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    ほのぼのな日常 第17話 家出体験いたします先に記しとく設定。
     今出川乃那(いまでがわ のな):女性、高校生
     今出川京志(いまでがわ けいし):女性、乃那の母親
     今出川一司(いまでがわ かずし)男性、乃那の父親
     衣笠晶(きぬがさ あきら):男性、高校生
     衣笠律(きぬがさ りつ):男性、晶の父親
     衣笠命(きぬがさ みこと):女性、晶の母親
     乃那の家はマンション
     晶の家は二階建ての一戸建て、
     と言うことで。


     私は乃那、今出川乃那。
     現在、高校2年生。
     成績は中の上くらい。成績では苦労してない。
     学校に通う毎日が楽しい。
     理由、
     友達と何気ないおしゃべり。
     例えば恋愛の話。
     誰と誰がくっついたとか、誰と誰が別れちゃったとか。
     それから、……勉強が楽しい、って言うことにもしておく。
     でも、いちばんの理由は晶くん。
     ひとつ年下の幼馴染で私の彼氏。
     晶くんとは約束してた。
     『一緒の高校に通うようになったら付き合う』
     うちの高校、正直なところ晶くんには厳しかった。
     でも私は信じてた。晶くんは絶対に合格する。
     晶くんは一生懸命勉強して、私は手伝えるところを手伝って、晶くんはみごと合格した。
     だから約束通り。
     私と晶くんは恋人になった。
     高校生になった晶くん、入学したての時は勉強で苦労してた。
     何とか授業について行けてる、って感じ。
     だから、って言うか、私と一緒に勉強した。
     そうしてたら晶くんは勉強のコツをつかんで、その後はどんどんできるようになった。
     今の成績はけっこう良い感じ。

     そんな毎日のとある土曜日のお昼前。
     私は自分の部屋で勉強、予習をしてる。
     昼からはたぶんママとゲーム、対戦することになるから今のうちに。
     コンコンコンッ
     テンポの速いノックが3回、ママだ。
    「なに?」
     振り返る。
     ドアは開けてある。ママがいた。
    「乃那に提案」
     言いつつこっちに来る。何だか楽しそう。
    「提案?」
     こんなときのママ、絶対良い提案じゃない。
    「ん、そう。
     あのね、家出しよう、とか思わない?」
     やっぱり良い提案じゃない。
    「思わない。
     そもそも何で家出しなくちゃなんないの?」
     言い切ってから尋ねる。
    「親に反発して、とか。
     乃那も反発したいときってあるでしょ?」
     ママの言う通り。
     反発したいときなんていくらでもある。
     でも。
    「ママとパパなんだから、
     いちいち反発してたらきりがないじゃない」
    「そっか」
     ママ、素直に聞いてくれた?
    「でもさ、家出の経験って意外と役に立つかも」
     ……聞いてくれるわけないか。
    「て言うか、何で家出させたいわけ?」
     まともな答えが返ってくるとは思えないけど尋ねる。
    「うん、乃那に家出を体験させたい、ってのは本当」
     あ、本当だったんだ、今日のママ、真面目なのかな?
    「あと、乃那に遠慮なく夫婦の営み?」
     ママはさらっと言う。それ、娘に言うこと?
     やっぱり真面目じゃない。
     でもママが相手、私が家出したらたぶんいちばん丸く収まる。
    「はぁー、
     分かった。家出する」
     ため息をついてから返事した。
     ママはもちろん嬉しそう。
    「分かってくれた? じゃ、決定ー!」
     そう言って部屋から出て行った。パパのところに行くんだ。
     私も机から離れてキッチンに向かう。
     パパ、お昼ごはんの準備してるはず。
     キッチン、ママがはしゃいでる。
     ママの相手をしてるパパ、私に気づいてくれた。
    「乃那、本当に家出するのか?」
     パパは半信半疑。
    「うん、そうしないとママ納得してくれないし」
    「そっか、じゃあ家出するとして……」
     パパ、ちょっと考えてから。
    「家出するのは良いけど、どこに行く?」
     家出するのは良いの? と思ったけど、それよりも大事なこと忘れてた。
    「あ、そっか、
     どこ行ったら良いかな」
     私はすぐに思いつかないけど、ママはすぐに思いついた。
    「律のとこだったらどうかな?
     絶対に安心できる」
     ママはちょっと得意げ。
    「あ、律か、良いな」
     パパも良いらしい。
     私は……。
    「晶くんとこ? うん、良い」
     私の言葉を確認して、ママはケータイを取り出した。
    「律に電話、と……」
     ママが律おじさんに電話をかける。
    「あ、律、
     うん、京志。
     あのさ、ひとつお願い。
     乃那、家出するからひと晩預かって……」
     ママ、むう、と険しい顔になった。
    「律、何て?」
     尋ねたパパに答えた。
    「『あほ』って言われて切れた」
     うん、そうだよね。
     律おじさん、大人の対応。
    「じゃあ、俺から話す」
     今度はパパがケータイを取り出して律おじさんに電話。
    「律、あの、京志ごめん。
     うん、けど本当。
     うん、うん、
     悪いけど頼む。
     ……スーパーに4時、OK。
     じゃ、お願い」
     話が終わった。
     パパが私を見る。
    「スーパーに4時、
     命ちゃんが来るって」
    「了解。
     はぁー」
     パパに返事して、ため息が出た。
    「じゃあ、4時前に行くね」
     ママとパパに確認。
    「うん、
     まあ……、良い体験」
     パパが言ってくれた。
     続いてママが言った。
    「あ、乃那にお願い」
    「お願い?」
     ママの声は楽しみな雰囲気がいっぱい。
     絶対ロクなお願いじゃない。
    「制服、貸して」
     え? 制服?
    「制服って、学校の制服?」
     学校以外の制服は持ってない。
     だから学校のだ。
    「うん、貸して」
    「でも、制服なんてどうする……の?」
     ママに聞き返して『る』で分かった。
    「私が着る」
     やっぱり……。
    「乃那がいないから、いつもだったらできないことしたいな、とか」
     思うところをストレートに言うママ。
     『貸さない』って言っても最後は貸すことになる。間違いない。
    「分かった、貸す。
     でも、絶対に汚さないでね!」
     ママが着るのはもう良いとして、でも変な汚れはさすがに嫌。
    「OK、汚さない」
     ママの言葉にパパが付け加える。
    「乃那、大丈夫、
     汚れそうなことするときはもう脱いでるから」
     大丈夫じゃない。
     もうやだ、この両親……。
    「はぁー」
     何度目だろ、ため息が出た。

