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    しおり
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    しおり
    未来を見ないで ここは地獄だ。
     産まれたことなど一度もないが、意識の覚醒するより以前の世界と言われても納得するような光の入らない部屋。闇でも見える瞳だからわかる。座敷牢のようになにもない部屋。以前は陽が射していたからだろう、おそらくずいぶんと色あせた畳。掛け軸のない床の間。時計の音もない。すえた匂いのする土壁。本丸全体を管理しているのであろう電気の振動音が遠くから地響きのように響く。それと自分の心臓くらいしか聞こえて、いや感じるものがない。
     人も物も発する声のない空間。自分の呼吸の振動はわかるが、声を出すことはないので余計に無音が耳に響く。
     そもそも自分の声を長らく聴いていない。
     思い出すのは、記憶に残るかつて繋がりのあった幾振りかの刀の声だったはず。
     戦場で再会した旧知の刀たち。
     人懐っこい声と態度がうるさい元主の縁のある刀に、自身が尊敬の念を向けていた己のことを「博士」などとうそぶく男士。

     なあ、先生。
     アンタの声、どんなだったっけ?



    「あ、やべ」
    「どうされました?」
     大体の書類は電子申請なのに、どうしても紙媒体で送れと指定されていた書類の準備をしていたが、いざ封をしようとしたところでテープのりが切れ、では先に切手を貼ろうかとしたところで切手のストックも足りないことに気付いた。
    「長谷部さんや歌仙さんならお持ちなのでは? 伺ってきましょうか?」
     そう言ったのは審神者の身の周りの世話を行う前田藤四郎だ。ここの初鍛刀で、細やかな気遣いを得意をしており、すっかり審神者も前田を常々重用していた。近侍は固定しておらず、本日の近侍である南海太郎朝尊はちょうど先ほど審神者が指示した資料を取りにこの執務室から出て行ったところだ。多少席を外すくらいならばいいか、と審神者は立ち上がる。
    「いや、仕事もひと段落したところだし、菓子のストックも欲しい。
     誰かに借りっぱなしも悪いから買いに行こう。前田、一緒に来てくれるか?」
    「はい。もちろん、お伴いたします」
     基本的に執務は主の部屋兼任で同一だったが、近年さすがに刀剣の数も増え、それに伴い資料の増加とさらなる増量の見込みのため、刀剣男士たちによる管理が必要となり正式に近侍部屋が発足された。
     すぐ隣だが、そこには近侍とは別にそれぞれ自分の作業を行っている男士たちが控えている。
     ヒョイと気軽に顔を普段から出しているので、中に半身のみを入れ様子を見ると、光忠と博多が設置されているちゃぶ台でそれぞれ電卓を叩いたり、パソコンでなにかを打ち込んでいた。光忠はおそらく献立案だろう。博多はその金銭面の調整役なので、予算会議の案を作っているようだった。
     気配に聡い彼らは当然だが、前田を連れた審神者が現れたことに当たり前に笑顔を向ける。
    「主。どないしたと?」
    「お疲れ、二人とも。来月の献立決め?」
    「そう。何かリクエストある? これから歌仙くんと小豆くんと北谷くんと練るからまだ変えられるよ」
    「主だからってずるはしねえよ。ちゃんとリクエストボックスに入れた」
    「ははは、律儀だね」
     二人の穏やかな会話に邪魔にならないように控えていた前田がスッと入る。
    「切国さんはどちらにいらっしゃるかご存知ですか?」
    「この後ここで刀種会議があるから、多分その準備じゃないかな」
    「茶請け用意するいうてたばい。厨やなかと?」
    「そっか。サンキュ」
     そして厨に足を向けた。

