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    今日のさんかくおにぎりこんぶたまごやきピザおにぎり「なにかな~?」オムライス何を入れよう?
    ほんわかご飯が炊けるにおいに誘われて、キッチンに立つとぴーっ、ぴーっ、て音がするから、お疲れさま~!を忘れずに言ってから、カチッとスイッチを押すと、湯気がほわ~ってあがる。おいしいおにぎりの予感がして、洗ったボウルにご飯をよそって、お塩を振りかけてまぜまぜして、熱々だからちょっと置いておく。その間に手を洗おうと思って、蛇口をひねる。

    「あっ…つい~…」

    火傷するほどじゃないけど、いきなりお湯が出てきて、びっくりした!そういえば、おみが…前に誰かがお湯を使ってるかもしれないから、ちょっとお水を出してから、気をつけて手を洗ってねって、言ってたかも~。気をつける~。

    「さ~んかく、おてて~…きれい、きれい~…」

    手をしっかり隅々までキレイに洗って、ぴっぴってしてから、ご飯を手の上に乗せて、具を真ん中に入れて、おいしくなあれ~ってさんかくおにぎりの魔法をかけながら、優しくにぎる。ご飯が熱いのは、今はちょっと我慢する。

    「…ん~っ、おいし~い!」

    全部作ってから、いただきますってしようと思ってたけど……美味しそうで、きれーにさんかくが作れたから、思わず食べちゃった~! 今日のおにぎりの具は、鮭です! ご飯を炊いてる時に、焼いてたんだよ~。鮭もおにぎりも、お塩さんと仲良しで、みんながいっしょになって、すごくおいしい!!

    「…はっ! 残りも、作らなきゃ~」

    食べてるうちにご飯は少し冷めて、さっきよりも握りやすくなってた。今度は、海苔を巻いてみようかな? どうしようかな? って考えてるうちに、よそったご飯を全部おにぎりにして、お皿の上には、おにぎり山脈ができていた。

    「あっ、三角さん! おにぎり作ってるんですか?」

    洗濯物を取り込んで、さくやが談話室に戻ってきた。さくやは、バイトが無い時は、寮のおそうじとか家事とか、たくさんたくさん頑張ってて、えらーい!

    「うん! できたから、さくやも一緒に食べよ~?」
    「…えっ! いいんですか?」
    「もちろ~ん! 早くおてて洗って、座って食べよう?」
    「はいっ!」

    さくやは、ぱあって、にこにこ~ってして、手を洗ってきて座っても、ずっと嬉しそうにしてたから、オレも…すごく、すごーく、嬉しかった…。

    「いただきまーす!」
    「いただきます!」

    「やっぱり、三角さんのおにぎりは美味しいですね!」
    「ほんとー?」
    「それに、なんだか……すっごく、優しいです!」
    「そうかなー? えへへ~…だったらいいなぁ…」

    …それはきっと、さくやが、そうだからだよ~…。
    二人でテーブルで向かい合って食べる、今日のおにぎり。
    見えないけど…優しい味のふりかけが、いっぱいかかっていた…。

    こんぶ
    「あずま、おにぎり食べたいなーって、思う?」

    談話室でまったりしていると、キッチンで騒がしくしてた三角に声をかけられる。手を後ろに隠して、そわそわしながら繰り出された質問。申し訳ないけど思わず笑っちゃうぐらい、紬や千景じゃなくても意図が丸見えで…。

    「…そうだね。ちょうど、食べたいなって思ってたかな」
    「そう思って~、じゃーん! おにぎり作ったよ~!」
    「ホントに? ふふっ…三角はすごいね」

    嬉しそうに笑う三角が可愛くて。分かってても、求められてる言葉を自分から選んじゃうんだよね…。もしかして…計算済みだったりして……。なんてね。

    「がいも、一緒に食べよー?」
    「いや、俺は……」

    一緒に談話室にいたガイも誘ってあげるのは、当たり前って言えばそうなんだろうけど……やっぱり優しい子だなって。でも、王子様がガイにいろんな事を教えてあげてねって言ったのを三角はちょっと勘違いしてて…戸惑うガイの手を、ウエットティッシュで拭いてあげてるのには、思わず吹き出しちゃった。