     お昼ごはんを食べた後、家出の準備を始めた。
     『家出の準備』、しかも『両親公認の家出』。
     何かすっごく間抜けなことしてる気がする。
     でも、律おじさんはOKだし、ってことは命おばさんもOKだから、もう家出するしかない。
     小ぶりのリュック、私のお気に入り、にパジャマとか着替えとかを入れた。
     これで準備はできあがり。
     家出って言っても晶くんとこに一泊するだけだから。
     午後。
     ママとゲームにはならなかった。
     だから、私は予習の続きをした。

     4時まであと20分になった。
     そろそろ良い時間かな?
     机に広げてる教科書とノートを片付ける。
     リュックを持って部屋を出た。
     リビングへ。
     ママとパパ、二人で映画見てた。
     すぐに私に気づいてくれた。
    「もう行く?」
    「うん、そろそろかなって」
     ママの問いに答える。
     パパが立ち上がって、ママも立ち上がった。
     二人で私を見送ってくれるらしい。
     玄関。
     スニーカーを履いて、リュックを背負った。
    「じゃあ、行ってきます」
     ママとパパに言う。
    「行ってらっしゃい」
    「乃那も楽しんできて」
     私を見送ってくれた。
     家を出て、スーパーに向かう。
     スーパーは私の家と晶くんの家の真ん中くらい。
     歩いて10分掛かるか掛からないか。
     4時に、って言ってたけどちょっと早く着きそう。
     スーパーの前に立つ、やっぱり早かったみたい。
     でも、すぐに命おばさんが来た。
     気づいたのは私が先。
    「命おばさん」
     すぐに気づいて私のところに来てくれた。
    「乃那ちゃん、ごめんね、
     待たせちゃった」
    「えと、ぜんぜん待ってません」
     命おばさんは笑顔。にこにこしてる。
    「乃那ちゃんが家出するって、びっくりしたわ」
    「すいません、両親そろって変なこと言って」
     小さく頭を下げる。
     でも、命おばさんはやっぱりにこにこで。
    「ううん、京志さんらしいし、一司さんらしいわ」
     命おばさんさすが。ママとパパのこと、よく分かってる。
    「それじゃ、晩ごはんのお買い物ね」
     命おばさんが歩き始めた。私は横にならぶ。
    「なに作るんですか?」
    「ハンバーグ、作ろうかなって」
     笑顔で答えてくれる。
    「もしかして……、全部手作りですか?」
     命おばさんだったらありえる。
    「ええ、乃那ちゃんが来るんだからね」
     さらっと言うけど、命おばさん、やっぱりすごい。
     ママとは大違い。
     スーパーに入る。カートにカゴを乗せて歩く。
     ハンバーグの材料、サラダの材料、他にも晩ごはん用に。
     加えて、デザートのぶどう。
     カゴがいっぱいになった。
     レジで支払いをして。
     荷物は大きめのレジ袋ふたつ。
     命おばさんと私とでひとつずつ持つ。
     二人ならんで歩き始めた