     審神者の執務室から厨に向かうには中庭に面した廊下を通る。
     中には小さな池があり、それなりに広さもあって短刀たちが鬼ごっこやかくれんぼをしたり、酔っ払いが池に落ちたりなどしょっちゅうである。池の近くには水仙の花が満開に咲ききっている。もうそろそろ見ごろは終わりだろうか。最初は黄色い花しかなかったが、歌仙や江雪が他の色もあるということを知り、様々な品種を植えたのだ。
     それ以外にもなるべく池に落ちないようにとつつじの繁みや紫陽花の植え込みを作ってくれたりしたのだが、結局は鯉に餌をやるために囲いのないところがあると誰かが落ちるのはいつものことなのでシャワー室を別途用意することで池ポチャへの対策は落ち着いてしまった。むしろ好んで池に落ちたがる酔っ払いを教育するほうが早かったかもしれない。
     真夏になればのうぜんかずらが咲き誇り、この池に映り込む姿を楽しむことが出来る。軽装も結構出そろったことだし、そういった夏の装いで花を楽しむのも一興かもな、と柄にもなくぼんやり花見について考えていたらあっという間に中庭を抜けて厨に来ていた。
    「切国、いるか?」
    「主、前田。どうした。なにかあったか?」
     切国とは、山姥切国広のここでの通称だ。初期刀である切国が初日から「俺は山姥を切っていない」と言い張り、「国広」という言い方も審神者は用いているが、本丸全体としては審神者が咄嗟に使った「切国」をまるで正式名称のように全員が使っている。基本的には本刃が望む呼び方を優先するのが審神者の方針だった。修行を終えた初期刀は、審神者の全幅の信頼を受け、現在は出陣に本丸内の取りまとめにと日々忙しくしている。暇があるとネガティブ思考になるのは根本的には変わっていないのと、審神者のネガティブ傾向もあったため、最初から常に忙しくさせておこうという双方納得のもと、仕事を詰め込まれている。審神者のほうはそこまで詰め込まれるとネガティブが悪化するのでもう少し余裕のあるスケジュールを組まれているが、自分と比較する度に男士たちの体力にはぞっとする。結局最後は筋肉で解決すんのかよーと嘆くと山伏が「ならば主殿もぜひ……」と山籠もりを提案されたときには丁重に辞退した。その修行をする体力がそもそもない。鍛える以前の話である。
    「ちょっと足りない文具と菓子買いに万事屋行ってくるよ」
    「今からか?」
    「はい。すぐに戻ります」
    「まあ、前田がいれば大丈夫だろう。
     会議で話がまとまればすぐにあんたに話を通したい。あまり寄り道はするなよ」
    「もちろん。わかってるよ。
     なにか買うものある?」
    「今は特には」
    「あ、朝尊は今資料用意してもらってるんだ。執務室に戻ってたら俺が帰るまでは自由にしていいって伝えておいてくれ」
    「承知した。すぐに近侍部屋に行くから執務室との境を開けておこう」
    「了解。頼んだ。
     じゃ、行ってくるな」
    「気を付けろよ。前田、主を頼む」
    「お任せください」
     購入するものを復唱しながら玄関に向かっていく二人を見送り、切国は会議の茶請けの準備を再開した。
     本数分の湯呑は会議のためにセットされている。あとは冷たい麦茶と熱いお茶派とに分かれるので湯を沸かしていると、すぐに出ていった二人と入れ替わりのように南海太郎朝尊が来た。主は本人が自称した「朝尊」呼びをしているが、他の刀たちは旧知の仲であった肥前や陸奥守と同じく「南海」や「先生」という呼称を使うものが多い。なんとなくそうなった。特に南海太郎朝尊からの苦情もなかったのでそのまま放置されているが、なんで「先生」なのかは土佐に行かなかった面子にはあまり浸透していない。
    「おや、主は? どこかに出かけたのかい?」
    「今外に出かけた。ちょうどよかった。どうやら仕事で使う文具が足りなかったようで買いに行った。
     そんなに時間はかからないだろうが、頼まれた仕事が終わったら戻るまでは自由にしていていいとのことだ」
    「ああ、そうかい。それはありがたいね。
     ところで、初期刀殿」
    「なんだ」
     多くの刀がふざけてよく「初期刀殿」と呼ぶ。元は古株のにっかり青江が使っていた気がするが、最近では打刀連中のほうがよく使っている気がする。特に咎めることはないが、誇らしいよりは、バカバカしい気持ちになりがちだ。
    「先ほど管狐が持ってきた書面が重要度が高そうだから早く見せたほうがいいかと思って。主がいないのなら君に確認してもらおう」
     そういって彼が持ってきた書類を受け取った。
    「どんな内容だ?」

     『警告』
     相模国内の本丸にて、謀反あり。
     刀剣男士が複数脱走、逃走中なり。
     各本丸、外出時空間のひずみ、および他本丸の刀剣男士との遭遇その他言動に注意せよ。
     審神者の重傷が確認されている。

     簡潔に書かれたそれに、思わず用紙を持つ手に力が入り、紙がくしゃりと歪んだ。

    「今すぐ主を呼び戻せ!」

     沸かしっぱなしの薬缶もそのままにゲートに向かった切国だが、すでに主と前田は出ていった後だった。



     はあ、はあ、と途切れない呼吸に、肺が引き攣れそうだった。
     走って、走って、走って、太ももがちぎれそうで、ふくらはぎは爆発しそうだ。両腕はだらしなく垂れ下がり、喉は空気を取り込むのに忙しなくその他の仕事をする気がなさそうである。
     肥前忠広は、自らの本体を抱えて、もうどれほど走ったのかわからないが、遠くまで来たことだけは理解していた。
     知らない道。知らない空気。知らない喧騒。知らない空。
     自分は、本当に、なにも知らなかった。あの閉鎖された世界のほうがよっぽど肥前の身体には合っていたくらいだ。あの緩慢な澱んだ気配に支配された、閉じられた空間のほうがよっぽど、この澄み渡った清浄さよりも息がしやすい。しょせんは人斬りの刀だから。
     周囲にすこしずつ他の刀剣男士たちが行きかうが、自分をちらりと見る者もいれば素通りする者、訝し気に見つめてくる者、だが肥前という個体はあまりなれ合いを好まないのは周知の事実のためかあからさまに声をかけてくるものはいなかった。
     ここにもいない。
     ここではない。
     まだ、誰にも見つかっていないのなら、おれが、なにより先におれがやらなければ。
     水をバケツいっぱいでも飲めそうな渇きの中、唾を無理矢理飲み込んで、再び走り出した。

     見える。
     いや、見えていないけれど、わかる。その向こうに、ひずみがある。
     見知った気配が、すでに歪んだ、いびつな形をした何かが動いている。
     ならばこのまま、そいつを……
    「ちょうど良さそうなものがあってよかったですね」
    「こういう季節ものは歌仙が好きなんだよな。少し分けてやるかなぁ」
    「なら通常のをもう少し買われたほうがよかったのでは?」

     曲がり角で「あ」と思った時には、男の審神者と、それに付き従う短刀が現れた。
     ぶつかる、と思った時には短刀が男の腕を咄嗟に引いたが、瞬間間に合わず、男の肩と肥前の肩が勢いよくぶつかった。
    「いっ」
    「クソっ」
     そのまま、走ってその先のひずみに飛び込もうとしたら、その先にある怪物の姿が見えたらしい短刀が即座にこちらの服を掴んだ。
    「危ないっ!」
    「放せっ!」
     そのまま突っ込むと、男と短刀が付いてきた。

     は? こいつら、なにを……!?

