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    SS置き場一日が今日も終わる虹が出た裸足の今日、いいか?月と木星一日が今日も終わる
     西に傾いた日が随分と地平へ近付いた。そろそろ今日の作業も切り上げ時だろう。日暮れ後と明日の予定を確認しようと耳を澄ます。ややあって聞きとれた探し人たちの声。あちらか、と振り返って歩き出した。
     片付けを始める人たちに、おつかれさまと声をかけながら進む。見えてきたのは、逆光の中に立つシルエットだった。
     一際に背が高く、声を聞くためかやや下向いた横顔の姿がひとつ。
     逆立つ色素の薄い髪が光を通す、特徴的な姿がひとつ。
     それから、何か思い付いたのだろう、手を広げて動かしたり、かと思えば腕組みをして縮こまったりする姿がひとつ。
     龍水と、千空と、クロム。中心的な人物たちが集まっている。
     日が暮れる。差し込む夕陽が、輝く黄金色の光が、彼らの形を切り抜いて象っている。
    (……これは、とても野暮な感傷なんだろうけれど)
     希望ってこんな形をしてるんだな。知らなかった。
    「おっつ~、羽京ちゃん。どしたの?」
    「……やあ、ゲン。おつかれさま」
     ぺたぺたと歩いてきたゲンが斜め後ろから声をかけてきた。きっと彼も僕と似たような理由でここへ来たのだろう。
    「いや。眩しいなって」
    「確かに。きれいな夕陽だねぇ」
     僕らに気付いたのか、光が動く。シルエットが腕を振る。
    「羽京! ゲン! そんな所で何をしている? こちらへ来い、確認したいことがある!」
    「はいは~い、今行きま~す!」
     呼ばれなくても行くのにね~、などと笑いながらゲンが前に出る。僕もその後に続く。
     明日も、どうか良い日でありますように。
    虹が出た
     虹が出た。ざぁっと一雨が通り過ぎ、やあ止んだ止んだと雨宿りの木の下から抜け出た所で丁度見えたのだ。
    「キレイだねえ~♪」
    「不気味だな……」
     俺とコハクちゃんが声をあげたのは同時だった。
    「へ?」
    「ん?」
     不気味? なにが?
    「……え~と、虹のことだよね? コハクちゃん。不気味?」
    「ああ、あれは虹と言うのか。不気味じゃないか? 日暮れでもないのに急に空に色が塗られて、私の目を持ってすらよくよく見ても輪郭もよく分からないし、かと思えばいつの間にか消える」
     ああ、なるほど。そうなるのね~、コハクちゃんたちからしたら。そういえば、虹を良いことの前兆としている国と不吉の表しとする国とあるんだったっけ。
     ……文化が消える、とか。知識が途絶える、とか。こういう事なんだな、小さい事だけど。虹が見られてラッキー♪ なんて文化が消えてしまえば、虹を見たって気分は上がらない。ただ空気中の水滴に光が反射してるだけという知識がなければ、空に不可思議な色が浮かび上がる珍事に自然の畏怖を見る。
    (こういうもん、全部すくい上げる気でいんのかな。千空ちゃんって)
     すくい上げる気でいるんだろうな、科学と名の付く範疇ならば。改めて思うその途方のなさに、ちりと背筋に鳥肌が立った。なんてもん背負ってんだろうねえ、千空ちゃんって。
    「――虹ってね、雨上がりの空の水っけに太陽の光が反射してああいう風に見えてんのよ」
    「そうなのか?」
    「そうそ~♪ 実体があるもんじゃないの」
    「なるほどな。だから、ぼやけて見えていたし……」
    「お空が乾いたら消えるってこと」
    「なんだ。それだけの事だったのか」
    「俺らの時代は虹が出たら良いことありそ~! って盛り上がってたよ」
    「そうなのか?」
    「そうよ~、もうお祭り騒ぎの大騒ぎ♪」
    「へえ……いやまて、その顔は嘘だな今のは」
     詳しい説明を、あとで千空ちゃんに聞こう。クロムちゃんを巻き込めば、きっと説明せざるを得なくなる。聞いた話を覚えたら、村の子どもたちに教えよう。虹の袂に宝物が埋まってる、っていうお話もあったよね? 途絶えた文化と科学を伝えよう。これから大きくなる子どもたちが、きれいな虹に怯えないように。
     全部すくいたいだろう千空ちゃんの、分かっていても手がかけられない小さい事。それをフォローすんのも、きっと俺の役割だ。
     そうね~、『些事だからと後回しにしてるってつい気になってしまったらパフォーマンス落ちる可能性があるから』なんて言い訳ならメンタリストのお仕事ってことにならない? まぁ、雑な建前だと分かってくれりゃ、千空ちゃんも無理に突っ込まないでしょ。雑な建前を用意してまで君を手助けしたいのよ、って分かってくれるだろうから。
    「戻ろっか、コハクちゃん」
    「そうだな」
     歩き出して空を見上げる。角度が変わったせいか、虹はもう見えなかった。

