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    drinker「なんだ、二人して此処に居たのか」

     ラボの入り口から聞こえた声に、クロムと揃って振り返る。眠るスイカを背負ったコハクが立っていた。
    「いつの間に宴会から抜け出していたんだ、探したぞ」
    「あ゛あ゛、クロムがちぃ~っと面白いこと閃いてな」
    「オウ! これはヤベーぜ! あのな、」
    「大きな声を出すな、スイカが起きる!」
    「ぅおっと、悪ィ」
     クロムのデカい声にコハクが睨み付ける。慌てて口を抑えるクロムを肘で小突いてから、俺は顎をしゃくってコハクを促した。
    「とっとと寝床連れてってやれ。んで? コハク。俺らを探してたって、用件はなんだ」
     俺の問いかけにコハクは。
    「ああ。ゲンが酔っぱらって大変なことになってるから様子見してやってくれ」
    「……は?」
     とてつもなく厄介そうな案件を、告げた。

     とりあえず行ってみるか、と宴会に戻ってみれば、色んな奴から『ゲンならあっちだ』と教えられた。なんで俺の顔を見るやゲンの居場所を言うのか。実際探しに来たのだから手間が省けて良いのだが……釈然としない。
    「千空、俺ゲンが酒飲んでるとこ見たことねーけど」
    「あ゛~、飲んだらマジ話も出来なくなるってんで基本避けてたな。つーか下戸だろ、あいつ」
    「ゲコ? ってなんだ?」
    「酒にクッソ弱ぇ、飲めねえやつのこと」
    「じゃあ飲めるやつのことは何て言うんだ?」
    「上戸」
    「へえ~。昔のやつらって色んなもんに名前つけてんだなぁ」
     そんな風にクロムとダラダラ話しながら指示された方へ赴けば、ここだ、と龍水が片手を上げて俺たちを呼んだ。
    「……、あ゛?」
     地面に足を投げ出して座る龍水が居る。そして、その足の間で抱き抱えられ、べったりと龍水を背もたれにして座るゲンが。居た。
    「うわ、ヤベーなコレ。龍水、ゲンの奴どうしたんだよ」
    「ゲンのコーラにワインを混ぜた奴が居たようでな。気付かず飲んでこのザマだ」
    「匂いで気付くんじゃねえの?」
    「焚き火の近くで煙の匂いがあったのと、そもそも鼻風邪気味で匂いがわからなかったらしい。まだ喋れた時に聞いた」
    「ったく、ひでぇことしやがるなぁ」
    「フン、まったくだ。今あっちで羽京たちが本気の説教をしている」
     じりじりと項の毛が逆立つような苛立ちを誤魔化すように、後ろ頭をがしがしかき混ぜゲンの傍にしゃがみ込む。
    「おい、ゲン。ゲーン。意識はあるか?」
     軽く頬を叩きながら声をかければ、目は瞑ったままではあるが存外はっきりと肯いた。
    「吐き気は?」
     今度は考えるように少し間をあけ、首を傾げる。
    「わからねえ、ってのは、今は吐き気はねーけど例えば動いたりしたら吐きそうだから無いとは言えない、てことか?」
     今度の問いにはすぐに肯く。こちらの話は理解しているようだし、意識ははっきりしてそうだ。見た目のグロッキーさのわりには中毒症状はマシかもしれない。
    「千空、来てくれたんだ」
     聞こえた声に振り返る。羽京が小走りになって戻ってきた。
    「べろんべろんじゃねーか、こいつ」
    「気付いた時にはもうこうなってて……ごめんね、ゲン。すぐに気付かなくて」
    「ん~……ぃ、よ、おれも、ごまかそと、したし……」
    「無理にしゃべんなくていいよ、気持ち悪いでしょ?」
    「う、ぅ……」
    「こいつに飲ませた奴は?」
    「今、陽とニッキーから拳骨食らった上に追加で南からの説教受けてる」
    「総動員だな。俺からも何かペナルティを科すか」
    「そ、まで、したら、……ちょと、やりすぎ、だから……」
    「いや、今後の航海でもし同じ事を船の上でされたら敵わん。灸はしっかり据えておくべきだ」
    「あ゛あ゛、なら俺からも二度とやんなって釘刺しとくわ」
    「フゥン……確かに現状、貴様からの叱責が一番手痛いか」
    「……おてやわらかに、ね? ぎくしゃ、く、したら……おれが、めんどぉに、なるしぃ」
     ……確かに、自分を酔わせてこんな風にした奴のフォローをしなくてはいけない立場か。こいつ自身は上手いことやるとは思うが、させたくない。面倒くせぇな。
    「もう休みな、ゲン」
    「ん~……」
    「運ぶか?」
    「ああ、いいよ龍水。君あんまり食べてないでしょ? 僕やるよ」
    「千空、吐くかもしんねーなら桶いるか?」
    「あ゛あ゛、頼むわ。羽京、先にこいつの寝床用意しとく」
    「みんなありがとぉ~……」
     もごもごした礼の言葉を背後に聞きながら足早に戻る。途中で戻ってきたクロムと出会すと、普段とは違う寝床を指定された。
    「体調悪いやつが寝る小屋があんだよ。ルリが今誰も使ってないし使えばいいってよ。一番静かでゆっくり眠れっからって」
    「分かった」
     隔離小屋があるのか。放置するための小屋の可能性もある、衛生面は大丈夫だろうな? 僅かにそんなことを考えつつ、桶と水筒を調達しがてらクロムの案内を受ける。小屋の中を確認すれば、定期的に環境を整えているのが見てとれる居心地の良い小屋だった。ここなら養生しやすかろう。
    「羽京にも場所伝えてきてくれ」
    「おう」
     クロムを送り出してから、手早く置いてあった物品を使って寝床を整える。
