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    みんなのお部屋に突撃して一緒に寝るシリーズ101号室のお部屋102号室のお部屋103号室のお部屋104号室のお部屋105号室のお部屋106号室のお部屋201号室のお部屋202号室のお部屋204号室のお部屋205号室のお部屋206号室のお部屋203号室のお部屋101号室のお部屋
    「さくや、しとろん、一緒に寝よ~!」

    今日もシトロンさんの冒険談を聞こうと、わくわくする気持ちと一緒に布団にもぐった時だった。この部屋では聞き慣れない声とさんかく柄の枕。気づいたら、わくわくと一緒に飛び起きていた。

    「三角さん、ちょっと狭いですけど…オレのお布団でもいいですか?」
    「いいよ~!ありがと~」

    さくやは、優しいね…って言う三角さんの声の方が優しくて、よしよしって撫でてくれた手は陽だまりみたいにあったかい。きっと、お兄ちゃんがいたら…っていう思いが頭の中から落ちちゃうぐらい、シトロンさんにも頭を撫でられた。

    「サクヤ、いつも優しいネ~!」
    「あはは~!」
    「そんなことないですよ…でも、すごく嬉しいです!」

    子供に戻ったみたいで少しくすぐったい。誤魔化すように笑うと、シトロンさんはもっと撫でてくれて、横に寝てる三角さんにはぎゅっと抱きしめられた。

    「シトロンさん!今日のお話はどんなお話ですか?」
    「今日はネー、ミスミがいるからトクベツ、ダヨ!」
    「なになに~?さんかくのお話?」

    その後、シトロンさんはいつもの冒険談を話してくれた。さんかくが出てこないから、途中で三角さんが作ったお話になってシトロンさんもそれに乗ってそのまま話を続けてて…物語はすごく賑やかで楽しく大きく膨らんで、何が本当の話かオレには分からなかった。
    でも…くしゃくしゃになった髪と、二人で一つの布団に寝る狭さが分かった。

    「サクヤ、ミスミ、おやすみダヨ…」

    楽しいお話が終わった後電気をもっと暗くして、おやすみなさいの声が重なって…また、頭を撫でる音がした。

    「ミスミも、優しいネ…」

    あはは~…っていう笑い声の後に少しだけ鼻をすする音がして…布団の中で触れた手が控えめに握られる。三人とも天井の方を向いたまま目を瞑る。

    おやすみなさい。

    目が覚めた時に、夢じゃないって分かるように、三角さんより手は小さいけれど、優しく強く握り返した。
    静かになった部屋の中で、もう一度、鼻をすする音がした。

    102号室のお部屋
    「つづる、ますみ、一緒に寝よ~!」

    「ダメ。帰って」
    「ちょっとだけだよ~!」
    「一緒に寝るのにちょっとって何」
    「うーん…」
    「帰って」
    「二人とも、ちょっと待てって!」

    いきなり開いたドアがいきなり閉められ、開いて閉まってを繰り返しているうちに、思わず止めに入った。俺を見つめるのは、笑顔の斑鳩さんと心底気に入らないっていう顔の真澄。

    「あんたらで勝手にやって。俺は寝る」
    「オレも寝る~!」
    「あぁ…じゃあ、斑鳩さんは俺のベッド使ってください」
    「いいの~?」
    「よくない。やっぱり帰って」
    「俺らで勝手にやれって言ったのは真澄だろ?」
    「…もう知らない」
    「ますみ、ぷんぷんおこー?」
    「いつもこんな感じなんで…大丈夫っすよ」

    枕を持って立ったまま少し不安そうな斑鳩さんをベッドに寝かせて、自分はまだ寝ないから先に寝ててくださいと告げて、書きかけの脚本と向き合う。今はまだ余裕があって、徹夜しようとか思ってない。思い付いた時にキリのいいところまで書いておきたくて…そのうち楽しくなって気がついたら朝ってこともある。

    「…よしっ、そろそろ寝るか…」

    日付はとっくに変わってたけど、まだ朝日は昇ってないみたいだ。そういえば…俺のベッドには斑鳩さんがいることを思い出した。さすがに二人で寝るのには無理があるんじゃないかと思って、布団だけ持ってきて床で寝ようと考えた。
    けど、斑鳩さんは枕しか持ってきてなくて…。

    「…すいません、ちょっと…」

    ゆっくりと布団の中に入る。斑鳩さんがいない。まさか…と思って真澄の方に目を向けると、二人分の寝息が聞こえてきた。
    思えば出会ったばかりの頃、俺がもう少し大人になって斑鳩さんみたいに優しくて心が広かったら…真澄も、もっと変わってたのかもしれない。弟がいるからって、年下の面倒ぐらい見れると思って…年頃の真澄を知らないうちに傷つけてたのかも…真澄は俺と一緒の部屋じゃない方がよかったって思ってるだろうな…。

    「…つづる、もう寝る?」

    「わっ…斑鳩さん…起きてたんすか?」
    「うん!」
    「つか、そこ真澄のベッドっすよ!?」
    「しーーっ!ますみ、寝てるから、しーっ…だよ~」
    「あぁ…そっすね…」

    天井と目が合う。いつも見てるはずなのに…今日は冷たい。
    三人もいるのに…一人で寝てるみたいだ。

    「これは~、ひとりごとです!」

    頭の上から聞こえるひそひそ声に、思わず耳を傾ける。

    「脚本、斑鳩三角!主演、ますみと三角!」

    …とりあえず、そのまま聞くことにした。

    「ますみが、言いました。綴が寝られないから、どいて」
    「みすみは、言いました。お布団はんぶんこするから、寝れるよ?」
    「それじゃ……ゆっくり寝られない」
    「ゆっくり寝なきゃだめ?」
    「ダメ。綴は…いつも疲れてるから…」
    「じゃあ、ますみがオレと一緒に寝てくれる?」
    「……俺が寝たら、俺の布団に来ればいい」
    「わっかりました~!」
    「…俺はもう寝る」
    「はーい!ますみ、優しいね…!」
    「うるさい」
    「ますみは、最後に言いました。このことは…綴には絶対に言わないで」

