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    第二章:邪悪之曙光/Dawn of Injustice(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)(12)(13)(14)(15)(16)(1) 何故……こんな事になってしまったんだ?
     俺達は……「関東難民」を多く雇用しているIT企業に……穏当な交渉に出掛けただけだった。
     まぁ、万が一の為の護身用に、金属バットに、サバイバル・ナイフに……あと、暴力団やテロ組織が、ここ1〜2年で軒並潰れたせいで、仕事がなくなってるそっち系の連中から買った拳銃や散弾銃や「呪符」ぐらいは持って行っていたが……。
    『関東難民の社員に基本的人権の1つである「居住移転の自由」を行使させて、復興が全然進んでない昔の住居に送り返していただけないか? 俺が親父の跡を継いで市長になったら、関東難民を雇ってる企業に制裁を加えるので、今の内に、関東難民の社員を馘にして、あんたの会社の金で関東に送り返すのが身の為だぞ』
     そんな感じで理性的で現実的な大人の男同士の話をする筈だったが……問題のIT企業の久留米事業所の責任者は、なんと、女だった。
     こんな異常事態は想定していなかったが、それすら最大の問題じゃない。
    「また、お前らかッ‼」
     またしても情報が漏れていたのだ。
     やっぱり、動画サイトに「これから、どこそこに抗議に行きます。何時からライブ配信しますから見てね〜」って予告をやるのはやめた方が……いや、そうでもしないと視聴者数がちょっとな……難しい話だ……。
     声からすると若い女らしい強化服パワード・スーツ姿の「魔法使い」は俺達を魔法で金縛りにしやがった。
    「こいつら、今日こそ県警けいさつに突き出そうよ。流石に、白昼堂々、こんな所に有るビルん中で散弾銃をブッ放したんだよ。もう、洒落じゃ済まない」
     女にしては背が高めの若干の外人訛りが有る奴が、強化服パワード・スーツ姿の「魔法使い」にそう言った。
    「ま……待て……弁護士と電話させてくれ」
    「『取調べ前に弁護士と話しをさせろ』と県警けいさつにはちゃんと伝えておく。安心しろ」
    「そもそも、キミ達のタワ言を人間の言葉に翻訳する人が居ないと、県警けいさつも取調べが出来ないだろ〜しね……」
     しかし……。
    県警けいさつ……何やってんの?」
    「連絡して、もう三〇分だぞ……」
    「いつになったら来るんだよ?」
     ああ……そうだ……いつになったら来てくれるんだ?
     ……今日もだ……。
     何故だ……何故なんだ?
     ここ1ヶ月以上、自称「正義の味方」どもが……俺達、善良な市民をどれだけ踏みにじろうと……俺達のクリムゾン・サンシャインは姿を現わしてくれない……。
     どうして……どうしてなんだ?
     ま……まさか……。
     そ……そんな……。
    「お前らっ‼ 殺したのかっ⁉ あの人をっ‼」
    「へっ?」
    「何を言ってんだ、こいつ?」
    「しらばっくるなっ‼ お前らが……殺したんだろう、クリムゾン・サンシャインをっ‼ お前らに都合が悪い、お前らとは違う、真のヒーロー、俺達善良な市民の味方であるクリムゾン・サンシャインをっ‼ お前らが殺したんだろうがぁ〜っ‼」
     だが……おい、どうなってる?
     奴らは基本的に顔を隠してるので、どんな表情なのかは判らない。
     でも……奴らは顔を見合せて、首をかしげ……。
     クソ……奴らが顔を隠してるのは、その為だったのか?
     奴らは……クリムゾン・サンシャインが居なくなった理由を知らないフリをしている。
     俺達と……そして、クリムゾン・サンシャインを蔭ながら応援している善良な市民達を騙せると思っている。
     下手な芝居をしやがって……でも……下手な芝居でも、顔を隠していれば、そこそこには胡麻化せる。
     マズい……もう……俺達、善良な市民を護ってくれる「真のヒーロー」は居なくなったんだ……。
     あの人は……こいつらに……この「正義の味方」を僭称する独善的な狂信者どもに血祭りに上げられたのだ……。
     ああ……何て事だ……。
     誰かが……誰かが彼の代りに……いや……待て……。
    (2) 俺達は県警けいさつにコネが有る市長親父派の市議会議員のリーダー格の古川のおっちゃんと、これまた警察関係にコネが有る親父の選挙事務所の警備顧問で広域組対マル暴の元刑事でもある猿渡のおっちゃんのお蔭で、「正義の味方」どもに着せられた濡れ衣を晴らす事が出来た。
     「正義の味方」を僭称する奴らが、どれだけ独善的で狂信的な「正義の暴走」をしても……その暴走を止める真の正義は、まだ、かろうじてこの日本社会に残っている。
     残ってはいるが……。
    「あ……いちろう…か……。なんか……たいへんだったみたいだな……。うん。わかいときに、ちょいわるのともだちとつきあうのも……まぁ、あとでいいけいけんになるだろうが……ほどほどにな……。ほどほどほどほどどどどほほほほどどど……ほほほほほ……」
    「お……お父さん、大丈夫? い……今……お薬持ってきますからね……」
     何年ぶりだろう……?
     親父とお袋が夫婦仲良く家でのんびりしているのは……。
     でも、その事を少しも喜べない。
     台所のテーブルには……うつろな表情かおをした妹の深雪みゆきが座っている。
    「あ……な……なぁ……深雪……。子供の事は……仕方なかったけど……子供なんて、また作ればいいじゃないか……な……。まだ、お前も若いんだし、優斗以外にも、いい男なんていくらでも……」
    「○×△□∴∵ッ‼」
     おい、何だ、このヒス女‼
     優しいお兄様にコップを投げるんじゃ……うわあああっ‼
     ん……どうした?