    【#同じ言葉で始まる千ゲ 第3回お題 虹が出た。】
    裸足の
     裸足が冷える。すり抜けていった涼風が肌を粟立たせた。
     クソ、裸足で居るのは短時間だけだからと横着せずに膝掛けや布の類いを用意しておくべきだったか。
     舌打ちし、手元を眺める。そこにあるのは靴だ。革袋の親戚みてーな靴。傷みがでてきたので、穴が開く前に修繕しようとしたのだが、これがなかなか手間がかかる。おかげですっかり足が冷えてしまった。
    「よくもまぁ、……」
     ずっと裸足でいられたもんだ、と何処ぞのメンタリストの足元を思い出す。詳しく聞いてはいないが(んな事を話すより打ち合わせるべき話が山ほどあるので)あんな凝った作りの服装、杠と合流してから支給されたのだろうが、靴はなかったのか?
     アレが何故、裸足で居たのかはわからない。杠が意図を持って靴を用意しなかったのか、村にたどり着く前に無くしたのか。いずれにせよ奴はずっと裸足で、その無防備な足のままで長距離を駆け抜けた。怪我というハンデと俺の命まで背負って。
    (あの時、まともに靴を履いていたなら、)
     もう少しだけ、楽に走れたんじゃねえのか。なんて。今更になっては気にしたところで仕方がないことを考えてしまった。
    「あ゛ー……」
     この期に及んで未だに奴は裸足だ。寒くなったら温かい毛皮のブーツくれるってさ~! と先日嬉しそうに報告しにきたが、もしや真冬しか履かないつもりなのか? ……早急に用意するか。靴。内側に毛皮を仕込んで暖かさを調整できる形にすれば薄ら寒い時期でも使うだろう。恐らく。
     だが、まずは俺の手元のこいつの修繕が先だな。とっとと片付けよう。裸足は冷える。また吹いた隙間風に足指を丸めながら、太い縫い針を革に突き刺した。

