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    第2章:四角い恋愛関係(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(1)「おい、サティ、何で、こいつを連れて来たぁッ‼」
     隣国の王子様への抑止力として連れて来たラートリーって女の子を見た途端、女騎士さんがブチ切れた。
    「いや……その……色々と有ってな……」
    「大体、お前の一家は、こいつのせいで斬首されかけただろうがッ‼」
    「何やったの……?」
    「妹と色々とな……。って、何で、私の家の問題で、あんたがブチ切れるんだ?」
    「うるさいッ‼」
    「姉貴……まさか、あいつ、私の親類の誰かとデキて……」
    「うるせえッ‼」
     駄目だこりゃ、って感じで、手で顔を覆うラートリー。
    「あと……王宮内では私が持って来た服でいいか? 一応、礼服だ」
    「何で?」
    「こんな動きにくそうな服を着ろと? 阿呆か?」
     そう言って指差したのは……ボクのメイド服。
    「どんな服を持って来たんだ?」
    「ちょっと待ってろ、着替えてくる。一応、礼服だ」
    (2)「変な服じゃないよな?」
     女騎士のウシャスさんは魔法使いのサティさんに、そう訊いた。
    「知らん」
    「お前の妹だろ。どんな服を着るかとか知らんのか?」
    「妹だが、半年に1回会うかどうかだぞ」
    「着替え終ったぞ。何だ? 痴話喧嘩の最中か?」
    「その服って……?」
     ズボンに膝まである詰襟・長袖の青い上着。
     腰には緑の帯。
     胸の中央には……丸の中に白地に黒ぶちの豹。
    「ああ、東の草原の遊牧民の礼服だ」
     着替えが終ったラートリーは、そう答えた。
    「でも、変じゃないか? なら、胸に描かれるのは、普通は部族の守護聖獣トーテムだろ。ウチの先祖は王家と同じ『狼』の部族だし……まだ、東の草原で先祖代々の生活をしてる連中に……『豹』の部族なんて居たか?」
    「ああ、たしかに、草原の遊牧民の内、この国の王家に臣従を誓ってるのは……『グリフォンガルーダ』『鹿ボガ』『バール』『野牛ウヘル』『クズリチョングロ』『ションホル』の6部族の筈だが……」
     その時……。
    「どうしたの?」
    「えっ?」
     やって来たのは……妙に肌がツルツルで髪が濡れてるお嬢様と第2王女。
     しかも、着てるのは、2人ともバスローブ。
    「あ……あなたは……あの時の……」
    「あ……ああ……」
     お嬢様は走り出して、ラートリーの手を握り……。
    「あ……ありがとうございました。あの時は本当に……」
    「え……えっと……」
    「誰?」
    「ウチのお嬢様の……新しい侍女をやってもらう事になった……」
    「ふ〜ん……」
    「あの……何で、こんな時刻にお風呂なんですか?」
    「武芸の稽古で汗が出たんで……『仮のお姉様』に、髪洗って、背中流してもらってたの」
    「ところで……王女様。王女様が何で、わざわざ、武芸の稽古なんかをやってるんですか?」
    「そりゃ……決ってるわよ。私が姫騎士になって……病弱な本当のお姉様をお守りする為よ」
     その時……。
     何故か、その場の空気が……。
     女騎士のウシャスさんと、魔法使いのサティさん……ついでに、ボクが連れて来たラートリーまでが……「えっ?」という表情かおになり……。
     そして……3人がそろって、口に手を当てた。
     何故か、ウシャスさんとサティさんは……吐きそうな表情かおで……ラートリーだけが必死で笑いを堪えてるような表情かおだった。
    (3) そして、日が暮れる頃には……早めの夕食が始まった。
     王様一家と、隣国の王子様が同じ席について……。
     グゥ〜。
     護衛役のフリしてウシャスさんの横に立ってるラートリーがボクの方を見る。
    「音、大きかった?」
    「ま……まぁ……」
     食卓の反対側には……隣国の王子様の護衛が立っている。
     食卓は……変な雰囲気。
     まぁ……隣国の王子様は「王女が偽物かも知れない」と思ってるみたいで、お嬢様も、その可能性が有るのを知ってる。
    「あ……しばらく、若い2人だけですごすのも良いかも知れんな……」
     食事が終ると王様はそう言って……「えっ?」っと云う表情かおになる第2王女様。
     王妃様は、第2王女様の手を取ると、半ば、無理矢理気味に席から立たせ……。
     シ〜ン……。
     沈黙……。
     やな感じの時間だけが過ぎてく。
     ええっと……。
     ボクたちの晩御飯はいつなんだろ?
