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    ばんみすまとめ2ごめんね、変で。サンカクの思うままにおはようとキスしあたーるーむふれて、とけて、あまくて。24時の狭間ほどけて、とけて。ほこりまみれのお返事こいあめ色恋路ごめんね、変で。
    三角と一緒に出かけた日の帰りだった。偶然、大学のヤツらに会って…めんどくせぇけどテキトーに会話して手短に済ませようとした。

    「…あっ! さんかくだ~っ!」

    俺の後ろで静かに頭を下げながら愛想よく笑ってた三角が、着飾った女のブレスレットを指差して声を上げた。一瞬、そいつの顔が引きつったのが分かった。三角は、ごめんなさい…って小さく呟いた後に、先に帰るね!と走り出した。…傷ついた表情を連れて。

    「ただいま…三角、知らねぇ?」

    晩飯の仕込み中の臣に聞くと、まだ帰ってきていないと言う。ずっと談話室にいたらしい東さんに聞いても同じだった。さっき脱いだばかりの靴を履いて、置いたばかりのバッグと、らしくねぇ顔を連れて寮を出た。

    「……っ、三角…!」

    ここだろうなと思った近くの公園。ベンチに腰掛ける背中はオレンジに染まっていた。…今日は久しぶりに二人でデートだった。昼間の楽しそうな背中と同一人物とは思えねぇほど寂しさを背負う。

    「あっ…ばんり、どうしたの~?」
    「…帰るぞ」

    ひゅっ、と手首を掴もうとする手を避けられる。

    「えっと…一人でも、帰れるから…」

    俯きながらポツリと呟く言葉に何も返せない。気の利いたことが浮かばない頭を使えねぇなと思いながら、それでも…もう一度、今度はゆっくりと手を繋いだ。

    「一緒に帰るぞ…」

    手を引くと黙って着いてくる姿に少し安心して、空いている手でそっと頭を撫でた。顔を上げた三角は…無理に作ったヘタクソな笑顔だった。

    「…ばんり、さっきは……ごめんなさい…」
    「謝ることねぇだろ、なんも」
    「でも、ばんり…変な人と知り合いって、思われちゃった…」
    「そりゃ…確かに困るかもなー…」

    自分の言葉で、自分を傷つけている三角。

    「…でしょ~? だからね、オレ…ばんりと一緒に、おでかけするの……もう、やめておこうかなって…思ってて…」
    「俺はもっとデートしねぇと…って思ってっけど?」

    …えっ? と、間抜けな声を上げた顔も好きだ。

    「…知り合いなんて、勘違いされたままだと困るしな?」

    小さく笑って見せると、釣られるように三角が笑顔になった。その後、すぐに口をへの字にして眉を八の字にさせた。泣かせるなんてかっこ悪いし情けねぇから、両手で三角の柔らかい頬をつまんで、無理に口角を上げた。

    「はんひ、ひひゃい~!」
    「ははっ…あー…やっと笑ったな」
    「うん…えへへ、ありがとう…」
    「まぁー、あんま気にすんなよ? 俺はしてねぇから」

    そう言った途端、三角は勢いよく俺に抱きついてきた。そのまま抱っこして帰ってもよかったけど…流石にそれは恥ずかしいらしく、下ろして~!って暴れるから下ろしてやった。

    「…でも、手は繋いでもいい~?」

    お願いとも言えない頼みに、返事のかわりに指を絡めた。

    「そういやぁ…臣がおにぎり作ってたぞ」
    「え~っ!? じゃあ、早く帰らなきゃ!」

    「…いや、もうちょい……な?」

    寂しさを照らしていた夕陽が、少し照れた三角の顔を照らした時……柄にもなく、じんわりと体温が上がるような…そんな、幸福で満たされるのを感じた。

    サンカクの思うままに
    急激に加速した夏。加減もペース配分も知らず、茹だるような暑さが日に日に体力を奪っていく。玄関先に吊るされた風鈴は、青い空を背景にした一枚の写真になっていた。

    「ふーっ…」

    ぴたりと止まって動かない短冊は見ているだけで暑い。目を逸らして扉に手をかけようとした時、息を吹きかける音と共に、チリン…チリン…と、涼の音色が聞こえた。

    「…っ…ばんり、おかえりなさい~!」
    「ただいまだろ…」

    日差しと張り合うぐらいの眩しさを向けられる。背後から声をかけてきた三角は、走って帰って来たのか息を切らして汗だくだった。

    「汗やべーな」
    「えへへ…ばんりが、見えたから~!」
    「大丈夫かよ…」
    「へーき!」

    どう見ても平気には見えない。玄関の扉を開けて靴を脱いでから、引いた手を洗ってキッチンへ向かった。洗面所から持ってきたタオルで髪を拭きながら、二人でコップの麦茶を飲み干した。

