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    空気が読める難波くんノックを二回。中から「どうぞ~」と声がして取っ手に手をかけた。

    訪れるのは今日で三回目だ。何やら相談したいことがあるらしい。俺は楽しい事が好きだし、顔も広い。つい安請け合いをしてしまうのだが、珍しく深町からの頼み事に内容も聞かないままオッケーを出した。世話になっているのでノーなんて言えるわけがないと胸を張るとせめて用件を聞けと呆れられた。そもそも俺じゃなくて先生からのお願いらしい。尚更ノーなんて言えない。だって相手は命の恩人だ。
    待ち合わせは俺の講義が最終まで詰まっていたので少し遅くなってしまった。
    此処を訪れるのは呪いの手紙をもらった時と、百物語をした後に入ったことがあるだけだ。教授の研究室なんてものには三年生になってゼミに入って、それから漸く入るきっかけがあるもんだと思っていた。だって先生に用事なんてないし。
    だから、深町が高槻先生のアルバイトをしていると聞いた時は驚いた。
    青和大学の名物准教授とそこまでコンタクトがある奴なんて早々居ない。
    しかも、アルバイト内容が、先生が運営しているHPにくるちょっと——いや、だいぶか?——の曰くつきの相談の付き添いだというから二度驚いた。そして、講義中はあんなに紳士で、話が分かりやすくてしかも面白くて、絵がちょっと下手なのが逆に女子に可愛いとウケる先生が、実は怪異と聞くや否や我を忘れて迫ってくるような人だと知って、更に驚いた。驚く事ばっかりだったのでもう驚くことはないだろう、そう思っていたのだが。
    扉を開けたその先で俺はまた驚くことになった。

    高槻彰良の研究室は壁一面を本棚が囲み、中央に大きな丸テーブルがある。そしてパイプ椅子が並ぶ。パイプ椅子に座るのは見知った顔が二人。もちろん、研究室の主である高槻先生と、それから同期の友人である深町。それは想定していたのだが。
    「やぁ、いらっしゃい。難波くん」
    そういつもの様に先生は出迎えてくれた。爽やかな笑顔のオプション付きだ。
    「————深町、寝てるんですか?」
    思わず小声で話しかけてしまった。それくらい気持ちよさそうな顔をして寝ている。
    「そ。寝ちゃった」
    本を抱えたまま、寝息を立てている友人は先生の肩に頭を預けて夢の中だ。さっきまで授業を受けていた俺を差し置いていい御身分である。
    「先生、その体勢痛くないんですか」
    「んー、起こすに起こせなくって」
    苦笑した笑い方にそこまで深町に気を遣わなくても……と思わなくもない。まぁ、確かに健やかな寝顔ではあるが、机に突っ伏して寝かしてやればよかったのでは? などと思いながら手短にあったパイプ椅子に手を伸ばした。
    「そうっすか」
    「昨日、遅かったしねぇ」
    「………はぁ」
    「でも、もう起こさないといけないね」
    その顔には、ちょっと残念だなぁと書いてあった気がしたのを俺は、気付かないフリをした。


    Xyuzu_kinox Link Message Mute
    2022/07/06 21:51:41

    空気が読める難波くん

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    #高深 #彰尚

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