君と出逢えたから
何故だろう。家族の記憶は鮮明に覚えているけれど、感情は浮かんでこない。たった一人の妹が宝石の心臓を出して、泣きながら俺に生きてくれと言ったのは覚えている。もちろん、妹の顔も鮮明にだ。
俺はそうして家族を失った。もうずっと昔のことだ。
家族が死んだのは、魔女が俺の宝石の心臓を狙ったから。
金髪金目というもっとも珍しい容姿を持つ俺は昔から秀でて魔法が得意だった。
そのためか、神殿から神父になるようにと何度も何度も誘われた。それを両親は断った。神殿に一度入れば二度と出られず、家族とも会えないからだ。
今思えば神殿に引き取られていればこのような惨事――俺のせいで家族が皆殺しにされるようなこと――は起こらなかったのかもしれない。
俺の時はそこで止まってしまった。
もう、今日の仕事はこれで終わりだと背伸びをして、部屋を出る。 部下からの挨拶を流して、門を出た。
今日は家に帰る日だ。俺は普段から陛下のお側で仕えることが多いため家に帰らない日もある――そんな日は王宮で寝泊まりするのだが――そのため、数日ぶりの我が家である。
今日はとても寒い。冬だしな、と一人で納得する。
なんとなく、俺は真冬の身体を刺すような冷たさに親近感を覚えた。
帰っても電気もついていなければ、暖房もないので、一人暮らしはあまり好きではなかった。
「ただいま」
だからこの言葉にも、未だに慣れない。長く一人で生活していたからだ。
「おかえりなさい!」
奥から声がする。ドロシーが出てきて、嬉しそうに微笑んでくれた。
彼女は俺が帰宅する日に合わせて、訪ねてきたいと申し出た。夕飯を作りたいからと押され、鍵を渡したのだ。
室内は暖房が程よくきいているため、外気で冷やされた体の芯が徐々に暖まっていく。
君と出逢えたから、変わっていく。