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    拓崚小ネタログ2■透明越しのせかい
    ※7月の個人誌用の小ネタでしたがまさかのファンブック殿とふんわりネタかぶりした(所感)ので供養
    ---

     かつて暮らした街の雑踏を、ふたり並んで歩いていた。
     場所はニューヨーク、マンハッタン。ブロードウェイと呼ばれるその地に崚介たちがジェネシスとして公演を打ちに訪れるのも、これで何度目かのことになる。今日は公演期間の中日にあたる休演日で、明日からはまた数日間に渡る公演が控えている。互いにコンディションも良く、調整にも問題がないと判断が一致したため、束の間の休息として昼下がりの街へ散策に出ることにしたのだった。
     隙間なく建ち並ぶビル群のなか、ユニオンスクエアで悠然と生い茂る木々の葉はすでに秋の色に染まっている。風が吹き抜けるたび梢から離れていく幾らかの落葉のやわらかな軌道を、崚介は折り良く空きを見つけたベンチに腰掛けたまま視線で辿る。
     つい先刻まで隣にいた男は飲みものを買ってくると言って一時的に場を離れており、その戻りを待つあいだのほんのわずかな時間を、こうして景色を眺めて過ごすことに充てていた。
     トレンチコートの内ポケットに滑り込ませてある携帯端末に、仕事絡みの相手からの着信や連絡がないことだけは確認している。この時期のニューヨークはすでに冬と評して差し支えない気温になりつつあるが、ふとなにかを思い出したように小春日和がやってくることもある――ちょうど、今日のように。
     頭上に広がる空はどこまでも青く高い。秋物の防寒具が、やわい晩秋の日差しを緩慢に含んでいく。
    「お待たせしました」
     聞き慣れた声で紡がれる日本語は、多言語で溢れ返る雑踏のなかにあってもひとつ浮いたようにはっきりと耳に届く。二人分の紙杯を持った男が、崚介の前で立ち止まった。
    「すみません、紅茶しかなかったので。ストレートのダージリンです」
    「構わない。……ありがとう」
     顔立ちをそれとなく隠すためのサングラス越しの双眸へ小さく礼を述べ、男が差し出してきた紙杯を受け取る。手のひらで包んだそれを口元へ運べば、ふわりとやわらかな香りが鼻先を掠めた。
    「昨日までと違って今日は随分と暖かいですね」
    「ああ」
     隣に腰を下ろし、崚介と同じように紙杯に口をつけながら男が言う。周りを過ぎていく通行人の足取りや喧騒も、昨日までより心なしか軽いように見えた。知らず、ゆるく目を眇める。
     いま崚介の視界を通しているのは、先日男がプライベート用にと崚介に見繕った眼鏡のレンズだ。男の掛けているものと違い視力矯正の度は入っていないが、まだ真新しさの残るそれは掛けるたびにどこか景色があざやかに映るようで、不思議な心地がする。
    「なにか、考え事ですか?」
     何気ない調子で投げられた問いに、二、三、目瞬く。この男の観察力については崚介とて十二分に知るところではあるけれども、相変わらずよく気のつく男だ。
    「……取り留めのない話だが、構わないか」
    「ええ」
     自然な応えがやわらかく耳朶を打つ。黒縁の向こうでかすかに首を傾げた男と、ゆるやかに視線が出会う。
    「この眼鏡越しにこの街を見るのは初めてだ、と。そう考えていた」
    「…………、」
     数瞬の間。
    「どう、見えますか」
     ひどく真摯な色のちいさな問いに、目を細める。湯気をたちのぼらせる紙杯をもう一度だけ傾けてから、口を開いた。
    「街の景観はさほど変わらない。道行く人間の風貌や、全体的な雰囲気も含めてな」
     男は紙杯を握りしめたまま、静かに崚介の声に耳を傾けている。相槌の代わりに向けられた眼差しを肌に心地好く感じつつ、言葉を継いだ。
    「ただ、昔ここにいたころよりも少しだけ、空が高く見える」
     灰羽拓真と出会い、ジェネシスを立ち上げることを決めたあの日よりもこの街の空が高く、そして広く見えるのは、錯覚ではない。ジェネシスという居場所と、――この男と重ねてきた時間が、自身の目に映る世界を少しずつ、しかし確かに変えていくのがわかる。そしてその変化が自らにとって決して忌むべきものではないということも。
    「高ければ高いほど、手を伸ばす価値がある。そう思わないか」
    「……相変わらずですね、君は」
    「なにがだ」
    「ああ、いや、君らしくて安心してしまったというか。……ですが、そう、ですね」
     サングラス越しの瞳が、なぜか眩しげに目を細めて崚介を見た。それから、頭上に広がる高く澄んだ空へ視線を移す。やわらかく射す晩秋の午後の日差しに、男の横顔があわく滲む。
    「私も、そう思います」
     確かな声で返されたそれが、なにより心地良く胸裡を揺らした。