    おしまい…っていう斑鳩さんの声が聞こえる前に、思わず起き上がってた。

    「真澄…」

    いつもは生意気な寝顔が、今日はすごく可愛く見えた。

    「…おやすみ」

    意識を手放す寸前、三人分の寝息が聞こえた。

    103号室のお部屋
    「いたる、一緒に寝よ~!」

    「俺、今日は寝ないから」

    入ってくるなって何度言っても勝手に入ってくるから、この際それはまぁいいとして…一緒に寝るって何?そもそも今日は週末だし寝ないつもりなんだけど…

    「寝ないで何するの?」
    「普通にゲーム」
    「そっか~」
    「だから一緒に寝るのは無理」

    うーん…と、何やら考えてるみたいだけど俺は気にせず画面しか見ていない。ちょうど一息ついてソシャゲのスタミナ消費に移ろうと思ってたから、ついでに話ぐらい聞こう。

    「…どした?」
    「いたると、一緒に寝ようと思ったんだけど…」
    「突然のフラグ」
    「いたる…寝ないって言うから…」
    「あー…三角、明日バイト?」
    「ううん、お休みだよ~」
    「じゃあ起きてれば?」
    「…えっ?」
    「夜更かしとかしたことないんじゃない?」
    「ないかも~!」

    じゃあ丁度いい。若いうちに夜更かしぐらいしておいた方がいい。そのうち出来なくなるから。…俺の夜は長い。

    「対戦とかやる?」
    「いいの?」
    「ちょっとだけなら」
    「…ううん、いたるのゲーム、見てる!」
    「つまんないでしょ」
    「そんなことないよ~、好きなゲームしていいよ!」
    「ならいいけど」

    三角なりに気遣ってくれているのか、意外にもジャマはされなかった。全然構ってやれなくて、ほっといたら途中でしばらく部屋から出てったし…たぶん、相当飽きてると思う。やってたゲームRPGだし見てるだけとかクソつまんなかっただろうな…。一緒に夜更かしするとか言った手前、なんかちょっと罪悪感。

    「…っしゃあ!」
    「いたる、すごーい!」
    「はぁ~…長かった…」
    「おつかれさま~、お夜食タイムする?」
    「何それ」
    「さっき、いたるのために、おにぎり作ったんだよ~」
    「マジか」

    取ってくる~って部屋を出ていく後ろ姿を見送りながら呆然とする。じゃあさっき部屋を出て行ったのは……えっ…俺の為…? 好感度爆上げ展開キタ!!!!

    「持ってきたよ~、一緒に食べよ~!」

    目の前に広がるキレイなおにぎり山脈。

    「ちゃんと、お魚のたまごは入れなかったよ!」
    「マジか。気が利く」

    平静を装いながらポーカーフェイスを貫いてたけど、内心ヤバかった。何も言わなくても夜食作ってくれるわ、好みも把握してるわ……はぁ…俺がギャルゲーの主人公だったら確実に落ちてたわ。俺はチョロい。どうでもいい話、おつ。

    「…おいしい?」
    「うまい。さすが、さんかく職人」
    「えへへ~!」

    日頃から臣の手伝いをよくしてる三角は、料理について教えてもらってるらしい。その中でもおにぎりは特別で、まだまだ研究中だとかなんとか。

    「いたる、」

    ん?と、返事をしながら明らかに疲れが出てる目で三角の方を見る。全然意識してなかったけど…さっきからずっと同じ部屋にいたのに、ちゃんと目を合わせて話すのは今日初めてだった。

    「いたる、お仕事もお芝居も…それからゲームも!ぜーんぶ頑張ってて…えらい、えらーい!」

    俺は今、頭を撫でられている。なでなでイベ発生中。
    思えば…大人になって社会人になってから、こんなに真っ直ぐ褒められることってほとんど無くなった。褒められないと全てが当たり前になっていく。けど、この劇団に入ってからは、素直に褒められることが多くなった。普通に嬉しい。

    「いたるは~、がんばり屋さん!」

    それは…初めて言われた。そっか、俺は頑張り屋さんなのか。ここには俺より頑張ってるヤツがたくさんいて…同じ組の咲也や綴を見てたら…俺も頑張ってる、なんて言えなくて。俺はその歳の頃、そんなに頑張ってなかったから。

    「ははっ…笑える」


    俯くのは、疲れ目と、年齢と、ゲームのストーリーが感動的なせい。
    顔を上げると一瞬で寝落ちした三角が寝息をたてていた。今日の三角は…例えるなら、全然期待してなかった放置ゲーがめちゃくちゃ良ゲーでハマったのに良心的すぎて課金もさせてくれない…そんな感じ。
    この雰囲気ならイケる、と思いソファで寝てる三角をベッドまでお姫様抱っこで連れていこうと思ったけど予想通りその場で持ち上げることすら無理だった。俺もそのまま床で寝落ちした。ソシャゲのスタミナは溢れまくってた。おつ。

    104号室のお部屋
    「ばんり、じゅーざ、一緒に寝よ~!」

    風呂から部屋に戻ってきてすぐ三角が枕を持って入ってきた。同じ部屋でじゃなく、同じベッドでって意味らしい。

    「そーゆーのは夏組でやれよ…」
    「…だめ?」
    「ムリムリ。狭くて寝れねぇだろ」
    「三角さん、俺のベッドでいいなら…」
    「えー!ほんとー?」
    「はぁ?ちょっと待て…テメェ、口もごもごさせてどーしたんだよ?」
    「……なん」
    「買収されてんじゃねぇよ!」
    「ちがうよ~!じゅーざは、悪くないよ~!オレが悪いから…」
    「いや、今、食っちまった俺が悪いっす」
    「ケンカしないで~?オレのせいだから…自分のお部屋、戻るから…」
    「三角さん…」
    「じゅーざは、さっきたまたま談話室にいて、四角いおかしをさんかくにはんぶんこしただけ…ばんり、怒らないで?」
    「…紛らわしいんだよ」
    「いきなり、ごめんね…おやすみなさい!」

