ほのぼのな日常 第2話 ふたりの成長物語最初に記しとく設定。
ばあちゃん:かえでともみじの父方の祖母
じいちゃん:かえでともみじの父方の祖父
家族構成は、かえで、もみじ、母親、父親、ばあちゃん、じいちゃん、の6人
家は、二階建ての一戸建て、
ということで。
アタシはかえで。現在小学4年生。
勉強はちょっとだけ、ホントにちょっとだけ、苦手。
でも、スポーツは得意、だって大好きだから。
アタシには妹がいます。って言っても双子の妹。名前はもみじちゃん。
アタシは絶対にもみじちゃんがお姉さんだと思ってます。
けど、もみじちゃんはアタシがお姉さん、って言います。
それに、もみじちゃんは「お姉さん」が嬉しくないみたいで……。
だから、アタシがお姉さん、にしてます。
んふふ~、今日は学校で身体測定がありました!
アタシ、身体測定って大好きです。
だって、成長してるのが分かるから。
それに、もみじちゃんと比べっこするのが面白いから。
アタシともみじちゃんは『一卵性の双子』。
だから、身長とか体重とか、だいたい一緒。
でも、やっぱりちょっと違うから面白いです。
「ただいまー」
アタシは玄関のドアを勢いよく開けました。
「あら、お帰りなさい、かえでちゃん」
玄関にはちょうど、ばあちゃんがいました。
ばあちゃんはいつもにこにこしてて、いつもじいちゃんと仲良しで、それからいつだってとーっても優しいです。
アタシは、んしょっ、と靴を脱ぎました。ぽーん、と靴が飛んで玄関に落ちました。
靴はそのままで。アタシは気にしません。
でも、ばあちゃんに、
「かえでちゃん、
靴はそろえた方が良いわ」
って言われました。
「はい」
アタシは脱ぎ散らかした靴をちゃんと並べました。
「かえでちゃんはきちんとできる子なんだから、ね」
ばあちゃんはやっぱり優しいです。
リビングに入ってソファにぽいっ、とランドセルを投げます。
それからキッチンに向かいました。
キッチンではママが晩ごはんの用意をしてます。
「ママ、晩ごはん、なあに?」
そう言いつつ冷蔵庫からりんごジュースの紙パックを取り出しました。
もちろんそのまま飲みます。
「天ぷらよ、
こらっ、コップ使いなさい」
「はーい、
あ、そだ、もみじちゃん、帰ってる?」
ママは「まだよ」と言いました。
アタシはジュースの紙パックを冷蔵庫に戻しました。
ソファの上のランドセルを持って階段をかけ上がります。
二階に上がってふたつ目のドア。アタシともみじちゃんの部屋です。
かちゃっ、とドアを開けて部屋に入ります。
ランドセルをどさっ、と床に置きました。
もみじちゃんが帰ってこないと比べっこはできません。
んー、どうしよっかな? って考えてると、かちゃり、とドアが開きました。
「あ、かえでちゃん、
ただいま」
「おかえり、もみじちゃん!」
もみじちゃんはいつもちょっとちっちゃい声です。
それから、いつもちょっとぽややんとしてます。
そんなところ、とってももみじちゃんらしくて良いと思います。
もみじちゃんは学習机の椅子にランドセルをぽすっ、と置きました。
「ね、もみじちゃん、身体測定、どうだった?」
「え……、
えっと、この前よりおっきくなってた」
もみじちゃんはちょっぴりおろおろしながら言いました。
「じゃあ、比べっこ、しよっ」
「……うん」
アタシは床のランドセルから身体測定の冊子を取り出します。
もみじちゃんもランドセルから冊子を取り出しました。
もみじちゃんとならんで床に座って、冊子をならべます。