    「お……お前は……誰だ?」
     隣国の王子様が、ようやく口を開く。
    「えっ?」
    「何故、一国の王女が、あんな時刻に、あんな場所に居たッ⁉」
     ラートリーは頭をかく……。
     そして……小声で……。
    「どうやら……私は、自分で思ってたより遥かに頭が悪いらしい」
    「へっ?」
    「私は……誰かを罵倒する時こそ、なるべく頭を使うようにしてるんだが……あの王子様の発言には、馬鹿丸出しの返答しか思い付かん」
    「何?」
    「お前が言うな」
     ところが、その時……。
    「すいません、緊急事態が起きる可能性が有りますので……皆様、謁見の間の次の間にお越し下さい」
     いきなり駆け込んで来たのは……王宮内の伝令係。
    「何が起きた?」
     女騎士のウシャスさんが、そう訊いた。
    「そ……それが……草原の民の代表が、国王陛下に緊急の謁見を求めまして……」
    「断わればいいだろう」
     そう言ったのは、隣国の王子様。
    「それが……我が国では、初代国王に仕えた『建国八功臣』と呼ばれる8人の武将と大臣の嫡流本家の当主に当たる子孫には、いつでも好きな時に国王に諫言を行なう特権が認められています。そして、我が国の国王に臣従を誓っている東の草原の民6部族の内、『グリフォンガルーダ』の部族の族長は、建国八功臣の1人、右宰相アシナの嫡流本家の当主が兼ねる事になっています」
     女騎士のウシャスさんが、隣国の王子様に説明する。
    「おい……それ、食事中でも?」
    「はい」
    「風呂入ったり、寝てる時でも……?」
    「他国の方からすれば……それ以上に非常識な場合でもです」
    「大体、緊急の要件とは何だ?」
    「それが……良く判らないのですが……」
     連絡係も狼狽してるようだ……。
    「ミトラ王女殿下の御結婚に関して異議を申し立てているようで……」
    「何ッ? 私以外の誰と結婚させろと?」
    「え……えっと……タルカン・バートルとか……申す名前の男のようで……」
     ポカ〜ン……。
     ウシャスさん、サティさん、ラートリーが……ポカ〜ンって表情かおになった。
    「ど……どうしたの?」
    「タルカン・バートルなんて名前の男は居ない。そもそも……タルカン・バートルってのは……人の名前じゃない」
    「へっ? どう言う事?」
    (4)「だから、そのタルカン・バートルって何なの?」
     謁見の間の次の間に向かいながら、ボクはラートリーにそう訊いた。
    「称号だ。意味は『勇士の中の勇士』。草原の民の部族長会議の『クリルタイ』が何か大きな功績をあげた者に授ける。ただし……この称号を誰かが授かるのは、草原の6部族の部族長が全会一致で賛成した場合だけだ」
    「じゃあ、今は、誰が、その称号を授かってるの?」
    「居ない……4ヶ月前まで、私は草原に居たけど……その時点では、誰も居なかった筈だ」
    「じゃあ、誰かが授かったとしたら、その後? 誰か、心当り無い?」
    「いや……待て……まさか……」
     ラートリーの顔色が……どんどん真っ青になっていく。
    「イルビスっ‼」
     その時、背後から女の子の声……。
     ラートリーが「やれやれ」って感じで顔に手を当てた。
    「イルビスって……何?」
    「草原の民の言葉で……雪豹の事だ」
     そう言って、ラートリーが指差したのは……自分の胸。
     そこに描かれているのは……。
     ボク達は、声のした方を見る。
    「やはり……貴様か……。だが、何故、ここに居る?」
     声の主は……ボクより少し齢下の女の子。
     黒い髪と目。
     首のあたりで三つ編みにした髪で後頭部の左右に2つの輪っかが形作られている。
     齢の割に「可愛い」というより「美人」系の顔立ちだけど……目は冷たく、表情からは何の感情も読み取れない。
     ラートリーと似た服を着てるけど……胸に描かれた紋章は……鷲か……鷹か……もしくは隼。
    「聞きたいのは、こっちだ。何でここに居る?」
    「『グリフォンガルーダ』の部族の族長の供の1人として王都に来た。だが、私としては、ややこしい話は苦手だし、国王の手を煩わせるのも、どうかと思っている。なので、早速、本題に入らせてもらう。?」
    「おい、一体全体、部族長会議クリルタイは誰に『勇士の中の勇士タルカン・バートル』の称号を授けた?」
    「……お前、いつも『私が一番嫌いなのは馬鹿だ』と言っていたよな?」