    「…っ、はぁ~!」
    「あぁー…」

    節電に関して煩いとはいえ、エアコンが効いた部屋は外よりは断然涼しくて快適だった。一息ついて落ち着いたのか、三角の腹がマヌケな音を鳴らす。

    「お腹すいた~…」
    「今日の昼は各自だしなー…なんか、作るか?」
    「ん~…でも、ご飯ないよ~?」
    「マジか…」

    帰宅してから一度でもエアコンの冷たい風を浴びてしまった体は、何をするのも億劫で重くて仕方ない。それは、珍しく三角も同じなようだ。いつもなら、自分で炊いてでもおにぎりを作る。けど、今日は…ばんりがつくって~…と、駄々っ子のように俺の服を掴みながら、ぐずぐずと体を揺らしていた。

    「…パスタならあるけど?」
    「やだ~! さんかくがいい~…」
    「めんどくせーな…」
    「…なんで、そんなこと言うの」
    「はぁ?」
    「コンビニでいいから、さんかくのおにぎりとサンドイッチ買ってきて~!」
    「暑ぃから無理」
    「なんで~!? お腹すいたよ~…」

    今は都合よく談話室に誰もいない。最近の三角は、俺にワガママを言うようになってきた。もちろん、二人きりの時だけだ。それはそれで、かなり嬉しいことでもある……なんて、言ってやんねーけど。

    「おなか…すいた~…ばんり~…」
    「暑ぃからくっつくな」
    「オレは~、暑くても~、ばんりと~、くっつきたい~!」
    「…ったく、調子いいこと言いやがって…行けばいいんだろ…」
    「やった~! ありがとう…ばんり、だいすき~!」
    「へいへい…テキトーに買ってくるわ」
    「てきとーじゃダメ~! オレが好きそうなの~」
    「…んじゃ、お前も来いよ」
    「やだ~、お部屋を涼しくして、待ってま~す!」

    ……涼しくすんのはエアコンだろ…。

    再度、玄関の扉を開ける。視界に入る風鈴はやっぱり静止画のように動かない。無風の中で照りつける太陽の日差しを浴びながら、重い体を引き摺ってコンビニへと歩いた。

    「ただいまー…」
    「…おかえりなさい」

    出迎えてくれた三角は髪を分けずに下ろしていた。清潔感を纏った体は動く度にふわりと香る。

    「シャワー浴びたんかよ」
    「うん…汗でベトベトだったから~」
    「俺も浴びてくるわ。…これ、先に食ってろ」
    「あっ、うん…」

    ぶら下げた袋を三角に押しつけて風呂場へ向かう。さっさと服を脱いでから、ぬるめのお湯をかける。火照った体は冷えていき、髪を洗うとボーッとしていた頭の中がハッキリしていくのが分かった。

    「…あちー…」
    「おつかれ~、乾かすよ!」
    「あぁ、もう乾かした」
    「そっか…」

    先に食ってろ、そう言ったにも拘わらず、三角は袋をテーブルに置いて座って待っていた。

    「お茶でいい?」
    「んー」
    「ばんり、好きなの食べていいよ~!」
    「お前が言ったんだからお前が選べよ…」
    「でも…」
    「……シャワー浴びたら…頭冷えたかよ?」

    お茶を二人分のグラスに注いで隣に腰かけた三角。俯きながら頷いて、震える声でごめんなさいを呟く。これも……いつものことだ。二人きりの時の三角は、俺を試すような嘘をついたりワガママを言ったりすることがある。そのどれも大したことはなく、恋人の可愛い一面で済まされる事ばかりだ。まぁ…惚れた弱みだろうけど。

    「オレね…ばんりといると……なんか、悪い人になっちゃう…」
    「その言い方だと、人聞きわりーな」
    「違うよ~…そうじゃなくて…」
    「…分かってるから。誰か来ちまう前に早く食うぞ」
    「うん…! ありがとう、ばんり…」

    いただきますの声を揃えて、やっと…手軽な昼飯の時間になった。選んで買ってきたおにぎりもサンドイッチもお菓子も、三角の好みに合っていたらしい。目をキラキラさせたり、ふにゃふにゃの嬉しい顔をしたり、見てる俺の方が満たされていくのを実感した。

    上手なおねだりの仕方も、可愛い嘘やワガママの言い方も、全部…俺から知ればいい。言いたくなる気持ちも、そのあと後悔して落ち込むのも、全部。……振り回されるのも、俺の役目だろ…。

    「ばんり、笑ってる~」
    「いや…買いに行った甲斐があったなーって」
    「…かいにいった、かい…?」
    「そういうんじゃねーから」
    「さむーい! つまんない~…」
    「…エアコン消すわ」
    「だめ~!」

    おはようとキス
    「わっ…!」

    目の前にあった綺麗な顔に驚いた三角は、思わず声を上げてしまった。起こさないようにそっと体を動かそうとすると、腰のあたりに万里の腕が回されていることに気づく。寝ている間もずっと抱き締められてたのかな?と、想像するだけでほわっと体温が上がるような感覚がした。