     正確に言うと、男のほうはぶつかった拍子の反動で耐えきれずに肥前に押された形でひずみに飛び込んだらしいが、肥前と一緒に主であろう男を守ろうとした短刀もまた一緒に飛び込んできてしまったらしい。
     一瞬で、三人、暗闇の中にいた。
    「な、え、どういうことだ!?」
     男が驚愕の声を上げる。飛び込んだ際にまともに受け身も取れずスッ転んだのを短刀が手を差し伸べて立ち上がらせる。
    「万事屋街から、他の空間に転移している途中の隙間ですね」
    「空間のエアポケットってことか……」
    「くそ……」
     すっかり見失ったあの目的を、探すため、こちらはこちらでさっさと方向に適当に見切りをつけて走りだそうとした。すると、先ほどと同じく、短刀が肥前の腕を掴んだ。
    「なんだよ、ぶつかったのは悪かった。悪気はねえ」
    「いえ、わかります。お急ぎだったのでしょう」
    「わかってんなら放せ」
    「いえ」
     グッと掴まれた力は肥前よりもずっと強い。肥前は、ようやくこの短刀が「修行」を終えた個体なのだということに気が付いた。
    「あなた、お怪我を」
    「え、ケガしてんの? さっき俺がぶつかったから? ごめんな、どこかの肥前忠広……」
    「放っておけ。アンタたちには関係ねえ」
     気配が離れていく。気がする。
     いや、違う気配が見えない。わからない。濁ったような空間で、そうか、ここに入ったのが間違いだったのか。
     完全に、見失ったようだった。

    「先ほどの、遡行軍のようなもの、あなたの獲物ですか?」
    「っち」
    「え、遡行軍いたの? 町中で?」
    「いえ、あそこから見えた、このひずみの中にです」
    「うるせーな。こっちの話だ。余計な首を突っ込むな」
    「残念ですが」
     短刀が審神者の顔を見た。審神者がううん、と頷く。
    「俺たちもここから出られないから、もう余計な首でもないかなぁ」
     そういって、審神者が周辺を見回す。その手の平を周囲にかざすと、まるで見えない壁があるようにぴたりと手の平が押しとどめられた。
     ようやく肥前も審神者と短刀が言いたかったことに気付く。一瞬で入り込んだこの空間に、全員閉じ込められたのだということに、今更気付いた。
     少しだけ、吐息が漏れた。