    「それが、どうした?」
    「そのお前が、馬鹿のフリをしてしらばっくれる気か?」
    「あいつか……。あいつが……『勇士の中の勇士タルカン・バートル』の称号を授かったのか?」
    「まだ、本人は知らないようだがな」
    「ヤツに会ってどうする? 草原の民の英雄になった事を祝うだけか?」
    「貴様も、この王都出身とは言え、何年も草原で暮していた。知っている筈だ。草原の民の総意が何かをな」
    (5)「お……おい、待て……」
     今までのやりとりを聞いていた隣国の王子様が声をかけた。
     その時、ラートリーが苛立たしい感じで何かを言った。
     それに対して、黒髪の女の子が……しれっとした表情かおで何かを答える。
     どっちも……知らない言葉だ。
    「な……何?」
    「『わざと、こっちの言葉で話し掛けたな』と訊いたんだ……」
    「お……お前……私の代りに王女と結婚しようとしてる奴を……知っているのか?」
    「違う。理由は話せんが……あいつは絶対に王女と結婚出来ない」
    「そもそも、その何とかと云う奴は、どこの何者だ?」
     ラートリーは困ったような表情……。
    「じゃあ、用も済んだ事だし、私は行かせてもらう。『グリフォンガルーダ』の部族の族長が国王に謁見する際の供なのでな」
     とんだ爆弾を投げ込んだ女の子は、何の感情も浮かべていない表情かおのまま、ボク達の横を通り抜けていった。
    「と……ともかく、謁見の間の次の間に……」
     王女様のフリしてるお嬢様は、みんなに、そう声をかける。
     何とか謁見の間の次の間に着いたけど……扉の隙間から、謁見の様子を覗くしか無いけど……全員は無理。
     隣国の王子様が自分だけ覗こうとしたけど……。
    「……」
    「どうしました?」
    「……」
    「あの……」
    「言葉が判らん……」
     女騎士のウシャスさんが代りに覗く。
    「族長の供は、さっきの奴を入れて4人……妙だな、族長の供は全員、若い」
     それを聞いたラートリーは舌打ち。
    「お前……何を知ってるんだ?」
     隣国の王子様の護衛の騎士が、ラートリーに、そう訊いた。
    「えっ?」
     だが、ウシャスさんは、あっけにとられたような声をあげる。
    「どうした?」
    「祭の話だ……」
    「へっ?」
    「草原の民の夏至の祭……『ナーダム』の話をしてる……」
    「それと、その何とかと云う男と何の関係が有る?」
    「ええっと……『勇士の中の勇士』タルカン・バートルの称号を授かったのは……草原の民の夏至の祭の武芸大会で全種目3年連続優勝をした者……で、その者が陛下の命令で、今、王都に居るので、次の夏至の祭までに、草原に戻せと……。草原の民の猛者もさ達は、絶対王者が出場しない武芸大会で優勝しようと、それを名誉とは思わぬだろう、と……」
    「で……では……の結婚の話とは何の関係も無いんですね……」
     王女様のフリをしてるお嬢様の問いに、ウシャスさんは……首を縦に振った。
     ……でも……何故か、顔色は真っ青で……首を振るまで……結構な時間がかかった……ような気がする。
    「だが……何で、そいつは国王の命令で王都にやって来た?」
    「そ……それが……その……」
    「まさかと思うが……」
     ラートリーの表情は……地獄に居るかのような感じだった。
    「おい、迂闊な事を言うんじゃ……」
     魔法使いのサティさんが、そう言ったけど……。
    「今……最悪の事態が頭に浮かんだ。私1人の胸にしまっておくには耐えられん位の最悪の事態だ」
    「だったら、お前1人の胸にしまってろ」
    「さっきのあいつの事を忘れたか? 遅かれ早かれ、奴か……謁見の間に居る他の草原の民の誰かがバラす。あいつらが、自分達の意図を隠さない事こそ、あいつらの望みを叶える最適な手段だからな」
    「だから……何を言ってる?」
    「今、『グリフォンガルーダ』の族長が国王に伝えている草原の民の総意……それは……、って事だろ」
     全員が……ウシャスさんの方を見た……。
    「馬鹿野郎が……」
     ウシャスさんの口から出たのは……死ぬ寸前の病人みたいな声。
     もちろん……言葉尻だけなら、ここに居る全員が訊きたい質問の答じゃない。
     でも……全員が理解した。
     ラートリーの言った「最悪の事態」が起きている事を……。
