猫の日 ディアボロはバルバトスさんと二人でお茶会が出来るよう定期的に時間をくれる。気を使わせてしまって申し訳ない反面、このような時間でもないと、いつも忙しい彼に会う機会が全然なかったと思うので、とてもありがたい。
そんなお茶会が今日も開催されようとしていた。
「こちらをサタンに渡していただけますか」
「いいですよ」
受け取った紙袋は手から滑り落ち、袋の中から一冊の本が飛び出した。
「あ、ごめんなさい」
「いけません!」
拾おうとした私の手と止めようとしたバルバトスさんの手が同時に、開いた本のページに触れた。
酷い眩暈を起こしたときのように視界がぐるぐると回る。まともに立っていられなくて思わずしゃがみこんだ。
しばらくして眩暈がおさまったとき、なぜか目の前には緑の目をした黒猫がいて、その猫と目が合った。恐る恐る下を見るとそこには猫の手。ああ、やっぱり禁書だったか……。
目の前の黒猫、バルバトスさんが、にゃあ、と一言鳴いて額や鼻を擦り付けてくる。意外にも猫同士で言葉は通じないらしい。それでも好意を示してくれていることはわかる。どう返していいかわからずに立ち尽くしているうちに、ある程度擦り付けて満足したのか私の足元で丸くなって寝始めた。
私も真似をして、おずおずとバルバトスさんに額を擦り付けてみる。私の匂いが付いたのがわかる。うっすらと起きていたのか、喉を鳴らすゴロゴロという音が聞こえてきた。もしかするとさっきの私も喉を鳴らしていたかもしれない。
私のものと主張できるようで嬉しくて夢中で擦りつけていると、猫の手でぐいと抱き寄せられて、今度は顔を舐められた。グルーミングというやつだ。猫の感覚になっているのか、キスや舐められているといった感じはなくて、乱れた髪や服を整えられているのに近い。ただ、それだけではなくて撫でられているときのように温かで落ち着く気持ちが満ちていくのがわかる。そういえば前に見た猫動画でグルーミングは愛情表現だと言っていた。そうであれば、し返さないわけにはいかない。ちょうど目の前に来ている首元を舐め始めると、ゴロゴロ聞こえていた音はより一層大きくなった。
そうやっていつまでも過ごしていたくても、一日の半分以上を寝て過ごす猫としての眠気には勝てない。抱き合ったまま、いつの間にか眠りに落ちていた。
起きた時には元に戻っていて、二人で床に寝ていた。
「おはようございます」
人に戻った手を伸ばして柔らかい緑の髪を撫でる。新たな匂いは付けられないけど、付けた匂いがまだ残っている気がした。
たまには猫になるのも悪くない。
後日こんな噂を聞いた。
魔王城の窓辺には時折仲睦まじい二匹の猫が現れ、それを見た者は恋が叶う、と。