第一章:傷城ニルリティ/高木 瀾(らん) (1) 今回は、現場が屋内である事を考慮し、強力でも狭い場所で使うには難が有る武器は持って来ていない。
私は、拳銃2丁に銃身が短めの散弾銃を1つ。
鎌形短剣と直刃の短剣をそれぞれ2つづつ。
相棒の愛用武器である超大型ハンマも
ATVの「チタニウム・タイガー」に積んだままだ。
階段を昇っていく途中の感想は……よくある雑居ビル。ただし、マトモな奴はあまり借りないタイプの……。
違法薬物の売買は、よくイメージされるような裏通りではなく、大概、こういう「繁華街の表通りに近い場所に有る借り主が短期間でコロコロ変る」タイプの雑居ビルで行なわれる。
一般人に紙一重の奴らを顧客にしないと商売にならないので、そう云う連中が行きたがらない場所で売っても商売あがったりだし、繁華街に近い場所では、商売敵なんかが殴り込みをやるリスクを多少は減らせる。
まだ、停電なんかは起きてないらしく……通路の天井の電灯は
点いたまま。
事象発生現場である最上階に近付くと制服姿の死体がチラホラ。
だが、その「制服」が問題だ。
私は死体を調べ……。
「見ろ」
「どうした?」
「今んとこ、見付かった死体は制服警官だけ。でも、制服に付いてるマークが違う」
十年前の富士の噴火による旧首都圏壊滅と旧政府崩壊以前に、犯罪の
質の急激な変化と多様化などから、従来の警察……いわゆる「県警」……とは別に専門分野に特化した複数の「広域警察」が設立された。
死体になって転がっている制服警官の制服に付いてる所属組織のマークは……福岡県警に、広域
組対、広域麻取。
「共同捜査か? それとも手柄争いか?」
「さてな……。この死体は……怪我からして階段から落ちて……いや、待てよ。画像分析頼む。この首が折れてる死体、死んでから首が折れたのか、首が折れたのが死因か判るか?」
『解剖でもしないと無理だ』
後方支援チームからは、即、つれない返事。
「魔法で何か判るか?」
私は相棒に尋ねるが……。
「それがな……」
アータヴァカ/関口 陽(ひなた) (1) 相棒は、足取りも軽く階段を上っていくが、こっちは、それどころじゃない。
ガチで心霊現象に一番強いのは……その手の心霊現象を鎮圧める事が出来る能力・技術が有る奴じゃなくて……単に、そもそも「視えない」奴かも知れねえ。
あたしが着装している強化装甲服「水城」の改修型には、強力な防御魔法と「隠形」の魔法がかけられてる。
その御蔭で、実体が無い≒物理的な存在を直接認識出来ないタイプの魔物や悪霊に対しては「隠形」で気配を隠してるので、まず、あたし存在そのものが感知困難。
ついでに、もし、あたしがここに居る事がバレても、防御魔法でしばらくはしのげる。……ま、この状況じゃ、良くない意味で「しばらくは」だろうが……。
とは言え、そこら中を実体のない魔物や悪霊が飛び交ってるのは……気分がいいモノじゃない。
もちろん、こいつらには物理的な実体が無いので「鎧」のヘルメットのカメラには写らないが。
あたしが認識しているこいつらの姿は、あたしの脳が無意識の内に「気配」を「視覚」に「翻訳」した結果だ。
相棒は階段に転がってる死体に目を向け……。
「見ろ」
「どうした?」
「今んとこ、見付かった死体は制服警官だけ。でも、制服に付いてるマークが違う」
そう言いながら、相棒は首が変な角度に曲ってる死体の側にしゃがむ。
「共同捜査か? それとも手柄争いか?」
「さてな……。この死体は……怪我からして階段から落ちて……いや、待てよ。画像分析頼む。この首が折れてる死体、死んでから首が折れたのか、首が折れたのが死因か判るか?」
『解剖でもしないと無理だ』
後方支援チームからは、即、当然の返事。
「魔法で何か判るか?」
相棒は、あたしの方に顔(と言っても、のっぺりとした銀色のヘルメットだが)を向ける。
「それがな……死体が邪気に汚染されてる。この死体の『気』を調べても……元々の気より邪気の方が強いんで、その手の事は判らん」
「そこまで酷いのか?」
「あと、迂闊に『魔法』も使えん。『魔法』を使うと、この辺りに居る魔物や悪霊に、あたしの存在を検知されるリスクが出る。そうなれば、この『鎧』の防御魔法も、どれだけ持つか……」
「なるほど……このビルは……想像以上にマズい場所になってる……待て……」
「ああ……多分だけど、あたしも同じ事に気付いた」
「想像でいいから、教えてくれ。ドローンが撮影した1人だけ生きてる男は、何で生きてる?」
ニルリティ/高木 瀾(らん) (2)「想像でいいから、教えてくれ。ドローンが撮影した1人だけ生きてる男は、何で生きてる?」