     深雪は、ゆっくり立ち上がり……流し台に向かって……。
     あ……まずい……包丁を取る気だ……。
     殺される……。
     だが……。
     ざまあ見ろ、これが男と女の身体能力の違いだ。
     妹のクセに兄貴の俺をずっと馬鹿にし続けやがって。
     俺は深雪の背後から近付き……髪を掴み……。
     まだ、深雪は包丁を手にしていない。
     ああ、そうだ。俺は平和ボケした阿呆じゃない。自分の実家の中でも、いや、この状況では、自分の実家の中だからこそ、護身具は肌身離さず持ち歩いている。
     俺は深雪の首筋にスタンガンを当てる。
    「ぎゃあああああッ‼」
     妹の悲鳴が……俺に、俺達の一家の状況を再認識させた。
     地獄だ……。
     俺の家は……地獄と化してしまった。
     クリムゾン・サンシャインが姿を消す少し前……クリムゾン・サンシャインは「正義の味方」を詐称するテロリスト達が裏でやっている恐しい悪事について調べているらしかった。
     そこで、俺達もクリムゾン・サンシャインの手助けになれば……そう思って行動を起こしたが……。
     俺は奴らの陰謀で殺人犯の濡れ衣を着せられた。
     妹の深雪と、その亭主の優斗は奴らによって拉致監禁され……その時に加えられた恐しい拷問のせいで、深雪の腹の中に居た妊娠3ヶ月目の子供は流産し、優斗は精神的にも肉体的にも廃人となった。
     一家がそんな事に巻き込まれた結果……親父は……。
     表向きは、親父が政治スキャンダルに巻き込まれるのを防ぐ為に、猿渡のおっちゃんが手を回して、少し前に潰れた暴力団「安徳グループ」の過激派の残党の仕業って事になっている。
     だが……真実は……。
     無力だ……。
     俺は無力だ……。
     家族が俺の助けを必要としている筈なのに……俺に出来る事は、ほとんど無い……。
     俺は……どうすればいいんだ?
    (3)「マズいよ、一郎君……君の父さんが元に戻らないと、次の市長は、十中八九、副市長の古賀だろうな……」
     市会議員の古川のおっちゃんに呼ばれた俺は、バーの個室でとんでもない事を告げられた。
    「じゃ……じゃあ……」
     えっと……優斗がああなったお蔭で……俺が親父の跡継ぎになれると思ってたら……。
     ああ……世の中ってのは色々と酷い。
     ほんの少しの希望が見えてきたのに……すぐに消えてしまう。
     なら……希望なんて最初から無い方が良かった……。
    「あいつは、君の父さん以上に関東難民の受け入れを進めるだろう。そうなれば……この久留米市内では、関東難民の方が我々『地元民』より多くなる。市政は関東難民どもに牛耳られるだろう」
    「そ……それで……その……」
    「いいかい。君がやってる『悪い遊び』の事は知っている。若い内は、少しぐらいそんな事をするのも良いだろう。だが……君が君の父さんの跡を継いで次の市長選に立候補する気なら……しばらくの間、例の『悪い遊び』は控えてくれ」
    「は……はい……」
    「君が市長になれば、あんな方法でなくて、合法的な手段で関東難民を排除出来るようになる。その時までの我慢だ。いいね?」
    「わ……わかりました……」
     そ……そんな……。
     たしかに、古川のおっちゃんの言ってる事は……正論だ。
     でも、市長になれる代りに……俺はこれまで苦楽を共にしてきた仲間と手を切る下衆野郎になるしか……。
     待てよ。
     あいつら、手切れ金を要求してきたりとか……。
     俺が市長になった後も俺に纏わり付いてきて……。
     どうする? どうする? どうする? どうする?
     何とか、あいつらを始末……。
     出来れば、ああ、そうだ。あいつらを始末した上で、「正義の味方」どもが、お得意の「正義の暴走」をやらかして、あいつらを虐殺したように見せ掛ける事が出来ればベストだが……。
     いや……答は1つしか……全てを一挙に解決出来そうな答だ……そう……あの時見付けた……。
    (4) 俺は仲間達の溜まり場だったマンションに戻った。
     もう、俺の家に俺の居場所は無い。
     悲しいが、それが現実だ。
     全てを奪われた……あの「正義の味方」を詐称するクソどもによって。
     だが……手に入れたモノも有る。
     これだ。
     真紅の朝日が描かれた白いヘルメット。
     バイクのライダースーツを改造したものらしいが……それでも充分な防御力を持ってそうなプロテクター付の白いツナギ。
     あの人は……居なくなった。
     多分、「正義の味方」を名乗るクソどもに殺されたのだ。
     だが、あの人はまだ死んでいない。
     あの人が本当に死ぬのは……あの人の想いを受け継ぐ者が居なくなった時だ。
     まだ、俺が居る。
     俺が居る限り……あの人は死んでいない。
     俺はヘルメットを被った。
     俺は……2代目クリムゾン・サンシャインとなって……俺の輝かしい未来の邪魔になる奴らを全て排除する。
     初代クリムゾン・サンシャインも、それを望んでくれてる筈だ。
     まずは副市長の古賀からだ。
     そうだ……きっと奴は裏で「正義の味方」を名乗るテロリスト達と手を組んでるに違いない。
     とは言え、奴本人を血祭りに上げるのは最後だ。
     奴の家族を痛め付けて、少しづつゆっくりゆっくりゆっくりゆぅ〜っくりと首を絞めるように精神的に追い詰めてやる。
     だが、俺は優しい男だ。
     優しくなければ強くなれず、強くなければ優しくなれない事は、良く判っている。
     ……俺の親父を廃人にした連中の一味だろうと、奴の心がブッ壊れた後、ちゃんと楽に死なせてやろう。
     俺は、「正義の味方」どもの「正義の暴走」を止める為の綿密な計画を頭の中で練り始め……。
     ん?
     入らない……。
     着れない……。
     おい、このツナギ小さいぞ……。
     上がんない。上んない。上がんない……。
     チャックがヘソの辺りまでしか上がんない……。
     不公平だッ‼
     差別だッ‼
     おい、人権屋どもッ‼ 何故、この重大な社会の不条理を見て見ぬフリをして放置してやがるッ‼
     おい、ポリコレ肯定派どもッ‼ 外見至上主義ルッキズムは悪い事だって言ってたよなッ‼ なら、この状況を何とかしやがれッ‼
     痩せてなきゃ、2代目クリムゾン・サンシャインになれないって、何かおかしいだろッ‼
     クソッ‼
    (5) ネット通販で一番大きいサイズのライダースーツを買ったら……腹回りは大丈夫だが……袖や足の裾が長過ぎる。
     仕方ない。
     俺は鋏を入れようとし……切れない……。
     なら、カッターだ……あれ?
     クソ……丈夫過ぎる。
     仕方ない。
     腕まくりして……足は折り曲げるか……。
     しかも、色は黒だ。
     これも仕方ない。
     ベランダに出て、ホームセンターで買って来た白のペイント・スプレーをライダースーツに吹き付け……。
     よし、終った。
     部屋の中に持って入り、再度、試着しようと……あれ? 塗り忘れてる所が有るぞ?
     もう一度、ベランダに出る。
     また白く塗る。
     部屋に入って、もう一度、確認。
     あれ?
     何で、また、塗り忘れが?
     もう一度、同じ事を繰り返し……また、部屋に入って確認し……。
     ん?