    ***
    20190326Tue.

    ■とけゆく青に

     熱に濡れた青が夜のひかりににじむのが、ひどくうつくしいと思う。
    「っ、あ」
     体の奥を開かれた拍子、反射的に仰け反る喉に男の唇が寄せられる。声帯の震えをなぞるようにやわく食まれて、ぞくりとするようななにかが腰から脊髄をつたって這い上がった。それが膚越しに気管を食まれることへの本能的な危機感ゆえか、喉元へふれた唇と呼気の熱さのためか、身の内に受け入れた熱量の圧迫感からのものなのかはわからない。ともすればそのすべてであるのかもしれないが、まだこの行為に慣れない体では理由を探ることもままならなかった。
     貫かれたまま、浅く上がった息に溶かして男を呼ぶ。男が日ごろ殆ど欠かさず掛けている眼鏡は、寝台へ身を預ける前に自分の手で外してしまった。首筋へ寄せていた顔を上げ、男の双眸が問いの代わりにこちらを見る。ベッドサイドの淡い明かりが男の青をやわく透かして揺れた。衝動を湛えてゆらめくブルートパーズ。ひとみの奥に燃える温度を確かめようとまっすぐに覗き込めば、意図が伝わらなかったのか、男の両目がわずかな逡巡を含んで眇まる。
    「……本当に、君は、」
     ふと、肺から押し出したような切実な声が耳朶にふれた。手のひらを寝台へ縫いとめていた五指が、ぐ、と強まる。同じ温度に溶けた指先と自分のそれとの境目がどこか曖昧に感じられて、男の輪郭を探すように握り返して応えるのと、最奥を抉られるのはほぼ同時のことだった。
     呼吸が軋む。繋がったそこも、それ以外もひどく熱い。耳元で鳴いているはずの寝台の音は他人事じみて遠く、かと思えば額に張りついた前髪の煩わしさがいやになまなましい。身じろぎの拍子に視界の端に掛かったそれを払うために軽くかぶりを振ったところを口付けられて、目を閉じたというのに目眩がした。
     酸素が足りない。思考の余白を十分に確保できなくなりつつある自身の体がもどかしく、然し不思議と心地好さに似た形のくるおしさが同時に胸裡を焦がしていく。
     わずかな息継ぎの合間、押し開けた視界を夜明け色のひとみが染める。この男の瞳に映ったあざやかな激情を、交わした酒杯を空にするように飲み乾してしまいたかった。
    「   」
     息継ぎのために開いたはずの唇が、本能に先んじて青の名を呼ぶ。足りない酸素よりもいまはただ、この男だけが欲しかった。