    この…何故か俺が悪いみてぇな空気に耐えられなくなって…気づいたらドアが閉まるのを阻止してた…。

    「あぁー!もう…分かったから…」
    「…えっ?」
    「好きにしろよ…」
    「…いいの?」
    「兵頭のベッドで寝ろよ?」
    「…はーいっ!ありがと~!」

    気にせずに寝ようにも、俺の頭上で繰り広げられているどーでもいい話…内容がほぼ擬音のだいぶ頭の悪い会話が耳障りで寝られねぇ…。

    「…っせーな!」
    「あぁ?うるせぇのはお前だろ」
    「ごめんね…静かにする!」
    「…狭くねぇの?」
    「うん、だいじょーぶ!」
    「…んな、くっついて…兄弟みてーだな」
    「ほんとー?」
    「全然似てねぇだろ」
    「じゅーざ、かわいいよ~!よしよし!」
    「確か、三角も兵頭も弟いたよな?」
    「あぁ」
    「うん…」

    どうやら俺は、地雷を踏んじまったらしい。

    「…お、弟さんも、サンカク好きなんすか?」
    「せ、性格とか似てんの?」
    「ううん…オレと違って、勉強もできて賢くて、何でもできてすごいんだぁ…だから、たぶん…さんかくもオレのことも…きらいだと思う…」

    地雷でできた道を駆け抜けちまった…。
    俺らには分からねぇ家庭の事情だし、勝手に期待持たせたり簡単に大丈夫とか言うのもなんか違ぇ気がして…かける言葉が見つからなかった。

    「弟のことはよく分からないっすけど…俺は、三角さんのことすげぇって思う」
    「…?」
    「演技も…ガラッと雰囲気変わってすげぇし、アクションもすげぇし、こう…なんつーか、見せ方?みてぇなのが一つ一つ綺麗で…尊敬してるっす」
    「ほんと…?」
    「コイツはウソつけるほど器用じゃねーよ」
    「うるせぇ」
    「俺も…アンタの演技には良い意味で驚かされてばっかりだわ」
    「組は違うっすけど、イベントとかストリートACTする時にはよろしくっす」
    「まぁ…もっと胸張っていいんじゃね?」

    三角は、急に黙って枕に顔を埋めて小さく足をバタバタさせていた。また何かやべぇこと言っちまったのかと思って焦ってると、ばぁっ!と笑顔を見せられた。

    「…もう寝るぞ」
    「あぁ…」
    「おやすみなさーい!」

    明日は、はれそうだな……なんて、らしくねぇことを考えながら眠りについた。

    105号室のお部屋
    「おみ、たいち、一緒に寝よ~!」

    「いいッスよ~!」

    ねっ?臣クン!と、二人の笑顔を前に断れるわけがない…断る理由もないしな。
    三角がいると空気がパッと明るくなる気がする。いつもと違う部屋の雰囲気に、太一も俺も少し浮かれてるらしい。太一は全く寝る気が無さそうだ…。

    「三角サンも見るッスか?」
    「なになに~?」
    「俺っちと臣クンのプライベート写真ッス~!」
    「誤解が生まれそうな言い方だな…もちろん、他のみんなも写ってるぞ」
    「みるみる~!」

    三角も太一も楽しそうで、思わず自然と笑みが溢れる。家族や友達とは違う、同じ劇団の仲間。そんな大切な仲間が嬉しそうだと、こっちまで嬉しくなる。

    「いっぱい持ってきたッスよ!」
    「ありがと~」
    「全部、臣クンが撮ったんスよ~」
    「おみ、すごーい!写真とるの、じょうず!」
    「はは…ありがとな」
    「臣クンの手にかかれば、俺っちだってホラ、こんなにカッコよくなるッス!」
    「すごーい!たいち、かっこいい~」
    「他にもあるっスよ!」

    上手く撮れたのは、俺の写真の腕じゃなくて…太一を撮ってるからだと思う。やっぱり、普通に過ごしてても自然に表情がころころ変わる様子をファインダー越しに見ると…何枚も撮りたくなる。そんな太一みたいに、ここには表情豊かなやつが多い。日常の楽しそうで幸せそうな瞬間、舞台の上で輝いている瞬間、そんな一瞬一瞬を逃さないように気をつけるうちに少し上達したのかもしれないな…。

    「これ、なんでシールついてるの?」
    「それは~…へへっ、秘密ッス!」
    「ひみつ?」
    「俺と臣クンの秘密ッス!」
    「そっかぁ…いいなぁ~!ひみつ、うらやましい~!」

    教えてあげてもいいんじゃないか?って言おうとした。けど、太一がそうしたいならいいか。三角は少し寂しそうにしてるけど…あぁ、ダメだ。俺はこういう時に気のきいた言葉が思い浮かばないな…。

    「じゃあ、三人の秘密つくろうよ!」
    「…えっ?」
    「なになに~?」
    「例えば…ホラ、この写真覚えてるッスか?」
    「覚えてるよ~!公園の猫さんに、赤ちゃんができたから~、うれしくて、おみに撮ってもらったんだよ~!」
    「じゃあ…こうやって…」

    太一は、写真の裏にサンカクを書き始めた。

    「できたッス!」
    「さんかくクンだ~!」
    「こうやって、嬉しかったり楽しかった日はにこにこサンカクくんを書いて、悲しかった日にはめそめそサンカクくん、怒った日にはぷんぷんサンカクくんを書いてあげるッス!」
    「すごい、すごーい!これなら、大切な思い出…忘れないね!」
    「太一…」