     なあ、先生。
     誰かと行動を共にするのは、久しぶりだと、思わないか。
     きっと、それは、“あの日”以来だ。


     なぜこんなところに肥前忠広がいるのだろう。
     前田藤四郎はずっと考えていた。主君と一緒に買い物に出かけただけなのに、なぜかトラブルに巻き込まれている。ここがどこだかわからない。なにか時空のひずみのような、違う場所を繋げている空間を無理矢理にこじ開けたような感じで、いつもの時間遡行の時と同じ時々ヒヤリとした肌をなぜる空気を感じていた。
     万事屋街には色々な本丸から時空が繋がっており、それぞれの本丸でのルールにのっとり皆買い物などに来ているようだった。本丸によっては審神者と一緒でなければ本丸を出ることが出来ないところもあると聞く。自分の本丸ではあまり厳しくなく審神者の許可を経て男士たちだけで外出することも多い。刀剣男士だけで街をウロウロしているのもよく見るので肥前忠広を見たときもはぐれた審神者か同行の男士でも探しているのかと思ったのだった。
     思いっきりぶつかったことで、空間のひずみに審神者と相手の男士が飛び込んでしまい、付き添いで来ていた前田は当然一緒に異空間に飛び込んだ。付き添いが誰であっても、おそらく同じ行動をしただろう。
     肥前忠広。脇差の中では少し大きく、元は大業物のすりあげだというので納得した。口は悪くあまり慣れ合わないが、それが反発から来るものというよりも、己の在り方についての葛藤からそうなっている、というのは本丸の肥前を見ていて理解したことだ。それなりに慣れると、酒にも付き合うし、文句を言うわりには面倒見がいいのは脇差という刀種の特性によるものなのか、南海と陸奥守と同室だがそれなりに三人で仲良くしているようである。毎日のように肥前の怒鳴り声を聞いているが、その剣幕は他の刀にはあまり向かわない。彼なりの二振りの打刀への甘えらしい。
     ぶつかったことを即座に謝罪してきたことからこの肥前忠広もまた過度な慣れ合いは好まないが、そこまで厭世しているタイプではないようだ。どちらかというと、世間慣れをしていない印象の方が強い。戦慣れをしていないような、そんな太刀筋であることが、実際の戦闘に赴いていない審神者にすらわかるほどに。
    「肥前さん! そこです!」
    「おらっ!」
     空間のひずみの中を、どうしようもないので三人で進んだ。審神者が持っていたスマホの灯りを頼りに、一歩ずつ進むが、奇襲のように時折遡行軍がやってくる。前田が感じたように、ここは遡行軍の通り道とリンクしているようで、そのおこぼれのようだった。強さがまちまちで、本丸で真っ先に修行を終えた前田にとってはさほどの強さではないが、明らかに戦い慣れていない肥前は次第に疲労が蓄積されているのが見てとれる。主君を見ると、少しだけ頷いた。おそらく彼もまた肥前の様子を気にかけていたからだろう。
    「肥前さんは、なぜこんなところに?」
    「言う必要はない」
     取り付く島もない。何回か、どこの本丸で、誰かといるのか、審神者についてなどフックをかけても全て「関係ない」「必要ない」で切れ味がいい。
     いや、この様子だと、もしかしたら、本刃もわかっていないのではないか? と前田は予測を立て初めていた。
     この同行者を気にしない進軍が気になる。明らかに誰かと一緒に戦った経験がないのだ。脇差はなによりも打刀との連携や、全体の補佐に回ることが多い。刀装についても遠戦での補助や索敵についても意見を求められる。その全てか彼にはなかった。
     自分のことを労わらない、慮らないということが問題なのではなく、自身の体力や限界を理解していなそうなその態度が、気になっていた。
     戦闘では結局前田が中心になって戦っている。ここらでいったん引き留めておいたほうがいいだろう。
    「肥前さん。少し、休憩しましょう」
    「ああ? ならおれは先に行く。別に一緒に行く道理もねえ」
    「この暗闇で僕なしで戦いきれるおつもりですか?」
     後ろの審神者が引き攣っているのが見えた。振り返った肥前もまた、あんぐりとした口を開けている。そこまで明け透けに自身の実力不足を指摘されるとは思っていなかったのだろう。
     前田は基本的には絶対に意見を変えない。これはもう、断固として変えない。一期一振が、時々折れるほどである。
    「主君の体力はもちろんですが、主君が持っている端末の消耗も心配です。連続での使用では消耗は激しいので。
     どうせ、今が何時で、あちらが何時かなんてわかりません。確実にここを出るために、まずは休憩いたしましょう」
     真っすぐに見つめるとその頑固な意志を感じ取ったのか、肥前もため息をついて、ついに同意した。小さく舌打ちが聞こえたが、聞こえないふりをしてやりすごしてやった。
     休憩に入ると肥前はすぐにゴロンと寝転んだ。こちらに背を向けて、しかし、すぐに戦えるよう刀を握ったまま。
    「主君、大丈夫ですか? お疲れでは?」
    「平気だよ。ありがとう、前田。
     しかし、ここは一体いつになったら抜けられるんだろうな。電波も通じないし、このスマホの時間はおそらく普通に動いてるみたいなんだけど、実際の時間との乖離があるかもしれないってことだろう?」
    「はい。僕たちが夜戦に行くときと同じですね。連隊戦などでも同様です。昼や夜の区分はただの区別でしかないのでしょう」
    「まあ、とにかく、二人に怪我がなくてよかった。多少は俺の力で手入れも出来るだろうけど、大けがされると資材もないし、肥前忠広くらいなら背負って連れていけるか……」
     そんな会話を交わしている二人を背に、肥前の疲れはピークに達していた。
     なにより焦燥感がひどい。その通りなのだ。なんにもしていなくても、時間だけは過ぎていく。時間がない。自分にはやらなくてはならないことがある。
     なんとしても、アレを、殺さなければならない。誰かに、殺されてしまう前に。自分の手で。絶対に。



     ああ、またこんな夢か。
     顕現してからずっと閉じ込められていた部屋。だんだんとその部屋の強度が上がり、座敷牢のようになったそこ。最初は色々な男士たちが手を差し伸べ、同情の表情を浮かべていたが、いつからかそれはなくなり、最後まで肥前に声をかけていたのは……。おかしい。誰だ。おれに、声をかけていたのは、誰だった?
     なあ、先生。どこにいるんだ。
     固い床に背骨はもう諦めを覚えたようで、腰の痛みも床と同化しているように薄い尻が真っ平らな形に変わるほうが容易かった。
     今は何時だ。ここはどこだ。おれはなにをしようとしていた。首を振ろうとしても、固定されているようで視界が動かない。違う。これは夢なのだ。それだけがわかるけれど、体中の痛みは本物で肥前の心の動きはどんどん身体の痛みに引っ張られる。ここが現実だ。だって、ここはおれがいたところだ。ただ帰ってきただけなのだ。
     なにもない、拘束されることすらなく、ただ放置され、死ぬことのない身体を横たえ、死なせてもらうことも出来ずに薄くなった腹と細くなった指を見つめた。
     鉄格子の嵌められた窓からかろうじて音が聞こえる。いやに遠くから聞こえてきたそれは、鉄砲の音だった。
     思い出した。あれは『合図』だ。アイツとの。そうだ。そうだった。
     合図? なんの? 一体、なんの合図だった? おれは、なにをするべきなんだ?
     あちこちから爆発音が聞こえる。もうこの本丸は崩壊する。この身体に流れる力からわかる。あの審神者はもうだめだ。
     生きる気力がない。肥前の腹の底に溜まった力はもう尽きていて、ただ「死にたい」と願っている。
     なのに、その霊力があるから肥前は死ぬことが出来ない。おかしい話だ。肥前だって好きでこんなところに閉じ込められているわけではないのに。誰のせいだ? なんのせいなのだ。おれが悪いのか。そうかもしれない。反論しようと思えばできた。抵抗しようと思えばできた。
     だが、その先には、先生と同郷の刀がいると思った瞬間、全てが無に帰す一瞬を描いた脳は、全ての抵抗を辞めた。
     ああ、また、合図だ。発砲される銃声は、いつまでも耳に残る。耳鳴りのように。
     行こう。行くよ。先生。
     なあ、先生。おれは、ここを出たら、どこに行けばいいんだろうか。
     もう、なにも、わからないんだ。