    「ばんり…起きて~…?」

    ゆさゆさと肩を揺らしてみても、耳元で名前を囁いてみても、静かな寝息が聞こえるだけで起きる気配がない。疲れているのかも…と、このまま寝かせておくことに決めた三角は、万里の腕からそーっと抜け出そうと離れる。

    「…もーっ! ばんり~…起きてるでしょー!」

    抜け出そうと離れた腰をぐっと引き寄せられ、布団と一緒に足をかけられて、起き上がれなくなったところで、万里の肩が微かに震えていることに気づいた三角は、頬をぺちぺちと軽く叩きながら、むーっと口を尖らせた表情を見せる。

    「ん、」

    頬を叩く手を優しく掴み、その可愛い唇を奪う。

    「…はよ」

    覚醒した綺麗な瞳で見つめられると、もう…何も言えない。

    速くなる鼓動を落ち着かせるように絞り出した、おはようの言葉。それが言い終わらないうちに…もう一度。押し寄せる甘いひとときに胸はいっぱいでも、お腹は空っぽなようで、ぐぅ~…という音を聞いて笑い合った二人は一緒に部屋を出る。鼻を抜ける美味しそうなにおいがして、素敵な一日になる予感で満たされたのだった。

    しあたーるーむ
    誰もいなくなった談話室。電気を消して、テレビのあかりってこんなに眩しかったんだぁ~…なんて思いながら、沈むソファは二人分。テーブルの上にはマグカップが並んでいて、コーヒーの香りは落ち着くようで落ち着かない。なんだか、ふわふわした魔法がかかってるみたい。

    「ばんり、今日の夜…あいてる?」
    「空いてっけど?」

    「…一緒に、映画みよう?」

    誘ったのはオレから。本当はどうしても観たいって思ってたわけじゃない。よく知らないけど話題になってた映画。そうでもしないと、二人になれないかなって…。他のみんなに見られても大丈夫だと思ったから。

    「珍しいな。サンカクでも出てくんの?」
    「えっ? うーん…出てきたら、いいなぁ~!」

    おかしいね、そんなこと……考えてなかった。

    いつもの見慣れた談話室が、二人だけの特別なシアタールームになる。それだけで、こんなに…映画よりもドキドキして、ばんりのことで頭がいっぱい。でも…きっと、オレだけ。

    映画はおもしろかった。正直、内容が頭に入ってこなかったけど…。それでも嬉しいのは、ばんりの横顔がかっこいいなぁとか、映画みるときはおしゃべりしないで静かにみるんだとか、まだ知らないばんりを、知ることができたから。映画じゃなくて、ばんりをみてた。

    「面白かったな。わりと」
    「うん! 一緒にみてくれて、ありがと~!」
    「観てる時は静かにしてんだな」

    真剣な顔してた。って呟いたあと、ばんりはトイレに行っちゃった。一人になった部屋は、やっぱり…いつもの談話室だった。あかりをつけて、マグカップを片づけようとした時。

    「……あれ?残ってる…」

    コーヒーが大好きなばんり。自分で淹れたこだわった一杯。

    「ばんり、コーヒー残ってるよ?」
    「あぁ…んじゃ、飲むわ」
    「でも、冷めちゃってるから…淹れ直す?」
    「三角も飲むか?」
    「ちょっとだけ、ほしい~」

    …もうちょっとだけ、二人きりの時間が。
    ミルクとお砂糖がとけて、飲む度に時間もとけていく。

    「ごちそうさま~、おいしかったね~!」
    「どーいたしまして」
    「……寝よっか?」
    「眠ぃの?」
    「そうじゃないけど…」
    「なんのために、コーヒー飲ませたと思ってんだよ」

    ……ふわふわした魔法は、まだ…とけていなくて。
    部屋のあかりもテレビも消して、真っ暗になった知らない部屋で、背中に回された温度に、体はいとも簡単にとけてしまう。

    重なった唇は、オレより少しだけ大人な味がした。

    ふれて、とけて、あまくて。
    楽しかった一日に夕暮れの幕がゆっくり下りていく頃、ふんふんとさんかくの鼻歌を奏でながらご機嫌な様子の三角。手にはコンビニの袋が下げられていて、感情が両手へ波のように伝わりシャカシャカと音を鳴らす。

    「ただいまー!」

    数人のおかえりなさいが聞こえて、何かあたたかいものが全身に伝わる。きちんと靴を揃えてから、洗面所へ行き手洗いとうがいを済ませてから談話室へ向かった。

    「ただいま~!」

    おかえりが返ってくる嬉しさを何度も味わいたくて。

    「ばんり、ただいま~」
    「一回言えば分かるだろ…」
    「おかえりなさいって、言ってほしいよ~」
    「へいへい…おかえり」
    「ただいま~!」

    二人を見ていた東は、仲がいいねと優しい声色で話す。手伝おうとキッチンに立とうとする三角に、もうすぐ終わるから大丈夫だと臣が告げる。鬱陶しそうな素振りを見せていた万里は、ソファの端に寄って三角の場所を空けてくれる。そこへ、ありがとうと一言お礼を言ってから座った三角は膝の上に袋をのせて、見つけたさんかくのお披露目会を開催する。