     おしゃべりをしながら10分くらい歩いて、命おばさんは帰宅、私は家出先に到着。
     家に入るとすぐに律おじさんと晶くんが玄関に来てくれた。
    「乃那さん、家出したって?」
    「京志と一司に振り回されたな」
     晶くんも律おじさんも笑顔。歓迎してくれてる。
     でも、歓迎される家出? やっぱり変だ。
     命おばさんと私はキッチンへ。
     レジ袋の中身を出して料理スタート。
     命おばさんと一緒にごはんを作る。
     何か良く分からないけど、嬉しいって思う。
    「ふふっ、乃那ちゃんと一緒にごはん作るって、
     なんだか嬉しいわ」
     命おばさんもらしい。にこにこで言ってくれた。
     ごはんの用意。二人でおしゃべりしながらの楽しい時間。
     メインディッシュのハンバーグ、それにサラダ、他にもいろいろ、ができあがって。
     テーブルに料理をならべて、晩ごはんの準備完了。
    「律くん、晶くん、
     ごはんにしましょ」
     命おばさんの声に、テレビを見てた律おじさんと晶くんが反応した。
     待ってました、とテーブルに来ようとするんだけど。
    「手、洗ってね」
     命おばさんの言葉で洗面所に向かった。
     律おじさんと晶くんが手を洗ってきて。
     4人でテーブルを囲んだ。
     『いただきます』をして、晩ごはんが始まった。
    「命さん、今日はいつも以上に美味しいね」
     律おじさん、嬉しそう。にこにこしてる。
    「乃那ちゃんと一緒に作ったからね。
     いつもより特別よ」
     命おばさんは私を見て笑顔。
     なんだか照れくさい。
     ごはんを食べながら楽しいおしゃべり。
     食べるのもおしゃべりも楽しい時間がすぎる。
     ごはんを食べ終えて、デザートも食べて。
     みんなで『ごちそうさま』をした。
     食器をキッチンに運んで後片付け。
     もちろん、命おばさんと私で。
     炊事は命おばさんの役割。
     だから、律おじさんも晶くんも入っちゃだめ。
     そう言う決まり。
     でも、私は命おばさんの隣に立てる。
     それって嬉しい。
    「命おばさんってどうしてこんなにすごいんですか?
     ママと比べたら、ママ、もうちょっとどうにかならないかな、って思っちゃいます」
     命おばさんはやっぱり笑顔で答えてくれた。
    「ふふっ、乃那ちゃん、京志さんはとってもすごいのよ。
     乃那ちゃんはいつも見てるから、逆に分からないのかな?
     私は京志さん、かっこいいな、って思うわ」
     そう言ってくれたけど……。
     うん、私には分からない。
     後片付けが終わって、また4人でおしゃべり。