     この塗り忘れ、何か、おかしいぞ?
     塗り忘れてる箇所が、人間の手と腕みたいな形になって……あ……しまった。
     完全に乾いてなくて、白い塗装が俺の体に付いてた。
     その時、ドアのチャイムが鳴る。
    「誰だっ⁉ 俺は忙しいんだぞっ‼」
    「あの〜、下の階の者ですが、何かやってますか?」
    「何かって、何だ?」
    「ベランダで塗装用のスプレーか何か使ってますか?」
    「知らんっ‼」
    「そうは言っても、上の方から白い塗料か降って来て、洗濯物に……」
     しまった……。
     俺が2代目クリムゾン・サンシャインである事がバレたかも知れない。
     今の御時世、どこに「正義の味方」を名乗る暴徒の手先が居るか知れたモノじゃない。
     俺は用心の為に玄関口の傘入れに入れていたバットを手にして……。
     ん?
     ドアスコープから外を除くと、「正義の味方」の手先となった奴が、誰かと話していて……。
     そして、去って行き……。
     続いてドアが開き……。
    「うわああああッ‼」
    「うわああああッ‼」
    「なんだ、野口か」
    「なんだじゃないっすよッ‼ 何してんすかっ⁉」
    「お前こそ、今、玄関口に居た奴を何故、逃した?」
    「いや、何か、緒方さんがベランダでやってた事のせいで洗濯物が汚れたとか言ってたんで、俺がクリーニング代を出しときました。ところで、何をやってたんですか?」
     俺は、この愚か者の胸倉を掴んだ。
    「お前、何て真似をしたっ‼」
    「えっ?」
    「奴は『正義の味方』どもの手先だっ‼ 早く捕まえに行けっ‼ 捕まえて、事情聴取だっ‼」
    「ええええ……えっと……その……あ、まだ、早いっすよ。少し泳がせてからでも遅くないっすよ」
    「ふざけるなっ‼ 何を勝手にお前が判断してるんだっ‼」
    「ぎゃああああっ‼」
     いくら野口でも野口にも程が有る。
     あまりに馬鹿馬鹿しい失態だが……優しい俺は、野口のまだ治ってない手の傷を、指で思いっ切りぐりぐりしてやるだけで許してやった。
    (6)「す……すいません……俺……守備範囲は、小六までなんで……」
     俺は作戦会議に友人の酒井(a・k・a・またの名をロリコン盗撮魔)を呼び出していた。
    「いや、お前にしか頼めない事だ。お前にしか出来ない事だ。『正義の味方』を名乗る奴らの『正義の暴走』を止めて、世の中を正す為なんだ。わかってくれ」
    「えっと……どう考えても、暴走してんのは『正義の味方』じゃなくて……むがあっ‼」
     何故か堤が酒井の口を塞ぐ。
    「い……いや、こいつ芸術家気取りなんで、自分の作品の題材は、自分で選びたがってんすよ。なあ、そうだよな、酒井?」
    「むがっ‼ むがっ‼ むがっ‼」
    「ほら、酒井もYesって言ってます」
    「いや、俺には、お前が無理矢理、酒井の首を縦に振らせてるよ〜にしか見えないが……?」
    「気のせい、気のせい」
    「とりあえず、お前の尾行スキルで、副市長の子供が学校か塾の帰りに1人だけになる時間帯を突き止めろ。わかったなっ⁉」
    「あ……あの……その子に何もしませんよね?」
    「はぁっ?」
    「そりゃ、俺だって、自分が盗撮魔のクズ野郎だって自覚してますよ。ど〜してもやめられないビョ〜キなんです。でも、俺みたいなクズでも、俺のせいで、いくら守備範囲外とは言え、中学生の女の子が酷い目に遭うなんて事になったら……」
    「おい、今更、何を言ってる?」
    「でも、この前だって、猿渡とか云う人の娘を見付けるので最後にしてくれる、って言ってましたよね? それなのに……」
    「そうか、わかった。山下、酒井を縛り付けろ」
    「え……」
    「やれ」
    「えっと……」
    「やれと言ったら、やれ……」
    「は……はい……」
    「堤……酒井のズボンを脱がせろ」
    「えっ……?」
    「やれ……」
    「えっと……はい……」
    「あ……あの……何する気なんすかっ?」
    「やると言わないと、お前のチ○コを切り落す。今、包丁持って来る」
    「へ……うわあああっ‼ やります、やります、やらせていただきます。一週間以内に結果を出しますっ‼」
    (7)「でへへへ……悪い子だ……。いくら高校の受験料の為とは言え……こんな方法でお金を稼ごうとするなんて……。お兄ちゃんがゆっくり教育してあげよう。げへへへ」
     市長親父派の市議会議員の大物である古川のおっちゃんは、そう言いながら、俺が容易した女の子を寝室に連れ込んだ。
     しかし、七〇の爺さんが中学生の女の子の「お兄ちゃん」ってのは無理が有る。
     女の子の方にはあらかじめデート・レ○プ用の薬を飲ませてある。
     なにせ、古川のおっちゃんは少々手荒に扱っても反抗しない女にしか……まあ、その何だ……。
    「じ……地獄だ……」
     今回の最大の功労者である酒井が甘っちょろい感想を口にする。
    「何、言ってる? このお花畑野郎が。俺の実家の方が、もっと地獄だぞ」
     俺は、当然の指摘をしてやった。
     TVにはネット配信の地域ニュースが映っていた。
    『行方不明中の女子中学生ですが、塾の帰りに誘拐されたと見られており、誘拐場所と見られる公園の監視カメラは散弾銃により破壊されていましたが、一瞬だけ犯人と思われる人物の姿が写っていました。どうやら、独立系「御当地ヒーロー」の「クリムゾン・サンシャイン」のコスプレをした人物らしく……』
     な……なんて事だ……とうとう、自称「正義の味方」のテロリスト達が本格的に動き出したらしい。
     まず、自分達でクリムゾン・サンシャイン殺し、更に、その上でクリムゾン・サンシャインに誘拐犯の汚名を着せ……。
     待て、何かおかしい。
     最初に「正義の味方」を名乗るテロリスト達は、クリムゾン・サンシャインを殺した。
     続いて、クリムゾン・サンシャインの名を貶めようとしている……まるで……まるで……そうだ、俺が2代目クリムゾン・サンシャインになった事を知っているかの……あっ‼
     し……下の階の奴だ。
     あいつは、確か、「正義の味方」の手先の筈。
     そして、俺が新たなクリムゾン・サンシャインとなった事を知っている可能性が有る。
     忘れないようにメモをしてポケットに入れておく。
     「正義の暴走」をして世間に迷惑をかけてる独り善がりなクソどもの一味には……然るべき制裁を加えねばらならない。
     それこそが、「正義の暴走」を止める最も有効で合理的で理性的な方法なのだから。
    (8) 古川のおっちゃんが一戦終えて寝室から出て来たのは3〜4時間後だった。
    「一郎君、シャワー貸してもらっていいかな?」
    「ああ、どうぞ。もう夜も遅いんで、俺の友達ダチに車で送らせますよ」
    「ああ……すまないね。あのだけどね……いい子だね。学費に困ってるなら、私が今後も援助してやるよ」
    「いや、あいつ、結構いい家の子供ですよ」
    「へっ? 家が貧乏で、高校の受験料や入学費が足りなくて、あんな事をやった……って、そう言ってたよね?」
    「言ってましたっけ?」
    「言ってたよ……」
    「そうでしたっけ?」
    「おい……ま……待て……あの女の子は、一体全体……」
    「ああ云う事して金を稼がないといけない子ですよ。そんな子の個人情報を言える訳……」
    「おい、このクソガキ、何をやった? 一体全体、俺にどこの誰を……」
     おいおい、古川のおっちゃん……いい大人の男が、何、女みたいにヒスを起してんだ?