    本当に…太一には、敵わないな…。

    「よし、三人で写真撮るか」
    「やった~!」
    「じゃあ、枕持って撮ろうよ!」
    「撮るぞー…」

    三人で撮った写真は、自撮り用じゃないからちゃんと真ん中に収まらなかったし、ちょっとブレてた。何度も撮り直せるのに、三角も太一もこれがいいって聞かなくて…。今度、出来上がった写真を渡す約束をして寝ることにした。

    「おやすみなさーい!」
    「おやすみー!」
    「おやすみ…」

    楽しい気持ちも落ち着いて、電気も暗くして、しばらく沈黙が続いた頃…。

    「おみ、たいち、」
    「ん?」
    「なんだ?」

    「…今日の写真、うらに…にこにこさんかくクン…書いてもいーい?」

    「…っ、もちろんッスよ~!!」
    「当たり前だろ…」

    眠るまで、もう少し…笑顔が続きそうだ…。

    106号室のお部屋
    「さきょー、一緒に寝よ~!」

    「却下だ。自分の部屋で寝ろ」

    斑鳩の中で何やら流行ってるらしい遊びが俺の所にも来た。直ぐに扉を閉めて追い返してやった。やめろとは言わねぇが、そういうのは他のヤツのとこへ行け。

    「こんこん、こんこんこーん!さきょー、あけて~!」
    「さんかくあげるから~、あけて~!」
    「こんこんこん、さんかく~!こんこんこん、さんかく~!」

    「うるせぇ!」
    「あっ、あいた~!」

    部屋の前でノックしながらあんなトンチキな歌うたわれてみろ…気が散って仕方ねぇ。とりあえず部屋に入れると、斑鳩は枕を持って落ち着かねぇ様子だった。

    「さきょーのお部屋、はじめて~!」
    「だろうな…座れ」
    「はーい!」

    座らせてから話を聞いてやると、俺のベッドで同じ布団で寝たいと言う。冗談じゃねぇ。ガキじゃあるめぇし…まぁ、俺から見たらガキだが…。
    とにかく、同じ布団は無理だ。いつだったか迫田が勝手に持ってきて勝手に置いていった布団が一組あるから、それをもう一つのベッドに敷いて寝ろと言った。

    「よいしょ、よいしょ…できたー!」
    「…黙ってできねぇのか」
    「さきょーは、寝ないの~?」
    「俺はまだやる事がある。先に寝てろ」
    「そっか~」
    「うるさくしたら追い出すからな」
    「…っ!…っ!」
    「喋るなとは言ってねぇ」

    いいから寝ろ、と告げると斑鳩は素直に布団に入った。迫田よりマシかもしれねぇな…と思いつつ机に向かって仕事に取り掛かる。

    「…何か用か」
    「じーーっ…」
    「言いてぇ事があんならハッキリ言え。見られてると気が散る」
    「さきょー、寝なくて大丈夫?」
    「余計な心配はいい。お前は早く寝ろ」

    斑鳩はさっきより元気のない返事で布団に入っていった。
    それから後は、特に何の邪魔もせず静かで、時折そこに寝ていることを忘れて、電気代の高さに舌打ちをしたり、口の悪い独り言を溢しまくっていた。

    「はぁ…」

    やっと一段落して布団に入る。日付はとっくに変わっていた。

    「さきょー…おわった?」
    「…起きてたのか」

    寝たと思っていた斑鳩が起きていた。起きていたと言うより…今にも瞼がくっつきそうな眠そうな目をしながら、やっと起きてるという感じだった。

    「さきょー、いつもこんな遅くまでお仕事してるの?」
    「まぁ…大体な」

    布団が擦れる音がして、斑鳩がこっちを向いたことが裸眼でも分かる。

    「さきょー…いつも、ありがとう…」
    「…そう思うなら、談話室の私物を片付けろ」
    「はーい!」
    「…ったく、返事だけはいいな…」

    その後、すぐに規則的な寝息が聞こえた。
    まさか…俺にこれを言うために起きてたのか?

    「…不器用なヤツ…」

    声に出した言葉は、天井に跳ね返って降ってきた。
    201号室のお部屋
    「てんま、ゆき、一緒に寝よ~!」

    そういえば…また何か変なことやってるって万里さんから聞いたな…まぁ、三角は同じ夏組だしな…合宿とかキャンプの時みたいな感じか?どう考えてもオレじゃなくて幸の方で寝るだろうし…いいか。

    「…って、何でオレのベッドなんだよ!」
    「ゆきが狭いからやだって!」
    「はぁ?どう考えてもオレの方が狭いだろ!」
    「ミケとタマやった仲じゃん」
    「うん!なかよし~!にゃにゃにゃ~、にゃん!」
    「やめろ!くっつくな!」
    「しょぼーん…にゃん…」
    「うわ、カワイソー」
    「っ…オレは悪くないからな!」
    「オレ達の部屋にはいつ来るんだ…?ってソワソワしてたくせに」
    「お、おいっ!」
    「…えへへ~、オレもね、てんまとゆきと寝るの、楽しみだった~!」
    「だってさ。よかったじゃん」
    「オレはべつに…」

    そりゃ…嫌なわけじゃない…。夏組の合宿の頃は今より少しギクシャクしてたとこもあったし…なんていうか…友達とか仲間としてちゃんと仲良くなってから…こういうのは初めてだし…仲の良いヤツとお泊まり会とか、したことないし…どんな感じか気になってるだけで…べつに俺がしたいとかじゃ…

    「ちょっと、三角星人もう飽きてるけど?」
    「ゆきのお洋服、かわいい~!」
    「そう?ありがと」
    「さんかくもある!」
    「だからか」
    「お、おい!オレを仲間はずれにするな!」
    「勝手に考え込んでただけじゃん」
    「てんまも、お話しよ~」

