角砂糖一個分の甘さ コーヒーにミルクはたっぷり、角砂糖もたくさん。貧乏暮らしも長いというのに、こいつは贅沢品や嗜好品が大好きだ。
「いいんだよ、お金はあるから」
「盗っ人が」
「これは僕が稼いで貯めておいたお金です」
あの子をこんなに早く手放すと思わなかったからね、とコーヒーを啜りながら言う。
「君もいる?」
「いらない」
げんなりして言うと、お前はおいしいのにと残念そうな顔を浮かべる。ふと思いついた顔をして
「ちょっと、飲んでみなよ」
とスプーンに角砂糖を載せて寄越す。
「いらないと言っている」
「飲まず嫌いは良くない」
「話を聞け」
「頑固者」
「どっちが」
カップの上でスプーンを押し合いへし合いすること物の数秒。ぽちゃん、と音を立てて角砂糖が私のカップに飛び込んだ。
「やった」
「……。飲む気がなくなった。やる」
ずい、とカップを奴のほうへ押しやると「だーめ、飲んでみなよ」と返される。
「いらん」
「飲んでみてって」
「………。」
「ほーら」
奴の不躾な視線に晒されて、とうとう私はひとつ溜息をついた。
「一口な」
「うん」
にこにこと見守る目。面白がるな。本当にどうしようもない奴だと思いながら私はカップに口をつけた。
「……。」
「ね、おいしいでしょ」
「……悪くない」