1/8無配背筋を伸ばして椅子に腰掛け、指先で花弁を摘むと口元へ運んでいる魈の姿を正面の席に腰掛けて観察する。あまり食事を必要としない彼の食事シーンは貴重だ。最近手を貸してくれるようになった魈は、力の解放に清心が必要らしい。とりあえず手持ちの清心を全て渡すと何の躊躇いもなく口にした彼は流石仙人というべきか。苦味があるはずの花弁をぱくぱくと食べている。甘雨は清心の花弁は格別に美味いと言っていたため、仙人である魈もまた美味いと思っているのかもしれない。そう思った矢先に、ぴたりと彼の手が止まってしまった。どうしたのかと尋ねてみても、むすっとした表情を見せるだけの魈は視線も落ち着かないのかおろおろとしている。空は何かあったのだろうかと心配しながらも飲みかけの水が入った杯を差し出した。
「とりあえず口直しに飲む?」
こくんと頷いた魈はすぐさま喉を鳴らしてそれを飲み干した。まるで探していたものを見つけたと言わんばかりの勢いの良さに、空には一つの推測が脳裏に浮かぶ。普段は甘い杏仁豆腐ばかり食べている彼のことだ、もしかしたら清心が苦手なのでないか。口の中に残る苦味を洗い流したいが、そのことを素直に言い出せなかったのだろう。まるで大人ぶって無糖の珈琲を飲む子供のような背伸びをしている様子に、思わずふふふと小さな声が漏れてしまった。そして突然笑い出した空を見て怪訝そうな表情をしている魈に笑いかける。
「今度からは食べやすいようにゼリーにしてあげるよ。花弁をそのまま食べるのって結構大変でしょ?」
思惑に気付かれないよう、言葉を選びながら苦味を抑えた食べ方を提案してみると、彼は当初ぽかんと驚いた表情を見せていたが、言葉を理解した瞬間パッと顔色が明るくなり、きらりと目を輝かせる。興味を引けたのが手に取るように分かり、自分の推測が当たっていると確信した。鋭い視線に無愛想な態度、とっつきにくい彼の意外な一面を知ってにやけてしまうのをおさえられない。なら早速試作のためにキッチンを借りて来ようよと優しく手を引いてみると、魈の指先にきゅっと力が入って握り返してくれたのを感じた。その姿に案外可愛いかも、と空は頬を赤らめたのだった。