    「…これは~、おにぎりのシール!」
    「ふふっ…お腹が空いてきそうだね」
    「ばんりも、見て~?」
    「…んなもん、見てどうすりゃいいんだよ」
    「じゃあ、これは~?」

    取り出したのは、カラフルなさんかくがたくさん入った袋。

    「きらきらしてて…キレイだね」
    「でしょ~! これ、アメなんだよ~、あずまにもあげるね!」
    「大事なサンカクなのに…いいの?」
    「いいよ~!」
    「ありがとう。じゃあ、オススメを一つ貰おうかな」
    「はーい!」

    たくさんある色の中から似合う色を考えて、一つ取って東の手のひらに乗せる。三角自身も好きな色を選んで口に含むと、甘さと一緒に小さな幸せが広がっていくのが分かった。

    「ばんり、見て~」
    「…あー」

    きらきら黄色いさんかくを指先でつまんで万里に見せる。スマホから三角に目を向けた万里は、手を汚したくないのか口を開ける。甘いものは食べてくれないと思っていた三角。驚いて少し考えてから、催促されるがままに万里の口にアメと繋がった指を入れた。

    「…わっ!」

    黄色いきらきらは万里の口へ落ちて、三角が指を引き抜くよりも先に口が閉じてしまった。噛まれる前に引けたけど…人差し指を万里の歯がスッと撫でた。

    「あ、わり…大丈夫か?」
    「うん! だいじょうぶ~!」
    「…ホントかよ?」
    「ほんとだよ~! こ、これ…お部屋に持っていくね~」

    明らかに動揺しているのを不器用に誤魔化して笑う三角。それを見て不思議に思いながらも、特に気にすることなく目線をスマホに戻す。

    「…はぁっ、はぁ~…」

    自分の部屋に入り九門がいないことを確認して、ぺたんと床に座り込む。どくんどくん…と、跳ねる心音を落ち着かせるよう胸に手をあてる。けれど、それは逆効果で…より自覚できるようになってしまった動揺は、連鎖するように体を熱くさせる。

    「ばんりっ…」

    指に歯があたっただけ。たった、それだけなのに…。唇を重ねた瞬間から始まる、頭がふわふわするような甘い時間。舌先を掠め、唇を軽く挟まれ、全身を甘い痺れに襲われる感覚…。思い出すだけで苦しくなるほど夢中にさせてくれる恋人の名前を何度も口に出しながら、今日見つけたさんかくを手に取って見つめる。まだ、たくさんのさんかくが残っていて…この一つ一つを口にする度に、口内に広がるようなとろける甘さを思い出すのだ。そう考えるだけで、袋の中が…さっきよりもきらきらして見えた。

    「甘ぇ…」
    「それは…三角に対してってことかな?」

    食べ慣れない凝縮された甘さを口の中で転がした時、似たような甘さを思い出して、バタバタと談話室を出る音がする。

    「あーあ…もうすぐ、ご飯なのに…」

    美味しそうなにおいも呼びかける臣の声も、万里には届いていなかった。

    24時の狭間
    体調が悪いわけでもないし、眠れないわけでもない。ただ、なんとなく。夜中に目が覚めた。一定のリズムで聞こえる寝息に気をつけながら203号室を出る。静かに廊下を歩いて、そーっと階段を下りて、談話室の扉を開けた。

    「……真っ暗だ~」

    当然、誰もいなくなった談話室は真っ暗。さっきまでの騒がしさが嘘みたいに静かだった。喉が渇いたからお茶を飲もうと開いた冷蔵庫は、思わず目を細めてしまうほど眩しく感じた。

    「はぁ~……」

    一番小さな灯りをつけて、コップに汲んだお茶を飲む。腰を下ろしたソファはいつもより大きくて広かった。テレビの音も話し声もしない談話室。それでも、さっきまでの温かさが余韻のように残っていて、不思議と寂しくはなかった。

    「……誰かいんのか?」

    近づく足音に気づく頃、開かれた扉の音と共に、二人きりの出来上がり。

    「ばんり、どうしたの~?」
    「喉渇いたからトイレ行ったついで。三角は?」
    「うーん……なんとなく?」
    「……寝れねーの?」

    ソファが少しだけ、小さく狭くなった。

    「ううん、だいじょうぶ」

    本当に何でもなかった。何でもなかったのに……。

    「ま、誰もいねぇし……なっ?」

    オレの方を向いて手を広げたばんりは、ほんのちょっと悪い顔をしていた。

    「……っ、ばんり」

    ソファに座るばんりの膝上に乗って抱き締め合った。静かな部屋には、服同士が擦れる音と、ちっちゃい子にするみたいに背中をぽんぽん叩く音だけ。抱き合ったままゆらゆら揺れると、小さな小さな笑い声がくすくす聴こえた。

    「でけー赤ちゃんだな」
    「赤ちゃんじゃないもん!」
    「そーかぁー?」
    「そうだよ~……」

    子供扱いするには遅すぎる時間。向き合って額をくっつければ、流れるように唇が重なることも知ってるよ?