    「ふふっ…お世話してあげて、三角は優しいね」
    「えへへ~! あずまも、拭いてあげるよ~」
    「…じゃあ、お願いしようかな」

    ボクは…あずまの手は、すべすべだね~って…言われたかったのかな…。
    みんなで手を合わせて食べたおにぎりは…やっぱり三角と同じで優しかった。美味しいのはもちろんなんだけど…なんでかな?…少し、泣きそうになる…。

    「…美味しいね。あっ…あの、こんぶかな?」
    「そうだよー! 美味しいから食べていいよって、言ってくれたやつ~!」
    「おにぎりにしたら、美味しそうって話してたからね」
    「うんっ! がいも、おいしい?」
    「あぁ。美味しい」

    柔らかい笑顔とぎこちない笑顔。
    対照的だけど、どこか似ていて面白い。

    「がい、いいこと教えてあげる~!」
    「何だ?」
    「おにぎりはね、さんかくにすると…いつもより、美味しくなるんだよ~!」
    「それは、知らなかった。何か、根拠があるのなら教えてほしい」
    「こんきょ…?」

    頭にハテナを浮かべながら、ボクの方に困った顔を向けられる。おいで、と声をかけてボクとガイの間に座るように促す。頬についたご飯粒を指で取ってあげて、ゆっくり微笑んでからガイを見つめる。

    「これから、サンカクおにぎりを食べる度に…三角のことを思い出すよ」
    「そうかもしれない」
    「思い出したガイは、食べた時…どう思うかな?」
    「俺には難しい質問だ。やったことが無いから分からない…だが、」
    「……?」

    「斑鳩の笑顔が……浮かぶような気がする」

    「…ほんと? うれしい~! えへへ~!」
    「ふふっ、この顔かな?」
    「そうだと思う」
    「じゃあ、オレ…がいといる時、いーっぱい笑うね!」

    穏やかで癒されるおにぎりタイムは終わって、食べ終わったお皿を鼻歌をうたいながら三角が片づけてくれている。ガイがやろうとしたんだけど、それを断って自分がやるって聞かなかった。本当に優しくて思いやりのある素敵な子。

    「…可愛いでしょ?」
    「あぁ。だが、……傷つけてしまったら、と…不安になる」
    「そっか…でも、そんな不安…無くなっちゃうぐらい…真っ直ぐだよ」

    ……だから、ボクみたいな大人は…見てると、少しだけ……。

    「あずま、がい、これあげる!」

    後片づけを済ませた三角が、部屋から持ってきて渡してくれたのは、可愛いデザインのおにぎりのキーホルダーだった。ボクの分とガイの分、ちゃんと二つあって、手のひらに乗せられた。これで三人はおにぎり仲間になったみたい。

    「ありがとう。大事にするね」
    「どういたしまして~」
    「……」
    「…がい? いらなかった…?」
    「いや…」
    「どうしたの?」

    「…ビビっときて、うわぁってなって、心がうきうき、ほかほかする……と、いうことが、少し…分かった気がする」

    ボクには…三角の笑顔が、この日一番だったことしか分からなかった。

    たまごやき
    「……できた~!」

    キッチンからさんかくの鼻歌が聞こえるなぁ…と、思ってたら嬉しそうな声と笑顔と目が合って、お皿の上には普通より大きめのおにぎりが乗っていた。

    「キレイなさんかくだね」
    「ありがと~!」

    三角くんは、お皿を持ったまま左右に揺れながら、おにぎりを食べる準備をしている。もうお昼だし、俺もそろそろ何か食べようかな……なんて考えながら冷蔵庫を開けようとした時、ちょんちょんと服の裾を引っ張られた。

    「つむぎも、おにぎり食べよう?」
    「えっ…? 三角くんが頑張って作ったのに…いいの?」
    「いいよ~! だって、つむぎに食べてほしくて、作ったんだよ~!」
    「そうだったんだ…ありがとう」

    こんなに素直に俺の為って言われると、少し照れる…。でも、すごく嬉しい。中身は何かな? なんて考えながら二人で並んで手を洗う。途中で三角くんの袖が落ちてきて、泡だらけの手で困って焦ってたから、俺が直してあげたら、ありがとうって笑ったのが…子供みたいでちょっと可愛かったなぁ…。