    「ま……待て……それって……?」
     さっきまで、俺の胸倉を掴んでいた、古川のおっちゃんは、一瞬にして顔面蒼白になり……そして、床にへたり込んだ。
    「や……やったのは……君か……? 俺も共犯者か?」
     ん?
     おっちゃん、どうしたんだ?
     いや、俺は……その……古川のおっちゃんと絆を深めようとして、おっちゃんが好きなモノをプレゼントしただけだぞ……。
     とは言え……。
    「あ……俺がやったのが犯罪だとしたら……古川さんも共犯者っすね。俺が、もし警察に捕まったら、古川さんも手錠に腰縄で県警の取調べ室に御案内……」
    「うわああああっ‼」
     おっちゃんさあ……俺の親父より齢上の、れっきとした大人の男が……何、メスガキみたいに泣き喚いてんの?
    (9) そして、俺と古川のおっちゃんは、この前も使った鳥栖とすの山奥に有る古川のおっちゃんの別荘に……あれ? この前?
     この前、俺、ここで何したんだっけ? まあ、いいや。
     ともかく、俺と古川のおっちゃんは、親父の選挙事務所の警備顧問である猿渡のおっちゃんを、この別荘に御案内した。
    「た……たのむ……。君が握ってる県警と広域警察の幹部の弱味を私にも教えてくれ……たのむ、お願いだ。たのむ、お願いだ。たのむ、お願いだ。たのむ、お願いだ。たのむ、お願いだ。たのむ……」
    「あ……あの……何言ってんすか……それと……その……すいません、この縄、ほどいてもらえませんか?」
    「私の言う事を聞いてくれたら、解放する。だから早く早く早く早く早く早くくくくく……」
    「だから、何がどうなってんですか? あのね、あれは『伝家の宝刀』なんですよ。抜くフリをする為に使うモノで、本当に抜いたら、警察機構けいさつと俺達の戦争ですよ、戦争ッ‼」
    「おっちゃん、何、いい大人の男がヒス起してんの? 理性的に話そうよ。これ以上、感情的になるんなら……」
     ベシッ‼
     俺は、猿渡のおっちゃんの顔を竹刀で叩いた。
    「痛い目、見る事になるよ……」
    「十分、痛ぇよ……」
    「おっちゃんさあ……現実的になろうよ。親父も優斗も、ああなっちゃった以上さあ……おっちゃんが、この先、食ってくには、俺を次の久留米市長にして……俺から給料もらうしか無いの? 判ってる?」
    「ふざけんなっ‼ 誰のせいで、あんな事になったと思ってるっ⁉ あ……あんたが、自分の親父と妹と義理の弟を……」
     ベシッ‼
    「お……おい、まさか……その……君の妹と妹の亭主を誘拐して拷問したのは……えっと……『御当地ヒーロー』どもに潰された安徳グループの残党じゃなくて……」
     昨日ぐらいから、古川のおっちゃんは、何故か色々と様子がおかしい。
     何が有ったんだろう?
     まさか……。
     古川のおっちゃんが裏切った場合の事も考えておくべきかも知れない。
    「そうっすよ。みんな、あいつらを恐れてるから、ヤクザの残党に濡れ衣を着せるしかなかったんすよ……」
    「あ……あぁ……もう、今となっては……あんたが……こんな……」
     猿渡のおっちゃんの声も震えている。
    「そうだよ……。俺がいつも言ってただろ?『正義は必ず暴走する』『自分こそ正義だと思い込んでる奴らは、どれだけでも残酷になれる』って……。深雪と優斗を誘拐して、拷問して、深雪の腹ん中の子供を流産させて、優斗を廃人にしたのは……」
     答は決っている。
     古川のおっちゃんの顔に浮ぶ表情は……恐怖だけじゃなくて、何かを察したような……。
    「そ……そんな……まさか……嘘だろう……」
    「嘘じゃない。事実を認めるしかないよ……深雪と優斗を……あんな目に遭わせたのは……」
    「言うな、言うな、言うな、聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない、聞きたくないッッッッ‼」
     多分……古川のおっちゃんも……真犯人の事を少しは信じていたんだろう。
     でも、真実は常に残酷だ。
     その残酷な真実を教えてやらねばならない……。
    「『』『っ‼」
    「えっ?」
    「へっ?」
     古川・猿渡の両おっちゃんは……同時に間抜けな声をあげ……やがて、何かを考え込んでるような表情かおになり……そして……。
    「うわああああ〜っ‼」
    「冗談じゃないっ‼ もう、嫌だぁ〜っ‼ 助けれくれぇ〜っ‼」
     ああ、こうなるのも仕方ない……。
     「正義の味方」「御当地ヒーロー」は……冷静に考えれば、単なる「犯罪者を狩る変な犯罪者」に過ぎない。
     しかし、この全てが狂ってしまった時代、多くの人達が、その「犯罪者を狩る変な犯罪者」が無力化した警察に代って治安を維持してくれていると信じている。
     そうだ……その幻想が結果的に治安を維持しているのも確かだろう。
     しかし、いつかは夢から覚める時が来る。
     正義は必ず暴走する。
     自分こそ正義だと思い込んでる奴らは、どれだけでも残酷になれる。
     「正義」を名乗る者達の正体が、単なる暴徒だと……いつか必ず知れ渡る日が来る。
     その日は……早ければ、早い方が……治安を維持してきた幻想が崩れ去った事による副作用は少ない筈だ。
     でも……古川・猿渡の両おっちゃんが、ここまで取り乱すのも判る気はする……。
     この世の中を護ってくれていると思ってた奴らが……単なるサイコパス猟奇犯罪者だと知ってしまったのだから……。
    (10)「だから、もう嫌ですよ……」
