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    あなたの知らない私 とさ、と私をベッドに優しく押し倒すのは次期魔王の執事、バルバトス様。
     こんな幸運があっていいんだろうか。
     〝次〟を期待して、目を閉じた。
     
     ***
     
     がちゃりと玄関のドアを開けると「ただいま」と誰もいない部屋に呼びかける。育てている諸々の植物に水をやり、窓際に吊り下げていた薬草類を取り込んで、制服を着替えるといそいそと机の前に座った。
     引き出しから水晶玉を出して、どん、と机の上に置くと両手を翳す。
    「今日は何してるのかな~っと」
     小さい頃おばあちゃんと遊んでいるときに教えてもらった、念じた相手とその周辺を映し出す魔法。音は聞こえないし、たまに映りは悪くなるし、古臭いせいなのか周囲では誰も使っているひとがいないけど、私は昔から何度も使って馴染んだこの魔法を愛用している。
     
     そのひとはRADの入学式で一目見た時から私を虜にした。
     教室の窓から見えた涼しげな横顔にうっとりしたり、すれ違った時に返してもらった挨拶を反芻したり、図書館で手に取っていた本を後で借りてみたりもした。全く理解できなかったけど。
     姿を見ることすら叶わなかった日は水晶玉を覗いた。覗いていると視線がこちらに向けられることもあって、ただの偶然とはいえそんなことがあった日は寝るまでずっと幸せな気分で過ごした。
     それだけで満足していた。満足していたはずなのに。
     あの女が現れさえしなければ。
     
     ……チッ。思わず舌打ちが漏れた。
     水晶が映し出す先にいるのはバルバトス様。今日も素敵。問題はその隣にいる人物。人間界からの留学生。
     噂によると二人は付き合っているらしい。……今はまだ噂だけど、何度もこれを覗くうち、真実になるのも時間の問題だと思った。
     
     あの女は丁度バルバトス様から何かを受け取っているところだった。手のひらに乗るくらいの淡いピンク色をした袋。丁寧にリボンまでかかっている。
     たぶんバルバトス様手作りのお菓子だろう。生意気。
     あの女が一人になったところを見計らって、引き出しから今度は藁人形と針を取り出した。これも古臭いと言われるけど、材料調達の楽さには勝てない。対象者の髪以外はどこの家庭にだってある。その髪だって、間抜け面晒して寝てるあの女に近付いたら肩に落ちていた。それをこっそり拾っただけ。
     針を持ち、藁人形の手の部分に軽く突き刺す。
     その瞬間、あの女は顔をしかめて袋を取り落とした。いい気味。リボンをほどいたところだったようで、中身のマフィンがころころと地面を転がる。砂まみれ。本当にいい気味。
     ……信じられない。あの女、落ちたマフィンの砂を払って食べてる。たまに顔を顰めているのは残った砂のせいだと思う。必死すぎ。キモ。
     
     最近ではあの女にこうすることが楽しくなってきていて、水晶玉を覗く時間は圧倒的に増えていた。気付かれないかとひやひやしたこともあったけど、私だって暇じゃない。一日に一度か二度にしているせいか、自身の不注意として受け止めているようだった。
     
     そのくらいで勘弁してやろうと思っていたのに。それなのに。
    「明日、バルバトスの手伝いした後に魔王城でお茶してくるから遅くなるね」
    「えー、ついにお泊まり?」
    「ンなの俺様認めねーぞ」
    「……日が変わる前には帰ってこい」
     そんな腹立たしい会話が階段の下から聞こえてきた。あの女と七大君主だ。いつも一緒にいるのも気に入らない。何様のつもり。
     帰宅すると一直線に机に向かい、机から藁人形と針といういつものセットを取り出し、まじまじと見つめる。こんなんじゃ足りない。何かないの、何か。
     引き出しを開け、中身をかき分け、引っくり返す。奥底から出てきた物を見て、ほくそ笑んだ。
     
     翌朝、いつもより早起きして机に座った。
     手元にあるのは昨日引き出しから発掘したいばらの蔓。それを何重にも藁人形の胴体に巻き付けた。藁に棘が食い込んでいく。
    「さて、どうかな~っと」
     効果はすぐに表れたようで、水晶玉の向こうには自室らしき場所で床に蹲っているあの女が見えた。しばらく動かないからてっきりやりすぎたのかと思ったら、D.D.D.を少しだけ操作した後、のろのろとベッドに戻ってブランケットに包まった。驚かせないでよ。本当に嫌な女。
     それにしても震えているのは痛みのせいだけじゃないみたい。あっはは。
     浮かれた気分で登校し、教室に入るとやっぱりあの女の席は空いていた。昼になっても、午後の授業になっても姿が見えない。当たり前か。
     
    「失礼します。どなたかに執行部のお手伝いをお願いしたく参りました」
     放課後、信じられない声と共に教室のドアが開けられた。挨拶という僅かな声の欠片を今まで何度も何度も反芻した。間違えるわけがない。
     その人物は教室内を見渡すと、私で視線を止めた。
    「そちらのあなた、お手伝いをお願いできますか」
     