    「いただきます」
    「召し上がれ~! スーパーつむぎスペシャルだよ~!」
    「俺? …食べてもいいかな?」
    「どうぞ~!」

    三角くんのおにぎりは何回か食べたことがある。食べる度に美味しくなってて上から目線で申し訳ないけど、かなり上達してると思う。好きこそ物の上手なれ、ってやつかな? そう考えると…三角くんも、大好きなんだね。お芝居。

    「……んっ、卵焼き…?」
    「せいか~い!」
    「ふふっ…おいしい…ありがとう」

    おにぎりの具は想像していたよりも嬉しいものだった。ちゃんと出汁がきいてるふわふわした卵焼き…絶妙な味付けがおにぎりによく合っていて、卵本来の味もちゃんとしてて…すごく美味しい。臣くんに習ったのかな?少し似てる。

    「なになに~?」

    俺が珍しく大きめの声で話すから、談話室に入ってきた一成くんが気になったみたい。子供みたいに喜んでるところを見られて、ちょっと恥ずかしいな…。

    「三角くんが卵焼きおにぎりを作ってくれて…それが美味しくて」
    「つむぎの好きなものと、オレの好きなものを一緒にしたから~、もーっと好きなものになったよ~!」
    「さっすが、すみー!」

    俺は、表情とか仕草で相手が思ってることや考えてることが言われなくても大体分かるんだけど…三角くんは、少ししか読めなくて。すごく分かりやすくもあるから方向は合ってる。でも…いつも予想以上の嬉しい応えが返ってくる。母の日のお母さんって、こんな風にあったかい気持ちになるのかも…。

    「えへへ~! かずにも、さんかくキャンディおにぎり、作ってあげるね!」
    「それは別々の方がいいかもー!」

    一成くんとの楽しいやり取りを聞きながら優しさも思いやりも一緒に握ったおにぎりを全部食べて、ごちそうさまを告げる。デザートは満開の笑顔だった。

    ピザおにぎり
    「あっ、俺にも一つ…」
    「だめー!」
    「え…?」

    明らかな拒絶に呆然として立ったまま固まっていると、フラれちゃったね…という気の毒そうな声色と楽しそうな表情の先輩に声をかけられた。おにぎりとお皿を持ったまま遠くなる三角の背中を見つめる。腹が鳴る。鼻で笑われる。

    「…あ~…腹減った…」
    「おにぎりでも食べたらどうかな?」
    「先輩、何か作ってくださいよ」
    「おやすみ」

    コップに汲んだ水を一杯飲んで、先輩は部屋に戻ってしまった。この時間、夜食の無い談話室に用は無い。俺も部屋に戻ればいいんだけど…すぐ戻るとなんかアレじゃん。また鼻で笑われそう…。ちょうど、スマホは手元にあるしソシャゲのスタミナ消費中だし…しばらく、ここにいよう。そしたら臣が…いや、明日早いらしいから寝てるな。うーん…綴が…いや、普通に忙しいか。

    「いはう、おははふいはー?」
    「は…?」

    ソファでだらだらしてたら、さっき俺におにぎりをくれなかったサンカクの方がまた戻ってきた。何か聞かれたんだけど、口の中におにぎりがいっぱいで、もごもごしてて何言ってるか分からない。聞き返したつもりだったのに、何も言わずにキッチンでバタバタ音をたて始めた。

    …まぁ、べつに? 何作ってても? 何ができても? 俺には関係ないですけど?

    「はぁ…」

    溜め息がスマホにぶつかって返ってくる。真澄や幸に冷たくされるのとはワケが違う。咲也や椋みたいに、いつも優しい子に拒絶されるのはダメージがでかすぎる。三角だってそう。油断した布の服に "つうこん" は…死んじゃうから。

    「…いいにおい、する…」

    三角が何を作ってるのか知らないけど、すごく美味しそうないいにおいがする気になる…けど、見たら食べたくなるから…。あれは三角のだから…俺にはどうせくれないから……どうせ…くれないから…。

    「いたる、できたよ~!」
    「えっ…? 俺の…って何それすごい」
    「いたるの、夜食ピザおにぎり~!」

    味付けされたサンカクのおにぎりにチーズがたっぷりかかった、どう考えても手では食べられないその見た目に、いろいろと余計なことが浮かんだ。そんなことは聞いちゃいけないな、と思いながら皿を受け取ると箸も一緒にくれた。……やっぱり箸で食べるんだ…。