「悪いが……上まで行かないと判んねえ……。いや、上に行っても、判るとは限んねえ……」
事態をマシにするには「魔法」や「霊的災害」関係の知識を持った者が必要。
でも、下手に「魔法」を使うと……探知系なんかでさえ……術者の身が危ない状況のようだ。
「ってかさ、お前、視えてないから判んないと思うけど、応援が来るまで……1人で何かやんのは……ガチで怖いんだぞ、ここんビルん中はさ……」
なるほど……。
市街地に「そこそこ程度の術者1人では対処困難な心霊災害区域」が突如出現した訳か。
苦手な状況だ……。
私は、その手のモノに、結構な耐性が有る……らしい代りに、その手のモノを認識出来ない。
ほんの1年足らず前までは、多少の「霊感」は有ったが……私には、既に「護国軍鬼」着装による副作用が出ているようだ。それも「護国軍鬼」の過去の着装者達より、遥かに早く。
護国軍鬼を着装していない時でも……「霊感」が、どんどん衰えていっている……ようだ。
加えて……私は……生まれ付き「恐怖」という感情を欠いているらしい。
その特性は、戦闘では有用な場合も有るが、誰かを救助する場合は、救助対象の「恐怖」の感情を理解出来ない事につながる。
いわゆる「ヒーロー」「正義の味方」になろうとしたのに劇的な理由が有る訳じゃない。
たまたま、小さい頃から、身の回りに居る自分の手本となる大人達が「誰かを救う者」達だっただけだ。
しかし、気付いた時には、自分が成りたかった自分とは逆のモノと化していた。
「どんな手段を使ってでも誰かを救う」のに向いた人間ではなく、「どんな状況でも自分だけは生き残る」のに向いた人間に。
たった1つだけの努力で身に付けたモノじゃない、異能力とさえ呼べない些細な「能力」のせいで……。
やがて、この「事象」の発生現場らしい最上階に辿り着く。
「あああ……」
完全に錯乱している男が1名。
自分の体は小さい癖に、伯父貴が、とんでもない大男のせいで……まぁ、この男は世間一般の感覚では「かなりガタイがいい方」なんだろうが……どうしても、この程度の体格だと「小柄」と認識してしまう。
悪いクセだ。
「私が押さえてる。こいつの瞳孔を撮影してくれ」
「がっ?」
私は、そいつの背後に回り……。
力で抑えてるのではない。しかし、術理を知らなければ外せないような抑え方。
それで、私からすると小柄な男、世間一般の感覚ではガタイがいい男の動きを封じる。
「があああ……」
ただし、この抑え込み方の欠点は……体の各部に激痛が走る事。
相棒が、そいつの頭を両手で掴み……まったく、ここまで色気皆無の「顔と顔が近付く」なんて見た事もない。
相棒のヘルメットのカメラが、そいつの目を撮影。
即、後方支援チームから画像解析の結果が返って来る。
『違法薬物を摂取している可能性大。ただし、種類などは不明』
「役に立つのか……ビミョ〜な解析結果だな」
『目の画像だけでパターン識別するのに無理が有る。この結果も絶対とは思わないでくれ』
相棒のボヤキに対して後方支援チームから当然の指摘。
「想像でいい。薬物と霊的存在。どっちが原因でトチ狂ってると思う?」
「さてな。ここは……その手の事を調べる為の『魔法』も迂闊に使えん」
「鎮静剤を打っても問題ないか?」
「それも判断が付かん」
「やれやれ……私が、このまま抑えてる。頼む」
「ああ……」
相棒はポーチから注射器を取り出し……。
「おい、後方支援チームに確認してもらう手順だろ」
「おっと……おい、この注射器、鎮静剤で間違いない?」
『間違いない』
注射器が入っているパッケージに印刷されているコードを読み取った後方支援チームから応答。
その応答と共に、相棒は男の首筋に注射針を突き刺した。
アータヴァカ/関口 陽(ひなた) (2) 1分足らずで、鎮静剤は効き始めた。
「おい、この薬、本当に大丈夫なヤツか?」
ドラマやマンガでしか見た事が無いような、とんでもない即効性の効き目に、思わず相棒に確認。
「効き目は早くて後遺症はほぼ無し。興奮作用その他の鎮圧の邪魔になる副反応も無し。お前の古巣にも卸そうか?」
その時、妙な事が起きた。
「変だ……剣呑い気配が薄まってる……」
「へっ? じゃあ、この男が元凶なのか?」
「ちょっと危険だが……調べてみる」
この手の心霊現象やら、他の魔法使い系や心霊能力者系やらの力量やらを調べる方法は、大きく分けて2つ有る。
1つは……対象から放たれる「気」「霊力」「魔力」なんかの力を何もせずに「視る」事。
もう1つは……同じ「みる」でも、あたしの流派では「観る」って言われてる方法だ。仏教の観音菩薩とかの「観」。
