映画を見るなら「距離を縮めるなら怖い映画がいい。吊り橋効果というやつだ」
サタン曰く、ざっくり言うと一緒にドキドキする体験をした相手が魅力的に見えたり、恋愛感情を抱きやすくなるというものらしい。
「バルバトスさん、今度のお休み、よかったら映画の鑑賞会しませんか?」
「かまいませんよ」
いつも忙しい彼のこと、てっきり断られるかと思ったらあっさり了承の返事が来た。こうして私は想い人を映画に誘うことに成功したのだった。
当日、用意したのは誰もが怖がると評判のホラー映画。
二人並んでソファに座り、再生を始める。……開始一〇分にして中止したくなった。こっそり隣の様子を窺うとバルバトスさんはいつも通りの平然とした表情で画面を見ている。悪魔にとっては怖くないんだろうか……? でも、昔嘆きの館でこの映画の上映会をしたときはルシファーと寝ていたベルフェ以外は全員、ホラーが得意なサタンですら涙目になってたってレヴィが言ってたし……。
私は時折悲鳴を上げ、バルバトスさんは平然としたまま二時間。用意した飲み物やおやつは何も減らないままストーリーが終わった。ようやくエンドロール。文字の羅列に安堵すら覚え、ほっと一息つく。
安心したその瞬間、頬にぬめっとした何かが触れ、その日一番の叫び声をあげてバルバトスさんに抱きついた。
抱き留められたまま、なぜか離してもらえないのでそのまま至近距離で抗議する。
「尻尾で驚かせるなんて酷いです……」
「申し訳ありません。そこまで驚くとは」
謝ってはいるが楽しそうに笑う彼に、なぜかいつも以上に魅かれる気がしたのは、きっと距離が近いせい。