    三角は、どうでもいいような今日あったことの話をし始めた……かと思えば急にオレと幸を褒め出して、そりゃ…悪い気はしなかったけど、かなり恥ずかしい。まぁ…なんでもないことをだらだら話すのも…いいかもな。
    けど、本当に言いたいことは言えてない…そんな気がした。

    「もう分かったから」
    「なぁ…、何か他に言いたいこと、あるんじゃないのか?」

    笑顔を見せてた口を閉じて、少し俯き気味になる。

    「あのね…、てんまは…リーダーしてて、ゆきは…衣装つくってて…」

    …オレは、なに…?
    揺れる瞳と不安気な表情。同い年の一成はフライヤー作ったりしてるし…三角なりに考えて、自分は何も出来てないとか思ったんだろ…そんなことないのに。
    …でも、以前の三角だったらこんなに素直に自分のことを話してくれなかった。特に気分が落ちてる時には平気なフリをして隠そうとするから…リーダーとしても、オレ自身としても…正直、嬉しい…。

    「バッカじゃない?」
    「おい…幸」
    「そんなこと考えるヒマあったら、呑気にサンカク探してたら?」
    「…えっ?」
    「オレは好きなことやってるだけ。アンタも好きなことやればいいじゃん」
    「好きなこと…?」
    「そ、そうだ!オレだって芝居も夏組もリーダーやってるオレも好きだ!」
    「それはキモい」
    「…てんま」
    「お前の好きなもの…言ってみろ」

    「さんかくと…お芝居と……夏組!」

    三角は夏組に必要不可欠だ。こんなに夏の太陽みたいに笑えるんだからな。
    らしくないことは分かってるけど…思いっきり三角にくっついた。幸も。

    「それでいいんだよ。夏組ってそういうヤツらの集まりだろ」
    「だいたい、アンタ…夏組しか似合わないから」
    「…うん」
    「それに…オレがリーダーだぞ?何も心配すること無いだろ」
    「うっわ、自分で言う…?」
    「事実なんだからいいだろ!」

    いつもの言い争いを見て三角が笑う。

    「てんまとゆき、仲良しさん~!」
    「お前もな!」
    「アンタもでしょ!」

    思い返すと全員かなり恥ずかしいことを言ってた気がする…。きっと、こういうのは…こうやって腹割って恥ずかしいことを話す為にある。いつもより近くで聞こえる寝息を感じて、安心感を知った。
    そして…この後オレは、寝てる間に布団を取られる寒さを知ることになる…。

    202号室のお部屋
    「かず、むく、一緒に…」

    「キターーー!!」
    「三角さんっ、こっちでいっぱいお話しましょう!」

    今日の夜、ボクとカズくんの部屋に、三角さんが来てくれた。

    「早く布団入って語ろーよん!」
    「うんっ!」
    「ボクとカズくん、どっちのベッドで寝ますか?」
    「すみーの好きな方選んじゃって!」
    「えぇーっ!うーん…」

    三角さんは真剣に考え込んでしまって…困ったような表情をしていました。ボクもカズくんも、三角さんと一緒に寝るの楽しみにしてたから…どちらか三角さんに選んでもらえばいいかなって…思ったんだけど…

    「むくも、かずも、好きだから選べないよ~…」
    「じゃ、むっくんと一緒に寝なよ!」

    …はっ!これは…『ひみつの恋色ロリポップ』7巻82ページと同じ展開…!!本当は好きなのに悩める主人公を見ていられなくて幸せを願って幼なじみの男の子が自分から身を引いてしまう切ないシーン…

    「あ、あのっ!ボク、ちょっと思ったんだけど…」

    ボクだけ幸せになるなんて…そんなのダメだよ!!

    「せーのっ!」

    カズくんの掛け声で、みんなでお布団に倒れ込んだ。

    「むっくんナイス~!5000ええな!」
    「むくに、すごーくええな!あげる~」
    「えへへ…せっかくだから、みんなで一緒に寝たいなって思って…」

    カズくんだけ一人になっちゃうのは寂しいと思って、お布団を持ってきてラグが敷いてある床で寝ようって言ったら二人ともすごく喜んでくれた。

    「すみー、寒くない?」
    「だいじょーぶ!むくもかずも、あったかいから~」
    「三角さんもあったかいです!」

    真ん中に三角さんを挟んで、三人できゅ~って集まる。もう小さい子供じゃないから、少しだけくすぐったいような気持ちになって自然と笑顔になる…。

    「なんのお話する~?」
    「そりゃー…アレっしょ!」
    「あれってなに~?」
    「恋の…ハ、ナ、シ…!」
    「うわぁ~っ…カズくん、すごい…!」
    「オレはべつに無いんだけどね~ごめピコ!」
    「はいはーい!オレ、恋のお話あるよ~!」
    「えっ!?」
    「み、三角さんのお相手って…!?」

    部屋の中にはボクたち三人しかいないし、早く寝なさい!って誰かが見回りに来たりもしないのに、こういう話って何故か小声でこそこそ話さなきゃいけない気がして、さっきよりもくっついて三角さんの話をドキドキしながら待つ…。

    「あのね、公園で~、猫さんと猫さんが~お鼻とお鼻を、ちゅってしてた~!」

    想像してた内容じゃなかったけど…三角さんがあんまりにこにこして話すから、ボクもカズくんもつられて笑っちゃいました…。三角さんは陽だまりみたいに柔らかくて…本当にあったかい…。

    「猫ちゃん界では、もしかしたら挨拶なのかも~!」
    「外国の方みたいでステキですね」
    「オレも、おはよ~!ってみんなとお鼻つんつんって、しようかなぁ~!」
    「すみーってば大胆!」
    「素敵ですけど…きっと、みんなびっくりしちゃいますよ?」
    「そっかぁ~…」
    「じゃあー、猫ちゃんたち限定にしよっ!」