こちらから、「気」「霊力」なんかを放って、相手の反応を観察する。
もちろん、「観る」方が得られる情報は多い。
でも……悪霊とか魔物は「視える」奴に引き付けられる性質が有る。ましてや、相手に積極的に干渉する「観る」だと、対象が余程のニブチンでも無ければ「観られてる」事に気付かれる。
人間(広い意味で)を「観た」場合、相手が、その手の能力・技能を持ってない単に勘が鋭いだけの奴でさえ、気付かれる場合も有る。
あたしは慎重に「気」を放つ。
周囲の悪霊が、あたしの存在に気付いたようだ。
腰のポーチから、万が一の場合に使う呪符を取り出す。
悪霊どもの「密度」が「濃い」方に気を向ける。
そして……見付けた……「門」。
悪霊やら魔物やらが住んでる異界への出入口。
それは、少しづつ萎み始めてたようだが……あたしの「気」が干渉したせいで……再び大きくなり始め……。
探査用の「気」の放出を止める。
代りに、呪符を握ってる手に「気」を込め、呪符の効力を発動させる。
そして、呪符を周囲に撒き散らす。
この呪符からは……「怯えている人間」のモノを模した気配を放つ。
そして、悪霊や魔物は「怯えてる人間」に引き付けられやすい。
「オン・マリシエイ・ソワカっ‼」
続いて、隠形の呪法の本尊である摩利支天の真言を唱え、「門」の周囲に結界を張る。
気配を隠す結界……ただし、「門」の内側に居るヤツらから、それ以外の全世界を隠す、いわば「逆隠形結界」だ。
「応急措置だが、しばらくは、これで十分な筈だ」
「何が起きたか判らんが……」
霊感0の相棒は、あたしが、どんだけ凄い活躍をしたかを認識出来ない。
「その男は……警察に引き渡したらマズい事になるのか?」
「へっ?」
「そいつが目を覚ましたら、また、ここで起きてたのと同じ事が起きる可能性が有る訳だろ?」
ニルリティ/高木 瀾(らん) (3)『状況は概ね把握した。近隣の魔法使い系や心霊能力者系が多いチームに確保した奴を預かってもらえないか問い合わせ中だ』
後方支援チームから無線連絡が入る。
ホラー映画では、心霊現象が起きると携帯電話が通じなくなるってのが定番パターンだが、幸いにも現実には、そんな事は稀で、後方支援チームとの無線経由のやりとりは、通話でもその他のデータ通信でもやりたい放題だ。
『あと、緊急事態。下見て』
「何だ、ありゃ?」
「そっちのカメラの映像を、こっちのモニタに転送してくれ」
私は、「工房」からテストを頼まれた「新製品」を薬で眠らせた元凶らしいデブに打ち込みながら相棒にそう言った。
「すまん、そのやり方、まだ良く判んない」
「仕方ないな……」
相棒にやり方を教えるより、自分で見た方が早そうだ。
私は窓に向い……。
「こっちでは良く有る事か?」
「良く有ってたまるか……と言える時代が続く事を願うしか無いな」
機動隊に……対異能力犯罪広域警察のレンジャー隊が、ゾロゾロ。
私達が、ここまで乗って来たATVと三輪バイクが遠隔操作で、そこら中を走り回りながら……警官達を威嚇。
その様子を警察にコネが有る動画配信者達が撮影していた。
洒落にならん時代になってしまったようだ。
動画配信者の中でも一番駄目な奴らが警察が広報の下請をするようになったらしい。
「拡声器ON。状況を伝える。我々が到着した時点で確認出来た生存者は1名。今は眠っている。そちらで魔法災害・心霊災害に対する十分な対応が可能なら、その生存者を引き渡す。担架を持って、ここまで来い」
「いいのか? お前にしては普通だな」
「拡声器OFF。何だ、その不安そうな声色は?」
「サイコ野郎が普通の事やったら、逆に不安に決ってるだろ」
「ああ、そうだ。『工房』からテストを頼まれたマイクロ・マシン・タトゥーを生存者に施した。正常に動作してるか確認してくれ」
私は、後方支援チームに連絡。
『位置把握OK』
「じゃあ、マイクロ・マシン・タトゥーのGPS発信機機能が正常に動作してるかの確認を続けてくれ」
「おい、お前、人の心有んのか?」
「私達が生まれる前から、人間の定義なんて、どんどん曖昧になってんだぞ。そんな世の中での『人の心』って何だよ?」
「まぁ、そりゃそうか」
考えてみれば、私達は変な時代に生まれたのかもしれない。
普通の人間に無い能力や技能を持つ……下手したら人と呼んでいいかも判らない者達は社会に受け入れられつつあるのに、一〇年前の富士の噴火を逃れてきた……大半が普通の人間である俗に言う「関東難民」の排除を叫ぶ者達も、また存在する。
「ま、警察が阿呆な真似をした場合は……救える人間だけでも救う事にする。休めるのは数時間後になると思ってくれ」