    「ありがとう…わざわざ作ってくれたの?」
    「うん!おみが~、早く寝るから、オレが作るって約束したんだよ~」
    「へぇ……食べていい?」
    「どうぞ~!」

    一口食べると、この時間に空腹ってこともあって……もはや、罪だった…。

    「…おいしい?」
    「背徳的うまさ…っ」
    「おいしい、ってこと~?」
    「うん…おいしい…うまい…」

    よかったー! って笑いながらぴょんぴょん跳ねる三角。この状況で嬉しいのは俺の方なのに。いつもそう…誰かに何かしてあげて、喜んでもらえると、その相手よりも嬉しそうにする。すごいよね。誰にでもできることじゃないよ。

    「ごちそうさま…」

    食べ終わったお皿も洗わせてくれないし、後片づけも全部ちゃんと済ませててなんて言うか…臣の教育が行き届いてるなぁと。普段から、いろいろ手伝ったりしてるみたいだし。自分ではサンカクのものしか作らないみたいだけど。

    「いたる…もう、寝てもいい…?」
    「あー…ごめん。俺のせいで寝れなくて」
    「ううん、そんなことないよー…」

    頑張って起きてたらしく、ソファに座ってられないぐらい、だんだん体が傾いてきて、重くなった瞼に必死で抵抗していた。でも、もう負けそうで…。

    「三角、寝る前に…聞いていい?」
    「なあに…?」
    「おにぎり作って、置いておくだけでよかったのに…」
    「…あったかいご飯が、いいかなぁって…思って…」
    「そっか…ありがとう」
    「ううん…いいよー…」
    「…最初に、おにぎりくれなかったのは…なんで?」

    「あれね…たらこのおにぎり、だったから…」

    何か言おうとした時には、すでに瞼を閉じて寝息をたてていた。

    「ありがとね…三角」

    抱っこして部屋まで連れていってあげようと、俺は……丞を起こした。

    「なにかな~?」
    「どうしよ~…寝坊しちゃった~!」

    今日は、一日ずっとのバイトなのに…寝坊しちゃった。お仕事までには間に合うけど……本当は、もっと早く起きて、お昼のお弁当用に、おにぎりを持っていきたいな~って思ってたのに……。そしたら、お昼からも元気なのに~…。

    「いただきまーす!」

    急いで着替えて、おみが作ってくれた朝ごはんを食べてるうちに、かずが後ろの髪の寝癖を直してくれた。いつもオレが洗面所で、うーん…って直すのよりすごく速くて、頭がかっこよくなった~!

    「行ってきまーす!」
    「悪い。ちょっといいか?」

    玄関まで走り出そうとした時、おみに呼び止められた。その時、初めて今日二回目の時計を見た。思ってたよりも余裕があって、ホッとして話を聞く。

    「これ、一応…お弁当用に作ったんだが…」
    「えっ…? オレに~?」
    「あぁ。おにぎりと簡単なおかずが少し」
    「ありがと~!」
    「何か他に食べようと思ってたなら…」
    「すっごーく、うれしい! おみ、ありがとう」
    「…なら、よかった」

    「じゃあ、行ってくるね~!」
    「気をつけてな」

    おみに貰ったさんかくお弁当。全然知らなかったし、すごくびっくりしたけど…すごーく、すごーく、うれしかった……。おみは、学校行ってるみんなのお弁当はよく作ってるけど、大変そうだったから。だから、オレはちゃんと自分で作らなきゃ~って思って、いつも作ってた。おにぎり作るのは、楽しいし何を入れようかな~? って考えるのも好きだから、いいんだけど……。
    ……けど、本当は…ちょっとだけ、お弁当…いいなぁ~って……。

    「…えへへ~!」

    今、朝ごはんを食べたばっかりなのに、早くお昼になってほしかった。

    「お疲れ様でした~!」

    午前中の仕事が終わって、今から休憩の時間。今日は、お天気がいいから、お外で食べたいな~って気持ちと一緒に、近くの公園まで来た。ベンチに座ると、野良猫さんが近づいてくる。