    「ま……待て……どうなってる? 国王の血筋以外の者が……国王になれる筈が……」
    「殿下……」
     うろたえる隣国の王子様に、護衛の騎士が声をかける。
    それがし、全てを説明出来る仮説が頭に浮かびました。タルカン・バートルなる者は、この国の王女殿下と絶対に結婚出来ない。しかし、この国の国王には成れる。ならば、答は1つです」
    「何だ?」
    「タルカン・バートルなる者の正体は……草原の蛮族どもに預けられ育てられた……
    (6)「な……」
     それを聞いた隣国の王子様はドアを開け……。
    「お……お待ち下さい、国王陛下ッ⁉」
    「ちょ……ちょっと……待って下さい……待つのは……」
     続いて王子様の護衛も飛び出す。
     謁見の間に居た、草原の民の服を着てる中で一番齢の男が王子様に近付き……。
     どてんッ‼
     王子様は、あっさり投げ飛ばされる。
    「貴公が、この国の第一王女と結婚したいと申し出ている西の蛮族の酋長の息子か?」
    「えっ?」
     その男……多分、『グリフォンガルーダ』の部族の族長……は、こっちの言葉でにそう言った。
     そして、床に倒れてる王子様を一瞬だけ見ると……。
    「これが西方に居るとか言う醜豚鬼オークとやらか? 珍しいものを見物させていただいた礼を申し上げる。人外の者に粗末とは言え人間用の服を着せて従者にするとは、変った風習だが、異民族の事ゆえ、とやかくは言うまい。だが、従者の躾が成っておらんのは感心出来んな……」
    「き……貴様……」
    「わざと……? それとも素でやってるの?」
     ボクは、ラートリーに小声で、そう訊いた。
    「知るか……」
     どうやら、『グリフォンガルーダ』の部族の族長は……品が良さそうな方を王子様と勘違いしたか……そのフリをしてるようだ。
    「我等、草原の民は……『勇士の中の勇士』タルカン・バートルが、この国の次の統治者に相応しいと考え……貴様ら蛮族どもは、蛮族の酋長の息子と、この国の第一王女を結婚させ、この国を乗っ取る事を目論んでいる。ならば、話は簡単だ。貴公が、タルカン・バートルに匹敵する勇士である事を証明すれば、我等も、貴公とこの国の第一王女の結婚に異議は唱えん」
     だから、そいつ王子様じゃないって。
     王子様よりは多分人間としてマシだけど。
    「あ……しまった……受けるなッ‼ 絶対に受けるなッ‼」
     ラートリーは大声で叫んだけど……。
     王子様と勘違いされてる従者と、醜豚鬼オークの従者と勘違いされてる王子様は顔を見合わせ……。
    「具体的には、どうすればいい?」
     従者の方が、そう答え……王子様は「それでいい」って感じて、首を縦に振る。
    「ここに居るのは、皆、我々草原の民の夏至の祭ナーダムの武芸大会のいずれかの競技で2位から3位となった者達。タルカン・バートルには一歩劣るにせよ、草原の民が誇る勇士達だ。馬の長距離走、馬の短距離の障害物競走、弓術、剣術、徒手格闘すもうのいずれか一競技で、我々の代表に勝てたならば……我々草原の民も、貴公をこの国の王女の婿に相応しい勇士と認める事にやぶさかではない」
    「判った、受けよう」
     ラートリーは……唖然とした表情かおになり……。
    「しゅ……しゅ……主従そろって……底抜けの間抜けか……」
    「ルールは、こちらのやり方に従ってもらうが、こちらの代表は絶対王者ではなく、それより数段劣る者達だ。それで、五分の条件と納得していただけるか?」
    「良かろう」
    「では、畏れながら、国王・王妃両陛下、我々がこの勝負を申し出た事と、この者達が勝負を受けた事の証人をお願いしてよろしゅうございますか?」
    「あ……ああ……よ……よかろう……」
    「は……はい……」
    「では、勝負の日取りはいずれ……」
     エラい事になった……と思ったら……ラートリーは周囲を見回して、真っ青な顔色になっている。
    「おい、私達をここまで連れて来た奴は、どこへ行った?」
    「え……あれ……おい、まさか?」
    「あいつを宮廷内で見た覚えは?」
     何かに気付いたらしい……ウシャスさんとサティさんは……こっちも真っ青になって首を横に振る。
     そして……草原の民は謁見の間を退出し……その内の1人……さっきの女の子は……あからさまにこっちの誰かを挑発してる感じの勝ち誇った笑顔をボク達に向けた。
     草原の民が居なくなった後、王様はボク達の方を見て……。
    「ところで、何で、そろって、ここにる?」