「『救える人間だけでも救う』って、具体的には、どうする気だよ?」
「あの男を移送した先で、また、心霊災害が起きても……急な怪我で病院送りになった警官は、その心霊災害に巻き込まれずに済む筈だ」
「おめぇ、やっぱりサイコ野郎だ」
「自覚してる」
アータヴァカ/関口 陽(ひなた) (3) やがて階下から対異能力犯罪広域警察のレンジャー隊が4人やって来た。
指揮官仕様と汎用型が3人。
大昔のTV特撮の戦隊シリーズを思わせる格好だが、あたしらと違って防毒・防塵マスクは特別な場合しかしないらしく、顔の下半分は剥き出し。
あと、こいつらが着装してる強化装甲服は、防御力・出力・稼働時間の全てで……下手な民生用強化服以下らしい。
何でも、警察用の強化服の入札の条件の中に「日本国内で生産された事」ってのが有ったらしいが……困った事に、ある程度以上高性能な強化服は、設計したのは日本企業でも、海外の工場でのライセンス生産がほとんどらしいせいだそうだ。
2人で、眠ってる最中のデブを運び出し、残りが万が一の為の護衛らしい。
「あの……下に居る機動隊とさ……わざとトラブってもらえないかな? 怪我人が出ない程度に……」
レンジャー隊の現場指揮官が、とんでもない事を言い出しやがった。
「はぁ?」
「いや、折角、撮影チームを連れて来てんでさ……えっと……その……」
「脚本も事前打ち合わせも無しに? どんな『事故』が起きるか知れたもんじゃない。プロレス・ファンが怒り狂うようなニュアンスでの『プロレス』だって、もっと考えてやりますよ」
そう答える相棒。
「あ……あのさ……」
あまりの事態にツッコミを入れざるを得ない。
「警察と違法自警団がズブズブの関係って、マズいだろ」
「階下では県警と法的にマズい事をやりまくってる動画配信者がズブズブの関係だ」
「おめぇさ、『あれがOKなら、何で、こっちはNGなんだ』論法は大嫌いだ、とか言ってなかったっけ?」
「まぁ、こう云う事になった場合のリスクを最小限にする為に、警官は、時々、勤務地や部署の異動が有るんだけどね」
おいおい、こっちでは……警察は下手な悪党よりタチが悪いって噂は聞いてたけど……ガチで「悪をもって悪を制する」「タチの悪い悪を討つ為ならマシな悪は大目に見る」つもりで、ホントに悪堕ちしてるらしい。それも、御本人達は自分達が悪堕ちしてる事に気付いてない、最もタチが悪い悪堕ちだ。
「こいつが目を覚ましたら、かなり危険な心霊現象が起きる可能性が有るので、間違っても普通の病院で検査受けさせないで下さい。あと、しばらくの間、こいつの勾留場所には近付かないで」
「了解」
その時、ヘルメット内の網膜投影モニタにウィンドウが1つ表示され……。
「あ……っ?」
「おい……これは?」
『ついさっき、こっちのドローンが撮影した映像』
後方支援チームより無線通話。
あたしと相棒は窓に駆け寄り……。
「どうしたの?」
レンジャー隊の指揮官も、それに続き……。
「ATVに詰んでる煙幕弾を発射。狙撃手が潜んでる可能性が有る場所との間に煙幕を張ってくれ」
『もう始めてる』
下を見ると、道路を挟んで反対側のビルに居たらしい県警のマーク入りのボディアーマーに狙撃銃の奴と狙撃観測手らしい警官、更にレンジャー隊の狙撃・索敵型に狙撃の補佐役らしい汎用型が路面に叩き付けられ……多分、死亡。
相棒は、散弾銃に弾を込めて、窓から半身を乗り出し……。
「届くか?」
相棒の、その一言と共に……道路の反対側のビルの上層階とこのビルの屋上との間に張られているロープに向けて簡易焼夷弾が発射された。
炎はロープを焼き切り……。
「うわああ……ッ⁉」
そのロープを滑車でつたって、道路の反対側から、こっちのビルに渡って来ようとしていたヤツの悲鳴が轟く。
「あ……あれ……」
「この件、俗に言う『九州3大暴力団』のどれかが絡んでるな。下手したら、その内の複数が」
地面に叩き付けられた阿呆の姿は……河童だった。
アータヴァカ/関口 陽(ひなた) (4) 既に、道路の反対側の建物との間に煙幕が張られていた。
しかし、相棒は窓から半身を乗り出したまま……。
「気を付けろ……来るぞ……」
「えっ?」
そして、煙の中から何かが……。
相棒は、飛んできた「それ」に向けて簡易焼夷弾を発射。
「うわあああッ‼」
あたしは、火達磨になってるのに、平気な表情して、この部屋に飛び込んできた、そいつを殴り付け……。
あっさり弾かれる……が……同時に相棒が、そいつに背後から組付き、両腕で裸絞、両足で胴締め。
「また、お前らか……」