    「こんにちは~!」

    にゃ、って短く鳴いて、足の回りをぐるぐるしてる。猫さんはお昼ごはん食べたのかな~? オレは今からだよ~! おみが、作ってくれたんだ~! いいでしょ~! 猫さんは聞いてるのか、聞いてないのか分からなかったけど、いっぱい喋っちゃった。うれしい気持ちの時って、いっぱいお話ししたくなる。

    「いただきまーす……わぁ~! おいしそう…!」

    おみのお弁当は、おいしそうで、おいしかった! 具材がさんかくで、めちゃくちゃ、てんあげ、さんかくぴこ~! だった。もしかしたら、おみは、昨日のうちから作ろうって、考えてくれてたのかな……。

    「…だったら、うれしいなー…」

    お日様も心もぽかぽかして…楽しみにしてた、おにぎりの包みを開く。

    「これ…なかみ、なにかな~?」

    いつも、自分で作ってたから。
    いつも、何が入ってるか、分かってたから。

    思い出して考えてみると、自分にとか、誰かにとか、食べるおにぎりはいつも、自分で作ったものばっかりだった。寮でパーティーする時も、お手伝いしてたし、おみが作ってくれる時は、具は何がいい? って聞いてくれるから。それに…作ったおみも、一緒に食べるから。そこに、いるから。
    だから、一人で食べる、中身が分からないおにぎりは…はじめて。

    「…あっ」

    高菜明太と梅干。オレの、大好きな味。
    おみ、前に作ってもらったの…覚えてて、くれたんだね……。

    「ごちそうさまでした~!」

    お腹も胸もいっぱいで、眠そうな足元の猫さんを優しく撫でると、また、午後からも、いっぱいがんばれそうって、いっぱいがんばるぞって、思えた。空っぽのお弁当箱に、ありがとうの気持ちをいっぱいつめて、持って帰ろう。

    オムライス
    週末の今日、みんな用事があって出かけたり買い物に行ったりしてて、寮の中はわりと静かだった。ケンカも始まらないし小言も無い。詩興も湧かないし、フロアも沸かない。ワンワンうるさい犬もいない。部屋にこもって集中してやるのもいいけど、今日は裁縫道具を持ち出した。だって、もったいないから。

    「あ~! ゆき、おさいほう、ちくちくしてる~」

    談話室の窓から入る光で、今日の天気を感じながら…余った布で小物を作る。衣装を作るのだって楽しくて毎回挑戦できるから好き。でも、全部自分の思ったとおりに好きなように予算も何も考えないで仕上げられるわけじゃない。だから、自分の思うまま針と糸を滑らせる……この時間も好き。息抜きって感じ。息抜きする時まで同じようなことしてる…ホント、大好きなんだよね…。

    「何か、作ってほしいものある? 直してほしいものとか」
    「……ペンペン、腕…ほつれたの…直して」
    「わかった。…っていうか、起きてたんだ」
    「おはよー! ひそか!」
    「おはよう……おやすみ…」
    「おやすみなさ~い…」

    ホント、いつも寝てるよね…って言おうとしたけど、自分だっていつも同じことしてるから。……寝るのが好きなんでしょ。寝過ぎだとは思うけど。

    「オレは~、さんかくクンの服、作ってほしい~!」
    「はいはい。ホントにサンカク星人だよね。アンタって」
    「えへへ~!」
    「褒めてないけど」

    ……同じように、好きなんだよね。

    静かな談話室は、キッチンで何か作りながら鼻歌をうたう音と、寝息と寝返りの音と、糸切りばさみが机にぶつかる音が、なんか…心地よかった。

    「ゆき、お昼ごはん作ったから、食べよ~?」
    「…どーせ、おにぎりでしょ?」
    「せーいかーい! ゆき、すごいね~!」

    キリのいいところまで終わらせて、手を洗ってからイスに座る。おにぎりだしそんなに期待はしてないけど、何も言わなくても作ってくれるのは…やっぱり歳上だし、優しいところあるなって思う。…いい兄貴だったと、思うけど…。はい、どうぞ~! って、渡されたお皿の中は、予想していないものだった。