     けど、ラートリーは王様を無視して……。
    「お前、何で、あの勝負を受けたッ⁉」
     ラートリーは、隣国の王子様の従者の胸倉を掴む。
    「な……何を言っている? あの状況では……その……」
    「自分がやった事を理解してないなら、教えてやる。どうやら、その王子様より、あんたの方が武芸の腕前が上なんで、王子様の代りをやるつもりだろうが……」
    「おいッ‼ ま……待て……」
     みんな薄々感付いてた事を指摘しただけなんだけど……王子様は流石に抗議の声。
    ?」
     あっ……。
    「王女の婿候補の隣国の王子様に、草原の民が異を唱え、その王子様に勝負を申し込んで、王子様も、それを受けた。そんな話が知られたら……王都中が祭になるぞ……。いや、あいつらは、今から、それを言い振らす、確実にな。そうなったら、どうなるか、想像出来なかったのか?」
    「だ……だから、どうなると言うんだ? 説明しろ?」
     従者の方は……何が起きるか判ったようだけど……王子様の方は……。
    「だから……このままでは……王都中の民に、第一王女の婿候補にして隣国の王太子として記憶される事になるのは……ッ‼」
     シ〜ン……。
     ただでさえ、ややこしい事態が更にややこしくなった。
     偽王子様が勝てば、一歩間違うと偽王子と偽王女が結婚して偽の王様と女王様が2つの国の統治者……いや、そんな馬鹿な事が起きる前に別の無茶苦茶な事が起きるに決ってる。逆に偽王子が負ければ……一歩間違えば戦争再開。
     マズい。
     この国の未来は真っ暗だ……。
    (7)「八方塞がりだな……どう転んでも、何かマズい事が起きる。それも……戦争再開級の……」
     横のベッドで寝てるラートリーは、この世の終りでも始まるかのような声で、そう言った。
    「何か、良い手を思い付かない?」
    「国の2つ3つ滅ぼしても大丈夫なら……いくつか……」
    「大丈夫じゃないよ。ボクが仕えてる家の領地は国境近くなんで、戦争始まったら……」
    「おい、どうした、お前らしくもねえ」
     その時、ここに居る筈も無い人物の声が……。
    「おい、どうやって、王宮に忍び込んだ?」
     いつの間にか部屋に居たのは……あの日、ラートリーと出会った時に居た2人の内の1人。
     ラートリーの妹じゃない方。
    「訊くだけ野暮だろ。ところで、お前の姉貴は居ねえよな? お前の姉貴とお袋さんだけは苦手でな。あたしにとっちゃ、実の姉と母親以上に頭が上がんねえ相手なんでな」
    「わかった。呼んで来る。そこを動くな」
    「大真面目な表情ツラじゃねえって事は本気か。マジで、それだけは勘弁してくれ」
    「どう云う事?」
    「あ〜、こいつ下んねえ冗談を言う時に大真面目な表情ツラになる癖が有ってな」
    「呑気なモノだな。エラい事になるぞ。草原の民の部族長会議クリルタイが、夏至の祭ナーダムの武芸大会で全種目3回連続優勝した誰かさんに勇士の中の勇士タルカン・バートルの称号を授ける事を決定した」
    「え?……それ……たしか、ここ五〇年ほど、誰も授かってない……」
    「そして、タルカン・バートルを次の国王に推薦するのが草原の民の総意だと言ってきやがった。あいつが国王になると国が滅ぶぞ」
    「え……えっと……言いたい事は色々有るけど……その……えっと……あいつ本人が嫌がるだろ」
    「あの馬鹿は、変な所でお調子者だ。だからこそ人に好かれるが、同時にだからこそ一国の王にしたら危ない。知り合いから『国王になってもらえませんか?』とか頼まれたら……断わり切れんぞ……。自分が国を滅ぼす暗君になりかねない、と自分で判っていたとしてもな」
    「あ……待て……」
    「どうした?」
    「って事は……草原の民の族長の誰かが、王都に来てるのか?」
    「ああ、グルフォンガルーダの族長が……夏至の祭ナーダムの武芸大会の上位者入賞者を引き連れてな」
    「そっか……だから、あいつが来てたのか?」
    「あいつ?」
    「ほら……お前に『姉貴、姉貴』とか言ってなついてた、あの女の子……。ションホルの部族のテルマだっけ?」
    「いつ、どこに現われた?」
    「お前が……王宮に行ったのと入れ違いで……あたし達が居た店にさ……」
    「まさか……」
    「ああ、話しちまった。
    「このマヌケ野郎がぁッ‼」
     夜の王宮にラートリーの絶叫が轟いた。
    (8)「この夜中に何の騷ぎよ〜ッ‼」
     次の瞬間、第2王女の怒りの声。
     えっ?