    【#同じ言葉で始まる千ゲ 第2回お題 裸足が冷える】
    今日、いいか?
    「今日、いいか?」
    「よくないけど、どしたん?」
     俺の返答に、千空ちゃんは出鼻をくじかれるとは思わなかったと言わんばかりの顔で言い淀んだ。
    「そっちの用事によってはどうにでもするけども」
    「あー……テメーの予定は、」
    「羽京ちゃんと一緒に陽ちゃんへの聞き取り調査~……と言う名前の駄弁り会」
    「あ゛ァ?」
    「陽ちゃん何だかんだで元帝国メンバーたちに慕われてるし、あのノリで色んなグループに顔出してるからさ~。定期的に皆の様子どう? って教えてもらってんの。俺や羽京ちゃんには言い辛くても陽ちゃんになら話せるってタイプも居るからね~」
    「……、そうか」
    「でも言えば変えられるし、聞いてこようか?」
     首を傾げて問いかける。千空ちゃんの用事が余程の内容でなければ、こう聞けば彼は引くだろう。案の定、それなら構わない、と取り下げた。
    「そう? なんかメンゴね~、千空ちゃん。埋め合わせはそのうちね~♪」
     敢えて何の用事だったのかは聞かずにへらへら笑って話題を終わらせる。笑う俺を千空ちゃんがやけにじっと見てくる。あっ、これ気付かれてんな、俺が敢えて用件を突っ込んで聞こうとしなかったこと。眉間にほんの少しシワが寄ってる、考えてる、なんで俺が聞かなかったのか、避けているのは用件に関する話題なのか、それとも千空ちゃんとの会話なのか、考えるとしたらこんな感じかな。それできっと、その事を指摘していいものか判断しようとしてる。
    「おーい。千空ー」
     千空ちゃんが何か言い出すのを待っていたら、別方面から声が飛んできた。
    「あら羽京ちゃん」
    「やあ、ゲンも。千空、クロムが呼んでる。なんか思い付いたみたいで、君に聞きたいことがあるって」
    「わかった」
     楽しそうな顔で羽京ちゃんが言う。クロムちゃんたら今度はどんなことを閃いたんだろ。千空ちゃんも、ちょっと愉快そうに口元をニヤリと歪ませて踵を返す。ちらりと俺を一瞥してから、千空ちゃんは去っていった。
    「いってらっしゃ~い」
     背中に声をかけたら、振り返らずに軽く手を上げてくれた。羽京ちゃんと二人、見えなくなるまで何となく見送る。
    「……それで?」
    「な~に? 羽京ちゃん」
    「僕ら予定なんかないでしょ、今夜。そもそも定期的な駄弁り会なんてやってない」
    「相変わらず良いお耳してんね~」
     大凡、俺らの話が聞こえてしまったから介入したんだろう。クロムが千空を探してて僕が言付かったのは本当だよ、と先読みした羽京ちゃんが言い訳した。
    「不定期に陽ちゃんと駄弁り会して情報収集してんのも本当だよ。今夜じゃなくて昨日の日中に作業サボりながら開催済みだけど」
     どんなに目を配ったって俺のふたつの目や羽京ちゃんの耳だけでは限度がある。陽ちゃんの情報にはかなり助かってんのよ、ジーマーで。俺になら言える、羽京ちゃんにならお願いできる、それと同じで陽ちゃんにだったら言い出せるタイプの子だって結構いるからね。
     ちなみに女子チームはニッキーちゃんと、杠ちゃんも頼られがち。南ちゃんは自分にお願いされるっていうより、自分が見聞きしたものを『これは多分困ってる』『あれは放っといたらダメかも』を判断して言いに来てくれるし、意外と未来ちゃんも『なあ、お姉さんたちが言うてたんやけど~』とタレコミしてくれる。おかげさまでメンタリスト業は大盛況~♪ ってワケ。
    「千空と喧嘩でもしてるの?」
    「んえ? なんでェ?」
    「だって、予定があるわけでもないのに千空の誘い断ったから。珍しいなって」
    「え~? ちがう、ちがう。そういうのは、な~んもない」
     千空ちゃんからのお願いお誘いの類は言われたらまるっと了解すると思われてんの? 否定はしないけど。そりゃ、大概のことは引き受けてますよ。引き受けてますけども。
    「俺、今ちょっとばかしお疲れさまモードでさ~」
    「そうなの?」
    「そうなの~。だから今なんか相談ごとなり企みごとなり持ちかけられても確度落ちるだけだからヤなんだよね」
     そしてその原因は、昨日の陽ちゃんとの駄弁り会が急遽開催になった理由とも被る。
    『追い込まれたガキと同じ目つきの奴が居る』
     あのまんま置いとくのはヤベーぞ、と。非行少年を見てきた警官の勘を携えて、陽ちゃんが伝えてきたのだ。急いで彼の周りの話含めて情報をかき集めて、陽ちゃんと二人で件の彼の元へ行き、ほぼ夜通し付きっきりで話を聞いていた。
     俺は精神科医でもカウンセラーでもない。けれど他の皆よりは適任だから、これは俺の仕事である。だけどいくら彼をフォローしてあげたくたって、俺の優先順位上位に彼を置くことは出来ない。少しでも前向きに、彼の心労をのぞけるように、でもそこに俺への依存心が芽生えてしまわないように。そう考えながら話すのは、随分と気をつかうもんなのよ。責任逃れしてるみたいな罪悪感もちょっとは湧く、それを見ないふりするのも……まあまあ疲れるのだ。
     ちょうど良いからと昨日の出来事を羽京ちゃんにもシェアする。痛ましそうな表情をしたのは一瞬だけ、あとは『気にかけておくよ』と頷くのに留めてくれた。頼むね。
    「ところでさ」
    「うん?」
    「千空さ、君がそうは見せないけど疲れてるっていうのに勘付いて声をかけてくれた……ってことは、ない?」
    「え~?」
     千空ちゃんが? 俺の疲れに勘付いて? 声をかけた?
     だとしたら。
    「断っといてよかった~」
    「えっ、なんで!?」
    「まだ終わってないこと労られても困るもん」
     あくまでも昨日は、俺と陽ちゃんに話をして少しガス抜きが出来ただけ。こんな世界でどう生きろと、って悲観的になっている彼を、『復興まで生き抜いてやる』と希望を持てるまで倒れないよう持ちこたえさせないといけない。龍水ちゃんの集団牽引力、千空ちゃんの取り戻す科学、そういったものにちゃんと目が向くようになれば、希望はきっと持てるだろう。俺が出来るのは、下を向いてそれを見ない彼の顔を上げさせること。それはこれから始まるミッションだ。
    「仕事人だ」
    「そ~よ、俺ってば頑張り屋さんなの♪」
     労りはまだ受け取れないが、応援ならば喜んで。誰かが気にかけてくれる、それを知るだけでも結構頑張れちゃう事はあるのだ。俺も、きっと彼だって。
     ある程度、彼が大丈夫そうになったなら、その時には俺の方から労われに行こうかな。今日い~い? なんて声のかけ方で。言う前に気付かれてあっちからまた言われたいだなんて欲もあるけど、それはそれ、まずはその未来に向けて動かなくっちゃ。
     まぁ、あれよ。やることちゃんとやってるからさ、このまま俺を気にかけていてね。千空ちゃん。