    「肥前さん!」
     自らの名を呼ぶ声に瞳を開くと、前田が声をかけていた。審神者もまた、こちらをじっと見ている。
    「寝すぎたか?」
     乾いた喉から出た声は少しかすれていた。情けない。
    「いえ、少し、夢見が悪そうだったので……。すみません、お休みのところ」
    「戦闘ばかりで疲れたんだろう」
     そういって打刀くらいの男審神者もまた前田の少し後ろに座った。
     特別審神者としての力が強いという印象もないが、それでもちゃんとした審神者であるというのはこの男の背中や持ち物に見える様々な加護から見受けられる。さすがに審神者との接触が著しく少なかった肥前でもそれくらいはわかる。服の裏側には誰かの付けた紋が彼を守り、不動明王や愛染明王のヒカリがある。男は気付いていなさそうだが、その多少眠たげな瞳は真っ黒で漆黒のような髪だと余計にこの暗い通路の中では表情をわかりにくくしている。敵意がないというのは、やたらと強調してこようとしてくるが、審神者ごときがなにかをしようとしてもまずは短刀が動くほうが早い。
     そのため前田の動向には注意していたが、前田はずっと審神者のほうに意識を向けているので、今更になって肥前もこの男が本当に巻き込まれただけで、特になにもわかっていないのだろうということを思い知って、なぜかガッカリした。
    「勝手をして悪いと思ったんだが……」
     そういって審神者が話し出した時、思わず本体を強く握った。その握る力が、先ほどよりも強くなったことに気付く。
     いや、今更だ。おかしい。おれは背中と腹はくっつきそうなくらいで、腹の底には地獄のような煮えた鉛が常に据えてあって獲物を狩るまではこれは決して無くならないと思っていたのに、身体が多少だが、軽い。
     男が少しだけ手を振った。
    「少し、力を分けた。
     君は、ずいぶん疲弊していたようだったから。他人の霊力を受け取れない刀もいるとは思うんだが、傷もあったようだし、疲れがあってはこの先なにがあるかわからないから……」
    「あんた、なにを、勝手なことを……」
    「まあまあ、でも先ほどよりは顔色が良くなりましたね」
     そういって肥前の顔を覗き込む前田は、はつらつとしていて、純粋無垢といった様子だ。実際には短刀など皆老獪な意識の者が多いことくらい肥前だってわかっている。
     ただ、純粋な好意を向けられるのに慣れていないからか、ひどく落ち着かない気分になって前田から目を逸らした。
    「ほら。非常食」
     そういって審神者が差し出してきたのは飲みかけのペットボトルの水と、小さな菓子の袋だった。
    「ここに入る前に買ってあった奴。ひと口だけでいいから。変なものは入ってない。気になるなら、俺が今ここで飲む。
     あと、糖分な。ちょうど持ってるのが菓子しかなかったんだ。腹に溜まるものじゃなくて悪いけど」
    「別に……」
     差し出されたそれを受け取る。常温の水だった。水? そういえば自分が水分を取ったのはいつが最後だ?
     言われたままにそれを一口飲み突き返す。喉を滑り落ちる水の動きが見えるように、胸から胃に落ちていったのがわかった。今更だが、やはりこの身体には「人間」のように水や食べ物が必要だったらしい。
     ペットボトルと引き換えに渡された袋は個包装のようだった。ぺリとそれを開くと黒い物体だ。
    「なんだ、これ」
    「え、チョコパイ。もうちょっと重たいのがあればよかったんだけど……。喉乾くだろうから食ったらもう一口飲めよ」
     一口で菓子を口に入れると、広がった甘さに驚いた。とても柔らかくて、舌に溶ける。少しザリザリとした内側の部分も口の中で咀嚼をしたらすぐに無くなってしまった。なんという味なんだろう。黒い部分がそうだったのか? 見目は悪いが、舌に残った甘みと鼻を刺激した香りに驚いて包装の袋を再び覗き込んだ。
    「この通路がまた一日かかるようならまたチョコパイやるよ」
     呆れたように男が言う。前田がもう一度ペットボトルを差し出した。今度は一口、ゆっくりと、噛むように飲んだ。
     起きてしまうと、更に長い。
     もう少し先に進んでもなにも変わらず、端末が指す時間が三時間を越えたら休憩をしよう、ということで休み休み進んだ。
     外はどうなっているのか。ここはどこなのか、なにもわからないまま、三人はすこしずつ歩幅を合わせた。
     男は「鉄仙」という。審神者は本名ではなく、仮の名で過ごすとうすらぼんやりどこかで聞いた気がしたが、そう名乗ったが、特に呼ぶ必要はなかったので呼ばなかった。
     逆に男は肥前のことを「肥前忠広」もしくは「君」と呼んだ。
    「君なんて気持ち悪い。好きに呼べとは言ったが、普通にお前とかでいいだろ」
    「他の本丸の男士なんだ。俺の刀じゃないからそんな言い方はしないよ」
     にへらと少し情けなく笑うその顔に腹の底の苛立ちがまた少し戻ってきた。



