軟派 魏無羨と藍忘機は、夜狩の後、藍氏の門弟たちとともに、食事に来たのだった。
二人は門弟たちとは少し離れた卓にいたので、今しがた魏無羨が席を外すと、藍忘機はひとり静かに酒を飲んでいた。
しばらくすると、一人の男が近付いて来た。顔は手拭いで隠れてよく見えない。
「男前のお兄さん、一人?」
藍忘機は、男をじっと見つめた。
「人を待っている」
「連れはまだ帰ってこないのか?」
藍忘機はわずかに微笑むと、「うん」と答えた。
「その人ってどんな人?」
「大切な人」
「好きなところは?」
「全部」
「嫌いなところは?」
「……」
「教えてくれないのかよ! じゃあ、質問を変える」
男は、自分の顔を指した。
「俺のこと、どう思う?」
「私のもの」
藍忘機はそう答えると、男の頭に手を伸ばした。
「魏嬰」と優しく呼びかけながら、男がかぶっている手拭いをぐいとずらした。
その下からは、魏無羨の満面の笑みがこぼれた。
「思追、あの二人は、いったいなにを……?」
藍景儀は、隣の藍思追に話しかけた。
門弟たちは「含光君に不審者が近付いたのではないか」と、警戒していたのだ。
一部始終を見てしまった彼らは、気まずそうに互いに顔を見合わせる。
その間も、「藍湛、駄目だって」という声が聞こえてくる。
みながそっと横目で見ると、藍忘機は魏無羨の顔を手拭いごと引き寄せていた。
手拭いに隠れてはいるものの、二人の顔がかなり近づいていることは分かる。
魏無羨は「人が見てるって……」と言いながら、こっそり周囲を見回す。
門弟たちは必死に気付かないように、目を逸らした。
藍思追は、今にも何か言い出しそうな藍景儀にじゃれ合うふりをして抱き着くと、口をふさいだ。
盛り上げ上手な者が、適当な話題を振ると、みな助かったとばかりに話し出した。
藍景儀は苦しそうにうめき、全身をバタバタとせわしなく動かした。
しかし、藍思追は決してその手を緩めず、微笑みをたたえたまま、雑談を続けた。