【僕らは惑星に立っている】寄稿サンプル『或る手記』――この手記に記された物語は宇宙に存在する何者かの思念を受信し、それを書き起こしたものだと著者は主張している。著者によれば、ある日突然頭の中に自身にあるはずのない記憶が再生されたのだという。それはさながら物語を語るレコードが再生されるようだった、と添えられた手紙には記されている(参照:別紙資料1)。現生人類が受けた被害やその被害を与えた人智を超えた存在が実在することを考慮すると、この手記がただの創作とは断定できない。以上により、ここに報告を行う次第である。
【資料1 著者手紙】
ここに「私」の話をお送りします。
「私」は私ではありません。どこの誰か名前も知らない、見目も、それどころかどんな生き物なのかすら分かりません。ただ、周囲の仲間と思しき物たちを見るに、「私」たちは何やらとてもやわらかな身体を持つ生き物で、私たち人間とは異なる、けれどとても高度な技術を持つ知的生命体ではあるようでした。
これは私による「私」の回想と願いを代筆したものです。この広い宇宙のどこかに「私」は居て、誰か聞いてくれと思念のようなものを飛ばしているのです。私は偶々それを受け取り、受け取ったからには伝えねばと慣れないペンを必死に走らせている次第です。
ある日突然、白昼夢というのでしょうか、頭の中に私が知るはずのない記憶が甦りました。見たことも想像したこともない物語です、それなのにまるで私が経験したことのように思い浮かぶのです。さながら私の頭の中に機械があって、それを使って物語を語るレコードが再生されたかのようでした。そしてその見知らぬ記憶の中に、出てきたのです。旧時代に私たち人間が受けたとされているものと同じ被害……生物の石化が。生憎と私自身は石化を知らない世代ではあるので、それが全く同じ物なのかは判断がつきません。ですが学生時代に歴史の教科書で聞いた話とその光景は酷似していました。そこでようやく、これは別の世界で被害を受けた「私」の記憶ではないかと思い至ったのです。
妄想癖の戯れ言と、あるいは小説家気取りの創作と思われるかもしれません。ですが、どうか信じてください。これは何処かの世界で実際にあったことなのだと。そして、どうか「私」を助けてください。何卒よろしくお願いいたします。
【資料2 手記】
※報告者注:著者曰く「私」という別の知的生命体の記憶ごと感じているので自身は感覚としては事態を理解・納得出来ているとのことだが、記述は著者の語彙に基づく為、情報が不正確な箇所もあることに留意が必要である。(例:太陽/空に輝く光源に対して呼称しているが我々にとっての【太陽】と同一とは限らない 等)
始めには光りがあった。この可視光線はなんだ、見たことがない。鮮やかだ、色がある、近いのは緑色だろうか、薄気味悪い。太陽の日差しとはまったく違う。あれは何だ?
光が広がる。私をすり抜ける。途端、私は硬直した。身動きがとれない、どころではない、硬直だ。肌も震えない。切り落とすタイミングを見誤って身体の傷みが増え広がってしまった時ですら、こんなにも動けない事はなかった。それに辺りが何も見えない、周囲のことが何も把握できないのだ。
……一体、私の身に何が起きたんだ?
「助けてくれ! 誰か! 急に動けなくなったんだ!!」
「俺もだ! クソ、何だってんだよ!」
「怖い怖い怖い!! 何これ!? ねえ何なの!?」
同様の事態になっているのは私だけではないらしい。頭の中で阿鼻叫喚が響く。響く。響き渡る。近くに居た見知らぬ人々の混乱が脳内を錯綜する。……良かった、どうやら会話は出来るようだ。それにしたって、こんなに不特定多数へ声を投げることも投げかけられることも生まれて初めてだが。
「誰か助けに来てくれ! ティヤヤハーラャ通りだ! 身体が動かないんだ!」
「私もだ! 私もティヤヤハーラャに居る!」
「そちらもか!? ミャイカンもだ!」
「ミャイカン!? なんてこった、俺たちはロォロォで……ファッジョヴァもだって!?」
「おい! ロォロォの声のデカい誰か! そのファッジョヴァの奴に伝えろ! ティヤヤハーラャもだと! ファッジョヴァの奴の声は俺たちには聞こえてないが、ファッジョヴァから聞こえる一番遠い場所ではどうなっている!?」
気持ちが悪くなるほど頭の中に会話が通り抜けていく。やがて奔流のような情報から、我々はひとつの結論を出すしか無くなってしまった。
――もの皆すべて、硬化した、と。
(続)