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    二匹の友達の話。ロボとブランカ。
    イギリスで出会った僕の友達だ。
    優しくて、賢くて、人懐っこい。すぐに友達になれた。
    子どもの僕に与えられた仕事が彼等の散歩だった。どちらかと言うと利口な彼等が僕に街を教えてくれたと言った方が正しい。迷子になると二匹がいつもこっちだよと帰り道を教えてくれた。
    アパートの中はいつも笑いに溢れて賑やかで、楽しくて、たえず誰かがいた。皆で食事を囲むのがルール。ご飯を作るのは当番制だった。最初は何も作れなかったけれど、教えられるうちに何でも作れるようになると楽しかった。腕をあげたなと言われるのが嬉しかった。するともっと難しい料理を教えてくれた。楽しかった。こんなに楽しくていいのかな、と思う程に楽しかった。
    楽しかったけれど、楽しかったから、誰にも胸の内を吐き出すことはできなかった。
    だって原因は何であれ、壊したのは僕だった。
    母を、家族を、日常を、壊したのは僕だ。
    そんな僕がこんな異国の地で、こんな楽しい思いをしていていいのだろうか。
    ふと巣食った不安は簡単に増幅して、夢で僕を脅かした。
    あれは、怖い夜を見て魘されたあの日。例えば眠れなくなってしまったあの夜。ひとりで心細くなった日もあった。そういう日は決まって二匹と書斎で夜を過ごした。
    心配そうな顔をする叔父さんに笑顔でおやすみなさいと口にして戸を閉めると、小さな書斎は僕らだけの世界だった。
    叔父さんは本が好きだった。書斎には英語の本もあれば、日本語のものもあった。毎日読んでも読み終わらないほどの本があった。僕が本を好きらしいと知れば、あれもこれもと買い与えてくれた。
    それから暫くして、僕は皆にすごく怒られて、すごく心配をかけた。
    甘いココアとマシュマロ。異国で出来た家族。二匹の友人。僕の大切な宝物になった。
    僕の日本が暮らす部屋には当時おじさんに持っていきなさいと渡された本がある。
    僕は記憶力がいい。忘れることはない。見たものは全て脳みその指定された場所に収納されて、好きに取り出して再生できる。だから、内容だって忘れない。でもあの夜に読んだ分厚いハードカーバーや、キラキラと箔押しで施されたファンタジーのワクワクするような表紙の手触り。二匹に埋もれながら読んだ思い出は、記憶じゃなくて、手元に形として置きたかった。
    それが、此処の部屋に置いた最初の本だった。


    かくん、と頭が落ちて、目が覚めた。
    「—————————あれ、」
    視界に入ったのは本。ローテーブルの上に空のマグカップ。少し視線をずらすと深町くんと目が合った。
    「あ、起こしちゃいました?」
    「………寝てた?」
    「寝てましたよ」
    「ええ………うそ、ごめんね……」
    「いや、別にいいですけど」
    いいのか。
    「気持ちよさそうに寝てたので」
    「起こしてくれてよかったのに」
    身体の半分があたたかい。人に触れていた体温だ。ぐっと身体を伸ばしているこの子を見るに凭れて寝ていたのだろう。悪い事をしたと思うが、何となくそのままにしていてくれたのは少し嬉しい。
    ふと、膝の上に置いたままだった本の表紙が目に入った。タイトルを指で撫でた。色褪せたハードカバー。古い本だった。
    「………なんか、懐かしい夢を見た気がする」
    「どんな夢ですか?」
    見上げてきたこの子の黒い瞳が夢にみた犬と重なる。美しい黒い毛並みをした優しいあの子。

    Xyuzu_kinox Link Message Mute
    2022/06/21 21:00:58

    二匹の友達の話。

    #高深 #彰尚

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