序章:Empire of the Sunヒメミコ「なるほど……私が生きてた頃は……今の呼び方では『弥生時代後期』から『古墳時代出現期』と云う訳か」
私は取り憑いた女の知識と持っていた道具から現在の状況を把握した。
『ちょ……ちょっと……体を返してよ‼』
「気が向いたら返す……。でも、折角、この世に戻れたんだ……当分は好きにさせてくれ」
私を封印していたモノが何者かに盗まれて数日後。
たまたま……私が眠っていた塚……今の言い方では「古墳」らしいが……にやって来た若い女の体を乗っ取って、この世に復活する事が出来た。
しかし、世界は大きく変っていた。
「『対異能力犯罪広域警察機構』レコンキスタに『御当地ヒーロー』か……。今の時代……敵が多そうだな……」
不思議な道具だ。
何の呪力・霊力も感じないのに……ここまで便利な事が出来るとは……。
この時代は……これが1人につき1つぐらい普及しているのか……。
『そうだよ。あんた程度の悪霊なんてすぐに……』
その時、聞きなれぬ轟音。夜の闇を切り裂く鮮やかな閃光。
近くを見た事もない乗り物が、とんでもない速さで、いくつも通り過ぎて行った。
「あれが……お前の知識の中に有る『暴走族』か?」
『へっ?』
「私が生きてた頃……この国には……まだ馬は、ほとんど居なくてな……。一度、大陸に居る『馬』と云う動物に乗ってみたいと思っていた」
『な……何を言ってるの?』
「だが、今の時代……馬より面白そうなモノが有るようだな。我が下僕達よ……あの連中に取り憑くがいい」
平田優奈ことヒーローネーム『ビアンカ』 九州北部では、めずらしくないタイプの場所だった。
小高い丘は、かなりの確率で古墳。
そして、後の時代になって、その古墳の上に寺や神社が建てられた。
「マズいね……何も残ってない……」
あたしが所属している……バイト先とも言う……御当地ヒーローネットワーク「ローカパーラ」の小倉南第2チームのコードネーム「猿丸」さんは、そう言った。
魔力・呪力・霊力・気……呼び方は何でもいいけど、その手の「力」の検知・分析が得意だけど魔法は使えない「人間の女性」と、魔法が使えるニホンザルのコンビだ。
猿丸さんの相棒であるニホンザルも人間のように肩をすくめて「やれやれ」と言った感じの仕草をする。
ここ「真照神社」は古墳の上に作られた神社で……神主さんなんかは居ない。
来るのも近所の人達ぐらい。それも、初詣などの特別な時だけ。
早い話が「町内に1つか2つ有る小さい神社」だ。
しかし、ここには少しばかり特別な事情が有った。
この神社が建っている丘……と言うか古墳には「何か」が封じられていたらしい。
その封印の要は、この神社の御神体の鏡。
けど、その鏡が何者かに盗まれ……数ヶ月後に意外な場所で見付かった。発見場所は「関東難民」が暮す人工島「Neo Tokyo」の一つ……唐津と壱岐の間に有る通称「千代田区」の「九段」地区。
ただし、発見された時には、完全に霊力を失なっていた。
ついでに、ここに居た「何か」も消えていた。
その時、携帯電話に着信音。それも、仕事用のヤツにだ。
あたしのチームの後方支援要員の森さんからだった。
「はい」
『すまん。その近くで、暴走族と半グレの抗争事件が発生した』
「でも……それ、県警か対組織暴力犯罪広域警察の……」
『対組織暴力犯罪広域警察は……去年の不祥事から立ち直ってない上に……暴走族の方には……「魔法使い」が居るらしい』
そう言えば、そうだった。
対組織暴力犯罪広域警察の福岡支局が取り締まり対象であるヤクザと癒着していたのが判明したのが去年の4月か5月。
そして、内部監査の結果、県警・広域警察・検察の管理職クラスの個人情報……例えば、子供が居た場合の子供の通学路など……が「裏」に流れていた事が判明する、と云う更に洒落にならない事が明らかになった。
その後始末のゴタゴタが、まだ続いているらしい。
「了解」
丁度いい。ここまではバイクでやって来たので……今着てるのは、ある程度の防御力が有るライダーズスーツだ。
「変身」
いや……言わなくても良いんだけど……気分を戦闘モードにする為に……。
私の肌と髪は白に……人間には有り得ない白磁のような白い色に変る。
そして……眉間に「霊力で出来た角」が生える。
この能力に覚醒したのは……大学に入る少し前だった。
どうやら、あたしは……「鬼」と呼ばれる「何か」の血を引いているらしい。
この姿になると……身体能力が上がる上に、拳や蹴りに「霊力」を上乗せする事が出来るようになる。
「さて……行きますか……」
だが……この時……あたしは……予想もしていなかった。
2度と人の姿に戻れなくなるなどとは……。