     執行部の手伝いだなんて何をするのかと思ったら魔王城までちょっとした荷物を運ぶだけの簡単な仕事。
     道中、
    「助かりました。執行部の者にお願いしていたのですが、来られなくなってしまいまして」
    「この程度いつでも言ってください。それにしても急病だなんて困りますよね」
     なんて会話をした気がするけど、幸せすぎて記憶がない。その後、お礼として夕飯までご馳走になってしまった。庶民はまず入ることのできない魔王城の客室でバルバトス様自らサーブしてくださるディナーの美味しいことと言ったら。一生自慢する。
    「ごちそうさまでした」
    「お粗末様でした。この後、お時間はございますか?」
    「はい。何かご用ですか?」
    「いえ、あなたともう少しご一緒したいと思いまして。お恥ずかしながら、あなたを選んだのはこのような理由もあるのです」
     何て言ったの? とバルバトス様を見ると頬が赤い。
    「じ、時間はたくさんあるので! 私ももっとお喋りしたいです!」
     
     夢を見ているのかと思った。
     二人向かい合ってお茶を飲んでいたはずなのにいつの間に距離は近くなって、ベッドに並んで座ってお喋りに興じていた。
     ふと、会話が途切れる。あ、これって。期待していいのかな。
     
     ***
     
    「え……」
     私が期待したような事は訪れなくて、その代わりに私の首には白い手袋を嵌めた両手がかかっている。
    「人間界からの留学生を呪っていたのはあなたですね?」
    「なん……で……?」
     はあ、とうんざりした溜息が上から聞こえた。さっきまでの甘い雰囲気は微塵もない。
    「この程度もわからないとは。カリキュラムを見直したほうがいいのでしょうか。尤も、理解しているのにこのような行動に出るほど愚かな生徒がいるとは思いたくないのですが。あなたが使っていた覗き見の魔法ですが、今はなぜ使われていないのかご存じですか?」
     ふるふると首を振る。そもそもどうして覗いていたことを知ってるの?
    「相手に気付かれるからです。あの魔法について多少の心得がある者であればすぐに気付きます。おまけに手元の道具で彼女を呪いましたね? あれも、熟練した者でない限りは痕跡が残ります。あなたに辿り着くのは簡単でした」
     そんなの聞いたことない。知らない。おばあちゃんもそんなことは言っていなかった。
    「説明はこのくらいにしましょう。なぜこのようなことをなさったのですか?」
    「……いたずらのつもり、でした。ごめんなさい」
     本当の理由なんて言えるわけがない。
    「悪戯であのようなことをなさったのですか? 交換留学生として来ている、ディアボロ殿下のお客様ともいえる方に悪戯を? つまりそれはディアボロ殿下の意向に対して叛意があるということでよろしいですか?」
     わざとらしく驚いたバルバトス様の手に力が入る。さっきのうんざりした時といい、今まで知らなった表情を知れるのがこんな状況だなんて全く嬉しくない。
    「ちがっ、ちがいます。留学制度には賛成しています。あの子のことが……個人的に気に入らなかっただけなんです。ごめんなさい」
    「そうですか」
     安心したのもつかの間、追及は終わらなかった。
    「何があなたのお気に召さなかったのですか? 後学のために教えていただけますか?」
    「それは」
     手の力がじわじわと増してくる。息が苦しい。
    「……邪魔だったから、です。いなくなってほしかった。人間のくせに。私だって……私だって、バルバトス様のこと好きなのに……だから」
     涙と鼻水でぐしゃぐしゃのみっともない顔でこんなことをいう羽目になるなんて。けど、背に腹は代えられない。
    「もう結構です」
     胸を撫で下ろした瞬間、何か、太くて短い物を折る、鈍い音が聞こえた。
     
     コンコン。留学生の部屋のドアがノックされる。
    「……何」
    「バルバトスです。お見舞いに参りました。入ってもよろしいですか?」
     てっきり兄弟の誰かかと思って雑な返事をしたことを留学生は後悔した。
    「え、あ、あの、ちょっと待ってください」
     約束を反故にした負い目もあって、わざわざお見舞いに来てくれたところを「帰ってください」とは言いづらく、ベッドの上で慌てて髪を整え、パジャマのボタンを留め、限界までブランケットを引き上げて返事をした。
    「……どうぞ」
    「お邪魔します。調子はいかがですか?」
    「さっきまでずっと痛かったんですけど……今は落ち着いてるみたいです」
    「油断は禁物です。無理はなさらないでください。」
     もちろんその痛みが二度と訪れはしないことをバルバトスは知っている。
    「帰りにこちらのキッチンをお借りして消化に良い食事を作っておきます。よろしければ召し上がってください。」
    「ありがとうございます。約束守れなかったのに、お見舞いに来てもらった上にご飯まで……。どうやってお礼したら……」
    「それでしたら、後日改めてまた今度私とお茶会をしていただけますか?」
    「はい、ぜひお願いします! ……あ、でもまた痛くなったらどうしよう……」
     顔を曇らせた留学生を安心させるように、手に手を重ねる。
    「その時はお見舞いに参りますので、また次の約束をしていただけないでしょうか? そうして、いつかあなたと二人でお茶をすることが出来れば、嬉しく思います」
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    2024/04/10 0:50:23

    あなたの知らない私

    執事→MC
    執事を好きなモブのはなし(モブ視点)
    捏造しかない

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