豪快な方法でやって来たのは銀色の巨体の狼男。
「また、こいつかよ……」
九州3大暴力団の1つ安徳ホールディングスの暴力沙汰専門の「一次子会社」である安徳セキュリティの幹部の久米銀河……獣化能力者の中では、日本どころか東アジア最強候補の1人だ。
心霊系の能力が有ったり、魔法の修行をしてる訳じゃないが……単純な気の量は、ベテラン級の「魔法使い」数人分。つまり、あたし程度の「魔法使い」の魔法攻撃は、事実上、通じない。ストロー級のボクサーが、百㎏のバーベルを片手で持ち上げられるような筋肉達磨の化物を殴り付けるよ〜なモノだ。
そして、こいつの毛皮は物理的な特性を自由に変えられるらしい。相手が銃を使ってる場合は、弾丸を防ぐのに適したものに、刃物を使ってる場合は斬撃や刺突を防ぐのに適したものに……。
加えて、とんでもない再生能力持ち。内臓や骨に達してない傷なら、瞬時に治る。
最後の止めが、これからのチート能力を一〇〇%活用出来る知性・勘・戦闘経験。つまり、この狼男には、一度使った手は二度と通じない。
以前は炎による攻撃は多少は効いてたが……既に消え始めている。
「そいつを急いて下まで運べッ‼」
「判った」
相棒がレンジャー隊に指示を出す。
あたしは、右手でナイフを抜き、狼男を殴る殴る刺す殴る斬る斬る刺す殴る……でも防がれる弾かれる避けられる防がれる弾かれる。
端的に言えば、身体能力だけじゃなくて、腕前も狼男の方が上だ。マトモに命中る訳が無い。
相棒の裸絞&胴締めも、どうやら、毛皮を圧迫攻撃に最適化してるようで……あまり効いてない。
相棒が片手の指を目に差し込もうとするが……裸絞を解いてしまった、その瞬間、狼男は全身を大きく動かし……。
相棒を壁に叩き付け、自分の体で押し潰そうとする……。
が……相棒の強化装甲服の背面から、ド派手に余剰エネルギーが放出され……。
壁にヒビが走り……。
『早く下に行ってッ‼ 警官隊が……』
その時、後方支援チームから緊急連絡が入った。
ニルリティ/高木 瀾(らん) (4)『早く下に行ってッ‼ 警官隊が……』
「何が起きてる?」
『それが、何て説明すればいいか』
霊体や魔物なんかの物理的実体が無いモノはカメラには写らない。
どうやら、魔法か心霊に関する現象らしいが……。
対異能力犯罪広域警察のレンジャー隊は……既に部屋に居ない。
「ここで売られてた違法薬物のサンプルを持って帰って来いッ‼」
私は、相棒に指示。
「へっ?」
そして……狼男の両肩を掴み……「鎧」の背面の排出口から余剰エネルギーを噴出させながら、背中に蹴りを入れる。
いわば変形巴投げだ。
私を壁に叩き付けるつもりだった狼男は、自分が壁に叩き付けられたが……もちろん、大したダメージは無い。
「てめ……」
狼男が、床に手を付こうとした所で、床スレスレの回し蹴り。
脛の刃が狼男の手首に命中するが、無理のある体勢と、狼男の「毛皮」のせいで、あっさり防がれる。
しかし、私の攻撃で、狼男も体勢を崩す。
そのまま、狼男に組み付き……。
「余剰エネルギー放出。背面、脛後部。出力最大」
強化装甲服の制御AIに指示を出し……。
「えっ?」
「おいっ?」
私と狼男は、そのまま、部屋の窓側から外に出た。
「て……てめえ……何、考えてやがるッ?」
「せいぜい、巧く着地してくれ」
アータヴァカ/関口 陽(ひなた) (5)「ったく……何考えてやがる」
『いつもの事』
あたしのボヤきに後方支援チームからツッコミが入る。
あたしは、ここで売ってたブツらしきパケ入りの粉を見付け出し、腰のポーチに入れ、階段の方に向かう。
「って、何だ、こりゃ?」
『どうしたの?』
「変だ、道路の方から嫌な感じの『気』が……」
『魔法系か心霊系らしい事が起きてるけど……その手のモノはカメラに撮影んないんで……』
「判ってる事だけ教えて……」
と言った頃には、既に雑居ビルを出ていて……。
「あ……大体判った……」
そこには……。
何故か、機動隊を襲ってる……県警にコネが有る動画配信者達。
機動隊は大したダメージは受けてないようだけど……予想もしてなかった背後からの攻撃な上に……何が起きてんのかも、まだ、把握してないらしく、苦戦中。
下には、対異能力犯罪広域警察のレンジャー隊も居たが……一般人が突然「擬似ゾンビ」化して、警官を襲ってる事態に、どう対応したらいいか判んないようだ。
「おい、こいつらに鎮静剤は効くのか?」
一足先に、外に出てた相棒から質問が飛んでくる。
「待て……」
そう言って、私は、擬似ソンビ化した動画配信者の1人を「気」で探……。
何だ、こりゃ?