     この肥前は、育成をされていない。それだけが明らかだった。
     男は多少こういった特殊な仕事についてはいるものの、感性自体は至極普通の比較的人間らしい感覚のある「平凡」な人間だという自覚すらあった。
     その審神者から見て、この肥前はおかしなところが多い。刀剣男士は見目は基本的には変わらない。なのにこの肥前は元よりいいとは言えない顔色はずっと土気色でまるで死人のようですらあった。寝始めて寝息が聞こえなかった時、思わず生きているか確認しにいってしまったくらいには。指先や体躯もこの男の肥前よりも細い。元よりガリガリと言える体型なのに、さらに輪をかけて細くなっているのだ。指の関節は骨のほうがよく目立ち、首筋の皮膚は肌荒れに近く、栄養素が足りていないことがよくわかる。元からある傷跡よりも、荒れた肌のほうが目立つなんて、そんなの自分の男士には起こったことがないのでひどい衝撃だった。
     よくそれで動けるものだとうっかり口にしたら、前田が「僕らは、霊力がある限り、致命傷がなければ死にませんから」と申し訳なさそうに言った。
     それはつまり、審神者が察するには、この細い身体に残存しているたった少しぽっちの霊力だけで、肉体栄養を摂ることなく過ごしてきたということなのだろう。
     そんなことがまかり通るのか? 自分にはあまりないと思っていた憤りが審神者の中に芽生えたが、まさか本刃に言うわけにも行かないと押しとどめた。
     どんな事情があって彼はたった一人でこんなところにやってきたのか。
     せめて、それだけでも知りたいと願って、差し出した菓子と水を受け取ってもらえたことにホッとしていた。
    「ああ、そろそろ時間か」
     もう三時間も歩いている。
     人間の肉体を持っているため、三時間ごとに休憩をしようと言ってもう二回ほど休憩を取っていた。
     時間としては深夜になる。今日はいっそ、寝てしまったほうがいいかもしれない。そう、肥前の顔色を見ながら審神者は呟いた。
    「今日はここで寝ようか」
    「は?」
     案の定、肥前の強い否定が審神者を襲う。男士からの圧は正直強い。その瞬間はあまりないのが幸いだが、こうして鋭い視線をぶつけられてしまうと萎縮してしまう。
    「肥前さん。もう夜中です。体調のリズムは大切ですよ」
    「ずっと真っ暗なんだ。大してかわりゃしねえだろ」
    「体力の温存という意味です」
     ありがたいことに敵も真夜中だからかこの一時間程度は襲撃もない。休むなら、確かに今がいいだろうとは思う。
    「ね、肥前さん」
     前田の柔らかい説得には肥前も強く言い返せないらしく、何度目かには長い長い息をついて「わかった」とだけ言った。

     前田がマントを広げて男を寝かせようとしている。肥前は少し離れて膝を抱え込むようにして刀を抱えている。それではよく休めないだろう。
     正直言って、前田の錬度はかなり高い。なのでここまで安心しているところもあるのだが、よほど大量の敵に襲われない限りはなんとかなるだろうという見込みだった。前田を見ると、こちらの意志がすぐに伝わったようだった。二人で肥前の隣に移動する。
    「おい、近くねーか……」
    「まあまあ」
    「おい!」
     体格はこちらのほうが大きいので、無理矢理肥前を寝かしつける。反対側から前田も協力し、三人で川の字のようになった。
    「なんだよ!」
    「くっついてるほうが霊力回復しやすいだろ。前田は俺の短刀だから一緒にいるだけでいいけど、君には送ろうと思ってないと届いていないみたいだし。
     ここを出るまでは一蓮托生なんだ。少し我慢してくれよ。変なことはしないから」
    「されてたまるか!」
    「敵襲には僕が備えておきますのでご安心を!」
    「くっ! 逃げ場がねえ……」
     しかし、背中にくっついていると体温が上がってきている。普通に眠気はあるようだ。心臓の音が聞こえるといつも男士たちの存在を感じる。
     オレと同じ、「人間」の肉体を持つ、神様たち。

     どこかの知らない肥前忠広。
     どうか、今夜は、いい夢を見てくれ。



    「安定ー!」
    「清光、どうしたの。そんなに慌てて」
     ゲート前の掃き掃除をしていた大和守のところに、一気に走ってきましたと言わんばかりの加州清光は、全身で肩を揺らして呼吸をしながらぜえぜえという呼吸の音と一緒に「これ……」と言って紙を差し出した。「なんじゃなんじゃ」と反対側を掃除していた陸奥守もやってくる。
    「次の、特命、調査、だけど、はあ、発表、された、んだ……」
    「ほお~! なんじゃ土佐じゃないか!」
    「だろ!? 吉行に早く伝えようと思って!」
    「ありがとうな、清光! わしも行きたいき! 清光から主にゆうてくれんか?」
     この陸奥守は最初の一部隊が出来上がる前にやってきて本丸の様々な構築に尽力した刀であった。サポートとしての役目が多かったため錬度の上昇はまだ余裕があるが、その分本丸の刀たちからの信頼は厚い。ここの審神者は初期刀の加州清光を大層可愛がっていたので、その清光と仲が良い大和守と陸奥守もこうして加州経由で小さなお願いをねじり込んだりしていたものだった。
    「も~、そうやってまた吉行を甘やかす」
     不貞腐れたような安定を見て、二人が笑った。
    「まあ、確かに吉行がいたほうが話は早そうだよね。みんな土佐弁で話されても俺たちみんなよくわかんないし」
    「なんじゃと~」
     はははは、とくだらない冗談に笑った。もう一度主のパソコンから印刷したらしい特命調査のお知らせを読む。
    「わしに縁のある者が来るがやろうか? 来てくれるとええなぁ。楽しみやないか!」
     そうしてあの人懐っこい笑顔を浮かべた。
     遠くには、この本丸のどこからでも見える杉の木が揺れていた。加州と大和守のマフラーも一緒に揺れる。
     今日の夕飯の準備をしている者が、何かが足りないと叫んでいるのが聞こえた。五虎退が慌てて畑に向かって走っていくのが見えた。
     優しい出汁の香りが漂ってくる。それだけでもう夜の気配と明日の幸福を感じる。

