
      *プレイ時中国語音声なので、声などはそちらをイメージしてます。kinsenはいいぞ #gnsnBL #空魈
      紗紅緋
    • 碧悟1魈の精神革命の話。ただひたすら魈の精神描写ばかりです。

      *ありとあらゆる台詞、キャラクターストーリーへのネタバレ配慮をしていません。
      *プレイ時中国語音声なので、声などはそちらをイメージしてます。kinsenはいいぞ
      *イメソン:邱振哲『太陽』の影響しかないです #gnsnBL #空魈
      紗紅緋
    • 寂寞ほぼパイモンと魈の旅人看病記。受けでも攻めでも嘔吐してる姿はかわいい #gnsnBL #空魈紗紅緋
    • 碧悟3隣で自分の道を歩む人が出来て、見える世界が変わった魈の話
      *ありとあらゆる台詞、キャラクターストーリーへのネタバレ配慮をしていません。
      *プレイ時中国語音声なので、声や細かい言い回しなどはそちらをイメージしてます。kinsenはいいぞ
      *作業用BGM:任然『飞鸟和蝉』の影響を若干受けています
      6/13追記:2.7で判明した情報と整合性を取るために一部修正しました
      #gnsnBL #空魈
      紗紅緋
    • 年末のご挨拶本年はTwitterでの活動を辞めたり、pixivからこちらへ移動したりと精神的に慌ただしい一年でしたが、皆様のお言葉の温かさに救われました。本当にありがとうございました。今後も空魈を書き続けていきたいと思います。良いお年をお迎えくださいませ!

      また、1/8に神の叡智7に参加しますが、全48種ランダム配布予定の無配ハガキの図柄にご希望のものがございましたら取り置きいたします。(※新刊2冊も勿論取り置きいたします)
      無配は余れば通販にも回しますが、その際は匿名配送となってしまいますので個人の特定ができません。もしも通販予定の方で、この図柄が欲しい!というご希望がありましたらハガキのみ別途送付もいたしますのでご連絡いただければと存じます。来年もどうぞよろしくお願いいたします。
      紗紅緋
    • 夢で見た人を好きになっちゃうタイプの空くん内容はタイトルのままです。キスから始まっちゃう自cp可愛いなと思って書きたいところだけ書いたので短いです。

      書いてる途中に例のキャラpvが来てしまって、本家(?)の彼はこんなにも苦しんでいるのに、私の書く仙人はなんでいつも旅人メロメロ真君なんだと数日間絶望していましたが、海灯祭イベント見てたらメロメロ真君もあり得なくはないと気を持ち直したので公開です。エピローグが楽しみです。
      追加:エピローグ前にとんでもpv来ちゃって泣いた

      #空魈 #gnsnBL
      紗紅緋
    • 夢の番人 サンプル未来の結末の話

      1/8開催 神の叡智7にて頒布しました
      (B6/44頁/価格600円/全年齢)

      ※キャラクターの死の捏造があります
      ※バッドエンドではありませんが、ハッピーエンドでもありませんので、苦手な方はご注意ください
      ※ フォントの都合上、左綴じ横書きの本となっております。
      ※通販はFOLIOを利用しています。どうぞよろしくお願いします
      https://www.b2-online.jp/folio/13072300003/001/

      #gnsnBL #空魈
      紗紅緋
    • 1/8無配遅くなりましたが、1/8神ノ叡智7ではどうもありがとうございました!通販の方もちょこちょこご注文いただけて大変嬉しく思います。
      無配の方を公開いたします。フォロワーさんからいただいた設定の仙人で書いています。自分だけが気付いちゃったあの子の秘密とか可愛いですよね。
      今年はもう一回イベント参加できたら良いなって思います。今後ともよろしくお願いいたします。
      #空魈 #gnsnBL
      紗紅緋
    • お知らせ1/8開催の神の叡智7に空魈で参加することにしました。取り急ぎご連絡まで。
      スメールめっちゃ楽しい
      紗紅緋
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