     酒井(a・k・a・またの名をロリコン盗撮魔)はピーピーと泣き喚いていた。
     何て時代だ……。
     男らしい男は居なくなった。
     女のようにヒスを起したり……女のように泣き喚くような男ばかりになってしまった。
     これも全て「正義の味方」を自称するテロリストどものせいだ。
     俺の手で、奴らの「正義の暴走」を止めて、正しい有るべき日本を取り戻すしかない。
    「うるさい。やれと言ったら、やれ」
    「嫌です。俺は、たしかにロリコンの盗撮魔の人間の屑ですけど……流石に、これ以上、俺のせいで、誰かが酷い目に遭うのを見るのは嫌です」
    「そうか……そんなに、この現実が嫌か……。なら、自分を変えるか、目をつぶって何も見るな。だが、俺の言う事は聞いてもらう」
    「聞きません。従いません。もう、腹をくくりました。チ○コ切り落されようと……えっ?」
     俺は、友好的な表情を浮かべた……少なくとも、そう努力した。
    「おい、山下、一番切れ味の悪いナイフ持って来い」
    「え……えっと……あの……?」
    「言われた通りにしろ」
    「あの……だから……」
    「早くしろ……」
    「悪かったよ。俺が間違ってた。すまん……」
    「えええっと……」
    「お前の望み通り、お前のチ○コを切り落してやるよ。切れ味の悪いナイフで、ゆっくりと時間をかけてな……」
    「ま……ま……ま……ま……ま……待……」
    「こ……これでいいですか?」
    「よし、山下、酒井を押えろ」
    「え……えっと……その……」
    「や……やめて、やめて、やめて……」
    「何言ってる。お前、この先一生、小便以外で使う事ないだろ」
    「やめて〜っ‼」
    「やめましょ〜しょ〜っ‼」
     3分後、酒井は俺の指示に従う事を承諾してくれて……俺はロリコン盗撮魔のチ○コを切り落すなんて嫌な作業をやる必要は無くなった。
    (11)「これで、この辺りの警察・検察は……俺達に金玉を握られたも同然っすね」
     俺は古川のおっちゃんの行き付けのバーの個室で、おっちゃんにそう言った。
     でも、何故だ?
     全ては順調なのに、古川のおっちゃんは、げっそりした顔……。
     髪は乱れてる。
     髭は2〜3日剃ってないっぽい長さ。
     ネクタイの結び方も、ビミョ〜に雑だ。
     あれ? ワイシャツのボタン、かけ違えてないか?
     何か心配事でも有るのか?
     まぁ、いいや。
    「そ……そうだな……。お……俺たちは……この辺り一帯の独裁者にだってなれるだろう……」
     そうだ。
     民主主義は正義だ。
     そして、正義は必ず暴走する。
     その暴走を止めるには……俺達が独裁者になるしかない。
     酒井(a・k・a・またの名をロリコン盗撮魔)は、猿渡のおっちゃんが握っていた県警・広域警察支局・検察の主立ったエラいさんの個人情報を元に、そいつらの家族の写真を撮って撮って撮りまくった。
     つまり、例えば、俺達を冤罪で逮捕しようとした警官が居たとする。それに対して「俺達の仲間が、お前の上司の子供の通学路を知ってるぞ」と脅す事が出来る訳だ。
     県警・広域警察支局・検察の主立ったエラいさんは……半分以上が男だ。
     嘆かわしい事に、女の警察幹部や検察幹部が増えてるらしいが……それでも、まだ、七〇%前後は、ちゃんとした大人の男だ。
     つまり、俺達と理性的で現実的な交渉が出来るって意味だ。
     きっと、家族の写真を見せれば……俺達の言う通り、関東難民を久留米から、いや福岡県から、何だったら九州から追い出し、「御当地ヒーロー」「正義の味方」どもを見付け次第銃殺する事こそが、この狂った世の中を正常に戻す唯一の手段だと納得してくれるだろう。
    「あ、そうだ……預けてある古賀副市長の娘ですが……定期的に、このクスリを飲ませて下さい」
     そう言って俺は、デート・レ○プ用の違法薬物ドラッグを古川のおっちゃんに渡した……。
    「あ……す……すまないね……。でも……どうしてだろう……? ここんとこ……勃たなくなったんだよ……。お……俺も齢かな?」
    「何言ってんすか? 俺が親父の跡を継いで市長になったら、古川さんに助けてもらわないと」
    「あ……ああ、そうだな……。まだまだがんばらないとないとなななな……あ……あれ? ほんとうにとしのせいかな? すこししかのんでないのにのにににのののに、もう、こんなによいが……あれ?」
     ガチャン……。
     古川のおっちゃんは、手の震えでグラスを床に落した。
    (12) 全ては順調な筈だった。
     しかし……「正義の味方」を名乗るテロリストどもも……俺達への包囲網を狭めているらしかった。
     マンションの下に停車しているパトカー……それも、その包囲網の1つだ。
     少し前に行方不明になった副市長の古賀の娘……あのメスガキを誘拐したのは「正義の味方」とは敵対していた真のヒーロー「クリムゾン・サンシャイン」のコスプレをした男らしかった。
     つまり、「
     そして、俺が今居るこの部屋の真下に住んでいる一家が、何者かに全員撲殺葬される事件まで起きた。
     犯行現場であるここの真下の部屋の壁には、白いスプレーで「正義の味方参上」と書かれていたらしい。
     明らかに「正義の味方」どもが「正義の暴走」をしでかして、罪もない一般市民を……い……いや、待て、あいつら「正義の味方」の手先だったような気が……う……うん? どっちだったっけ?