     おしゃべりをしてたらお風呂の時間になった。
     お風呂、私がいちばんに入ることになった。
     リュックからパジャマと下着を取り出して、タオルは命おばさんが用意してくれた。
     脱衣場で服を脱いで、浴室に入る。
     髪を洗って、体を洗って、湯船に体を沈めた。
     お湯に浸かるとじんわりと体が温もってくる。
     体をしっかりと温めたら、ちょっと温めすぎた。
     ほこほこの体になってお風呂を済ませた。
     リビングに戻る途中で晶くんの声。
    「客間じゃないの?!」
     どうしたんだろ?
     リビングに戻ると、晶くんが命おばさんからお布団、敷布団を受け取ってた。
    「乃那ちゃんなんだから、晶くんの部屋に決まってるでしょ」
     そう言って命おばさんは奥の部屋に向かう。
     掛け布団を取りに行ったのかな?
    「あのさ、間違いがあったらどうするんだよ!」
    「間違いが起こるのか?」
     晶くんの言葉に律おじさんが質問で答える。
    「起こらないけど心配してよ!」
     律おじさんを向いて、晶くんは必死で? 訴える。
     そんなやり取りのすぐ後、命おばさんが掛け布団とその上に枕、を持ってきた。
    「あらあら、晶くん、
     『間違い』なんて言ったら悲しいわ。
     晶くんは乃那ちゃんが大好き」
    「う、うん」
     命おばさんの言葉を晶くんが認める。
    「それに、乃那ちゃんは晶くんが大好き」
     命おばさんが私を見る。
    「えと、はい」
     私の返事、もちろんなんだけど言葉にするとちょっと恥ずかしい。
    「!」
     その言葉で、晶くんは私に気づいた。
     でも、私を見ようとするけど視線を向けられない、そんな感じ。
     晶くんと私を改めて順に見て、命おばさんが言う。
    「だったら『間違い』なんかじゃないわ。
     セックスはとっても素敵なことよ」
     晶くんは言い返せない。
     私は命おばさんの言葉、嬉しい、って思った。
    「じゃあ、乃那ちゃん、
     お布団、持ってもらって良い?」
    「あ、はい」
     命おばさんから掛け布団を受け取った。
     それから、晶くんと一緒に階段に向かうんだけど……。
     そうだ。
    「命おばさん、律おじさん、
     おやすみなさい」
     お布団を持ったままで頭をぺこり。
    「そうね、おやすみなさい」
    「うん、おやすみ」
     命おばさんと律おじさんが答えてくれた。
     晶くんと二人、改めて階段へ。
     階段を上り始めたところで律おじさんの声。
    「晶、スキンあるな?」
     律おじさんの言葉に晶くんが反射的に答えた。
    「持ってる!
     あ……」
     晶くん、言っちゃった。
     真っ赤になった顔を私に向けた。
     私は苦笑い。