並の悪霊や魔物に取り憑かれてるだけじゃない。
「悪いお報せと、もっと悪いお報せだ。こいつらを助ける方法は……多分ねえ」
「もっと悪いお報せは?」
「こいつらの体そのものが……剣呑い異界への『門』になってる」
ニルリティ/高木 瀾(らん) (5)「県警の機動隊の防具に私が使ってる散弾銃用のスラッグ弾をブチ込んだら、どうなる?」
『えっ?』
私は、後方支援チームに問い合わせる。
「だから、防具越しに命中たら、死ぬ確率と助かる確率は、どっちが高い?」
『ええっと……骨や内臓にダメージはいく可能性は有るけど、貫通はしない』
「理解した」
「おい、何する気だッ?」
「お前、何、考えてる?」
相棒と……そして、副指揮官とパワー型のハイブリッド型のレンジャー隊用の強化服から突っ込みが入る。
「救急車と病院の手配を頼む」
まずは……対悪霊・魔物系向けの霊力を込めた非致死性弾を散弾銃に込め、擬似ゾンビ化した動画配信者をオンブしてる機動隊員の胸を狙ってブッ放つ。
「がぁぁぁぁッ‼」
「うがあああッ‼」
「おい、どうなってる? 何で……非致死性弾を防具越しの食らっただけの機動隊員まで苦しんでる?」
「機動隊員も、背中の擬似ゾンビが出してる『邪気』に汚染されてる。多分だけど、もう、その機動隊員も擬似ゾンビ化しかけてるみてぇ〜だ」
「待て、機動隊員は対魔法・心霊系の装備で、ここに来たんじゃないのか?」
「県警に連絡が入った時点では……えっと……『敵』は居たとしても変身能力者なんかの物理系だと思……われてた」
レンジャー隊の指揮官が、そう解説してくれる。
「おい、霊力込めてる弾は、あと、いくつだ?」
「非致死性弾5つ、スラッグ弾2つ、簡易焼夷弾が2つ」
「ちょっと足りねえな……って、最後のは何の為のだ?」
「文字通りの『最後の手段』用のヤツだ。で、効いてるのか?」
私は、そう言いながら、2発目の弾を発射。
「一時的に動きを封じる程度なら……一応」
相棒の元にATVが遠隔操作でやって来る。
相棒は、ATVの荷台の「魔法の焦点具」……早い話がヨーロッパ系の「魔法」で言うなら「魔法使いの杖」だ……を兼ねた大型ハンマーを取り出す。
ゴオッ……。
その時、風切り音と血煙と共に、機動隊員の1人と、その背中にしがみ付いてた動画配信者の頭が消えた。
「お……おい……」
「手前らのやり方は、まだるっこしい。これが一番手っ取り早いだろうが。おい、レンジャー隊ども、面倒だから感謝状は要らねえぞ」
私と共に、地上まで落下した久米銀河の手の爪が機動隊員と動画配信者の頭を一瞬にして砕いて……。
「マズいぞ……その狼男を止めろ‼」
続いて、相棒の絶叫……。
アータヴァカ/関口 陽(ひなた) (6) 狼男が擬似ゾンビ化した動画配信者と、そいつに組付かれていた機動隊員の頭を一瞬で粉々にした瞬間……。
食われた。
殺された2人の「気」が……。
擬似ゾンビに取り憑いていた「門」に……。
いや、それ自体が剣呑い「異界の門」でもある物理的な実体が無い魔物か悪霊に……。
そして……「門」はデカく広がり……。
「マズいぞ……その狼男を止めろ‼」
「どうした?」
「擬似ゾンビが死んだら……逆に、擬似ゾンビに取り憑いてる『門』がデカくなる」
悪霊が吹き出してる状態で、下手な術を使うのは危険だが……別の機動隊員の胸を「気」を込めたハンマーで殴る。
「ぐへっ?」
「がぁっ‼」
邪気に汚染された機動隊員と、邪気の源である背中の擬似ゾンビを沈静化……と言っても一時的なモノだが。
相棒はレンジャー隊の指揮官に散弾銃を投げ渡す。
「えっ?」
「弾も受けとれ……一時的らしいが、ゾンビもどきを沈静化させられる」
続いて、霊力を込めた散弾銃弾を入れている腰のポーチも投げる。
擬似ゾンビと機動隊員を殺そうとしている狼男に向い……。
「『チタニウム・タイガー』、軍刀を寄越せ」
その声と共にATVが……。
相棒の元に駆け寄る……んじゃなくて、狼男に側面衝突。
「がっ?」
相棒はATVに詰んでいた軍刀を抜く。
一見すると、峰が鋸歯になってる中二病チックな日本刀だが、実際は、通常の刃は「技やスピードで剃刀のように鋭く斬り裂く」事に向いたもので、鋸歯の側は「力まかせにズタボロの傷を付ける」のに向いたもの。
早い話が、片方の刃は通常の相手用、もう片方の刃は……高速治癒能力持ちが相手でも、多少は傷が塞がるのに時間がかかる攻撃をする為のモノだ。
相棒は、対・再生能力持ち用の鋸歯で狼男の首を……駄目か。狼男の能力で刃は防がれ……。
狼男は軍刀の刃を掴むと、相棒の顔めがけてパンチを……。