    ***
    20190413Sat.
    ふたりへのお題ったー
    (拓真と崚介へのお題:『「あなただけがほしい」』)
    ■とけゆく赤に

     熱く濡れた赤が夜のひかりににじむのが、ひどくうつくしいと思う。
    「っ、あ」
     抑えた動きで身を寄せてもうひとつ奥へと押し入った途端、反射でかわずかに反った喉のなめらかな輪郭線にくらりとした。胸をつらぬくような歌声を放つ声帯が寝台の上で掠れて揺れていることに、えも言われぬ情動と背徳感が込み上げて胸裡の軋む心地がする。
     知らずのうちに彼の首筋をあまく食んでいた唇はその気管の震えを宥めてやりたかったのか、その揺らぎをより近くで感じたかっただけなのかもわからない。ただ、熱い膚越しにおぼえる彼の呼吸の感触がひどく愛おしかった。
     浅く乱れた息の合間、低くひそやかな声が自身を呼ぶ。どうかしたのかと尋ねる代わりにおもてを上げて視線を向けると、名を呼んだきりなにも言わぬ彼のひとみがただ自身を映していた。
    「……本当に、君は、」
     自身にとっての生活必需品でもある眼鏡は寝室へ入ったところで早々に彼の手によって外されてしまっていて、かれのうつくしい赤を求めるならば自ずとそばへ寄ることを余儀なくされている。こうしてふれあうとき、彼が眼鏡を取り払いたがるのがそれを意図してのことなのか否かは未だにわからなかったけれども、なんにせよ衝動を煽るものであることには変わりない。
     彼の赤は熱に濡れてなおあざやかに意志を示して自身を呼ぶ。彼の呼吸がもう少し落ち着くまではと握り締めた手のひらを、わずかな間のあとに同じだけの強さと温度で握り返されて、目に映る赤がシグナルレッドに塗り変わる。警告にすら感じるほど、強くあざやかな赤。
     しなやかな下肢を押し開いて、まだ繋がることに不慣れな彼の体のより深くへと身を寄せた。繋がったそこも、それ以外もひどく熱い。
     彼の息の軋みに絡む寝台の鳴き声だけがいやに煩わしく、最奥で繋がったまま動きを止めて彼のうすい唇へ口付ける。口腔内で絡めた舌の熱さと柔さに目眩がした。
    「   」
     息継ぎの合間、生理的なものに濡れたひとみと口唇が自身を呼ぶ。くちびるだけでかたどられた音のない声は、然し確かな熱でもって自身を求めていた。胸を焦がすくるおしさに目を細める。
     彼の温度を分け与えられるたび、自己の内側のどこかが少しずつ溶けてゆくような心地がする。それはひそやかな雨音に似た雪解けの感触だった。


    ***
    20190413Sat.
    ふたりへのお題ったー
    (拓真と崚介へのお題:『きみに溶けてしまいたい』)
    ■ぬくもりのなまえ

     ふ、と、首筋になにかが掠めた感触で目が覚めた。緩慢に瞼を押し開ければ、まだ薄暗い寝室の窓辺が目に入る。無意識に身じろごうとして、――思うように体が動かないことに気がついた。
     背後から回された腕が、脇腹を抜けて臍のあたりにふれている。どうやら身じろぎに支障が出る程度にはしっかりと体を抱え込まれているらしい。そしておそらくいま首筋にふれているのは男の額と前髪で、耳朶を掠めるのはいまなお穏やかな寝息である。
     ゆるいまばたきをひとつ。あたたかい。
     無防備な体温を背中で感じながら、ふたりぶんの温度に温もった手に指先を重ねて、目を閉じた。その手にふれる自身の手が、ふれる前よりほんのわずか温度を高くしたように感じたのは気のせいだったろうか。


     ふと、額になにかが掠めるのを感じて目が覚めた。やわらかな浅いさざ波にたゆたっていたような意識を緩やかな速度で引き上げて、そっと瞼を押し開ける。――そこでようやく、自らが心地好く身を浸していた温もりの正体に気がついた。
     しなやかに研きあげられた彼の体を、無遠慮にも背後から思うさま抱き込んで眠っていたらしい。無意識とはいえ(否、無意識だからこそというべきか)少々気恥ずかしい。けれどもいまも変わらず無防備に腕のなかにある体温を手放したいとも思えず、言い訳がましく軽く身じろいだ拍子、彼の体の前に回していた手の甲にあたたかななにかがふれた。
     どこかいとけなくゆるんだ五指の温度が、自身のそれに沿うようにひそやかに馴染む。二、三、ゆるいまばたきを繰り返していた。……あたたかい。
     じわりと温む首筋は、ふたりぶんの温度を含んだ寝具のせいだ。次に目を覚ましたときの自分のために、声に出さず小さくそう呟いて、目を閉じた。



    ***
    20190418Thu.
    なっぱ(ふたば)▪️通販BOOTH Link Message Mute
    2019/05/10 22:36:57

    拓崚小ネタログ2

    人気作品アーカイブ入り (2019/05/27)

    #BLキャスト #拓崚 #R15

    没原稿供養だったりふんいき破廉恥だったりおねむでなかよしだったりするふたりの小ネタログ。
    まんなか2つが気持ちR15くらいのアレかもしれませんがそうたいしたものでもないような気もしている。
    拓崚はいいぞ…よいです…すき…

    ▪️

    2019/05/27
    アーカイブ入りありがとうございました!
    ぽちっと差し入れいただくたびに元気出ます……ありがとうございます……!

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    ##腐向け ##二次創作 ##Takuma*Ryosuke

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