     二階に上がって、晶くんの部屋に。
     お布団はとりあえず部屋の端に置いた。
    「んっと、僕も風呂、入ってくる」
     タンスからパジャマを取り出して、晶くんは一階に戻って行った。
     晶くんの部屋。
     時々、来てるから特に珍しいことはないけど、お泊りは初めて。
     そう考えると何か新鮮。
     部屋の中を見回してたらすぐに時間が経った。
    「おまたせ」
     晶くんがお風呂から戻ってきた。
     ほこほこになってる。
    「おかえり、で良いかな?」
     目が合う。
     二人で小さく笑った。
    「そうだ、勉強見てもらっても良いかな?」
    「うん」
     即答する。
     晶くんはかばんから教科書とノート、それにプリントを取り出した。
     二人で床に座り込んで向かい合う。
     間に教科書とノートとプリント。
    「これが分かんない。
     教科書にも載ってないし……」
     困りきった声で質問。
     私はプリントを見て、教科書を見て。
    「これね、
     えっと、これってちょっと前にあるの」
     教科書のページをめくる。
     晶くんが開いたところのちょっと前。
    「これ」
     私が指したところに晶くんが困ってた問題の答え。
    「あー、そっか、
     こっち見なきゃならないんだ」
     なるほど、って感じの声。
     そんな感じでいくつか解き終わったら、良い時間になってた。
    「……そろそろ寝よっか?」
     私から提案。
    「だね」
     これで決まり。
     床に広がってた教科書とかを片付けた。
     部屋の端に置いてたお布団。
     敷布団を敷いて、掛け布団を広げて、枕をセットした。
     これで良し。
    「もう消しても良いかな?」
     明かりのスイッチに指を触れてる晶くん。
    「うん」
     言ってからお布団に入った。
     パチン、と明かりが消えた。
     部屋の中はカーテンの隙間から入ってくるかすかな光だけ。
     その光を頼りにして、晶くんはベッドに上がった。
     言葉がとぎれて音がなくなった。
     私が話を始めた。
    「命おばさんってかっこいいね、
     それに、律おじさんも……」
     思ってることを正直に言葉にした。
     間を置いて晶くんの声が返ってきた。
    「そうかな?
     僕には……、『かっこいい』ってのは分かんないです」
    「そっか、
     でも、私はかっこいいって思う」
     また間が空く。
    「僕は京志さんと一司さんの方がかっこいいって思います」
    「ママとパパ?
     あれはかっこよくなんかない、うん、絶対」
     晶くん、考えてるのかな?
     少しして。
    「そうですか?
     何でもはっきり言葉にできるって良いと思います」
     確かに。
     でも言いすぎだと思う。
    「それは……、そうよね。
     はっきりと言葉にする。
     でも、程度問題って言ったら良いのかな?
     言いすぎって言うか……。
     もうちょっと言わないで、って思うことがある」
    「そうなんですか?」
     晶くんは不思議そう。
    「娘の前でいちゃいちゃするのは当たり前、抱き合うなんて基本、
     それくらいだったらまだ許せるけど、
     それ以上のことだって平気。
     『もうやだこの両親』ってしょっちゅう思ってる」
    「京志さんと一司さんらしいですね」
     うん、ママとパパらしい。
     また音がなくなった。
     少しして。
     今度は晶くんから。
    「あの、ごめんなさい、母さんと父さん」
     晶くん謝ってるけど、何のこと?
    「えっと、何が?」
    「その、『間違い』じゃないって……」
     なるほど、そのこと。
    「ううん、嬉しかった」
    「嬉しい、ですか?」
     晶くんの問い、どう言うこと? って戸惑ってる感じ。
    「命おばさんも律おじさんも信頼してくれてる、って言うのかな、
     絶対に大丈夫って」
    「うーん、そうなのかな……」
     晶くんは考え込む。
     そんな晶くんに、私は私の気持ちを言葉にした。
    「それに、絶対に大丈夫でしょ?
     晶くん、ちゃんと避妊してくれるから」
    「!」
     晶くんの体がびくっ、て揺れたみたい。
    「それって嬉しいことだよ。
     だから晶くん、やっぱり優しいな、って」
     言葉が返ってこない。
     だからもうひとこと。
    「ね、両親公認なんだから、
     思い切ってしちゃおっか?」
    「!」
     またびくってした。
     少しして晶くんが話し始めた。
    「それは……、
     父さんと母さんに負けたことになっちゃいます。
     だから悔しいから、その、……したくないです」
     うん、晶くんらしい。
    「じゃあ、一緒に寝るだけ、ね」
    「えっ?!」
     返事を待たずにお布団から出てベッドに上がった。
     晶くんの体をちょっとばかり乱暴に寄せつつお布団に入る。
    「良いよね?」
     尋ねるけど、『はい』か『Yes』で答えて、だ。
    「……はい」
     うん、嬉しい答え。
     お話し再開。
    「晶くん、いつも私のこと大事にしてくれるね」
    「そうですか?
     僕は当たり前のこと、してるつもりです」
     だよね、晶くんらしい。
    「でも、それって嬉しいことだよ」
    「えっと、つまり……」
     困惑してる晶くんに向けて、気持ちを言葉にする。
    「晶くんが大好き、ってこと」
    「!」
     またびくってして、言葉が返ってこない。
     ……思い切って聞いちゃおう。
    「晶くんはどう思ってるのかな? 私のこと」
     ちょっとして、晶くんの声。
    「その……、
     僕も乃那さんが大好き、……です」
     いちばん嬉しい答え。
    「相思相愛、
     最強だね」
    「そう……、ですね」
     晶くんも思ってくれてるみたい。
     だからもう少し言ってみる。
    「私が寝てる間にしても良いことルール、作る?」
    「何もしませんよ?」
     やっぱり優しい。
    「じゃあ、晶くんが寝てる間にしても良いことルール、は?」
     すぐに答えが返ってきた。
    「寝てる間に、は嬉しくないです。
     二人で起きてるときが良いです」
     晶くんらしい答え。
    「晶くん、やっぱり優しい」
     そんなことを話してるうちに眠たくなってきて。
     晶くんも眠たくなってるみたいで。
     今日は命おばさんといっぱい話せたし、律おじさんともいっぱい話せた。
     もちろん晶くんともすっごくいっぱい。
     だから、たまには家出も悪くないかな、なんて思ってるうちに眠りに沈んでいった。