    背中を叩く音が止まって、触れて重なって絡み合う音にかわっていく。

    「……続きは週末な?」

    深く重なる音は荒い呼吸にかわってしまう。頷く代わりに、もう一度抱きついて大好きな人の名前を呼ぶ。応えるように回された腕は、ぽんぽんと優しく背中を叩く。

    「早く、大人になりたいね……」

    暗くて静かな真夜中の談話室。
    大人か子供か分からないキスの音が響いた。

    ほどけて、とけて。
    「……万里さん、髪のびたな」

    今朝、声をかけてきたのは洗面所で一緒になった天馬だった。テキトーに返事をして、左手首にかけていたヘアゴムで髪を束ねる。ここ最近、団員達に一番かけられる言葉だ。切りに行こうにも何かと忙しくて行けてねぇ。何か困るわけでもねーし……今のところ、このままでもいいと思っている。

    「いただきます」
    「あーっ! ばんり、今日もさんかくつけてる~!」
    「……まぁ、せっかく貰ったしな?」
    「えへへ…」

    嬉しさと照れ隠しが混ざった顔で、結び目の小さいサンカクを指でつつかれる。 毎朝、毎朝、このゆるゆるの顔を見せてくれんのに……切ろうとか思わねぇだろ、普通。

    「ごちそーさん」
    「ごちそうさまでした!」

    食べた後の食器を洗い終わった頃、聞き慣れたメロディーを鳴らす洗濯機に呼ばれた。数日間ずっと、何をするのにも髪をくくって過ごしている。緩んできたのを直す度に、指先で感じる三つの角。恥ずかしいほどに表情までもが真似をする。

    手で隠しきれない口元を助けてくれる髪は、サンカクの中だった。


    「ばんり、遊びに来たよ~」

    週末のとある日、部屋に迎え入れた三角は、兵頭がいないことに気づく。椋と九門と三人で出かけたことを告げると、そうだった~! と、九門から言われていたのを思い出した様子だった。

    「今日も~、むすんでるね~」
    「んー」

    けど、それは……いつものやり取りじゃなく。

    「……今は、とってもいい?」

    ふにゃりとした表情から一転、少し不安そうに見つめられ、俺が何かしたのかと心当たりを探す。

    「三角、どした…?」
    「な、なんでもないよ~!」

    立ち上がって逃げようとする腕を掴んで、短く上がった声を無視し、一番近くの壁際に追い詰めた。う~っ…と、小さく唸りながら、諦めずにまだ逃げようとしゃがむ姿を、今度は両手を掴んでからぎゅっと抱き締めた。

    「……っ、ごめんなさい」
    「何がだよ?」
    「ばんり、ちかい~…」

    見下ろしながら顔を近づけると、離した手首が俺の背後に回され、結び目のサンカクをシュッと引っ張った。解かれて落ちてきた髪は、サラサラと頬を撫でる。

    「髪、のびたね…」
    「……切ってほしくねぇなら、そう言えよ…」

    熱く浮かされたように潤んだ瞳で見つめられると、コッチが意地悪しているような気になってくる。少し離れて床に敷いてあるラグの上で手を広げ、白状しやすいように座ったまま抱き締めた。

    「ヘアゴムくれてまで阻止した理由、教えてくんねーの?」
    「…言っても、オレのこと嫌いにならない…?」
    「ならねぇよ」

    ゆらゆら揺れながら三角が話すのを待っていても、なかなか始まらない。顔を合わせた方がいいのかと腕を緩めると、離れないようにぎゅっと三角の腕に力が入った。

    「えっと、ですねぇ……ばんりの、髪が長いと…」
    「んー…」
    「近くで、えっと……近づくとね、髪が…降ってきて……」
    「あぁ…」
    「さらさらって、くすぐったくて……びくって、するから……」
    「……するから?」
    「だから~っ、……すき、だなぁ~って…」

    ほんの少し開いた口から吐き出される熱を耳元で感じながら、早く顔が見たくて仕方なかった。肩を押しても、やだやだ! と反抗する三角は離れてくれない。

    「んじゃ、髪くくっちまうわ」

    パッと取り返したヘアゴムで素早く髪を束ねる。ぽわっと頬を染めた三角は露骨に残念そうな顔をしてしまっていた。その隙に、そっと押し倒した体に跨がって見下ろしながら、残った髪を耳にかけてしまえば、お望みどおりに落ちることは無い。

