と或る惑星の命日 彼はドアを打ち破りかねない勢いで部屋に入ってきた。
肩で息をしたまま、ほんとう、と呟く。
そんな彼が珍しくて、男は座ったまま一瞬呆けた。
誰が死んでも涼しい顔でいた奴が動揺している。それだけでも滅多なことではなかったが、彼は次に眼前で男の机を叩いてみせた。
「…狂介!本当、なのか」
彼はあえて男を昔の名で呼ぶ。目に見えて苛立っている。
妙に愉快な気分になった。こんな時に、と思わないでもない。
「…ああ。ほぼ即死だったと見られてる」
そうか、と彼が落とした声は低かった。
「…苦しまなかったのか」
いや、苦しむ時間すらなかったのかと彼はひとりごちた。
机に掌をつけたままで彼は黙りこむ。うつ向き加減の彼の顔に陰影が落ちた。
「……気を付けてくれと言ったのに」
ぽつりと漏れた言葉に不思議と胸をうたれた。
ふと気が向いて、男が口を開いたときだった。
「――下手人はまだだったね」
彼は男の顔をのぞきこんだ。
男は一瞬面食らう。彼は微笑った。
「…まだだったね?」
ひやりとしたものが背中に押し付けられたような感覚に陥る。
そんな自分を嫌って、男はすぐさま悪寒を押し退けた。
「……ああ」
応じた男に冷ややかに一瞥を投げ、彼は踵をかえした。
「そう、ありがとう」
彼は思ってもいないであろう礼を口にする。もはや用無しとばかりに素早く男の机から離れていった。
顧みることなく部屋をあとにした彼の背に、男は小さく舌打ちを返した。