「また明日、✗✗✗ちゃん」私が昔の家に住んでいた頃。隣の家に住んでいた彼女のことを時折何かの拍子に思い出す。
彼女は私より幾つか年上で家に帰ってからランドセルを放って毎日のように彼女と遊んでいた。
彼女は聡明で優しくて慎ましくてそして今思うと年の割に笑顔の可愛らしい人だった。
春は地面に落ちた桜の花びらを拾い集め、夏は彼女の部屋で窓から入ってくる蝉しぐれを聞きながら本のことを話した。
私の隣に彼女が現れてから一年足らずで彼女はどこかに引っ越していき、三年ほどして私も今住んでいる家に引っ越した。
掻き消えてしまいそうなほどに降ってくる桜の花の中でも、怖いくらい真っ青に抜けた夏空を背にしても記憶の中では彼女は笑顔でその表情を写真みたいに覚えてる。
なのにどうして名前を覚えていないのだろう。