     ああ、何も無かった、起きなかった本丸だ。
     肥前忠広は、自分は一度も見たことがない景色なのに、なにもかもを知っていた。
     加州清光が初期刀であることも、安定が結構な掃除好きであちこちを掃除して歩いては子虎たちを引き連れていた光景も、陸奥守が最初から中古だったというこの本丸の建物あちこちのズレやゆがみや隙間を直して回ったことも、誰からも一度も聞いたことがない。
     しかし、なにもかもを知っていた。
     それはこの霊力から伝わってくる。腹の底の、憎しみの塊みたいなそれであっても、ああ「審神者」の記憶がやはり自分と繋がっているのかと思うと今すぐ腹を切り裂いてこの霊力を取り出してやりたい。背中に感じる誰かもしれない審神者の霊力の生ぬるさに泣きそうになっていた。
     なんにも感じない。こんなに霊力とはなにも感じないものなのだろうか?
     ただぬるま湯につかっているような、それを「やさしさ」と理解出来ない肥前忠広は、この感情の行き場を知らない。

     なあ、おれは、本当は、顕現しなければよかったんじゃないのか?
     どうして、顕現してしまったんだ。
     そう思わないか、先生。

     腹の底は気持ち悪くて吐きそうなのに、背中から伝わるぬるさによって中和されている。
     よほど冷たいほうが、良かった。手足の痺れがあれば感覚など無くなることをこの肥前は知っていたから。
     まるで先ほど飲んだ常温の水のような、とどまっている体温ほど、厄介なものはないと、初めて知った。



    「起きてください! お二人とも!」
     肥前と審神者が同時に身体を起こす。
     夜中に暑かったのだろう、くっついていたはずの背中はどちらも離れてしまっていたが、起き上がる時にぶつからなかったので逆によかった。
    「どうした! 前田!」
    「光です!」
     前田が審神者の手を引いて立たせ走り出す。
     肥前も、前田と一瞬視線を合わせて審神者よりも早く走り出していた。
     その通りだ。自分たちを追い越すように光の裂け目が見えた。あれは、外なのではないか?
     最初に飛び込んだ時と同様に、裂け目が定期的に表れるのか、遡行軍が利用した後なのか。
     だが、三人とも考える暇も余裕もなく、その裂け目に飛び込んでいた。

     外に飛び出して、三人の足が止まる。
     そこは、戦場だった。

     主が行方不明となった本丸では、それほど大騒ぎにはなっていないが、それなりにバタバタとしていた。
     情報がなさすぎる。この本丸で一番に修行に行き、一番極の中で錬度の高い前田が一緒についているので皆さほどの心配はしていないが、次第に本丸全体に不安の色はいよいよ濃く出てきていた。いなくなって半日が経過しようとしている頃合いで、さすがに主なしそれも安否不明の状態で夜を迎えるというのは誰もが経験がないのだ。
     どうにか、せめて、無事がわかるだけでも、そんな縋るような思いで近侍と初期刀、そして情報収集を得意とする刀たちが走り回っていた。
    「切国くん、主の反応があったみたいだよ」
    「なんだとっ?」
     切国が、遡行軍の出現情報を調べていたはずの南海の声にそちらに向かう。
    「どこだ?」
    「夜の京都」
    「は? 万事屋に行って、なんでそんな戦場に……?」
    「偽物くん、追加の情報だ」
    「切国、政府からの情報も更新されている、っともう南海が見つけていたか」
     山姥切長義と薬研が近侍室に飛び込んできた。四人で顔を突き合わせる。
     モニターを中心において、南海が操作をしながら政府からの連絡を開く。
    「えーと、最初に連絡が入ったのが三時間前。更新は今僕が見たもので三分前だね。
     例の本丸内から逃げ出したのは、おや、まさか……」
    「肥前忠広? とてもそんなことをするような御刃じゃねえけどな」
    「いや、各本丸、それぞれ入手手段は最近は異なるし、なにも必ずしも特命調査に赴いていた個体でない可能性もある。そうするとまた個性は変わってくるんじゃないか?」
    「ふうん、そんなもんか」
    「だが、審神者を襲撃したのは彼ではないようだ。
     本丸内では内戦状態となり、建物は半壊、残っていた男士たちは捕らえられているが、そこから逃げたのが肥前くんだね。
     それと、なんだって……?」