だが、相棒は、体を少し斜めにしただけでパンチを躱し……その狼男の腕をデカい金属の腕が掴んだ。
ニルリティ/高木 瀾(らん) (6) 私が狼男のパンチを躱した瞬間、大型の金属の腕が、狼男の腕を掴んだ。
レンジャー隊のパワー型の背中に装備されている機械腕だ。
一般的な回転式電磁モーターで駆動し、護国軍鬼や水城のような人工筋肉式に比べ、精密動作や反応速度で劣るが、パワーでは勝る。
だが……。
「え? 何でだ?」
機械腕が取り付けられているレンジャー隊の副指揮官とパワー型のハイブリッド型は体ごと宙に浮く。
機械腕を狼男の手から離すが……既に狼男は機械腕を握り返していた。
これでは……狼男にパワーで勝っていても、そのパワーを巧く活用出来ない。
私は軍刀から手を離し、たまたま、側に転がっていた機動隊員の盾を手にし、狼男との間合を詰める。
ゴオッ……‼
盾を防具ではなく、武器として横方向に振り回すが、狼男には避けられ……。
だが、その時、狼男は機械腕から手を離してしまい……。
ゴオッ……‼
もう1つの盾が狼男の脳天に撃ち込まれ……。
「中々いいね、これ……ん?」
そう言ったのは、レンジャー隊の副指揮官兼パワー型だが……。
「って、そんなの有りかよッ?」
その盾は、狼男の頭に当ってなどいなかった。
それどころか、私がさっきまで使っていた軍刀で両断されていた。
「あんな物騒な刀、敵にくれてやるか、フツ〜?」
「うっかりしてた。量産品なんでな」
「残念だったな。仲良く死ね」
狼男は軍刀を振り降し……。
私は、左腕の隠し刃を展開、狼男の刃に側面から当て軌道を逸らす。
「打撃も駄目、斬撃も駄目、絞め技も駄目なら……残る手は……」
私は鎧の余剰エネルギー排出口を全開にして、横斜め前に高速移動。
続いて、足の隠し杭をアスファルトに撃ち込み方向転換。
「関節技か……」
「あっ?」
狼男の背後に回り込んだ私は狼男を足で胴絞め。
背後から狼男の口に両手を無理矢理入れ……。
「おい、手伝え」
「それ、関節技って呼ばねえよ」
「あががががが……」
ツッコミと共に、機械腕が狼男の口に侵入した。
ニルリティ/高木 瀾(らん) (7) だが……。
メリっ……。
嫌な音がする。
狼男が自分の口を引き裂こうとする機械腕を掴み……。
機械腕に爪が食い込む。
「マジか、これッ⁉」
レンジャー隊の副指揮官兼パワー型が背中から大型機械腕ユニットを除装。
ほぼ時を同じくして……機械腕が狼男の爪と握力で破壊される。
私は、狼男の口から手を放し、裸絞に切り替え、背中の排出口から余剰エネルギーを排出。
狼男を押し潰そうとした時、狼男の足が地面を蹴り、手は逆に地面に向かい、宙返りをしようとする。
狼男は、私が狼男を押し潰そうとした運動エネルギーを逆用して、その時の勢いで……危うく、逆に狼男の体に潰されそうになる前に、私は狼男の体から離れる。
「兄貴〜ッ‼ 大丈夫ですか〜ッ⁉」
その時、道路の反対側から声。
出て来たのは……河童の姿をした連中……。
いや、大型狙撃銃を持ってる河童というのもシュールな光景だが……この御時世、良く有る事だ。
まぁ、河童と言っても「昔の河童の絵の独特の口は鼈の口を元にしたもの」という説は本当だったようで「亀人間」っぽい外見だが。
「おい、この狼男をブッ殺す方法は無いのかよ?」
「警官が容疑者を殺すのか? 取調べはどうする気だ? こいつの知ってる情報の二〇分の一でも自白わせる事が出来れば、大手柄で臨時ボーナスも、警察の偉いさんの弱味を握るも、犯罪組織の手下になってる不良警官を一掃するのも思いのままだぞ、勿体ない」
「こいつみて〜なのを置いとける留置所なんか無いし、こいつを尋問して無事でいられる警官も居無いよッ‼」
「まぁ、殺す方法なら、いくらでも有る。一般人が逃げ遅れてるかも知れない町中で軍用装甲車を一瞬でブッ壊せる武器を使用出来て、誤射その他の事故が起きても誰も責任を取らなくていいならな」
「事実上無いって事だろ、それ」
「おい、この状況で軽口か?」
まぁ、獣化能力者の中では日本最強、東アジアでもベスト3入り確実なヤツの攻撃を、あまり仲の良くない組織の構成員と仲良くギリギリで捌き続けてるって状況だが……。
「軽口でも叩いてなきゃ、この状況では、それこそ心の余裕が無くなる」
私は、狼男の腹に前蹴り。それと同時に隠し武器の杭を射出。
だが、以前にも使った手だ。
当然効いて無い。
そして、蹴った足を掴まれ……だが、その足を軸に空中回し蹴り。
狼男の頭の狙って、靴の爪先を叩き込む。この箇所だけは、装甲素材の組成が軽さと強度のバランスを重視した他の箇所とは違い、重量は有るが硬度や頑丈さ重視だ。