    ちょっと落ち込んじゃった三角さんが、カズくんの一言でもう一度笑顔になる。カズくんはいつもそう。うんうんって、たくさん話を聞いてくれて…分からないことは教えてくれて、相談したら優しくアドバイスをくれて…。

    「カズくんも、三角さんも…すごいなぁ…」
    「えっ?」
    「すごい~?」
    「ボクも…二人みたいに…優しい男の子になりたいな…」

    そう言うと、二人は顔を見合わせて笑っていた。

    「…よいしょっ!」
    「むっくん、おいで!」
    「わっ…!」

    真ん中にいた三角さんがボクを跳び越えて、カズくんと三角さんに挟まれた。何か変なこと言っちゃったのかなって心配になってると、うつ伏せになっていた背中に二人の手が添えられて、そのままぎゅっと抱き締められる。

    「むっくん、もうすでにオレらよりめちゃくちゃ優しいじゃん!」
    「そうだよ~、むくは、優しくて王子様みたい~!」

    髪がくしゃってなるあったかさを感じながら…やっぱりボクは、二人みたいになりたいなって思った…。

    「おやすみー!」
    「おやすみ~」
    「おやすみなさい」

    電気を消して静かになって三角さんの寝息が聞こえてくる。三角さんが寝た後にカズくんに相談してから、こっそり場所を入れかわった。三角さんの右手はボク、左手をカズくんが握る。

    「むっくん、おやすみ」
    「おやすみなさい…」

    いつも一人で迎える朝だから…今日だけでも、起きた時に寂しくないように。
    きっと、三角さんならそうするから…。

    204号室のお部屋
    「つむぎ~、たすく~、一緒に寝よ~!」

    さんかく柄の枕を持った三角くんが部屋に来た。どうすればいいか分からなくて、とりあえず話を聞こうと思って部屋に入ってもらった。

    「…一緒の布団で寝たいってこと?」
    「うん、そうだよ~」
    「じゃあ紬のベッドで寝ろ」
    「俺でもいいかな?」
    「もっちろ~ん!」

    ありがとうって言いながら俺の布団の中に入ってくる。この歳になって同じ布団で誰かと一緒に寝るなんて思ってなかったなぁ…。

    「ふふっ…」
    「…何、笑ってるんだ?」
    「ううん、なんかちょっと…新鮮だなって」
    「お前…設定考えてるだろ」
    「……考えてないよ」
    「なんだその間は」
    「丞こそ…考えてるでしょ?」
    「…考えてない」

    いつもみたいにケンカにもならないような会話をしてた時。

    「こらっ!つむ!たーちゃん!けんかはだめ!もうおひるねするよ!」

    「…ご、ごめんね、みーくん…」
    「でも、つむがわるいんだぞ!」
    「そんなことないもん…だって…たーちゃんが、…っ」
    「つむ、なかないで?よしよし…もうっ!たーちゃん!」
    「みーくんは、つむにあまいんだよ!おれはわるくない!」
    「っ、みーくんっ…た、たーちゃんっ…こわい…」
    「たーちゃん…ごめんなさいして!」
    「…お、おれは、わるくない!」
    「たーちゃんっ!!」
    「ずるいぞ…いつも…つむばっかり…」
    「…えっ?」
    「つむばっかりやさしくして…おれにはっ、おこるくせに…っ」
    「たーちゃん…」
    「おれのことはっ…きらいなのかよ…っ」
    「ち、ちがうよ…えっと…」
    「ぼくっ…ぼくはっ…すぐおこるけどっ、たーちゃんのこと…っ、すき…」
    「みーくんもっ…たーちゃんのことすきだもん!」
    「おれだって…ふたりのことっ、すきだ!」
    「なきむしでっ、ごめんね…たーちゃん…」
    「ごめんね…たーちゃんにもっ…やさしくする…」
    「おれもっ、おこってごめん…」
    「じゃあ…さんにんで、おててつないでねよ?」
    「うんっ!えへへ…おやすみなさい!」
    「おやすみ」
    「おやすみなさい」

    手を繋いで寝転んだ直後、三人の体は小刻みに震えていた。

    「…っ、ちょっと待って…」
    「これは…無理があるだろ…っ」
    「あはは~!おもしろかったね~!」
    「たーちゃん…子供なのに声低すぎ…っ、あははっ…!」
    「仕方ないだろ」
    「たすく、強そうなこどもだった~!」
    「もう忘れてくれ…」
    「はぁ…面白かった~」
    「つむぎも、たすくも、上手だった~!」
    「三角くんだってすごかったよ。声も本当に子供みたいだったし」
    「表情も子供っぽさが出ててよかったな」
    「たーちゃんも声と体以外は良かったよ…あはっ…」
    「あのな…ていうか、お前こそ、みーくんて何だ」
    「三角くんだからみーくんだよ?」
    「猫か」
    「にゃーにゃー!」

    その後も、俺は可笑しくてしょうがなくて…思い出しては笑いが止まらなくて、俺が笑う度に丞が呆れて、全然寝れる気がしなかった。

    「…うるさくてごめんね?」
    「んーん、いいよ~」
    「そういえば…俺と丞がつむとたーちゃんって呼び合ってるのよく知ってたね」
    「二人とも、たまに普通に呼んでるよ~」
    「えっ?そうなんだ…あはは……気をつけよう…」

