集会 村長のハリルは広場に村人を召集した。ダンからキラの事を聞いたからだ。この村では、富めるものは貧しいものを助けなければならない、という掟以外は自由である。心配が無いわけではないが、ハリルは何よりキラの意思を尊重することにしたのだった。集まった村人に向かってハリルは語りかけた。
「皆の衆、今日はよく集まってくれた。今日集まってもらったのは、タカの孫でありマナナの娘であるキラの事でだ。キラは病気の母をウルの街の医者に診せるために、金を稼ぎに街へ行きたいと申しておる。母を治したいキラの気持ちはもっともであるし、街の医者にかかるには大金が必要でもある。ワシとしては、村の皆で協力して、キラをウルの街へ送り出してやりたいと思うのだが、どうだろうか?」
村人はお互いに顔を見合わせた。一人が声を上げた。
「俺は村長に賛成だ。キラの母親を思う気持ちには応えてやりたい。皆だってそう思うだろう?」
ざわめく広場。
「賛成!」
「意義なし!」
次々に声が上がった。
「よろしい。ついては、街までの移動を考えなければならん。ラクダのキャラバン隊に頼んではどうかと思っておる。幾ばくかの金と、足りない分は食料で何とかしてくれるはずじゃ。皆で出し合って欲しい」
村は急に活気づいた。皆で協力してあの貧乏だが可愛らしい娘を街へ送り出してやるのだ。ここが善意の見せ所、とばかりに村人たちは次々に僅かばかりの金やら、備蓄してあった食料やら、衣服やらを出し合った。あっという間に、キャラバン隊に支払う分と、道中の食糧が集まった。
午後になって、キラがオアシスを眺めていると、ナジャとダンがやって来た。
「餞別だ。これを着ていけよ」
ダンは羊の毛で造ったフェルトの砂よけのマントと、羊の皮で造ったロングブーツを差し出した。
「私からはこれよ」
ナジャはナツメ椰子の種で造った御守りをキラの首に掛けた。
「いつもキラの無事を祈ってるから。街へ行っても、私達の事忘れないでね」
「うん。忘れるわけがないわ。母さんの事頼むわね」
「それは任せておいて」
三人は固く抱き合った。