マカララ「お早うございます!」
キラは元気良くマカララのドアを開けた。開店前の店は窓から射し込んだ陽の光で静かに照らされている。掃除をし終わったウェイターの男が二人、テーブルと椅子を並べていた。
「よう、来たな」
ハデブがニコリともせずに声をかけた。ウェイターの二人の若い男を指差して、
「あっちの髪の紅いのがヤキマ、金髪がサシャだ」
と紹介する。
「お早う! 私はキラよ」
「お早う。よろしくな」
「よし、じゃあ厨房に来てくれ」
ハデブはノッシノッシと歩きだした。
厨房に着くと、二人のコックが料理の仕込みをしていた。二人とも色白で大柄の小太りの男で、片方は赤茶色の髪にライトグリーンの瞳、もう片方はダークブラウンの髪に薄茶色の瞳だった。若い女……と言うより少女も一人居て、こちらは黄褐色の肌に茶色の髪、ヘイゼルの瞳だった。
「皆、新しく皿洗いをすることになったキラだ。キラ、こっちの赤茶の髪はマッシュ、黒茶の髪はデニーだ。そして、彼女は皿洗いのミハリだ。皆、よろしくたのむぞ」
「はい」
一通り紹介を済ませると、ハデブは店に戻って行った。
「じゃあ、新人さん。私の指示に従ってもらうわよ」
ミハリが先輩風を吹かせて言う。ミハリは皿洗いという下働きにも関わらず、目に鮮やかな真っ赤なチュニックを来て、腕には赤いビーズのブレスレットを着け、耳にはやはり赤いガラスのピアスをしていた。
「先ずは、シンクを掃除してもらうわ。このタワシと石鹸を使ってちょうだい」
「分かったわ」
キラはタワシに石鹸を着けると、灰色の石で出来たシンクを磨き始めた。
店が開店して、客に料理を出すようになると、客が食べ終わった器もどんどん運ばれてきた。
「あんたは石鹸着けて洗って。私が濯ぎをやるから」
ミハリはそう言うと、シンクの脇に陶器や磁器の皿を置いた。キラは小さな海綿を手に取り、石鹸を着けて泡立てると、皿を掴んで洗い始める。一枚洗ってミハリに手渡すとミハリは、
「ああー、ダメダメ。汚れが隅に残っているじゃない。これだから田舎者は嫌なのよね。皿の洗い方も知らないんだから!」
と皿をキラに突き返した。二人のやり取りを聞いていたマッシュがプッと吹き出して、
「まあ、そう言うな。お前さんだって田舎者じゃないか」
と牽制する。
「うるさいわね。元はそうだったかも知れないけど、今の私は都会人よ!」
ミハリは怒鳴り返した。
「とにかく、やり直しよ。ここはあんたの住んでた田舎の台所とは違うのよ。気を抜いてもらっちゃ困るわ」
「分かりました」
キラは改めて皿を洗い始める。特に汚れがあるようには見えなかった。それにしても、ミハリだって田舎者、とマッシュは言った。ミハリはそれを否定したがっている。大体、格好からしてそうだ。何故ミハリは田舎を否定するのだろう? 私はあの砂漠のオアシスの村が大好きだというのに。
「これで良いかしら?」
キラは皿をミハリに渡した。
「ふん。まあまあね」
こんな具合にマカララでの日々は始まったのだった。