それが出逢いで
「退いてください」
そう第九騎士団の団員たちを掻き分けて歩いてきた女性はかなり目立つ。長い金髪はしっかりと手入れされておりつややかで、背筋をすらりと伸ばして歩くさまは格好がいい。
「これが、変死体ですか」
「はい」
第九騎士団の誰かが答えると、女性はふうんと呟いて市民を人払いするように指示した。また、第九騎士団の誰かが突然現れた金髪の女性に、お前は誰だ何の用だ、と野次をとばしたのをメーメットは聞いた。
金髪の女性は顔をあげてきりりとした顔ですっと立ち上がる。細身の剣――レイピア――を抜いて、先ほどの野次を飛ばしたらしい騎士に切っ先を向けた。
「私(わたくし)はフローラ。ここ、城下西区を担当する第四騎士団の騎士です。魔女の関連が疑われる事件のため、不在の第四騎士団長ラグナレスの代理として私が出向いてまいりました」
強気でそう答えて、顔をすぐにそらしてしまう。
気が強い女性なんだろう、メーメットが抱いたフローラの第一印象はそれだ。顔立ちもきりっとしているし、隙が無いように思える。どことなくアリアを思い出してしまって、なんとなく嫌な気持ちになってしまった。
「どなたが、第一発見者ですか」
団員全員が一斉にメーメットの方を向いたせいで、視線が一気に自分に集まってしまい、メーメットは思わず後ずさってしまった。どっと冷や汗をかく。
やはりフローラはメーメットに目線を移して、優雅に小首を傾げる。その動作から彼女の育ちの良さが伺えた。
「あなたですか。お名前は」
「……えっと……あの…………メーメットです」
やはりアリアのことを思い出してしまって、喉が張り付いたように声が出て来ない。フローラがどことなくアリアと重なってしまったせいか、普段よりもさらに声を出すのが億劫でたまらない。
そんなメーメットをフローラがどう思ったかは知らないが、はあと少しため息をついてメーメットのそばに歩んできた。
「状況を説明していただけますか?」
フローラは最初からの姿勢を崩さない、丁寧な言葉でそうメーメットに尋ねた。
メーメットが死体を発見した時にはすでに死後硬直が始まっていたこと、周囲には誰もいなかったこと、また凶器となるようなものも見当たらず、死体に致命傷と思われる外傷がないことを簡単に――言葉に詰まりながらもどうにか――説明した。
「えっと、その……死体に妙な外傷が……あって……それで……」
「魔女によって殺されたのではないかと疑ったのですね」
フローラはメーメットの言葉の続きを待つのも鬱陶しそうにそう言って、結論を急がせる。どうにも苦手なタイプかもしれないとメーメットは感じた。
「分かりました、捜査協力ありがとうございます。魔女の仕業だと断定できませんが、団長の意見を仰ごうと思います。繰り返しますが、魔女の仕業だと決まったわけではありませんので、報告書はそちらで作っていただくようお願い致します」
有無を許さぬ口調でそう言ったフローラはまた立ち去っていった。
これがフローラと初めて出逢った日の話だ。なんとも言えない不思議な気持ちでメーメットは隣で眠ってしまった女性――フローラ――を見る。
なんとなく、あの日の自分に教えてやりたい気がする。
自分はその女性を選んで、結婚を申し込んだのだと。