     ともかく、「正義の味方」が下の部屋の一家を皆殺しにしたのは明らかだ。
     ……なのに……。
     警察は古賀のメスガキの誘拐犯を「独立系『御当地ヒーロー』であるクリムゾン・サンシャインの狂信的ファン」と見做しているらしい。
     そして、下の階の一家を皆殺しにした犯人も……。
    『一家4人惨殺事件の壁の落書きですが、警察は犯人が「御当地ヒーロー」「正義の味方」に怨みを抱いている人物である可能性が高いとして、その線から操作を行なっている模様です。では、プロファイリングが専門のQ大講師の久保遥さんとつなっています。久保先生、この事件をどう見られていますか?』
     TV画面に映っているネット配信の地域ニュースは……まるで見当違いの推理を述べていた。
    『いえ……状況からして、犯人は……手際が非常に悪く……ええ、陰惨で残虐な事件とする意見がネットでは多いですが……一見、残虐に見えるのは、単に犯人の手際が悪かったせいである可能性が高いと思います。はい、死ぬまで何度もバットで殴り付けたのも、単に一撃で殺せなかっただけだと思われます』
    『つまり、犯人の動機は怨恨でしょうか?』
    『ええ、この手の犯罪には慣れていないようで……犯人は他者を傷付ける事への忌避感が薄いようですが、あまり犯罪の経験は無く、その……知能に関しては……』
    『あ、ウチはネットメディアなので、放送コードは気にならさずに、ぶっちゃけた話で結構です、はい』
    『ええ、犯人は……残虐な性格であると同時に……早い話が……えっと予定時間内にも収まって一般の方にも判り易い言い方をすれば……阿呆で軽率で考え無しに行動するタイプである確率が高いと思われます。ええ、あの壁の落書きも、犯人が浅薄な考えを即実行するタイプだからでしょう』
    「うがああああッ‼」
     俺は思わず、TVに蹴りを入れ……あ……しまった、新しいのを注文しないと……。
     しかし、何だ、あの女ッ‼
     お……お……お……俺が……この俺が……次期久留米市長のこの俺が阿呆だとッ⁉
     だだだだだだ誰誰誰誰だああああッ‼ 女なんて感情的で理性も合理性もないヒトモドキどもが大学の教員になれるような狂った世の中にしやがったクソどもははははは……。
     あああああ、ああ、そうだ。「正義の味方」どものせいだああああッ‼
     奴らの「正義の暴走」のせいで、世の中は、どんどん悪くなっていくうううううッ‼
     こここここ……殺す殺す殺す殺す殺す……すすすすす。
     まずは……俺を馬鹿にしやがった、あの女に制裁を加えてやるううううッ‼
    (13) 「正義の味方」を騙るテロリストどもの恐るべき陰謀によって、俺のマンションのTVが壊れて数日後、ようやく代りのTVが届いた。
     ……が、半日かけ色々とやっても、一行にTVには何も映らない。
     仕方無いので、以前、世話になったFラン大学の工学部出身の奴を呼び出して……いや、そう言や、こいつ何の件で世話になったんだっけ?
     まぁ、いいや、ともかく、堤の後輩が来てくれてから三〇分でTVでネット配信番組が見れるようになった。
    「ああ、ありがと。帰っていいぞ」
    「は……はい……」
    『Q大筑紫野キャンパスで、事務員の女性が暴漢に襲撃され死亡した事件の続報です。犯人は、あるQ大講師の名前を叫んでいた事が判明しました。警察では、被害者の事務員をこの講師と間違えて襲撃したものと見ています。なお、問題の講師はQ大の別のキャンパスに勤務していました』
     はぁ? 何だ、一体? 馬鹿な奴も居たもんだ。中年のブス女とは言え、勘違いで人1人殺したのか……。
    『では、襲撃の際の監視カメラの映像ですが……ショッキングなシーンですので、視聴者の皆様のフィルタ設定によっては映らない場合が有りますので御了承下さい』
     ん?
     お……おい……何だ?
     どうなってる?
     何故、俺達のクリムゾン・サンシャインのコスプレをしたデブが、ブスとは言え罪もない女を……金属バットでタコ殴りに……。
     ああ……クソ、またしても「正義の味方」どもの「正義の暴走」だ……。
     奴らは……とことんまで、俺達を護ってくれていた……そして、絶対に「正義の暴走」を起こさない数少ない「ヒーロー」だったクリムゾン・サンシャインを貶めるつもりなんだ……。
    『なお、警察では、犯人がやっていたコスプレから、犯人を久留米を中心に活動していた独立系「御当地ヒーロー」である「クリムゾン・サンシャイン」の狂信的ファンであると見て捜査を行なっている、との事です』
     ち……畜生……。
     俺は、思わず、TVを観ながら血糊を拭き取っていた金属バットを床に落………痛えぇっ‼
     あたたた……足の指の上に落しちまった。
     ああ、くそ……「正義の味方」を名乗る暴徒どもは……クリムゾン・サンシャインを2度も殺すつもりだ……。
     1度目は命を奪い……2度目は悪党に仕立て上げる。
     その時……携帯電話ブンコPhoneから着信音。
    「はい」
    『あ……あのさぁ……一郎君……。き……君、クリムゾン・サンシャインとか言う「御当地ヒーロー」のファンだって聞いたけど……』
     古川のおっちゃんだった。
    「それが何か?」
    『ま……まさかとは思うが……Q大の筑紫野キャンパスで起きた件、君だったり……えっと……その……』
    「何、言ってんですか? そんな訳……あの……まさか……万が一、俺が犯人だとして、深雪みたいに、俺を警察にチクろうなんてしてませんよね?」
    『はははは……君が犯人じゃないんだろ。なら、そんな仮定は無意味だ。いや、有り得ない以上、仮定でさえ無い。事実である確率がコンマ1%でもある仮定であれば、答えもするが、事実である確率がゼロの事には答えようが無いよ。あははは……』
    「そうっすよね。古川さんと俺は……もう一蓮托生っすよね。一緒に次の市長選挙、がんばりましょう」
    『あははは、がんばろうがんばろうがんば……ふひゃひゃひゃひゃあああッ‼』
     政治家になるのも大変なようだ。
     古川のおっちゃん、忙し過ぎて疲れてるらしい。
     俺も市長になってから、忙し過ぎて、ああなったりするんだろうか?
     だが、それでも……それでも、俺にはやらねばならない事が有る。
     俺は決意を新たにした。
    (14) 何故……こんな事になってしまったんだ?
     俺達は……「関東難民」が多く住んでいる団地に……穏当な交渉に出掛けただけだった。
     万が一の事を考えて、「正義の味方」どもの「正義の暴走」を止める事に賛同してくれた善良な警官の皆さんを待機させていたが……それが、何故……?
