ほのぼのな日常 第7話 Happy Happy Tender Kiss先に記しとく設定。
衣笠律(きぬがさ りつ):男性
衣笠命(きぬがさ みこと):女性
衣笠晶(きぬがさ あきら):男性
と言うことで。
僕は律。
いろいろなことの末に命さんと結婚した。
子宝、息子の晶、にも恵まれて、毎日が幸せな日々。
ほんのちょっとだけ残念なのは、僕も命さんもお互いを意識しすぎてるところ。要はスキンシップが苦手。
だから、『手をつなぐ』だけでも、僕も命さんも勇気がいる。
『男女のスキンシップ』なんてことになると、二人で覚悟を決めて。それくらいの一大事。
そんなのだから、命さんとの『スキンシップ』はそうそうない。
それでも、命さんと二人、晶もいるから三人でいる、それだけで十分。
家族三人で幸せすぎる毎日。
とある夜。
晩ごはんを食べ終えて、僕と命さんで『ごちそうさま』をする。
命さんの隣に座ってる晶、僕たちのまねをして晶も『ごちそうさま』。
命さんと一緒に食べ終わった食器をキッチンに運んで、その先は命さんの役目。
結婚したとき、僕は命さんに「家事の分担は半分ずつ」、そう提案した。
けど、命さんに「家事は全部私の役目」、と言い切られた。
何度も話し合い、と言うか、議論を重ねて、最終的に僕が「2」、命さんが「8」で妥協した。
だから、食事の後片付けは命さんにまかせないといけない。
「じゃ、命さん、お願い」
「はいっ」
命さんの返事はいつも凛としてる。命さんの魅力のひとつ。
椅子に座ってる晶を抱き上げてリビングに。
晶はいつの間にかしっかりと、はいはいができるようになってる。
子供の成長は速い、と思う。
床に座って晶と遊ぶ。晶はご機嫌。
しばらくして、後片付けを終わらせた命さんもこっちに来た。
「あの……、律くん、お願いがあります」
僕の前に正座して、命さんが言った。
真剣な目つき。命さんは何かを覚悟してる。すっごく大事なことだ。
僕も正座した。
二人、ひざを突き合わせる感じで。
命さんはきりっ、とした表情。僕も表情を引き締める。
お互いにお互いの目を見て。
空気が張り詰める。
晶だけが動いてる。あっちに、こっちに、はいはいしてる。
「命さん……、何かな?」
「……あのですね、……えっと、何て言うか、
その……」
そこで一旦、言葉を止めた。
すーはーすーはー、と深呼吸をして心を静めて。
間違いなくありったけの勇気を込めて、命さんは言葉を紡いだ。
「律くんっ、キス、してくださいっ!」
「うん」
命さんの言葉、僕にはもちろん嬉しい提案だ。
だから、すぐに言葉を返した。
「はぇっ?!」
僕が簡単に返事をしたからだろう。命さんは思いっきり戸惑い始めた。
「うん、キス、しよ」
命さんの両肩に手を置く。
命さんの顔に僕の顔を近づける。
命さんのくちびるを目指す。
「はわわっ!
あの、えっと、律くんっ!
だめですっ!」
拒否された。
たぶんだめだろうな、と思ってたら、案の定だめだった。
とりあえず、顔をはなす。
「あのっ、あのですね、
くちびると言うのは、その、
特別なときですっ!」
わたわたしながら命さんが言う。
命さんの言葉は、僕と命さんの基準では正しい。
どれくらいが良いのか? 命さんに尋ねる。
「じゃあ、ほっぺた?」
「ほっぺたですか……」
命さん、考える。
考えがまとまったらしい。
「ほっぺたも大事にした方が良いと思います」
基準のラインぎりぎりっぽい。
けど、このまま命さんのラインを探り続けたら、『手の甲』で妥協、とか、なりかねない。
僕から決めに行った方が良さそう。
だから言った。
「おでこで決まり。
良いよね?」
反論は認めない、そんなイメージで。
「おでこ……、ですか……」
命さん、また考える。
「分かりました!
おでこで良いです!」
命さんの中で決着したっぽい。
「んじゃ、おでこ」
ちょっと体を起こす。
僕が提案したこと。
もちろん心を決めてる。
でも、ちょっとどきどきする。
命さんのおでこ。
命さんの肌はいつもさらさらでつやつや。もちろんおでこも。
ゆっくりと顔を近づけて、くちびるが肌にそっと触れる。
で、離れる。
これってキスの範疇なのか? って自分でも思う。
でも、僕と命さんの基準では十分にキスだ。
命さんの前に戻る。正座する。
命さん、頬がほんのりと赤い。
そんな命さんを見て、僕もちょっと赤くなってると思う。
おでこ、僕のくちびるが触れたところに命さんは両手の指先を当てた。
「はふぅー、どきどきです……」
「それは僕もです」
できるだけ優しい声で。
僕と命さんの視線が合った。
ついさっきまでの真面目な表情。
命さんはほんわか、になってる。
きっと僕もほんわか、になってる。
「……スキンシップ、って良いね」
「はいっ!」
僕の言葉に凛とした返事が返ってきた。
お互いの顔を見て微笑んだ。
部屋の中をはいはいしてた晶が僕のところに来た。
「だっこしろ」と言うことらしい。
晶を抱いて立ち上がった。
改めて命さんを見る。
命さんも立ち上がった。
僕を見て言う。
「えっと、
また、お願いします」
「うん、僕の方こそ」
お願いされたい、って言うか、今度は僕がお願いしたい。
もう一度、視線を合わせて微笑んだ。
こんな毎日、幸せな毎日、が続いてる。
日々是幸日!
了