    三角くんは…少しだけ笑って、どこか遠くを見つめてるような目をしていた。

    「…どうかした?」
    「つむと、たーちゃんって…ずっと前から呼んでるの?」
    「うん…そうだよ」
    「そういうの…いいなって思った~…」

    幼い頃の三角くんのことは分からないけど…きっと、そんな表情にさせてしまうほど…寂しかったんだね…。

    「じゃあ、また…この部屋においでよ」
    「えっ…?」
    「いつでもいいよ。また、つむとたーちゃんとみーくんになろう?」
    「…うんっ!」

    三角くんのみーくんみたいな笑顔と引き換えに、丞は…俺はもうやらないからな、っていう顔をしていた。そんなこと言わないで?よろしく、たーちゃん。

    「手でも繋ぐ?」
    「もう終わっただろ」
    「つなぐー!」
    「…繋ぐのか…」
    「おやすみ、つむ」
    「お、おやすみ…みーくん」
    「おやすみなさい、たーちゃん」

    翌日、あの時間に部屋の前を通っていた椋くんに、すごく心配されちゃった…。

    205号室のお部屋
    「ほまれ、ひそか、一緒に寝よ~!」

    オレ…もう、寝てる……。

    「こんばんは、三角くん」
    「ほまれ、こんばんは~!」
    「ワタシと一緒に寝たい気持ちは痛いほど分かるが…生憎、まだ執筆中でね。仕方がないから、密くんに譲るとするよ」
    「ひそか、一緒に寝てもいい?」
    「…うるさくしないなら」
    「わかった~…静かにしてるね…」

    三角はアリスと違ってちゃんと静かにしてくれた。それなのにアリスは、いつもの調子で変な詩を声に出しながら書いていた。黙って書けばいいのに…。

    「ひそか、もう寝た?」
    「…アリスがうるさくて眠れない」
    「そっか~…おみみ、ふさぐ?」
    「いい。オレは慣れてるけど…三角こそ、眠れる?」
    「うん!だいじょーぶ!」
    「…ならいい」
    「おやすみ、ひそか…」

    しばらくして、せっかく三角もうとうとしてきたのに……大きな音をたててアリスが向こうのベッドに上がってきた。

    「三角くん!待たせてすまなかったね。今からこのワタシが、出来たばかりのとっておきの詩を、この美声で披露しよう!」
    「…さんかくポエム?」
    「アリス…うるさい」
    「あー、あー…ゴホン。微睡みのトワイライト…いざなうララバイバイ…」
    「さんかくじゃない…」
    「好きなものは先に食べる派かな?」
    「うーん?…好きなときに食べる派~!」
    「あっはっは!三角くんらしいね」

    その後もアリスはずっと変な詩を読んでた。三角も最初は面白がってたけど、全然さんかくが出てこないから…いつの間にか寝てた。

    「アリス…もういい」
    「おや?まだ半分も読んでいないが…」
    「三角…もう寝てる」

    アリスは…少し驚いた顔をして読むのをやめてしまった。
    読んでいた紙を折りたたんで小さく溜め息をついた。

    「ワタシは…間違えてしまったようだね」
    「でも…笑って、楽しそうだった」
    「三角くんがどう思ってたのか…ワタシには分からない…」
    「それはオレにも、わからない…」
    「そうか…」
    「アリスなら…どう?」
    「うーむ……。こんなに素晴らしい詩を聞いて眠れるなんて幸せ者だね」
    「…アリスらしい」

    そう言って、アリスはすぐに寝てしまった。寝言でも詩を読んでるから…すごく、うるさい。

    「…んっ、んー…ひそか…?」

    聞こえないように布団を被ろうとしたら、三角が起きた。

    「起こしてごめん…」
    「んーん…いいよ~」
    「アリスが、うるさくしてごめん」
    「いつも…こんな感じなの~?」
    「うん」
    「じゃあ、ひそかは~…寝るときも、起きても、さみしくないね!」
    「うん…」

    いつもと変わらないはずなのに…アリスの声が、一瞬だけ…ちょっとだけ……うるさくない気がした。

    206号室のお部屋
    「あずま、一緒に寝よ~?」

    自分の口でコンコンって言いながら叩かれた扉を開けると、お馴染みのさんかく柄の枕を持った三角が立っていた。何度目かのその姿に思わず笑みが溢れる。

    「もちろん。おいで」

    反対側の空いてるベッドじゃなくて、ボクのベッドに入るのが可愛い。

    「…髪はちゃんと乾かした?」
    「乾かしたよ~、あずまは?」
    「ボクも乾かしたよ」
    「とろとろめんと、した~?」
    「トリートメントのことかな?今からするところだよ」

    する?って聞いたら嬉しそうに頷いて、そわそわしながら正座で待っていた。

    「えへへ…くすぐったい~!」
    「ふふっ…三角は敏感なのかな…?」

    そんな風にキョトンとした顔をされちゃったら…こっちがごめんねって言いたくなっちゃうな…。

    「…はい、おしまい」
    「ありがと~!じゃあ、オレがあずまの、するよ~?」
    「じゃあ、お願いしようかな」

    はーい!って元気な返事をして、ぎこちない手付きでボクの髪を触る。やり方を教えてあげると、素直に上手にお手入れしてくれた。

    「できた~」
    「ありがとう」
    「あずまの髪、さらさらで~、いいにおい~!」
    「三角もだよ」

    指通りがよくなった髪に触れると、首を竦めて照れくさそうにする。子供みたいに素直で純粋な姿を見てると…この子は今までどう生きて、どう毎日を過ごしてきたんだろうって不思議に思う。笑顔の奥で…揺れてるのは…何?