    『またお前ら……ん? おい、後方支援チーム、見えてるか? いつもの連中だけど、市長の馬鹿息子だけ居ないぞ』
     例によって、俺達の行動は「正義の味方」を名乗る暴徒どもに筒抜けだった。
     SNSや動画サイトで散々宣伝をしたせいだ。
     そこまでは順調だった。
     奴らは……俺達が関東難民が多く住む団地に行って、関東難民達を迫害すると思っている。
     とんだ勘違いだ。
     俺達が関東難民をうっかりブチ殺しても「穏当な交渉中の刑事罰に問う程でもない事故」だが、関東難民どもが自分や仲間の身を護ろうとして俺達に石コロ1つでも投げれば極刑に処すべき犯罪だ。
     これは、あまりにも明らかな事だ。大宇宙の真理だ。
     だが、「正義の暴走」をしている奴らは、この単純明快な事が理解出来なくなっている。
     これこそが……「正義の暴走」の恐しさだ。
     今日来た「正義の味方」どもは……数が少ないな……。
     強化服パワードスーツの「魔法使い」に獣化能力者が2人。
    「古川さん、警官隊を突入させて」
    『わ……わかった……』
     俺は古川のおっちゃんに連絡。
     俺達は県警といくつかの広域警察の幹部達の弱味を握ってる……じゃなかった警察の皆さんと理性的で合理的で現実的な大人の男同士の会話をした結果、「正義の暴走」を行なっている「正義の味方」どもは皆殺しにすべきだと云う点で同意する事が出来た。
     そして、「正義の味方」を名乗るテロリストどもが治安維持の一端を担っているのは……単にここ二十数年ほどの間にズルズルと「社会の慣習」と化してしまった事に過ぎず、法的根拠は無い。
     ならばやるべき事は1つだ。
     「正義の暴走」を止められるのは、理性的で合理的な大人の男の現実主義だけだ。
     奴らを、その場で射殺……ん?
     遅い。
     いつに成ったら、警察が動くんだ?
    『おい、今日はやけに大人しいな。何もする気が無いのか?』
    『え……えっと……その……』
     俺の仲間が配信してる動画の中では……「正義の暴徒」と俺の仲間達が……妙に呑気な会話を交していた。
    『何もする気が無いなら、さっさと帰れ』
    『ど……どうしようか?』
    『え……えっと……』
    『何かを待ってるのか?』
     し……しまった……。今回は警察が協力している事まで、奴らにバレていた。
    「古川さん、すぐに警官隊を突入させて……すぐにっ‼」
    『わ……わかった……』
     し……しまった……。
     警官隊への指示は……俺→古川のおっちゃん→警察幹部→現場の居る警官隊の指揮官の上司→現場に居る警官隊の指揮官、と回り道をしまくって伝わる事になる。
     俺が指示を出しても、警官隊はすぐには動けない。
     仕方ない。
     俺は現場の近くに止めていた車を出て、走り出し……。
     走る。
     走る。
     走る。走る。走る。走……すぐに息切れ。
     こける。
     あれ?
     一瞬、気を失なったのか?
     ああ……そう言えば、去年の健康診断で高血圧とか言われてた……。
     そして……気付いた時……。
     嘘だ。
     悪夢だ。
     冗談だろ?
     何故……こんな事になってしまったんだ?
    (15) 気付いた時には、俺は警官隊に囲まれ、銃を向けられていた。
    「出来れば……武器を全て捨てて、手は頭の後ろにして、ひざまずいてもらいたいが……具合が悪いんなら、倒れたままでいい。では、一応、宣告するぞ。君には黙秘権が有る。君の今後の供述は法廷で不利な証拠となる可能性が有るので、以降の発言には気を付けるように。君には弁護士を雇う権利と取調べの際に弁護士の同席を求める権利が有り、もし、君が金銭的な理由で弁護士を雇えないのなら、公費で弁護士を雇う事が出来る。あと、別件逮捕は違法となったので宣告しておく。君は暴力犯罪未遂の現行犯以外の容疑でも取調べを受ける可能性が有る。いいね?」
    「へっ?」
    「本部、命令にあった『コスプレをして違法な暴力行為を目論んでいる者』ですが、今、カメラに映っている人物で間違い無いか確認願います」
    「お……おい、『コスプレをして違法な暴力行為を目論んでいる者』だと? それなら、そこの団地に居るだろっ?」
    「確認したが居なかった」
    「居るだろ」
    「何が言いたい?」
    「『正義の味方』を名乗る暴徒どもが……」
    「悪いが、我々が上から受けた命令は、『コスプレをして違法な暴力行為を目論んでいる者』を逮捕または射殺せよ、だったんでな……」
    「いや、奴らは……」
    「ああ、あそこに居る『正義の味方』はコスプレしてない」
    「してるだろ……」
    「してないぞ」
    「してる」
    「してない」
    「何がどうなってる?」
    「ああ、あそこに居る『正義の味方』達がやってるのはコスプレじゃない。確認した限りでは、ちゃんと強化服パワードスーツとして機能するモノを着装してるのが1人と、本物の変身能力者が2人だ」
     ……。
     …………。
     ……………………。
     おい、お役所仕事にも程が有るだろっ‼
    「でも、俺は、コスプレはしてるが……違法な暴力行為を目論でなど……」
    「腰に拳銃と散弾銃が有るように見えるのは、小職の目の錯覚か? おい、みんな、ちゃんと確認してくれ、こいつは明らかに武装してるよな」
    「ああ……モデルガンにしては出来が良過ぎるな。本物にしか見えない」
     お……おそろしい……。警官ともあろう者達が……同調圧力にあっさり屈服した。
     ま……まさか……そんな……「正義の暴徒」どもの魔の手は、警察内部にまで……。
     くそ……なんて事……あ……っ‼
     ドオンッ‼
     「正義の味方」を名乗るテロリストどもに精神操作をされていた哀れな警官達は……すっかり油断していた。
     俺は腰の散弾銃を取り出し、哀れな警官に向けて発砲。
    「お……おいっ⁉」
     すまない、これしか方法が無いんだ。
     「正義の味方」を名乗るテロリストどもにやられた精神操作を解く方法は……殺害しか無い。
     君達、善良な警官に罪は無い。そう……悪いのは……。
     俺は車に向かって逃げながら、「正義の味方」を名乗るテロリストへの怒りを新たにした。
    (16) 何とか俺は自分の車に辿り着き……車載コンピュータを起動……。
     ああ、助かった。
     指紋認証で車載コンピューターを起動するタイプの最新モデルのEV電動車だったんで、昔の映画やドラマみたいにパニクって車のキーどこ行ったなんて事は……事は……。
     ああああ……。
     脱げない……。
     脱げない……。
     指紋認証しようにも手袋が脱げないないない〜ッ‼
     たたたた助け……ん?
     何で、警官が追って来な……ああっ⁉
     そいつは……今の俺に似た姿をしていた。
     悔しい事に、俺と違って腹は出てないし……体型もスマートだ。
     ライダースーツを改造したらしい服に……バイザーがミラーグラスになってるフルヘルメット。
     だが……。
     今の俺と逆な点も有った。
     身に付けてるモノは全て……黒一色だった。
     新手の「正義の暴徒」か?
