泣きながら首絞め/サルベージ2018はフワモコ/君の金髪は綺麗 いつだったか迷い子のように泣きながら、この世界に俺の居場所はない、と君は言ったことがあったね。私はそんなことはない、と君に言った。本心だった。君に居場所を作ってあげるつもりでいた。あのころ私は、君の苦しみのなんたるかを知らなかった。
君の頬にばたばたと水滴が落ちる。君は苦悶の表情を浮かべ、それでも私にやめろとは言わない。口の端で微笑んでさえいた。私の手は彼の首に力をかける。脈動が触れる。やがて君の血潮が流れをとめ、呻き声も絶えるだろう。
これが君の出した結論なのか。我々の関係は、死によってしか贖われないのか。
-----------------------------------
おまえを失うのが怖い、と君は枕辺でひっそりと泣いた。私はそれまで君が泣くのを見たことがなく、想像さえしていなかった。自分でも驚くほど狼狽した。
おまえは勝手だ、と君は言う。
おまえがおれをつくりかえたのに、こんどはかってにしぬという。おれはもう、おまえなしではいきていけないのに。こんなみじめなことをおれにいわせる。ぜんぶおまえのせいだ。おれはこんないきものになってまでいきていたくなどなかった。
支離滅裂だった。君らしくもない告白は、けれど酷く私の心を打ちのめし、混乱させた。確かに君はもう昔の君ではなかった。
私は惑乱した思考で「すまない」と言い、君はただ涙を流した。
おまえはさいしょからそうだった、おれのものではない。呟く君に「違う」と重ねても君は稚くかぶりを振るばかりで、ああそうだ、君は生き返って数か月であったと思い出す。
私が死んだなら君はどうなってしまうのだろう。瞬間、啓示のように言葉が降りた。
「私は君のものだよ」
違うと言い募る君に私は囁く。
「君が私の命をとめてもいいんだ」
そして今、君はゆっくりと私の首に手をかける。細い指が私の肌に食い込み、爪が皮膚を破く。息ができなくなる苦しさに陶酔が混ざる。君はやはり泣いていて、私は君を愛しく思う。
私の全部を君にあげる。
目が覚めたら温かかった。いやむしろ暑い。そしてなんだか……獣臭い。首を巡らすと鼻先をふわふわしたものに突っ込んだ。なんなんだ?疑問に思っているうちに毛玉が動いた。そして……顔を舐められた。
「?!?!」
声もなく驚愕する俺の頭の上から、能天気な声が降ってくる。
「気が付いたね」
「なぜ俺の周りに動物がいるんだ、いったいどうしたんだこれは。というかなぜ俺はここにいるんだ」
「いや……天の声が君を助けて動物でもっこもこにしろっていうから」
「ふざけるな」
ぱちん、と音がして最後の一束が彼の肩から落ちた。陽光を弾いて光る髪の毛を彼は軽く払い落す。
「もったいないな」
と知らず惜しむ声が漏れた。彼はそんな私に少し笑い「構わない」と言う。
君がいいのならばいいが、と重ねると、彼は不意に顔を上げる。その清々しく凛とした笑みに私は口をつぐんだ。
彼の桎梏がそれで軽くなるのならば。けれど私は、月光を照り返して宵闇にぬめる彼の金色をもまた愛しんでいた。
「ヴァルジャン?」
呼ばれてはっと我に返る。すまない、と目を上げると彼は思いの外近くにいた。
そんなにも私の髪が惜しいなら、私の闇を完全に掃えるか。問いかける彼の瞳は静かだった。
愛していると言われる度に嫌悪感を覚えた。今の私をなぜ、正気かと聞くとお前は困ったような苦い笑みを浮かべた。
「愛しているという言葉に理由が必要か?」
「理由がない言葉は意味がないのと同義だ」
お前は目を丸くする。
「感情に全て理由があると思うのか?」
「少なくとも、私の感情には」