     眠りの暗い中から意識が浮かび上がる。
     ゆっくりと眠りから覚め始める。
     いつもと同じ朝、……じゃない!
     私のお布団じゃなくって、私の部屋でもなくって……。
     目が覚めてくると分かってきた。
     晶くんのお布団で、晶くんの部屋だ。
     それと……、家出したんだっけ。
     状況を把握できた。
     もぞもぞと体を動かす。
     すぐ隣に晶くんがいる。
     まだぐっすり眠ってる。
     晶くんの顔、安心しきってて、リラックスしまくってて、ちょっと緩んでる。
     うん、カワイイ。
     でも……、高校生の男の子に「カワイイ」はだめかな?
     晶くんを観察。
     時々、もぞもぞ動いて、
     でも、まだ目を覚ましそうじゃない。
     顔をじっくり見る。
     おでこ、まぶた、ほっぺ、くちびる……。
     どこも魅力的。
     キス、しちゃおっかな?
     ふと思った。
     くちびるはだめとして、ほっぺだったら良いかな?
     ……、
     ううん、だめ。
     『寝てる間に、は嬉しくない』って言ってた。
     それに、『二人で起きてる時が良い』って言ってた。
     だから、がまんがまん。
     観察を始めていくらか経った後、晶くんのもぞもぞが強くなってきた。
     強くなってきたもぞもぞが止まって、うーん、って感じで伸び。
     起きたみたい。
     ごそごそと動いたら、私を向くことになった。
     私の視線と、晶くんのまだぼーっとしてる視線が合った。
     状況を分かってない晶くん、私を見て分かり始めた。
     私がすぐ横にいる。
     分かってくれた。
     晶くんは視線をそらした。
     顔が少しばかり赤くなった。
    「おはよっ」
     笑顔で朝のあいさつ。
    「……おはようございます」
     何だか照れてるみたいな、困ってるみたいな、そんな感じで言ってくれた。
     晶くんが起きたし、お布団から出よう。
     二人一緒のお布団から離れるのは残念。
     でも朝だ、起きないと。
     私がお布団から出て、晶くんが続いた。
     うーん、って伸びをした。体が伸びて気持ち良い。
     あ、そうだ、どうしたら良いんだろ?
     晶くんを向いた。
    「朝ごはん、……だよね?」
    「えと、はい」
     短い言葉が返ってきた。
    「パジャマのままで良いかな?
     着替えた方が良いかな?」
     晶くんは私の問いになるほど、って納得してくれた。
    「いつも着替えてから、です。
     ……じゃあ、出てますね」
     教えてくれてから、晶くんは部屋から出た。
     やっぱり優しい。
     リュックから服を出して手早く着替える。
     着替えを終わらせて、ドアを開けた。
    「交代ね」
     私に替わって晶くんが部屋に。
     着替えを済ませた晶くんがすぐに出てきた。
    「お待たせしました」
     晶くんの服、いつもだけど似合ってる。
    「うん、良い感じ」
     私も晶くんも笑顔になった。

