ウィークエンド バルバトスの心は珍しく浮き足立っていた。
一週間の終わりの夕食後の時間ともなれば流石に多少の疲労を感じるが、今日はそれも明日へ向けての軽い準備運動に思えた。
無理矢理取らされた丸一日の休暇、普段なら気掛かりな事が次々と浮かぶだけで、全く楽しくなどないが、今回ばかりは違っていた。
寝室のドアを開ければそこには、腕の中に収めたが最後、二度と離したくなくなる愛おしい恋人が今か今かと待っているはずで、そこからは明後日の朝までは二人きりの水入らずで過ごす予定となっている。
「――バルバトス」
「はい、坊ちゃま。何でしょうか」
「今日はもう切り上げて寝ようと思うんだが」
壁の時計を見るといつもの就寝時刻よりも大分早い。
「もうお休みに……? お体の調子でも悪いのですか?」
「いや、随分と休暇を楽しみにしてくれているようだからね」
苦笑して答える様子に、見抜かれていたことを少し恥じた。
「ですが、まだ執務が残っているのではありませんか?」
「これは急ぎじゃないだろう? それに明日はルシファーも来てくれるしね。だめかい? バルバトス」
特殊な事情もないのに主人の気遣いを無碍にするわけにもいかない。そもそも休暇を命じたのもこの主人である。
「……かしこまりました。お言葉に甘えさせていただきます」
「それでは、失礼いたします」
一礼してディアボロの寝室のドアを努めて静かに閉めると、魔王城の廊下を早足で急ぎ、逸る鼓動を抑えて、恋人の待つ寝室のドアを開けた。