「んふふ~、どうなってるかなーっ」
なんだかどきどきしてきました。
もみじちゃんが冊子を開きました。
アタシも冊子を開きます。
「えっと、まずは身長。
んーと……、あ、もみじちゃんの方が5ミリおっきい」
「あ、ほんとだ」
別に何でもないことなんだけど、ちょっぴり悔しいです。
「次は体重……」
アタシのを見て、もみじちゃんのを見ます。
「えーっ! うそーっ!」
あたしの声にもみじちゃんがぴくっ、と驚きました。
もみじちゃんを驚かせちゃったのは悪いけど、でも、今はそんなのはどうでも良いです。
アタシの体重ともみじちゃんの体重は1kgも違いました。
アタシの方が1kg重たいです。
「えうー、ショック……」
「……えっと、ほら、かえでちゃんって運動いっぱいするから、
だから私より筋肉があるの。
筋肉って脂肪より重たいから……」
落ち込んでるアタシにもみじちゃんが言ってくれました。
「胸囲……、
……はふー」
胸囲を比べて、アタシはまた、くてん、てなりました。
「もみじちゃんの方が1.5センチおっきい……」
「えっと、えっと、
あ、あのねっ、かえでちゃんの身体、引き締まってるから、
ねっ、ねっ」
もみじちゃんが一生懸命フォローしてくれます。
体重はアタシの方が重いのに、おっぱいはもみじちゃんの方がおっきい、ってなんだかずるい。
でも、そんな事を言っても仕方ないです。
アタシは決めました。
「決めたっ!
アタシ、ダイエットするっ!」
えいっ! と気合を入れます。
「だい……えっと……?」
もみじちゃんはちょっとばかり戸惑ってます。
そんなもみじちゃんの手を取って力強く言います。
「そう! ダイエットするの!
おっぱいは仕方ないけど……、
体重を減らすの、もみじちゃんと一緒まで」
「う、うん……」
もみじちゃんはこくこく、とうなずいてくれました。
「じゃあ、ごはん減らして、ってママに言ってくるね」
アタシは部屋を飛び出してキッチンに走りました。
「ダイエット?
……だめ」
天ぷらを揚げながら、ママは言いました。
「えーっ! どうしてっ!」
アタシはこぶしを握り締めて言います。
「あのね、
かえでちゃんももみじちゃんも成長期なの。
分かる?」
「……う、うん」
アタシを見ながらのママの言葉に小さくうなずきます。
成長期なのは分かります。
「成長期なんだから、どんどんごはん食べて、どんどん大きくならないとだめ。
だから、ダイエットはだめ」
「……はーい」
アタシはしゅん、となってキッチンを離れました。
リビングにばあちゃんとじいちゃんがいました。
ばあちゃんとじいちゃんは、アタシとママの話を聞いてたみたいです。
「かえでちゃんもたいへんね。
でも、お母さんが言った通りよ。
どんどん食べないと、ね」
ばあちゃんにも言われちゃいました。
晩ごはんの時間。
うーん、どうしたら良いかな?
晩ごはんを食べながら考えます。
ダイエットしないと体重減らせないし……。
でも、ダイエットはだめって言われちゃったし……。
「あの、かえでちゃん、
これ食べてくれないかな?」
「ん?」
もみじちゃんはアタシよりちょっとしかごはんを食べません。
だから、おかずが多かったりしたら、アタシがもらっちゃいます。
「うん、天ぷらもーらいっ」
と、もみじちゃんの天ぷらにお箸をつけようとしたところで、ママとばあちゃんの言葉を思い出しました。
『どんどん食べて、どんどん大きくならないとだめ』
『どんどん食べないと、ね』
「あ、そっか……」
「……?
