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    岳崚小ネタログ■switch

    触れたくなるのは、決まって間近にその目を見た日だった。交わした言葉にも、視線にも、声音にも、仕草にも甘さなどない。ただこちらをつらぬくような直線の眼差しが、舞台への熱を灯して静かに揺れているのを見つけるたびに、言葉にしがたい情動が胸裡を焦がす。そうしてそれに手を伸ばせば応えがあると、知っているのは自分だけではなかった。

    ***
    20200604Thu.

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    ■Thunderbolt

     かつりと、硬質な靴音がフロアに響く。客席もスポットライトもない静まり返った稽古場でさえ、あの男がセンターに立てば研ぎ澄まされたステージに変わる。随分と夜も更けているはずだったが、時計の針の位置など、男と稽古場にふたりきりになったころには疾うに意識の外へと蹴り出していた。
     歌い出しはこちらから。眼前の男の一挙手一投足と踏み締めたフロアの感触を五感すべてで追いながら、体に叩き込んだステップと拍子を刻む。すでに自身ではない「自身」で、男ではない「男」へ曲に載せた言葉を投げれば、呼応するように「男」の歌声が返ってくる。
     寸分の狂いもない符合の感覚がひたすらに快い。稽古を重ねるにつれ鋭さを増していくその高揚の到達点は、幕の上がった本番のステージの上にある。雷鎚に似た鮮烈さで舞台に立つこの男と対峙するその日が、ただ待ち遠しかった。

    ***20191003Thu.
    Special Thanks/The QUEEN of PURPLE「THUNDERBOLT」
    ■チョコレートブラウン

     じりじりと、トースターが食パンを焼く音が背後のキッチンから聞こえる。晴天を理由に開け放された休日の窓、網戸越しに滑り込んだかすかな風に含まれて鼻先を掠めていくのは、じき出来上がる朝食の匂いだ。
     トーストとサラダ、スクランブルエッグに少々のたんぱく質とヨーグルト。普段自宅で食べている朝食よりは幾らか簡素ともいえるそれを、けれども崚介は厭ってはいなかった。
     かたん。小さく椅子を鳴らしてダイニングテーブルを後にする。一人暮らしに適した広さのテーブルには机と同じ色合いのダイニングチェアと、元々はキッチンの端に畳み置かれていたダークブラウンのスツールが、向かい合う形で置かれている。崚介が座っていたのはダイニングチェアのほうで(初めてこの食卓についたときにはスツールで構わないと申し出たものの、なぜだか唇を結んだ男に無言でそちらへ座るよう促されたからだった)、不揃いな光景を埋める一脚がいつか買い足されることはあるのだろうかと、まだ慣れない椅子に腰掛けるたび詮無い思考が脳裏をよぎる。何度目かになるその疑問の答えを決めるのは自身ではないということだけが、いまの崚介と男にとって確かな事実だった。
     何も言わぬまま、十数歩ほどの距離にあるキッチンへ向かう。トースターの音に紛れて、小ぶりなケトルがかたかたと鳴いていた。そのそばには昨夜封を切ったばかりのティーバッグの袋が置いてある。
     真新しいパッケージの中央に貼られたラベルシールにはレモングラスの名がシンプルに並ぶ。袋からティーバッグを倍量取り出し、ふたつ並べた耐熱グラスに少量注いだ熱湯のなかに静かに浸していると、数歩離れた位置に立つ男からようやくひとつ声が寄越された。
    「それ、使いすぎじゃねえのか」
    「アイスティーを作る要領だ。濃く出せば炭酸水で割ることもできる」
    「……、」
    「レモングラスは他と比べても癖のある味ではないが、口に合わなければ残せばいい」
     数瞬の間のあと、そうかよ、と短いいらえが返る。ふと落ちた空白はまだ物言いたげなもののようにも感じたが、この男が自身に対して何かを言い淀む理由が思い浮かばない。
     トーストの焼き上がりとリーフの抽出を待ちながら、背後に残してきたダイニングテーブルを横目で見遣る。ダークブラウンのスツールが、明清色の朝日に浸されてチョコレートブラウンに変わっていた。

    ***
    20200426Sun.

    ■春の風

     明清色の朝日に誘われて半ばほどまで開けた窓から、柔らかな春の風が滑り込んで足元を擽る。二人分の朝食を載せたトレイを手に食卓へと向かえば、ダイニングチェアに腰掛けてタブレット端末を操作していた男がついと顔を上げて岳を振り返った。
    「キリついたか」
    「ああ」
     劇団創設当初から変わらず運営の中枢を担う男には、休日といえども多少なりとの確認作業がある。否、オフであることを理由に思考から外すこともできるはずだが、眼前の男の性格を鑑みれば事の是非など考えるまでもない。こちらが朝食の支度をしているあいだに片付くような案件はこなしてしまえば良いと岳が男をキッチンから追いやったのは二十分ほど前のことだ。
     返された応えに軽く顎を引いて頷いて、トレイをテーブルに置く。自宅でこの男と向かい合わせに食事を摂ることにも、気付けば随分と慣れてしまった。
     スリッパに潜り込ませた素足の踵を掠めるように、やわい風がまた通り過ぎてゆく。髪を揺らすほどの主張もなく、この様子であれば今日は一日穏やかな天候が続くだろう。詮無い思考を巡らせながら、配膳のために歩み寄った男のそばから離れかけた拍子、ふとしたものに目が留まる。
    「……なんだ」
    「――……いや、」
     男が短く寄越した問いに、見留めたそれに自身が何気なく手を伸ばしていたことに気付く。ま白い項と指通りの良い黒髪の感触が、淡く指先に残っていた。
    「朱道?」
     言い淀む自身を訝ってか、男がことりと首を傾げてこちらを見遣る。ただ男の襟足にごくわずか残った寝癖をほどいただけの接触が、なぜだかひどく照れくさくてならない。
     リビングにさす春の陽に男の赤が透けている。まっすぐに向けられた視線から逃れる真似もやはりなぜだかひどく躊躇われ――結局のところ岳が答を口にできたのは、仔猫が足元に身を寄せるようにおだやかな春が、時計の秒針をあと幾許か傾けてからのことになる。



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    20210310Wed.
    文字書きワードパレット 7.夜を食む(寝癖/傾く/秒針)
    なっぱ(ふたば)▪️通販BOOTH Link Message Mute
    2021/04/14 13:37:59

    岳崚小ネタログ

    #BLキャスト #岳崚

    岳崚小ネタログ×4。
    ついったでちまりちまりと書いたものばかり。
    たぶんまだまだ模索中。楽しいです(グッ)

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    ##腐向け ##二次創作 ##Gaku*Ryosuke

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