    「おやすみなさーい!」
    「おやすみ」

    一組しか無い布団に、肩を並べてくっついて入ると意外とあたたかい。

    「狭くない?」
    「全然せまくないよ~」
    「寒くない?」
    「あずまが、あったかいから、だいじょうぶ~!」
    「三角の方があったかいよ」
    「そうかな~?」

    「じゃあ…寂しくない?」

    指先が少し震えて、ボクの右手を握る…すごく冷たい手。俯いたまま小さく聞こえた大丈夫は…何も大丈夫じゃなかった。

    「ボク、このままだと寂しくて眠れないな…」
    「…どうしよー?」
    「ハグして寝ようか」
    「…うんっ!」

    身長はそんなに変わらないのに三角は少し下へズレて、ボクの胸元におでこをくっつけてきた。背中にまわる腕を感じながら、三角の頭を抱え込むようにして撫でてあげる。なんだか…お母さんと子供みたい。

    「ふふっ…苦しくない?」

    腕の中の頭が頷くのと…服が濡れたのを感じて、一度離れようとする。…けど、ぎゅっと服を握る手が緩んでくれない。

    「三角…こっちに顔、見せて?」
    「…だめ」
    「仕方ないなぁ…」

    さっきみたいに髪を触ると、わっ!って声も顔も上げる。濡れた頬をふいてあげると、にっこり笑って誤魔化そうとする。こういう時こそ、素直な子供でいてほしいのに。

    「あずま、ごめんね…おやすみなさい…」

    もう一度、抱きしめると…やっぱり服が濡れてるのを感じる。でも…一人より、きっと何倍もいい。

    「おやすみ…」

    ほのかに香るトリートメントが…鼻腔を擽るせいにして。

    203号室のお部屋
    「…一緒に…寝よう…?」

    みんなに言ったみたいに聞いても、こんなにさんかくがあっても…誰も、いいよって…一緒に寝ようって…こっちおいでって、言ってくれない…。
    今日はみんなのお部屋に行って、ありがとうのあいさつをした。さんかくのお菓子も一緒に渡したら、喜んでくれて嬉しかった!

    ソファの上に置いてある枕をぎゅってする。…まだ、あったかい気がする。
    そうだ!みんなと一緒に寝て、楽しかったこと思いだそう~!

    ソファに座って、今までのことを振り返る。優しさにもいろんな形があって、まあるかったり、つんつんしてたり、大きかったり小さかったり。

    でも、みーんな…だいすきで……みーんな、さんかくだった。

    「…そろそろ寝ないと~」

    立ち上がって自分のベッドへ向かう。抱きしめたさんかくの柄が、元の場所に帰るのがこわいよって、言ってるみたいだった。オレも…こわい…。
    おふとんが、つめたいのが…こわい…。

    みんな、またいつでもおいでって言ってくれた。
    でも…いっぱい行ったらジャマって、思われちゃうかも…。
    みんな…優しいから言わなかっただけで……ほんとは…ほんとは…最初に行った時にもう…。

    「ちがうよ…」

    自分の声が響く。違うよって言ってくれる人が、いなかったから。
    反対側のベッドを見たくなくて、俯きながら入るお布団は、やっぱり冷たい。枕も…冷たくなってた。まだ、あったかい気がしたのに。

    「おやすみなさい…」

    布団に入って、初めて天井と目が合う。

    「わっ…」

    三角さんと一緒に寝れて、すごく楽しかったです!楽しいお話、またいっぱい聞かせてくださいね!おやすみなさい。
    ミスミの話、なかなかオモシロかったネ!結束だったヨ!またおいでヨ~!
    傑作な。前みたいに何も話できないかもしれないっすけど…斑鳩さんが居心地悪くないならいつでも来て下さい。おやすみなさい。
    やっぱり綴のとこで寝て。狭い。
    サンカクのゲーム探しておくから、また夜食よろ。
    兵頭の横ばっかりじゃ可哀想だからな。たまには俺んとこ来てもいいけど?
    だまれ摂津。今度、俺の菓子も三角さんに半分やるっす。
    また写真撮ろうな。おやすみ。
    にこにこサンカクくん進呈ッス~!おやすみなさーい!
    二度と来るなとは言わねぇが、来るなら先に寝ろ。
    悩みがあっても無くても遠慮なくリーダーのオレに言え。おやすみ。
    アンタ、意外と静かだったからオレのベッドで寝てもいいよ。おやすみ。
    今度はオレがすみーの部屋に突撃しちゃって~楽しい話から悩みとか愚痴まで、メチャ話聞いてもらうから覚悟しといてねん!!!!おやすみー△△△
    三角さん、すっごく楽しかったです…また来てくださいね!おやすみなさい…。
    みーくん、またあそぼうね。おやすみ。つむより。
    みーくんはもうやめてくれ。おやすみ。たーちゃんより。
    三角くん!先日の、ワタシの素晴らしい詩を聴きながら極上の眠りへと誘うとっておきのおもてなし…虜になったのだろう?仕方のないことだ…自分の才能が恐ろしいよ!恋しくなったらいつでも来るといい。密くんと待っているよ。
    アリスがうるさくて眠れない時は…三角の部屋に行く。
    また二人で、イイコト…しようね。寂しくなくてもいつでもおいで。おやすみ。

    「これ…」

    大きなさんかくの中に、小さなさんかくがいっぱいあって…中にみんなのメッセージが書いてある…。
    そういえば、さっき夜ごはんの後……かずに、すみーのお部屋、ちょっと入ってもいい?って聞かれて…むくと一緒に、貸してくれたさんかく絵本読んでる途中だったから、いいよって…。

    「えへへ…」

    やっぱり、枕もお布団も、すっごくあったかい。
    もう、だいじょうぶ。一人のときも、一人じゃない。

    「…あれっ…?」

    もう一度、みんなからのメッセージ…読もうとしたのに……ゆらゆらしてて…よめなかった…。

    「…おやすみなさい」

    203号室の大三角形は、どの季節の夜空のさんかくよりも……大きな、大きな、さんかくだった。

    はさと Link Message Mute
    2022/09/26 20:44:09

    みんなのお部屋に突撃して一緒に寝るシリーズ

    #斑鳩三角

    カプなしの三角くんの話です。
    過去に書いたものなので、今の公式設定と違うところが多々あります。

    more...
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