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    サボテン 俺は独り暮らしの独り身である。当然彼女も居ない。寂しくないかと言えば嘘になるが、然りとてどうしてみようもなかった。アパートはペット不可であるし、犬や猫で寂しさを埋め合わせる訳にもいかない。
     
     その日も独り寂しく俺はデパートへ買い物に行った。靴を買ったのだが、靴屋の向かいに観葉植物を取り扱っている園芸店が有ることに気がついた。そうだ、せめてもの気の紛らわしに、殺風景な部屋に植物でも飾ってみたらどうだろうか?
     
     俺は店を物色して回った。けばけばしいダリアだの、ゴージャスな薔薇だのはどうも受け付けなかった。第一俺の貧乏アパートには似つかわしくない。首を振りながら歩いていくと、奥のコーナーにひっそりと小さなサボテンが置いてあるのが目に入った。これだ。この独り沈黙した姿こそ俺には相応しい。俺はサボテンを購入して帰路に着いた。
     
     アパートに帰ると、窓際の棚の上にサボテンを置いて、付随してある説明書を読んだ。水やりの仕方などが書いてある。砂漠の植物ではあるが、成長期には結構な水やりが必要らしい。その日から俺の生活はサボテンが中心となった。
     
     数日おきにたっぷり水やりをして、
     
    「じゃあ行ってくるぜ」
     
    と挨拶して部屋を出る。会社から帰ると真っ先に
     
    「ただいま。帰ったぞ。良い子にしてたかい?」
     
    と挨拶してコンビニ弁当をレンジに放り込む。水やりの時にいつも刺が手に刺さったが、それがサボテンというものだろう。自分でも意外だったが、甲斐甲斐しく世話をしているうちに、いつしか俺はサボテンを愛おしく思うようになっていた。
     
     こうして一年が過ぎ、二年が過ぎた。相変わらずサボテンは、買ってきた当時のまま沈黙を貫いていた。俺は段々イライラし始めた。だってそうだろう、コイツはこの二年間、茎を伸ばすでもなく、葉を広げるでもなく、ただチンマリと丸い姿で棚の上に居座っているだけなのだ。そこには何の変化もなく、せっせと水やりする俺に返す言葉と言えば、刺の一刺しなのだった。
     
     俺はコイツを買ってきた事を後悔し始めた。やはり格好付けずに普通に薔薇の鉢植えなんかを買った方が良かったのかもしれない。コイツは次のゴミの日にでも処分してしまおうか? そんな事を思いながら出社した。
     
     残業で夜も遅くなった頃、俺は帰宅した。部屋はいつも通りだったが何かがおかしい。はて、何だろう・・・・・・と棚に目をやると、何ということだ! アイツが花を咲かせているではないか!
     
     俺は棚へ駆け寄った。丸い頭の脇に小さく咲いたピンクの花を見て、俺の胸に熱い思いが沸き上がる。そうか、お前・・・・・・この日の為に今までじっと沈黙していたのか。捨てようだなんて考えた俺が悪かった。許してくれ。俺は急にコイツがいじらしくなり、思わず頬擦りした。刺が刺さったが痛いとは思わなかった。
    kotsulis Link Message Mute
    2019/10/22 20:18:17

    サボテン

    独り暮らしの孤独な俺はある日サボテンを買ってきた。

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    #オリジナル #創作 #短編 #小説 #サボテン

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