僕達はシンプルだ 僕は柴犬、風連。僕は常々思うことがある。人間たちの色恋沙汰を見て、不思議だなあって思うんだ。僕たちの世界ではもっとシンプルだ。牡は丈夫な子供を生んでくれそうな雌を探すし、雌は狩りが上手くて獲物を沢山捕ってきてくれそうな牡を求める。
そんなわけで、僕は恋の季節になると、家の前でじっと待ち続ける。誰を待っているかというと、近所のトンカツ屋さんで飼われているチビという名の雌犬だ。チビはもう何度も出産しているお婆ちゃん犬だけど、それが僕にはたまらない。チビは鎖に繋がれていないので、自由に歩き回る。
今日もチビが僕の家までやって来た。僕は鎖が届く限りチビまで近づいて、フンフン誘いの声を上げる。チビは思わせ振りな態度を振り撒いて僕を誘う。ああ、もうたまらないよ、もっと近くに来て! 僕は地団駄を踏む。チビは雌犬の癖に塀の前で片足を上げてオシッコして去っていく。どういう事だろう?
「アンタは私のものよ」
って、そういう意味だろうか?だったらやらせてくれてもいいのになあ。僕はガックリとうなだれて散歩の時間を待った。
散歩コースでは二頭、雌犬が飼われているところを通る。最初は僕と同じ、柴犬チコの所だ。チコは檻の中で飼われている。僕が近づくと、チコは嬉しそうにクルクル回る。甘い鳴き声で僕を誘うんだ。だけど残念ながら僕はチコには興味がない。チコのドッグフードをつまみ食いして、僕は次の家へ向かう。
次の家はちょっとハイソな家で、飼われているシャランもエレガントなパヒヨンだ。猫みたいに低い塀の上を軽やかに歩いている。素敵だなあ。僕は上を見上げて、誘いの声をあげる。シャランは僕をチラリと一瞥して、
「イモね。センス悪くて付き合えないわ」
って言うんだ。しょぼーん。僕ってそんなにダサいかなあ?
ね?こんな風に僕たちはシンプルだ。