    「いじわる……!」
    「知らねーの?」
    「…しってる」

    そのまま、顔を近づけて覆い被さるようにキスをした。……直後、シュッと引っ張られるさっきと同じ感覚。……唇を重ねたまま降る髪が、二人の頬を撫でた。

    「…オレね、さんかく探すの、得意なんだよ~! ……しらない?」
    「……知ってるわ」

    手中のサンカクは、ほどけた口元を知らない。

    ほこりまみれのお返事
    『ばんり、すき』

    短い通知音を鳴らしたスマホは、談話室でのくだらない会話を疎かにさせる。目を向けた画面に表示される短い言葉。目の届く範囲に送り主の姿は見当たらず、無表情を装ったまま談話室の扉を開けた。

    「……どこにいんだよ」

    二階の共有スペースにも、ベランダや中庭にも、お互いの部屋にも、三角はいなかった。寮内をうろうろしていても怪しまれることはないが、ここにいるのは優しさや思いやりの塊みたいなヤツばっかりだ。当然のように誰を探しているのか聞かれ、手伝ってくれようとする。

    「いや、いいわ」

    かけられた優しさには申し訳ないが、それじゃあ意味がない気がした。引き続きバタンバタンと音を鳴らしながら歩く廊下。きょろきょろと忙しい目線。たった五文字の言葉に振り回されている自分が、だんだん面白くなってきた。

    「……みーっけ」

    探し求めていた送り主は既読がついた画面を握り締めて、ほんの数年前までホコリかぶっていた歴史から、悪戯っ子のような顔を覗かせた。

    「見つかっちゃった〜」

    聞こえてきた呑気な声は、今日の天気のよう。

    「なんで倉庫にいんだよ?」
    「……なんで、でしょー?」

    やっとの思いで見つけ出しても、ふわりふわりと揺れ動いて、掴んでいることが難しい。早く出ようと引き寄せた腕は言う事を聞かず、下がってしまった口角は言いたいことを聞かせてくれない。

    「お返事は……?」

    動こうとしない三角の隣に腰を下ろす。画面に嫉妬した幼稚さがスマホを取り上げ、強引に向けさせた目線を合わせて『俺も』とだけ返事をした。

    「……俺も、なに?」

    可愛い表情とヘタクソな誘導に軽く吹き出した後、しっかりと目を合わせて『俺も、三角が好きだ』なんて、台詞みたいな返事をした。

    「アンタだって、口で言ってねーだろ」
    「えっ?」
    「文字だけじゃ聞こえねーんだわ。口ついてんだろ?」

    指先でつついた無防備な口の端がきゅっと結ばれて、逸らす視線と染まる頬が愛おしさを加速させる。もう一度、ちゃんと視線が重なってから小さな小さな声で『……ばんり、すき』という返事をもらった。

    「……わかった?」
    「なにが?」
    「なんで、ここにいたのか〜、わかった……?」

    耳をすまさなくても扉の外からは騒がしい声が聞こえる。積み重なったダンボールと小道具は大きさも様々で、ある程度整理されているとはいえ、扉を開けたたけでは見つからない。座っているなら尚更だ。

    「なるほど、な……」

    絡み合う指先が始まりを連れてくる。掬うように引き寄せれば、されるがまま。待たせすぎた瞳には懇願の色がとけて揺れる。振り回されてお望みどおりに応えた日曜の午後。

    歴史ある誇りに紛れて、煮詰めたように執拗なキスをした。

    こいあめ
    夕飯も風呂も済ませた後に訪れる夜の自由な時間。いつもより一層、賑やかな声で溢れる談話室。毎週火曜の見慣れた光景を……どこか、俯瞰的に見ていた。

    「てんま、かっこいい顔してたね〜」
    「それな! いつもと違う雰囲気あって最高だよねん!」
    「普段がポンコツなだけでしょ」
    「オレ、めっちゃドキドキしちゃった〜」
    「CMがないと心臓がもたないよね……」

    テレビの前に集まって天馬が主演のドラマを楽しむ団員たち。俺はそれを、離れたダイニングテーブルから見ている。今に始まったことじゃない。付き合う前も付き合ってからも、ずっと三角は変わらない。

    「ドラマ終わった? 今週末のドライブなんだけど……」
    「あっ、それね〜」
    「はいはーい! オレも行きたい!」
    「あとね〜……」

    ばんり! と、呼ぶ声が聞こえて顔を上げる。ふにゃりと笑った三角がこっちへ近づいて来た。三人でドライブなんて初耳だった。行くなとは言わねぇ。ただ……教えてくれたっていいんじゃねぇの?