だが、狼男が腕を上げ、その蹴りも防がれ……銃声。
レンジャー隊の副指揮官兼パワー型……今はパワー型の機能を失なった単なる副指揮官だが……が狼男を銃撃。
威嚇や牽制にしか成らない……が、その一瞬の隙を突いて体全体を奴の腕に絡ませる。
「やるじゃねえか……。関節技ってのは、さっきのみてえなのじゃなくて、コレなんだよな」
「悪いが、腕1本、いただく」
だが、完全に極まる前に、狼男は飛び上がり、私を地面に叩き付けようとし……。
「まだ、やれねえな……」
何とか、狼男から離れ……。
「高威力の重火器を使いたいが、後始末をお願いしていいか? あいつを殺せるかも知れないが……周囲の建物に大穴を空けるのも確実な武器なら有る」
私は、レンジャー隊の副指揮官に向かって、そう言った。
「ふざけんな」
アータヴァカ/関口 陽(ひなた) (7)「救急隊は、魔法・心霊系への対抗措置を行なってる人達を呼んで下さい。それも、ありったけ。あと、搬送先は、その手の措置が出来る所」
何とか、邪気に汚染された機動隊員達と、それ自体が「剣呑い異界への門」らしい悪霊に取り憑かれた動画配信者どもを大人しくさせる事が出来た。
しかし、倒れてるのが二〇人以上……もっとも約半数は、ほぼ確実に助ける手段が無くて、残りの約半数はクソ重いボディ・アーマー着用。
ボディ・アーマー着てる連中の内、かなりの数が、あたしが「気」を送り込んだ時に大型ハンマーで撲ったり、霊力を込めたスラッグ弾で撃たれたりで、そのボディ・アーマーが凹んでいる。
加えて、霊感の無い奴には見えねえだろうが、辺りには、まだまだ、悪霊や魔物が飛び交ってる。
「あ……あと、救急隊員には、機動隊が着てる防護服の外し方を連絡した方がいいっす」
「ちょ……ちょっと待って、そんな救急隊員なんて……多分、居ない。仮に、居たとしても、こんだけの人数運べるほどは……」
レンジャー隊の指揮官は、そう答えた。
「えっ?」
「あと、搬送先を普通の病院にすると……やっぱマズい?」
「変な存在に取り憑かれてたり、邪気に汚染されてる連中を、普通の病人も居る病院に運ぶんすか? 何か有ったら、誰が責任押し付けられるんすか、それ?」
「そ……そう言われても……」
「でも、責任押し付けられて、詰め腹切らされんの、隊長さんかも知れねえでしょ」
「まぁ……そうだけどさ……。あ、ついでに……機動隊員とは、同じ警察でも、組織が違うんで……」
「あの……まさか……その……」
「防具の外し方が判らない。ウチで使ってんのと規格が違うんで。まず、県警に連絡して……」
「そっからは、ややこしいお役所仕事が始まって、ボディ・アーマーを外せる頃には、機動隊員は死んでる訳っすか……」
「大体、そう」
クソ。
少し前まで、警察が事実上機能してなくて、魔法使い系の自警団が警察の代りだった場所に住んでたんで……勝手が判んねえ。
デカい組織じゃないと出来ない事も有るのは判るが……警察ってのは、あたしが前に居た「自警団」や、今の仕事先である通称「正義の味方」よりも、組織としてデカい分、どうしても動きが鈍くなるらしい。
あと、相棒が「正義の味方」から独立した異能力持ちから構成されるレスキュー隊を作る為に色々とやってる理由も判った。
「兄貴〜ッ‼ 大丈夫ですか〜ッ⁉」
その時、さっきまで、あたし達が居たのとは道路を挟んで反対側のビルから河童どもが出て来た。
どうやら、通称「九州三大暴力団」は、どうも変身能力者や妖怪系が多いらしい。それも、河童系。
「全員、テイザーで応戦」
河童系は皮膚が硬化してるらしく、拳銃弾は……ダメージが小さくなっちまうらしい。
なので、レンジャー隊達は、テイザーガンを抜いて、射程距離まで近付く。
河童どもは、狙撃手と着弾観測手だったみたいで……バカデカい狙撃銃を捨て、予備の拳銃で応戦。
人数さえ揃ってりゃ何とか成る事はレンジャー隊に任せて……。
「ちょっと、今から……この騒動の原因を調べる。変な悪霊どもをバラ撒いてる奴が居る」
『大丈夫なの?』
後方支援要員から当然の指摘。
「探るだけでマズい事になる可能性が有るけど……やるしか無いでしょ」
『その……悪霊をバラ撒いてる術者は、その近辺に居るの? それとも遠隔でやってんの?』
「それも判らねえっす……、って、待てよ」
探るだけでヤバい相手を探んなきゃいけねえ……でも……手は有る。
「あの〜」
あたしは、河童どもを鎮圧をほぼ終えてるレンジャー隊に声をかける。
「何?」
「容疑者を1人か2人、使っていいっすか?」
「使うって……何に?」