赤ちゃんと親友腕の中の赤ん坊は両腕をぎゅっと伸ばす。生まれてからもうすぐ一月といったぐらいのほやほやの赤ん坊だ。その赤ん坊は小さな口をほぉと精一杯開けてあくびをする。足を少しばたつかせて、そうして赤ん坊が少し動くたびに亜双義は緊張したように体を固まらせる。
「駄目だ。成歩堂、一歩も動けん」
困ったように眉尻を下げ、壊してしまいそうだと言う亜双義に大げさだなぁと成歩堂は笑って赤ん坊へと手を伸ばす。
「おーよしよし」
そっと、そうっと。動けない亜双義から赤子を受け取った彼は立ち上がってゆっくりとその体を揺らす。成歩堂の体の動きに合わせて、赤ん坊はくりくりとした大きな黒目を忙しなく動かしてあちこちを見る。
危うく足が痺れるところだったと、亜双義が立ち上がって成歩堂の腕の中の赤ん坊に笑いかける。そろりと、亜双義の伸ばした小指を赤ん坊はきゅっと握る。
「小さいのにちゃんと爪があるのだな‥‥」
「そうだな」
まだ、目も耳も見えていないはずの赤ん坊は目を細めて笑う。ほぅと、息をついた亜双義が愛らしいな、と小さくつぶやく。赤ん坊を見るとどうしても誰だって笑顔になってしまう。だってこんなにも愛す可き存在で、可愛らしいのだから。
もう一度抱っこしてみるか? と成歩堂が尋ねたが亜双義はぶんぶんと勢いよく首を振った。怖いのだと。こんなにも小さく脆い生き物を壊してしまいかねないと。
「意外だな」
亜双義は子供の扱いとか上手そうなのに。
ふゃふゃと意味を持たない声を時折あげる赤ん坊をあやしながら成歩堂が不思議そうにする。慣れていないのだと亜双義は言う。でも、嫌いなわけではないらしい。
「そういうキサマは慣れているのだな」
成歩堂は手慣れた様子で赤ん坊をあやし、くんくんとその柔らかなお日様のような赤ん坊の香りを楽しんでいた。
「ぼく? あぁ、近所の子の子守とかよくしてたからさ。赤ちゃんって温かくて可愛いよね」「あぁ」
赤ん坊が伸びをした。口を大きく開けたかと思うとくしゃりと笑う。
「あ、笑った」
「可愛いな」
抱こうとはしないくせに赤ん坊のほっぺを指でつつき、柔らかく亜双義は微笑む。
「キサマはいい父親になりそうだな」
「えっ、へへへ。亜双義にそう言われるとなんだか照れるな」
「お前こそ、いい父親になりそうだよ」
「そう、だろうか」
珍しく端切れの悪い返事をする彼に成歩堂は首を傾げる。
「別に明日からはい、父親になりなさいってなるわけじゃないんだから。そんな不安にならなくとも‥‥。それに亜双義はぼくにお小言を言ったりするし、そういうところは‥‥あぁ、むしろ父親というより母親かな」
「どういう意味だ?」
けらけらと悪戯っぽく笑う成歩堂に、じとりと亜双義が呆れた眼差しを寄越す。そうこうしていくうちに赤ん坊がぐずりだしたので慌てて二人は赤ん坊の母親を呼ぶのであった。
おしまい