    「今週の土曜日、ちかげとかずとみすみで〜、さんかく探しのドライブに行くんだけど……ばんりも行く〜?」
    「すみーナイスアイディア!」
    「えへへ〜!」

    はしゃぐ二人とそれを見守る千景さん。どう考えても場違いな俺。

    「いや、俺はいいわ。三人で行ってこいよ」
    「そっか……何か予定あるの〜?」
    「んー、ちょっとな」

    食い下がることもなく、それならしょうがないと……俺は行かないことに決まった。楽しそうにどこへ行こうか話す、並んだ背中を見ることができなかった。三角と一成が盛り上がっている隙に何かを察した千景さんから、車を貸すから俺の代わりに運転して行くのはどうかと提案された。……けど、予定があるからと断った。
    夢中で話す三角の目に俺は映っていない。そっと談話室を抜けて、呼び止められることなく静寂に足を踏み入れながら……一人、今週末の予定を考えていた。

    「はぁ……」

    布団に入って重苦しさを吐けば、近い天井にすぐ跳ね返される。三角は人との距離が近くスキンシップが多いことも十分に理解している。頭を撫でたり手を繋いだり抱きついたり、そんなことは何気ない日常の一コマにすぎない。それは、恋人同士になってからも変わらなかった。当然、キスをしたり体を重ねるのは俺だけだ。三角もちゃんと俺のことを特別だと思ってくれている。

    「……はず、なんだけどな……」

    ヤキモチなんて可愛い言葉で片付けられたらどんなにいいか。いつまでも晴れない分厚い雲に覆われたような心情。不安や焦り、切なさや虚しさを取り除こうともがいても、すうっと指の間から抜けて、また分厚い暗い雲に戻ってしまう。満たされないまま雨になることもなく、仄暗い空が広がっていく。

    今週末の天気予報は、快晴だった。


    「ばんり」

    なんとなく、バルコニーで過ごしていた夜のこと。風呂上りの香りを連れた三角が隣の椅子に腰掛けた。最近、二人で過ごす時間が減ったのを気にしているのか、どこかぎこちない雰囲気を香りに溶かし纏っていた。

    「月、きれーだな」
    「うん! 明るくてきれいだね〜」

    「紬さんと……お月見しなくていいんかよ?」

    嫌味とかじゃない。三角には、好きな人には……楽しく幸せに過ごしてほしい。ただ、素直にそう思っただけ。突然の、柔らかい表情と軽い口調の提案に驚いた三角が言葉を繋げずに口を噤んでしまう。

    「呼んでくるわ」

    席を立つ情けない背中に衝撃が走る。無言で抱きついてきた三角は、今にも泣き出しそうな切ない表情を見せる。

    「お月見……今日は、ばんりとしたい」

    突然の提案に、今度は俺が何も言えなくなっていた。

    「ばんりとお話したい……一緒に、いたいよ……」

    普段なら思いっきり抱きしめたくなるほど嬉しい言葉。でも、今は……俺は、三角にこんな顔しかさせらんねぇのかって……胸が締め付けられるだけだ。

    「……ごめんな」

    久しぶりに撫でた頭と触れた頬。以前は自然にできたはずのキスが……できなくなっていた。


    予報通りの快晴で迎えた土曜の朝。部屋を訪ねて顔を除き込めば、俺のせいでどこか乗り気じゃない三角。優しく頭を撫でて笑顔で送り出すと『ばんりのために、いいさんかく探してくるね……!』と、意気込んでいた。

    「おっ……」

    意味もなく一人で出かけた街中で、何度か来たことがあるコロッケ屋が目に入った。小腹が空いていたこともあって、一つ買って食べてみたけど……驚くほど普通だった。いつもと違うことと言えば、三角がいないことだ。己の面倒くさい一面に心底嫌気が差す。苛立ちをぶつけるように、食べ終わった包み紙を思いっきり握り潰した。

    「ただいま」

    早々に帰ってきた寮に三角がいるはずもない。部屋に兵頭がいないことを確認して、項垂れるように溜息を浴びて座り込んだ。今頃、楽しんでんだろうな……そんな風に予想を膨らませれば、それはそれでよかったと思えるほどには好きすぎて困っている。……けど、それはきっと、一方的に大きくなってしまった想い。俺以外のヤツと過ごす時間を全部俺にくれ、なんて考えは……ポケットの中の包み紙と共に、もっと早くに捨てるべきだったと後悔が追い討ちをかける。

    「……どーぞ」

    正解が見つからないままどれだけの時間を無駄にしたのだろう。気づけば外は少しずつ暗くなり始めていた。扉を叩く音に返事をして待ってみれば、今……誰よりも会いたくて、誰よりも会いたくないヤツが立っていた。

    「おかえり」
    「ただいま。ばんり……」
    「楽しかったか?」
    「うん! 楽しかったよ〜」
    「よかったな。いいサンカク見つかったか?」
    「……ううん、見つからなかった」

    そんな日もあるだろうと慰めの意味を込めて頬を撫でた。本当は、ただ触れたかっただけなのかもしれない。何か言いたそうに目を向ける三角を隣に座らせ、そっと……手を握った。

