8巻感想②僕たちの家庭環境はそれぞれに複雑だ。
義務教育のような密に関わる教員ほどではないが、学生と関わる身の上になったからわかるのだが家庭環境に普通という言葉はすこし難しい。問題は色々とあるが、とくに日本の大学はとにかくお金がかかる。お金の問題以外にも勿論、色々ある。込み入った話は研究室に入った学生としか話さないが、それでも十人十色だ。問題を抱えていない人間なんていないのだろう、とは思う。
それでも。
僕たちが抱えている問題はどうしたって異色だった。
他人には理解されない経験をし、
他人には言えない傷を持ち、
他人にはない能力を得て、
普通の人間が歩む道筋から外れた存在になった。
肉親から、友人から、忌避され、疎まれ、侮蔑され、憎まれ、揶揄され、嫌悪された。
比べることではない。それでも、僕はまだよかった、とこの子を見ていると思う時がある。
結果的に僕のせいで壊れてしまったとはいえ、母は母なりのやり方で僕の変化を受け入れ、愛してくれていた。
そして叔父という逃げ場を与えてくれた。
肉親からはもう家の敷居をまたぐなと言われたが、これ以上ない程の金額の補助を得た。住む場所だってある。
なにより、親友がいた。ぶっきらぼうで面倒見のいい健司は何一つ変わらなかった。僕がこうなっても、家族が壊れても、イギリスに行っても、何も変わらなかった。少し過保護になってしまったけれど、それでも、いちばんの友達だった。
この子は、何一つもっていなかった。
ただ、頑なに己の殻に閉じこもり、他人から距離を置くことで心を守った。その過去に触れる度にどうしようもない気持ちになるんだ。