砂漠の夜 半月関での一件の後、謝憐と三郎は砂漠を歩いていた。
「三郎、昨日はどうして水筒を持っていってしまったんだい?」
謝憐は彼の方を向くと、疑問を口にした。
昨夜は砂漠で野宿したのだった。
夜中に謝憐が目を覚ますと、手元にあったはずの水の入った革袋がなくなっていた。
起き上がって探すと、隣で寝ていた三郎が気付き、すぐに渡してくれた。しかも、わざわざ水筒の口を開けて差し出してくれた。
「水筒の口が開いていたからね。蛇は夜、水を探しに来ると、なにかで読んだことがあったんだ」
「そうだったのか。助かった。ありがとう」
三郎があまりにも嬉しそうな表情を浮かべるので、謝憐は付け加えた。
「三郎は、物知りだな」
「ううん、それほどでも」
言葉とは裏腹に、満更でもない様子だ。
ふと、謝憐の頭に一つの疑問が浮かんだ。
「袋の口を閉めてくれれば良かったのに。そんなに私の水が気に入ったのかい?」
謝憐がからかうと、三郎はニコニコと笑いながら答えた。
「兄さんが僕を必要としている時に、いつでも助けになるためさ」