居候の必要性「ねえねえフェル~~まだぁ?」
「お前は何様のつもりだ! 僕はお前のコックじゃない!」
大きくため息をつくと、オリクスは僕の首に腕を回してきた。いつものように甘えた声で怒ってるの、などと問いかけてきたが無視して料理を皿に盛りつける。
「ほら、食ったら朝礼に向かわないと間に合わないぞ」
「わあああ美味しそう~! フェル、ありがとう~!」
ニコニコと笑うオリクスの顔だけを見ていれば笑い返してやってもいい気がする。しかし何も手伝おうとしない居候には飽き飽きしているので、無視して食事の前の祈りを始めた。
というか、お前が手伝うか僕に話しかけてこなければ、朝食はもっと早く出来たはずなんだ。
「ねえ、フェル」
「何だ」
「フェル、男の子だよねぇ?」
僕は指を鳴らしてオリクスに向かって闇属性の針を降らせたが、オリクスは朝食を持ったまま見事に避けてしまった。
「そんなに怒らないでよぉ」
「怒るだろう普通!!」
「別にフェルのこと悪く言おうとしたんじゃないってば。フェルが女の子だったら俺はもう結婚していたなぁって」
「僕は願い下げだ」
フェルってばつめた~い、などとほざくオリクスを無視して僕は朝食を食べ終えた。朝の時間は限られている、僕はさっさと流しに食器を入れてコートを羽織る。
だらだらとはしているが、オリクスも一応は第五騎士団(レオ)の騎士団長だ。僕と同じ時間には支度を済ませていた。
「あ、フェル。今晩はカロリーナのところに泊まるから晩ご飯いらないよ」
「分かった」
「それとさ」
「何だ」
オリクスは僕の目をじっと覗きこんできた
「顔色悪いよ、大丈夫? 休んだほうがよくなぁい?」
「……疲れがたまっているだけだ」
オリクスは普段から僕の部下でも気がつかない僕の体調に気がつく。
こういう小さな気遣いが人を落とすコツだとかオリクスが言っていて、僕はこいつらしいと思ったものだ。
「じゃあねフェル! 俺が居なくて寂しかったら会いに来てもいいんだよ?」
「誰が行くか!」
いつものやりとりを終えた後僕は第六騎士団(バルゴ)の第一駐屯地に向かった。
***
「くそ、アイツの忠告聞いておけばよかった」
案の定熱が出た僕は団長室の長椅子で横になっていた。あいにく部下は用事でいない。
僕は攻撃魔法はもちろんだが回復魔法も得意とする珍しい騎士だ。せっかく闇属性が得意なのだからと必死になって練習した。しかし、回復魔法は風邪や熱に対してはまったく効力がない。市販薬や薬草を食べて安静に眠るのが一番だ。
風邪かな、とまどろむ視界の中考えていると、誰かが部屋に入ってきた。白っぽい服装から騎士団の誰かだということは分かったがそれ以上はわからない。
訪問客は僕の顔を覗きこんでほらね、とつぶやいた。
「無理してないで、寝ちゃいなよ。後は俺に任せてよ」
僕はなぜか安心してすっと寝入ってしまった。
***
目が覚めると自室のベッドに横になっていた。
「あ、フェル起きたぁ?」
「……やっぱりお前だったか」
オリクスがニコニコ笑いながら、ベッドの脇に座って僕の顔をじっと覗いてくる。
「気になって会いに行ったら寝てるんだもん」
「カロリーナ、さんは」
「ああ、断っておいた」
オリクスは濃く味付けしたらしいブイリ(おかゆ)を僕にスプーンで食べさせた後、にっこりと笑って
「ねえフェル。たまには俺が居て良かったと思うでしょう? フェル、家族居ないから」
「……そうだな、たまにはお前なんかでも役に立つか」
「あはは、俺はいっつもフェルが居てくれて良かったと思うけどねえ」
いつも食事を手伝ってくれれば、そう思ってやるがな。
料理が出来るのに全く手伝おうとしないこの男を睨みつけて、そう思った。