     何で?
     そして……お嬢様が寝てる筈の部屋から、第2王女が出て来て……。
     ついでに……居ない。もう居ない。消えた。
     さっきまで、ここに居た女の子が……。
    「な……なんで……ここに?」
     ラートリーが、そう言うと……。
    「一緒に寝てたの……」
     続いてお嬢様も出て来た。
     でも、ラートリーの視線の向きが変だ。
    「がじっ♥」
    「がじっ♡」
     更に続いて、第2王女のペットの鳳龍まで現われ……何故か、ラートリーの足に頬っぺたをスリスリ。
     第2王女は……怪訝そうな表情かおになり……。
    「何で、この子達が、貴方になついてるの?」
    「え……えっと……」
    「説明してもらえる? この前の私の誕生日に、お姉様から誕生日プレゼントとして送られた来た子達が……貴方の事を知ってるみたいだけど……どう云う事?」
    「あ……多分、誰かと勘違い……」
    「がじっ?」
    「がじぃ……?」
     ところが、鳳龍達は何かに気付いたような表情になって、顔を見合せて……。
    「がじがじがじがじがじ……♪」
     どたどたどたどたどたぁ……。
    「がじがじがじがじがじ……♪」
     どたどたどたどたどたぁ……。
     2匹そろって走り出した。
    「ちょ……ちょっと待って……」
     それを追って第2王女も走り出し……。
     走る。
     走る。
     走る。
     ひたすら走る。
     やがて……。
    「がじっ?」
    「がじぃ?」
     鳳龍達は、何の変哲も無い通路の壁を見ながら……何か戸惑ってる様子。
    「どうなって……?」
    「う……うそ……何で……?」
     ところが、第2王女だけが何かに気付いた様子で……。
    「どうしたんですか?」
    「そこを……思いっ切り押してみて……」
    「は……はい……」
     第2王女に言われた通りに、壁を押すと……。
    「えっ?」
     壁がグルリと回転。
    「こ……これって……?」
    「私が聞きたいわよ? 何で……この子達が……王宮でも王族含めて十数人しか知らない……隠し通路の前に……たまたまなの? たまたまにしては……」
    「隠し通路?」
    「何か有った時の脱出路だろうけど……」
     ラートリーは、そう言いながら……。
    「あ〜、馬鹿、迂闊に入らないで〜、灯りッ」
    「は……はい……」
     お嬢様は第2王女に言われた通りに、持っていた灯りで隠し通路の中を照らし……。
     隠し通路の床に溜っていた埃の上には……真新しい足跡が有った。
     それも、王宮内に入ってきたものと……王宮内から出て行ったものが……。
     更に……入ってきた足跡と、出て行った足跡は……ほぼ同じ大きさ……多分だけど……履いてる靴も同じモノみたいだった。
    便所のドア Link Message Mute
    2023/12/21 14:30:54

    第2章:四角い恋愛関係

    早速、隣国の王子に正体を疑われた偽王女。
    だが、そこに思いもよらぬ第3勢力が出現。
    果たして、王子と間違われて王女の婿の座を賭けた武芸試合に出る羽目になった護衛の従者の運命や如何に?

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    #異世界ファンタジー #百合

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