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    だってお前がよく見えないのだもの 瞼の奥でちかちかと星が瞬く。亜双義の薄ぼんやりした視界の端に蝋燭の赤い炎がちらりと映った。
    「亜双義、大丈夫か?」
    「あぁ」
     亜双義と龍ノ介が交わる時は、部屋を暗くしてひとつだけ蝋燭の炎を灯す。亜双義としては真っ暗にしておいて欲しいが「真っ暗だとぼくが困るんだ」と龍ノ介が主張する。亜双義は星や月の明るい晩だと窓から差し込む光すら煩わしいと感じるのに、どうしてもあかりをつけたいのだと龍ノ介は言う。
    「だって、おまえがよく見えないのだもの」
     それによく見えなくてあらぬところを傷つけはしないかと心配だ、と龍ノ介は言う。亜双義としてはどうとなっても構わないと思っていたし、自分の体は女のモノとは違って、丈夫だし、少々のことでは傷はつかぬと考えていた。だが、変に頑固な龍ノ介はまったく意志を曲げない。部屋のあかりを全て灯したいと頼む龍ノ介に、それでは情緒といったものはちっとも無いし、なにより亜双義自身があかりの元に全てをさらけ出すのはひどく恥ずかしかった。それならと妥協の末がひとつの蝋燭のあかりだったのだ。
     亜双義から見て龍ノ介の後ろ、布団の向こう側に蝋燭がある。少し離れたところにあるのは以前枕元に置いていたらうっかり倒してしまったからだ。畳に付いた焦げ跡は机の足によってうまい具合に隠されている。さほど目立たないものだから平気だろう。
     蝋燭によって幾分か柔らかくなった闇の中。亜双義の頭上にある窓から見える空は雲で覆われており、あるはずの月は朧気な影しか見えない。それは亜双義にとってはちょうどよかった。
    「本当に大丈夫……?」
     首筋を撫ぜながら龍ノ介は再度、亜双義に問いかける。龍ノ介の手には亜双義がいつも額につけている赤い鉢巻があった。これを亜双義の首にかけて龍ノ介は彼の首を絞めるのだ。龍ノ介からは亜双義の顔はよく見えていないのだろう。それをよいことに亜双義はにこりと笑う。
    「キサマの思い切りの良さに危うく川が見えかけたぞ」
    「ごめんよ」
     加減が分からなくて、思い切りしすぎたのだろうか、と。
    「まったく、初めの頃とは大違いだな」
     さぁもう一度頼む。そう言うと亜双義は龍ノ介の手をするりと取って鉢巻へと導いた。


     最初に亜双義が龍ノ介に首を絞めて欲しいと頼んだのは紐ではなく、龍ノ介の手によってだった。手の首を絞めて欲しい、喉仏はあんまり押さずにそこを押せば苦しいから。両脇を包んでそのまま頼む、と。
     だが龍ノ介はちっとも手に力が込められずに「怖いよ」と泣きべそをかいていた。
    「情けないやつめ」
    「こんなこと頼んでくるなよ!」
     至極当然の反論に対して亜双義は顔をあげて首を振る。仕方がないとそこらに放っておいた常ならば自分の額に巻いている赤い鉢巻をしゅるり、と首にかけた。
    「そら、これでいいだろう」
     ここを持って引っ張るだけだ、それならできるだろう? と優しく亜双義が問いかける。わざわざその赤い鉢巻の端と端を龍ノ介の手に持たせてやったぐらいだ。そして、やっとのことで龍ノ介は亜双義の首を絞めたのだった。
     


     苦しい、と気持ちがいい。相反する感覚を受けながら亜双義は天井を見上げる。真っ暗でどこまでも吸い込まれそうな闇が広がる。緩まったかと思えばまた締められる。あぁ、息ができない。苦しい。なのに不思議と気持ちがよい。頭の中がなにかでぐちゃぐちゃとかき混ぜられるような不可思議な感覚。
    「っぐ……あぁっぁあぁぁ!」
     亜双義は大きく口を開けて喉奥から声を絞り出した。それは意味を持たないただの音にも成り得なかった喘ぎであった。


     ふと、亜双義の視界に肌色の塊が見える。いや、これは肌色の塊ではない。瞬きをすると心配そうな龍ノ介の顔が間近にあった。赤色も見える。少しの熱も感じるので顔を蝋燭で照らされているのだと分かった。
    「亜双義、亜双義」
     頬をぺちぺちとニ、三度叩かれて亜双義はふ、と息を吐く。どうやら気を失っていたようだ。成歩堂のその手に触れて、止めてやる。
    「大丈夫だ」
    「あぁ、良かった。お前が返事をしなくなったものだから。ぼく、心配で心配で……」
     二度目の絶頂を迎えて、身体も怠くてたまらない。目だけで後ろを見上げれば大きな月が見えた。すっかり雲は晴れたようである。
    四肢を投げ出したまま亜双義は目を閉じる。深く息を吸って、吐き出してまた吸い、そしてまた吐き出す。
     亜双義を心配そう覗き込む龍ノ介のくりくりとした大きな瞳を見つめる。
    「流石だな。あれほど躊躇っていたくせにこういうときのキサマの度胸には感心するしかない」
    「だって、亜双義。お前はこれをやらないと気を遣ってくれないのだもの」
     龍ノ介が唇を尖らせる。それもそうかとけらけらと亜双義が笑う。
    「あぁ、しかし疲れた。このまま寝てもいいか」
    「うん、いいよ」
     あくび混じりのその声に返された返事。亜双義は目を閉じた。じきに亜双義の寝息が龍ノ介の耳に届く。
     首には赤い鉢巻が巻かれたままである。常ならばひらひらとなびくその鉢巻は、いまは亜双義の首に巻かれ、ぺしゃんと萎んでしまっていた。
     龍ノ介は四肢を投げ出して目を閉じている亜双義を見下ろす。
    「うん、やっぱりお前に赤は似合うな」
     紐の端っこを摘み上げ、そっと落とす。窓から差し込む月明かりの下でぼんやりと彼の身体が浮かびあがる。蝋燭はいつの間にか消えてしまっていた。 
     やはり、あかりは必要だろう。
    「だって、おまえがよく見えないのだもの」
     赤い鉢巻の間から見える亜双義の首に残った真新しい赤い痣を指でなぞると、龍ノ介はそっと微笑んだ。
     

    おしまい
    めか Link Message Mute
    2019/06/18 14:03:13

    だってお前がよく見えないのだもの

    大逆転裁判。龍アソで首絞めするお話し。
    #腐向け  #大逆転裁判   #龍アソ

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