    【#同じ言葉で始まる千ゲ 第1回お題「今日、いいか?」】

    月と木星
     寒いけれど、空がきれいな夜だった。ぽっかりと浮かぶ月は丸くって、あぁでも満月は確か一昨日だったか、なんて思いながら輝きに向けて白い息を吐く。
    (あれは何の星だろう)
     月からそう離れていない辺りに、月光にも負けない明るさの星があった。なんか良いな、あれ。
     しばし立ち止まって、眺めて、寒さで鼻の奥がちょっと痛くなってしまって、足早に帰路についた。

    「ただいま~」
    「お帰り」
    「あ~寒かったァ……あ、ねえ千空ちゃん。外の星、あれ何?」
    「あ゛?」
     家に帰れば、珍しく研究所に行かずに休みだった千空ちゃんがソファで寝そべっていた。
     聞き流されないよう敢えて変な言い回しをすれば、案の定千空ちゃんは『なんのこっちゃ』と言いたげな顔で起き上がって俺を見上げてくる。
    「今日、月がキレイでさ~。そしたら傍に大きめな星があってね、月が明るいのによく見えるし、あれ何の星かなぁと思って」
    「ほ~ん」
     どれ、とばかりに千空ちゃんはソファから立ち上がり、窓を開けてベランダに出る。俺もならって外に出る。
    「あ゛ー……木星だな、ありゃ」
    「木星! はぁ~……成る程ねぇ、そりゃあんなとこでも目立って光ってる訳だよね~」
    「なんだそりゃ」
    「え、だってゴイスーでかいじゃん。木星って」
     あと惑星って他の星よりなんかよく光ってそうだし。そうか木星か、キレイなもんだなぁ、と改めて眺めていたが、今日は何だか隣が静かだ。あれ、いつもみたく解説ないの? と振り返ったら、真っすぐに俺を見る千空ちゃんと目が合った。
    「ん?」
    「……いや、」
     まじまじとした視線が絡んだのは束の間のこと、すぐに千空ちゃんの顔はどこか揶揄うような笑みに変わる。
    「部屋戻ろうぜ、鼻のアタマが真っ赤で間抜けな面になってんぞ」
    「だろうね~! 寒かったもん、帰り道」
    「なんか飲むか」
    「いいね~! あったか~いお茶がいいな、俺」
     促されてベランダから部屋へと戻る。ただそれだけの、とある小さな夜の小さな出来事。

     ――例えば日々なんて、そんな小さなエピソードが連なって出来上がってるもんだ。その時は特別に思えたって他の物事に関心が向けば、いつしか思い出すこともなくなる記憶ばかりである。
     それなのに。
    「そういや、今日も木星よく見えてるぞ」
     あれはいつの話だったかすら俺自身よく覚えていないような事なのに、ただいま、おかえりなんてやりとりを交わした流れで、君は当たり前のように俺へ言う。俺すら忘れている俺が関心を持ったことを、きちんと覚えていてくれる。
    「……、なんだよ」
     そうだなぁ、惚れ直していたところだよ。
     ……とは流石に言えないから。
    「ううん、それじゃあったかいカフェオレでも入れてベランダで星見でもしよう」
    「んなこと言ってテメー五分と保たねえだろうが」
    「オッケー、十分は保たせる努力する」
    「どっちにしろ短えな」
     そう言って笑う千空ちゃんは嬉しそうで、頑張って十五分は夜空の下に付き合おうと心に決める。そうして二人して鼻のアタマが真っ赤になるほど冷え切ったなら、お互いで暖をとる口実にでもすればいい。ああ、いい夜だ。

    (初出/20241218/bluesky)
    桐人 Link Message Mute
    2024/12/19 20:12:59

    SS置き場

    今まで画像でTwitterに載せていたSSを、画像にする代わりにここに載せていこうかと思います。新しい話が上。
    転載、AI学習禁止

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