     一階に下りる。
     テーブルに律おじさんがいた。
    「おはようございます」
    「おはよ」
     二人で朝のあいさつ。
    「おはよう、
     乃那ちゃん、しっかり眠れた?」
    「はい、しっかり寝ました」
     律おじさんに笑顔で答える。
     命おばさんがこっちに来た。
    「あら、おはよう」
     にっこり笑顔の命おばさんに答える。
    「おはようございます」
    「おはよ、母さん」
     命おばさんにつられて改めて笑顔になった。
    「乃那ちゃんはごはんとパン、どっちが良いかな?」
     そう聞かれたけたんだけど……。
    「選べるんですか?」
     聞き返した。
    「そう、律くんと晶くんはごはん、私はパンなの」
     なるほど。
    「じゃあ、パン、お願いします」
    「パンね、
     ちょっと待ってね」
     そう言って命おばさんは戻っていった。
    「乃那さん、座って」
     命おばさんの背中を見てたら、晶くんが席をすすめてくれた。
    「ありがと」
     晶くんにお礼を言って腰を下ろした。
     少しして、命おばさんがテーブルに来た。
     晶くんと律おじさんの前に茶碗がならぶ。
     ごはんから湯気が上がってて美味しそう。
     次に私の前にトーストのお皿。
     トーストのお皿はもうひとつあって、つまり命おばさんの分。
     命おばさんが席について、みんなで『いただきます』をする。
     朝ごはん、晶くんと律おじさんはごはんとおみそ汁、それにお漬物。
     命おばさんと私はトーストにバターといちごジャム、加えてヨーグルト。
     ごはんを食べながらやっぱり楽しいおしゃべり。
     しっかりと食べ終わったら4人で『ごちそうさま』。
     食器をキッチンに運んだ。
     ここから先は命おばさんの役目。
     晶くんと律おじさんは入っちゃだめ。でも、私は良い。
    「手伝います」
     命おばさんの隣に立つ。
    「ありがとう」
     笑顔で言ってくれる。
     二人で朝ごはんの後片付け。
    「乃那ちゃんと一緒、何だか楽しいわ」
    「私もです」
     おしゃべりしながら食器を片付けていく。
     全部片付け終わって。
     命おばさんは食器棚からカップを4つ取り出した。
    「えっと……」
    「コーヒーね。インスタントだけど」
     教えてくれた。
    「乃那ちゃん、お砂糖とミルクは?」
    「ミルクだけ、お願いします」
     インスタントコーヒーをカップにひとさじずつ。
     続いてお砂糖とミルク。
     ひとつめのカップにはどちらも入れず、ブラック。
     ふたつめと3つめはミルクだけ。
     4つめはお砂糖だけ。
     ポットからお湯をそそいで、できあがり。
     命おばさんと私、カップをふたつずつ持ってテーブルへ。
     お砂糖だけのは律おじさんに。
     ミルクだけのは晶くんと私。
     ブラックは命おばさんだった。
     コーヒーを飲みながらまた楽しいおしゃべり。
     いつもこんな感じなのかな? って尋ねたら、今日はちょっと特別、って晶くんが言ってくれた。

     朝が終わるくらいの時間。
     リビングでくつろいでた律おじさんのケータイが鳴った。
     ケータイを取って話し始める。
    「ん?
     うん、うん、
     分かった、
     了解」
     話はすぐに終わった。
    「一司から、これから来るって」
     律おじさんの言葉。
    「パパと、……ママもですよね?」
    「うん、
     一司、何か嬉しそうな感じ」
     そう教えてくれた。
     『嬉しそう』?
     どういうことだろ?
    「それじゃ、お昼ごはん、どうしましょう?」
     命おばさんが困惑気味になる。
    「命さんの基準で『簡単に』でお願いできるかな?」
     律おじさんが命おばさんに。
    「そうですね、簡単に作ります」
     命おばさんに笑顔が戻った。
     でも『命おばさんの基準』ってどう言うことなんだろ?