どうしたの? かえでちゃん」
もみじちゃんはきょとん、としてアタシを見ます。
「だめだめ、
これはもみじちゃんの天ぷらなんだから。
もみじちゃんが食べなくちゃ」
「う、うん……」
アタシの言葉にもみじちゃんはちょっと困ったような表情になりました。
それから、天ぷらにお箸を伸ばしました。
「あの、かえでちゃん……」
「ん? なあに?」
晩ごはんが終わって部屋に戻ったところで、もみじちゃんが話しかけてきました。
「あのね、
かえでちゃん、いつも……私のごはん、食べてもらってる。
だから、体重増えちゃったの……かな」
もみじちゃんは何だか済まなさそうにちっちゃい声で言います。
ちょっとびっくりしました。
だって、もみじちゃん、すっごくおどおどしてます。
「あっ、そんなことないよ、
そうじゃなくて、反対なの、反対」
「反対?」
もみじちゃんが不思議そうにアタシを見ます。
「うん、反対。
体重、アタシが1kg重いんじゃないの」
アタシはにっこり笑顔で言います。
「違うの?」
もみじちゃんはやっぱり不思議そうにアタシを見ました。
「そ、違うの。
アタシが1kg重いんじゃなくて、もみじちゃんが1kg軽いの」
もみじちゃんはちょっと考え込みます。
「……うん」
うなずいてくれました。
アタシは続けます。
「だから、
アタシの体重を減らすんじゃなくて、
もみじちゃんの体重を増やせば良いのよ」
「……えっと、……うん」
もみじちゃんはアタシの言葉をひとつずつ考えて、こくり、とうなずきました。
「だからね、
もみじちゃん、これからはいーっぱいごはん食べるの」
アタシはそう言って、机から鉛筆とレポート用紙を1枚、取りました。
「朝ごはんはいつも、パン1枚とサラダ、だよね?」
「うん、そう」
もみじちゃんが答えてくれます。
「んっと、じゃあ、明日からは、
パンを2枚にして、それから、目玉焼きもね」
「えっ」
もみじちゃんの驚き方はちょっと困った感じでした。
『朝ごはん、パン2枚、サラダ、目玉焼き』
鉛筆を走らせます。
「次はお昼ごはん、給食は……」
「あのね、おかず係さんに、ちょっと減らしてもらってる……」
アタシの言葉が止まりかけたところに、もみじちゃんが言ってくれました。
でも、減らすのは……、だめ。
「んと、減らすのはだめ、
これからはちょっと増やしてもらう」
「ええっ?!」
もみじちゃんは間違いなく困ってます。
でも、止めません。もみじちゃんの体重を増やさなきゃ。
レポート用紙に『給食、おかず増やす』と書きました。
「最後に晩ごはん。
もみじちゃん、いつもごはん1杯だけだよね?
これは『おかわりする』だね」
「……かえでちゃーん、
くすん」
アタシが顔を上げるともみじちゃんは本気で泣き出しそうになってました。
「私、そんなに食べられないよぉ……」
えっと、今度はアタシが困っちゃいます。
「……んっと、無理?」
「うん……」
もみじちゃんはちょっぴり涙を浮かべて小さくうなずきました。
んーと、もみじちゃんにイジワルなことしちゃったかな、って思いました。
だから、アタシはレポート用紙をくしゃくしゃに丸めて、ゴミ箱にぽいっ、て投げました。
だって、もみじちゃんが悲しくなるのは嫌だから。
「あの、もみじちゃん、ごめんね、
今までのは全部なし。
まずは、晩ごはんのおかず、もみじちゃんのはもみじちゃんが全部食べる、
これならどう?」
「……それだったら、がんばれると思う」
ちっちゃい声で、でも、もみじちゃんは言ってくれました。
「じゃあ、けってーい!」
アタシはにっこり笑顔で決めました。
もみじちゃんも、くすすっ、て笑顔になりました。
「かえでちゃーん、もみじちゃーん、
お風呂、入りなさーい」
一階からママの声が聞こえました。
「はーいっ」
ママの声に返事します。
「もみじちゃん、お風呂、入ろっ」
「うんっ」
アタシはもみじちゃんを見ました。
もみじちゃんは笑顔です。アタシも笑顔。
二人で、くすすっ、てちっちゃく笑いました。
それから……。
お風呂。
二人でお風呂の用意を始めました。
了