レグル「五月蝿 いぞ」
頭上から声がして、岩がズズズ、と動いた。キラは驚いて泣き止んだ。見上げると、香色の鱗に覆われた、厳つい顔がこちらを見下ろしている。スカイブルーの瞳が爛々と輝いていた。岩だと思っていた物はみるみる姿を変えた。全身香色の鱗に覆われた巨大な体躯。背中に大きな蝙蝠のような翼が生えている。鋭い爪の生えた四つ足でそれは砂の上に立ち上がり、長い尻尾が揺れていた。
「ド……ドラゴン?」
キラはのけ反った。ハッとしてポケットから例の鱗を取り出す。そうか、この鱗は……。
「いかにも俺はドラゴンだ。何故昼寝の邪魔をする?」
「私……。カラルというオアシスの村に居たわ。病気の母さんをウルの街のお医者に診てもらいたくて、でも、お医者にかかるには大金が必要だから、それで街へ働きに来たの。でも……」
しゃくり上げながらキラは説明した。
「上手くいかなかった、という訳か」
「ええ。村では、富めるものは貧しいものに施すのが当たり前だったわ。皆で助け合って生きていたのに。でも街では、皆お金が最優先だったわ。何が正しいのかしら?」
「ふむ。ドラゴンの俺から言わせてもらえば、この世に正しいも正しくないも無いな。全ては河の流れのように起きるのさ。それだけだ」
「私には分からないわ。私はドラゴンじゃ無いもの。私はただ、母さんを治してあげたいだけなのよ。なのに、何も出来なくて……」
キラは再び泣き出した。大粒の涙が砂の上に落ちて染みを作った。
「まあ、そう悲しむな。どうだ、気晴らしに俺が観光旅行に連れていってやる」
「観光旅行って?」
「風光明媚な場所や名所を廻る旅をすることさ。そうだ、王都に連れていってやる。お前は見たこと無いだろう?」
「王都?」
「まあ良いから乗れ。俺はレグルだ」
「私はキラよ」
レグルは這いつくばって姿勢を低くした。キラはレグルの背中によじ登る。
「しっかり首に掴まっていろよ!」
レグルはそう叫ぶと、空へ飛び立った。