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    悪夢のはなし—————————ふ、と。眠りから思考が上がる瞬間がある。睡眠は深い眠りと浅い眠りを繰り返すという。浅い眠りの時に人は、夢を垣間見たり、金縛りにあったりする。
    眠りの浅瀬からまた、深い眠りの海へ誘われながら寝返りをうった。
    「———————、」
    あれ、と思った。
    淡いオレンジ色。間接照明。ぼんやりと浮かび上がるベッドライト。照らされるのは起き上がった白い背中。海に浸かっていた身体が起こされる。海中から、砂辺へと。思考がクリアになる。ああ、此処は、そうだ。自分の部屋じゃない。狭いワンルームじゃない。
    ここは———
    「—————————せんせい?」
    少し、声が掠れた。
    「ああ、」
    振り返った先生と目が合った。
    「…………起こしちゃった? ごめんね」
    輪郭がぼやけて、表情が見えない。まだ焦点が合わない。部屋が薄暗いからかもしれない。ただ、声音で分かる。困ったように苦笑する顔が脳裏に浮かぶ。
    「いえ、」
    衣擦れ。シーツの上で身じろいだ音。距離をとられた。
    「今、情けない顔してると思うから、こっち見ないでくれると助かるなぁ」
    暗に、こっちへ来るなと言われた。
    夢を、よくない夢を見たのだろうか。たまにある。知らないフリが出来れば一番いいのだろうと、思う。この人はそれを望んでいる。でも、もう遅い。気付いてしまった。思わず、大丈夫ですか、と聞こうとしてやめた。
    沈黙。
    エアコンの稼働音だけが室内にやたら響く。
    大丈夫じゃないのに、大丈夫だなんて言うな、そう怒ったのはもう随分前の事だ。
    もちろん言ってもらえた方がいい。言ってほしい。でも、無理強いするのもきっと違うのだろう、と最近は思えるようになった。あの頃は嘘をつかれるのが嫌だった。でも、今は傷を曝け出して、認めて、血を流すよりずっといい。でもやっぱり話したいと思える時が来たら、聞かせてほしいなとは、思う。
    「…………深町くん、」
    固い声。不器用な人だな、と思う。俺の事を傷付けないように、遠ざけようとしてくる。昨日も痛くないと言っても、いつまでたっても触れる指は丁寧で、優しくてもどかしかった。
    「本、読んでもいいですか」
    「え」
    「目が、覚めちゃったので」
    「ええと」
    間。少し考えて、笑う声がした。
    「……どうぞ?」
    その声で、のそり、と起き上がると少し腰が重かった。
    「……何読むの?」
    「レポートの課題があるので、」
    「そっか」
    ベッドサイドに放りだしたままだった本に手を伸ばして手繰り寄せた。
    そのまま背中を先生の身体に預けると少し身体が強張ったような気がした。でも気付かないフリをして、本をひろげた。顔は見えない。触れるのは背中だけ。今はそれが一番いい気がした。

    Xyuzu_kinox Link Message Mute
    2022/06/29 21:53:18

    悪夢のはなし

    #高深 #彰尚

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