    「……えっ…」

    「チキンライスのくまさんおにぎりに~、黄色い卵のおふとんを着せて~、ケチャップでさんかくのりぼんを、いっぱい描いたよ~!」

    「……かわいい…」

    ホントに可愛くて……びっくりして、思わず出た言葉。よかった~! って、笑ってるけど、すごいことだと思う。こんなに然り気なく、本当に自然に誰かを喜ばせて笑顔にできるって……誰にでも、できることじゃない。絶対、言わないけど。

    「ゆき、いつも…ありがとう」
    「…なにそれ。オレはべつに…好きなことやってるだけだし…」
    「でもね、ゆきの衣装とか、作ってくれた物とか、出来上がったの見ると~、うわぁ~!って、すごく、すごーく…きらきらした気持ちになるよ~!」
    「へぇ…」
    「だから、ゆきは~…ゆきの好きなこと、好きなようにしてね…」

    ぽんぽん、と頭を撫でられて…いつもなら子供扱いするなって怒るけど…今日は誰も見てないし……いいよね。
    きっと、いつか……こんな風にスカートが履けなくなって、針に糸を通せなくなる時が、絶対にくる。でも、着れなくなっても…ずっとずっと残るから。そしたら、作ったもの着たものを見た時…きっと、気持ちだけは今と同じように…軽やかに、ふりふりひらひら、フリルも裾も踊らせることができるから。

    「……ありがと」
    「あ~、ありがとうって、マネした~!」
    「してないから!」
    「あはは~、ごはん食べよ~!」
    「…うん、いただきます」
    「いただきまーす!」

    隣のお皿に乗ったおにぎりは……クマじゃなくて、サンカクだった。

    何を入れよう?
    もうすぐ、お昼ごはんの時間。

    今日は、どんなさんかくおにぎりを、作ろうかな~? きれいに手を洗いながら考える。考えてるうちに、ごはんが炊けたよ~の、お知らせが聞こえる。ほかほかで、ほわほわの湯気が飛び出してきて、早くさんかくになりたい~! って、言ってるみたい!

    「…あっ! 今日は~、これにしよ~!」

    冷蔵庫の中をのぞいて、さんかくおにぎりのお友達を見つける。一緒に仲良くしたら、もっと素敵になる予感がして…楽しみで心が、るんるーんってする!

    「ふんふ~ん、さんかく~…さんかく~!」

    ごはんを手のひらに広げて、見つけた具をつめて、ぎゅっ…ぎゅっ…って。強くなくて、弱くなくて、おいしくなるように、さんかくパワーも入れて…。

    「……できた~!」

    お皿の上にきれいに並べて、おにぎり山脈をつくる……でも、まだ食べない。

    「ねーねー! おにぎり作ったから、一緒に食べよ~!」

    今までずっと、自分のために作ってきた、さんかくおにぎり。何を入れようか考えて、入れるのはいつも…オレの好きなもの。中身も全部、知ってたよ~。
    でも、こうやって、今日は誰がいるかなー?好きな食べ物はなにかなー?って考えながら選ぶ、おにぎりの具は……どれも、初めてのものばっかり。
    喜んでくれるかな?こうしたら、もっと素敵なさんかくおにぎりになるかな?いっぱい、いっぱい、考えて……たくさん、たくさん、作ったんだよ~…?
    おにぎり作るのが、こんなに難しいなんて、知らなかった……。
    いっぱい考えて、難しいって思うのがうれしいのも、知らなかった…。

    「いただきまーす!」

    いただきます…が、続いて聞こえる。あったかいごはんと、あったかい気持ちを、口いっぱいに頬張ると…詰め込んだものぜーんぶ…おいしい笑顔になる。
    こんなに、お腹いっぱいで、胸がいっぱいになるのは……おにぎりが、さんかくの形だからって、だけじゃないよね……?
    …やっぱり、おにぎりって…神秘……。

    「ごちそうさまでした~!」

    からっぽになったお皿を、洗うのも……うれしいね…。

    今日も明日も、明後日も、その次の日も。
    誰かと食べたい、さんかくおにぎり。

    ……明日は、何を入れようかな~?


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    2022/09/26 21:01:36

    今日のさんかくおにぎり

    #斑鳩三角

    カプなしの三角くんの話です。
    過去に書いたものなので、今の公式設定と違うところが多々あります。

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