     しかし、黒一色のコスとは、中二病な奴も居たもん……あ……。
     そいつの足下には何人もの警官が倒れていた。
     おおおおお俺を警官から助けようとした訳じゃなさそそそそそ……。
     落ち着け。
     落ち着け。
     落ち着け。
     俺、落ち着け。俺、落ち着け。俺、落ち着け。俺、落ち着け。俺、落ち着け。俺、落ち着け。
     俺は落ち着いてるぞ。
     俺は大人の男だ。
     女みたいに感情的になったり怖がったりしてなんかいね〜ぞ。
     俺は理性的な大人の男だ。
     俺は合理的な大人の男だ。
     俺は現実的な大人の男だ。
     えっと……。
     そうだ、車で逃げ逃げ逃げ……。
     ああ、やっと走り出せる……。
     行けええ……。
     うわあああっ……。
     目の前にガキが飛び出して来て、車のAIが運転乗っ取って、明後日の方向を向いて急停止。
    「おい、このボロ車っ‼ 緊急時の運転乗っ取りの機能をOFFにしろ、OFFっ‼」
    『ご命令通りの事を行なった場合、地域によっては法令違反となる可能性が有りますがよろしいですか?』
    「いいに決ってるだろ、やれっ‼ 後の確認も全部省略だっ‼」
    『了解しました。車載AIによる緊急時の運転補助機能を停止しました。本機能を再度ONにする場合は……』
     うるせえぞ、ボケAI。
     ああ、良かった。
     これで、この車で安心して人を轢き殺せ……いや、違う。
     ともかく、俺は逃げて逃げて逃げ続け……。
     と思ったら、交差点で横から衝撃。
     韓国のアクション映画かっ⁉
     横から車が突っ込んで来……えっ? パトカー?
     いや、でも、幸いにもパトカーが突っ込んで来たのは……あ……あれ? どっちが右で、どっちが左? 左ってどっちで、右ってどっち?
     ともかく、パトカーが激突したのは……助手席側だ……。
     俺はドアを開けて車の外に飛び出し……。
     だが、俺の頭上を黒い何かが飛び越え……。
    「よう……2代目……。久し振りだな」
     えっ?
    「誠実に接していれば、いつか判ってくれると思っていた。まったく……とんだ勘違いだったよ。すまないな……全部、俺のミスだ。失敗を繰り返さない為に……『人道的』なんて甘っちょろい感傷は、あの日、生きて帰れた時に川底に捨てて来たよ」
     ……な……何の……事だ?
    「ん? 何だ、何も気付いてないのか? まったく……先代のクリムゾン・サンシャインも救い難い阿呆だったが……お前も同程度には阿呆なようだな」
     な……なんだ……。
     この声……聞き覚えが有る。
     でも……どこでだ?
     そ……それに……何で……俺が2代目クリムゾン・サンシャインだと……あ、クリムゾン・サンシャインの格好をしてるからか。
    「『戦士』が白いコスチュームとはフザケてるにも程が有る。白は愚か者の色……そして臆病者の色だ」
    「な……なんだと……?」
     俺は……目の前に居る黒いコスチュームの男に言い返そうとした。
     俺は、どれだけ馬鹿にされても構わない。
     馬鹿にされるのは慣れてる。
     でも……これは……「正義の味方」を名乗る暴徒どもの「正義の暴走」から何度も俺達を護ってくれた、初代クリムゾン・サンシャインから受け継いだモノだ。
     俺を馬鹿にする事は許してやるが、あの人を馬鹿にする事は許さない。
     理性的で合理的で現実な大人の男らしく理路整然とそう論破してやるつもりだった。
     だが……。
    「おれおれおれおれおおおあれれっ?」
     おい、何で、巧くしゃべれない?
     ああああっ……。
     さささささっき……どどどどどどどこか頭でも打っておかしくおかしくおかしく……あああ……俺の人生、この先真っ暗なのか?
     うっひゃ〜あああっ‼
     SNSかMaeveメッセージアプリだったら、泣き顔マークを大量に入力してただろう。
    「良く聞け……白いコスチュームとは、自分の血を流す覚悟も、敵の返り血を浴びる覚悟もない事を意味している。やはり、お前は、臆病者の愚か者のようだな……」
     誰だ……貴様は……?
     俺は……そう聞こうとした。
    「だだだだだだれだれだれだれ?」
     でも、俺の口から出た言葉は……。
     だめだ……ちゃんとしゃべれない。
     そ……それに、あれ? あれ? あれ?
     おい、俺、いつの間に腰を抜かしてたんだ?
    「『お前は誰だ?』そう言いたいのか?」
     俺は首を縦に振る。
    「何故、『正義の味方』と呼ばれている者達が……二〇世紀の子供番組のような……いかにもな『正義の味方』っぽい名乗りをしないか……良く判ったよ……。この名乗りを自分で練習していて……こっぱずかしくて仕方無かった」
     えっ? 何を言っている?
    「知ってるか、2代目? 太陽が紅く染まるのは……1日の内に朝日と夕日の2回だけだ。俺は……貴様と云う夕日が沈んだ後に来る……永遠の夜だ。そう……エーリッヒ・ナハトとでも呼んでくれ」
     ふ……普段なら……あまりに中二病過ぎる台詞に笑い出してただろうが……でも……でも……でも……今は今は今は今は今はっ。
     あわわわわわわっ‼
    「束の間の神の恩寵めぐみが有ろとも、人間の怒りは永遠に消えぬ。涙の夜は明ける事なく……二度と喜びの朝が来る事は無い」
    便所のドア Link Message Mute
    2022/02/24 16:31:03

    第二章:邪悪之曙光/Dawn of Injustice

    「正義の味方」を名乗るテロリスト・暴徒の陰謀により、彼等の「正義の暴走」を止めようとしていた「真のヒーロー」であるクリムゾン・サンシャインは殺された。
    だが……平凡な若者・緒方一郎はクリムゾン・サンシャインの意志を継ぎ、ついに2代目クリムゾン・サンシャインとなった……が……。
    「正義の暴徒」達は、狡猾にも、「真のヒーロー」クリムゾン・サンシャインを犯罪者に仕立て上げ……。
    しかも、クリムゾン・サンシャインに恨みを抱いているらしい謎の男も現われ……。
    ※主人公の主観から見た「あらすじ」であり、作品世界内の事実・真実とは限りません。
    #伝奇 #サイコホラー #ヒーロー #近未来 #ディストピア #不条理ギャグ

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