    「さんかく、見つからなかった」
    「あぁ」
    「だからね、今度は……ばんりと二人で、探しに行きたい」

    真っ直ぐ向けられた眼差しは、曇ることを知らない。俺の面倒くさくて鬱陶しい部分を見透かされたくなくて、思わず目線を外してしまう。

    「この前のこと気にしてんの?」
    「そうじゃないよ……ばんりと二人で過ごしたいなって」
    「そんな気ぃ使わなくていいっつーの」

    笑いながら軽く流すことは許されない。もう一度、視線が重なり、繋いた手を握る力が強くなった。

    「それ、ほんとう?」
    「……は?」
    「ばんり。本当のこと、教えてほしいなぁ……」

    心を落ち着かせるトーンと柔らかい空気。三角の前では大人でいたい。余裕があって心が広くて、かっこよくて頼れる彼氏でありたい。内に秘めながら必死で固めた理想像が……音を立てて崩れていく。

    「……俺以外のヤツに、簡単に触らせてんじゃねえよ……」

    情けない顔を見られたくない。その思いは三角を腕の中に閉じ込め、確かめるように深い呼吸を繰り返し、味わうように撫で回す。久しぶりに嗅いだ濃いにおい。鼻奥を掠める独占欲がこれでもかと刺激される。

    「うん……」
    「俺抜きで出かける時は、誰と何処行くのか言えって……」
    「わかったよ〜」
    「俺以外と添い寝禁止」
    「おひるねは〜?」
    「昼寝は……まあ、良しとすっか」
    「はーい」

    呆れて嫌われるであろう要素を一通り吐き出した。その一つ一つに相槌を打つ姿を見る度、自分のかっこ悪さや情けなさを痛感する。それと同時に、嫌な顔一つせず受け入れてくれる恋人をまた好きになる。

    「オレね……ちゃんとばんりのこと、だいすきだよ?」
    「知ってる」
    「こんなに、すきって思って、ちゃんと付き合ったの……はじめてだから」
    「ん……」
    「だから、言ってくれなきゃわかんないよ……」
    「……そうだな」

    やっぱりこんな顔しかさせらんねぇのかと実感する。けど、それは数日前とは明らかに違った。

    「ばんりが、みんなに触るなって言ったら、ちゃんと触らないよ?」
    「本当かよ?」
    「ほんとだよ〜! 行くなって言うなら、行かないもん」
    「……べつに、縛り付けたいわけじゃねぇから」
    「わかってるよ〜!」

    ぎゅっと密着した状態でゆらゆらと左右に揺すられ、子供をあやすような仕草も不思議と悪くないと思えた。

    「だからね……一人で、食べないで……?」

    溢れそうなゴミ箱の一番上、小さくなった包み紙。

    「オレと、はんぶんこしてよ……ばんりのばか」

    困ったように微笑む三角と視線を重ねれば、じわっと蕩けるように伝わる熱を知る。そのまま流れに身を任せるだけで、少し前には考えられないほど自然に重なる唇。……俺は自分で思っているより、愛されているみたいだ。

    「ばんりも、ばんりを……すきでいてね?」

    注がれるように広がる愛に満たされた体から、予想外れの雨が一筋……ぽつり、零れ落ちた。

    色恋路
    何事もなく終えたバイトの帰り道。一人で歩くいつもの道。
    何も変わることはないと思っていた道。

    「……おっ、」

    それは、たまにやって来るキッチンカーのおにぎり屋。
    それは、道端に寝転ぶサンカクの形をした石。
    それは、気持ちよさそうに眠る野良猫。

    いつもと同じはずの、何度も見た景色。

    「もう、秋か……」

    控えめになった昼が夕暮れを連れてきて、あっという間に夜になる。
    見えていた肌色が落ち着いた色味を纏う。
    ひゅうっと頬を撫でる風が少し涼しくなった気がした。

    「ばんり!」

    ……俺を呼ぶ声だけは、ずっと変わらないでほしい。

    「迎えに来たよ〜」
    「サンキュな」
    「どういたしまして〜!」

    笑顔越しに通して見る世界。より明るく鮮やかに、一人じゃ見えなかった景色を魅せてくれる。

    「さっき、そこに花咲いてた」
    「えっ!? どこどこ〜?」

    指差した先に咲き揃う、名前も知らないオレンジ色の花。

    「かわいいね〜」
    「だな。なんつー花だろうな?」
    「今度、つむぎに聞いてみるね!」

    パシャリと音を立てるスマホ。ちらりと覗いたフォルダには、たくさんの写真が並んでいた。

    「ちゃんと撮れてたか?」
    「うん! 分かったら、ばんりにも教えてあげるね」

    返事の代わりに微笑んで、また二人で歩き出す。

    「……あっ!」

    何かに気づいて走る後ろ姿に、もう何度も恋をしている。

    なんでもなくて、何も無かった帰り道。
    鮮やかに色をつけた季節を教えてもらった。

    「ばーんりっ、きてー!」

    返事をして駆け寄れば、まだ俺の知らない未知がある。

    「もうそろそろ帰るぞー」
    「はーい!」

    今日もまた一つ、伸びた影が重なる美しさを知った。

    はさと Link Message Mute
    2022/10/02 6:00:27

    ばんみすまとめ2

    #ばんみす

    過去に書いたものなので今の公式設定と違うところが多々あります。

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