    「千空、連れてきたよ」
    「寝床用意出来てんぞ。こっち寝かせてくれ」
     まだ来ないのか、と思いかけたあたりで羽京の声がした。揺らさないよう随分ゆっくりと運んできたらしい。横抱きにされたゲンを下ろし羽織を脱がす。
    「えぇ、と……? ねえ千空、ゲンの首のこれどうなってるの?」
    「あ゛あ゛、やるわ」
     腹帯を外し、首元も緩めてやろうとした羽京が戸惑ったように手を彷徨わせている。分かるわ、その気持ち。着込み過ぎなんだよ、こいつ。張り切りすぎだろ、杠先生。
    「へえ、そうなってるんだ……」
    「七面倒くせぇ格好だよな、前も脱がすのに手こずった」
    「えっ」
    「なんだその顔。マグマに殺されかけた時の治療だよ」
    「殺さ……!? あっ!? あれかな、えっマグマにやられたの!? 君探しに行ってボロボロになって戻ってきた時の、村の現地民とトラブったとか言ってたのってもしかして」
    「聞いてねえのか? 村に来た余所者の妖術使いを闇討ちしてやれってんでマグマに槍でぶっさされたんだ。腹に防具と血糊仕込んでたおかげで無事だったが」
    「……詳しくは聞いてなかった、かな。えっそれでも今あんな風に接してるの? ゲンもマグマもどういう神経してるの?」
    「やべーよな」
     やばいねぇ……、と呆れたような顔でしみじみと羽京がゲンを見下ろす。これ、村にやってきた余所者妖術使い=俺と勘違いされて刺されたって事まで言ったなら羽京はどうなるのだろうか。……今は言わずにおくか。
     息苦しそうな格好をどうにか楽にさせ、横向きに寝かせる。回復体位にさせたあと、ひと仕事終えたとばかりに羽京が立ち上がった。
    「僕まで居たらゲンも休まらないだろうし行くね。何かあったら呼んでよ、すぐ来るから」
    「おありがてえ」
    「じゃ、おやすみ」
     軽く片手を上げて、羽京は静かに小屋を出て行った。足音が十分遠ざかってから、ぼそりとゲンの声がした。
    「ん?」
    「だから、言わなくてもいいこと言って、って……」
    「隠すことでもねーだろ。テメーだってどうせ言っても言わなくても良いなら言わないでおくか、くらいのこったろうに」
     起きたなら水飲むか? の問いに肯いたため、半身を起こすのを手伝う。多少溢しながらも水筒半分程を飲み干して、彼は長々と溜息を吐いた。
    「みんなに迷惑かけちゃったなぁ……」
    「テメーはどっちかっつーと被害者だろうが。気にすんな」
    「弱すぎじゃん? だって、俺」
    「体質だ」
    「それは、まあ、そうだけどぉ……」
     ぐじぐじと言うのを止めて、もう一度横にさせる。
    「この格好てなに?」
    「仰向けで寝ゲロして窒息したくねーだろ、回復体位っつー横向きで安定させる寝方だ」
    「ああ、そーね、それで死んだら報われないわ……」
     疲れたように笑いながらゲンが呟く。いいから寝ろよ、と上掛けを肩まで引き上げる。
    「……気ぃ抜きすぎたな」
    「あ゛?」
    「打ち合わせのあと食事連れてかれて、さ。まだ未成年だっつーのに飲んでみる? とか言うのも居たのよ。昔はそこまでうるさくなかったんだよとか、言って」
    「……それで?」
    「今回と、似たようなことも、あったよ。うっかり間違えて、って……ちゃんと、避けられたのに」
     ダメだったなぁ今日は、と。ゲンが言う。
    「油断した」
     ……なあ。それは。
    「いけねえのか?」
    「え?」
    「気が抜ける場所があったら、いけねえのか?」
     テメーが俺や周りをフォローしてくださんのと同じように、俺らがテメーをフォローするだけのことだろう。今日のように。次があったって同じようにする。
     それが、俺たちが群れている利点だろ。
    「……」
     無言でゲンが目だけで見上げる。同じように無言で見返し続ければ、根負けしたように眉を下げた。
    「……寒くねえか?」
     これ以上何を話すこともない。話題を変えれば、ゲンも小さく笑って流された。
    「うん。……いや、やっぱりちょっと、寒いかも」
     答えを受けて、同じ寝床に潜り込む。ぴったりと背中をつけたら、笑う振動が背骨を伝った。
    「こういう時って抱きしめてくるもんじゃないの?」
    「俺が絡みついてたら夜中に便所行きたくなったとき困んだろうが」
    「あ~、たしかに……」
    「行きたくても起き上がれねえとかあったら言えよ」
    「至れり尽くせりだぁ……」
     ありがと、おやすみ。普段よりも舌っ足らずな口調で囁くと、そのままゲンは静かになった。
     明日の朝にはきっと気持ち悪いだなんだと嘆くことだろう。状態を聞いて薬……ああ、いや、村で普段使われているものがあるだろう。コクヨウ辺りに聞けばすぐに用意出来るか、その方が手っ取り早い。コイツが使い物にならないとするなら、明日は……
     つらつらと段取りを考えながら目を閉じる。穏やかな寝息を聞きながら、いつしか俺も眠りに落ちていた。
    桐人 Link Message Mute
    2024/06/17 0:01:48

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    うっかり酒を飲んでしまった下戸ぎりさんの話。飲めない人に無理にお酒を勧めてはいけません。

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