     それから少しして。
    「やほー」
    「こんちわー」
     ママとパパが来た。
     二人ともにこにこしてる。
     律おじさんが言った通り、何だか嬉しそう。
     玄関で二人を迎えてリビングに戻る。
     途中で命おばさんはキッチンへ。
     リビング、まずは腰を下ろす。
    「乃那、預かってくれてありがと」
     パパが律おじさんにお礼。
    「うん、おかげで楽しめた」
     ママが付け加える。
     『楽しめた』。
     そう言うこと。それでにこにこしてるんだ。
    「乃那もありがと、
     制服、アイロンかけておいたから」
     パパが私に言ってくれた。
    「うん、
     で、汚れてないよね?」
    「それは大丈夫、
     ちゃんと脱いだから」
     ママが答えてくれた。
     脱いだんだ……。
    「はぁー」
     しっかりしたため息が出た。
     律おじさんはあきれ顔、晶くんは苦笑い。
     ……ですよね。
    「でも制服って良いね。
     雰囲気がぜんぜん変わる」
     ママがさらに言う。
    「もーっ!
     娘の前で言わないでよ!」
     なんて言ってもママには効果なし。間違いない。
     このやり取りに律おじさんはやっぱりあきれてる。
     晶くんは……、顔を赤くしてうつむいてた。
     ……だよね。
     そんな話をしてるところに、命おばさんがお茶を用意してくれた。
     命おばさんからみんなに湯のみがまわって。
     6人でおしゃべりスタート。
     何てことのない話もあるし、ママとパパ、それに律おじさんと命おばさんの4人で仕事の話を真剣に、もあった。
     おしゃべりしてると時間が経つのはすぐ。
     時計を見た命おばさんが席を離れた。
     きっとお昼ごはんの用意。
     だから私は命おばさんを追った。
    「命おばさん、私も」
     命おばさんにならぶ。
    「ありがとう、
     乃那ちゃんって本当に気遣いが上手ね」
     笑顔で言ってくれた。
     命おばさんに褒められると、くすぐったい感じに嬉しい。
    「なに作るんですか?」
    「お買い物に行ってないから……、
     あるもので何か作りましょう」
     そう言って、まず冷蔵庫を開けた。
     肉がいくらか、野菜は十分。
     棚、乾物が入ってる棚かな、からパスタを取り出した。
    「スープスパにしましょう」
     メニューが決まった。
     二人で材料の下ごしらえをして、パスタを茹でて、スープを作る。
     茹で上がったパスタにスープを絡ませて完成。
     食器棚から取り出したお皿に盛り付けた。
    「良い時間ね」
     命おばさんが時計を見て言った。
     私も時計を見る。
     もうすぐお昼、ちょうど良い時間。
    「お昼ごはんにしましょう」
     命おばさんがリビングに声をかける。
    「はーい」
     晶くんが返事をして4人が立ち上がった。
     こっちに来ようとしたところに、
    「手、洗ってからね」
     晶くんたちは洗面所に向かった。
     きちんと手を洗って、みんなでテーブルを囲んだ。
     『いただきます』をしてパスタに手を伸ばす。
     美味しい、さすが命おばさん。
     おしゃべりしながらパスタを食べる。
     みんなで食べて楽しいから余計に美味しいのかな。
     お昼ごはんを食べ終えて、命おばさんがコーヒーを入れてくれた。
     コーヒーを飲みながらまたおしゃべり。
     本当に楽しい。
     そうこうしてるうちに十分に午後になった。
     ママとパパの視線が一瞬合った。
    「じゃ、そろそろおいとま」
    「だね」
     と、ママとパパ。
    「え、もう帰っちゃうんですか?」
     命おばさんが言ったんだけど、
    「このままいたら、晩ごはんまでごちそうになっちゃうからね」
     ママが命おばさんに言った。
     続けて私に、
    「乃那はどうする? もう一泊する?」
     と尋ねてきた。
    「うん、乃那ちゃんもう一泊、
     良いよね?」
    「もちろんです」
     律おじさんの言葉に命さんが返事する。
    「晶も良いな」
     晶くんにも確認。
    「僕は良いけど……、
     でも乃那さんは?」
     私を気遣ってくれた。
     命おばさんも私を見る。
    「今日はこれで帰ります。
     でも、またこんど、お願いします」
     命おばさんたちに言った。
     ママ、パパと私は帰ることになって、
    「あ、そうだ、リュック」
     二階に上がって、晶くんの部屋からリュックを取ってきた。
     玄関に移動。
    「乃那ちゃん、またおいで」
    「そうよ、いつでも待ってるから」
    「僕もいつでもOK」
     律おじさん、命おばさん、それに晶くんが言ってくれた。
    「じゃあ、ありがとうございました」
     私はぺこりと頭を下げた。
     パパは軽く一礼して、ママは小さく手を振って、外に出る。
     3人に見送られて、晶くんの家をあとにした。

     家への帰り道。
     何となく寂しく感じた。
     楽しい一泊だったからかな。
     とか考えてるところにママが言った。
    「で、晶くんとした?」
    「!」
     突然の言葉。
     でもママだったら言いそうなこと。
    「してません!」
     全力で否定。
     本当にしてないんだから。
    「そっか、
     次の課題だね」
     さらっと言われた。
     言われっぱなしは悔しい。
     だから私も質問。
    「ママとパパはどうだったの?」
    「ん? 聞きたい?」
     あ、失敗した。
     聞くんじゃなかった。
    「聞きたくない!」
     にこにこなママから目をそらした。
     3人で家へと歩く。
     私、本当に家出したのかな?
     疑問が浮かんだ。
     本物の家出ってもっと大変なことだよね?
     でもこんな家出も良いかな。
     そう思った。


      了
    混沌野郎 Link Message Mute
    2023/02/15 19:10:56

    ほのぼのな日常 第17話 家出体験いたします

    京志さんの提案(策略?)で家出することになった乃那さん。
    安心できる家出先、晶くんの家に一泊することになりまして。
    尊敬する命さんとの時間、恋人の晶くんのと時間。
    家出ってもしかして楽しいかも……。そんなお話。

    #オリジナル #創作 #ほのぼの #高校生 #青春

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