    「本丸の中に、時間遡行軍の痕跡、あり?」

     読み上げた長義の言葉に、それぞれ見つめ合う。
    「なら、この審神者が黒ってことではないのか?」
    「だが、なぜ肥前一人が?」
    「とにかくまずは続き。それと、主の居場所の連絡はどれだ?」
     とりあえずわかっていることは全て押さえておきたい。
     不自然なゲートおよび時空のひずみの大量発生が一斉に行われた。すわ、時間遡行軍の一軍か、となったがあくまでもひずみが出来ただけで侵攻はなかったという。
     たまたまそのひずみに巻き込まれたと思われる人物の中に、この本丸の審神者の名前が入っていた。
    「それで、ゲートの次の開く場所の予測が出来たってことか」
    「周囲の目撃情報もあったのか。ありがたいな」
    「で、出陣は?」
     審神者がいない間、本丸に初期刀が残っていれば初期刀が、いなければ初鍛刀である前田藤四郎が指揮を担当することになっている。
     不服そうな顔をしているが、きちんと本丸内のルールには従うつもりだと意思表示した長義に、切国は答えた。
    「第一部隊で出る」
     そういいながらすでに近侍部屋を出ている。南海が本丸内全館に伝わる放送を流した。
    『やあ、みんな。主の居場所がわかったよ。
     これから切国くん率いる第一部隊が向かう。出陣先は京都市中。念のため、第二部隊は夜戦組に切り替えて待機をしてくれたまえ。
     なお、第一部隊にいる太刀、長物諸君は待機だ。残念ながら、適材適所だね』
     部隊の準備のための詰め所に入ると、放送を聞いた第一、第二部隊に現在入っている面子が走り込んでくるところだった。
    「なんだよ~! まだ夕方にもなってないのに夜戦なんて聞いてないぜ~!」
     鶴丸国永が悔しそうに内番着のまま詰め所にやってきてそんなことを言う。
    「悪いな、太刀は留守番だ。それで……」
    「代わりは誰?」
     第二部隊として戦準備にとりかかった小夜が肩のポンポンを押さえつけながら聞く。
    「やあ、お待たせ」
    「南海太郎朝尊、鶴丸国永と入れ替えだ」
    「承知した」
    「おお~、先生もうきちょったがか」
    「準備すっぞ」
    「よろしくね、肥前くん、陸奥守くん」
     さっさと準備のために南海を引っ張っていく肥前を、南海が見つめた。
    「なんだよ」
    「いや、なんでもない」
     第二部隊の面子にも集合出来たか確認して声をかけていたが、堀川国広が切国を捕まえた。
    「ほら、兄弟も。出陣するんでしょ、隊長」
    「あ、ああ」

     南海の代わりに長義が最後のアナウンスを行う。
    『第一部隊以下、五名。
     隊長、山姥切国広、隊員は、南海太郎朝尊、陸奥守吉行、骨喰藤四郎、後藤藤四郎。
     前田藤四郎が主についているため、五名での出陣とする!
     総員、準備出来次第、開門!』

     そして、ゲートは開かれる。

    「いざ、参る」



    「いやいやいやいや、聞いてねえって! なんだってこんな夜の京都なんかに!」
    「主君! 黙って! 聞こえてしまいます!」
     こそこそと敵を避けて進む三人だが、前田と肥前は刀剣男士であり、夜戦の得意な短刀、脇差である。物陰に隠れて進むのは慣れているが、審神者は普通の人間だ。普段は赴くことなどない戦場に突然放り出された三人は、まずは場所を把握しようと、物陰に隠れ、前田だけが京都の街並みを知っているのでその案内に従い、いつもゲートが開かれているはずの場所へと向かうことにした。
     やはり肥前は出陣をしたことがなさそうだ。
     だが、戦うことの出来ない審神者よりも当然だがよっぽど役に立つ。
     前田の進む早さについていけずに、審神者が腰をかがめて走るのに苦痛を感じ始めていた頃、肥前が急に振り返った。
    「……っ!」
     振り返った肥前に右腕を引かれ、手前に思いっきりスライディングのようにスッ転ぶ。転ぶ直前に前田が気が付いて振り返っていたが、審神者に近寄るより先に彼は自身の装備していた刀装兵を展開した。
    「銃兵! 起動します! 肥前さん! 屈んで!」
     その声と銃兵の音に言われるよりも先に頭を下げ、審神者を狙った遡行軍に向けて駆け出した肥前を後ろから援護する形で銃撃が飛び、それと共に脇差の刃が閃いて、ようやくほどんと暗闇だった審神者の瞳に敵の姿が映った。初めて間近で見る遡行軍の姿に、足がすくむ。
     でかい。初期刀の切国よりも少し高い程度の自身の身長よりも圧倒的にでかい。長物連中と話すよりもでかいじゃないか、めちゃくちゃ異形の姿を目前に、完全に顔中から脂汗が流れ、背中には冷たい汗が滴った。歯がガタガタと震えて、情けない限りだが、急にこの夜の空間中に飛び交っている殺意に気が付いたのだった。
    「主君! まずは落ち着いてください! 深呼吸です!」
     前田がサッと審神者の前に立ち、大声を張り上げた。
     その声に、飛びかけた意識を取り戻す。できることはなにもないが、ここで意識を失うわけにはいかない。
    「前田っ! 肥前を援護!」
    「しかしっ!」
    「いいからっ!」
     自身は建物の脇に張り付いて、前田に援護するよう告げると最初は二の足を踏んだが、すぐに頷いた。
     肥前は弱い。おそらく特にもなっていない。ほとんど戦闘経験がないのだ。夜戦で太刀、いやあれは打刀だったか? 刀種としてはこちらに分がある。

     待て。
     あんな敵遡行軍、見たことがあっただろうか。
     審神者が気が付いた瞬間、前田は肥前の元に跳び出していた。



    「ようやっと、見つけたぜえ……!」
     腹の奥底が煮えたぎるような熱を持っている。わかっているのだな、貴様が最後に残したこの怪物のことを察しているとは。
     引かれあう力がある。互いがどこにいるかが、きっとわかっている。コイツはおれに斬られるために、そのためだけにあそこから逃げ出したのだ。
     ならば、答えてやるのが自分の役割だと思った。「斬る」しか能がないのだから。
    「は、ははははは……」
     上から振り下ろすが横に後ろにと避けられる。敵の剣は見る影もなく、ボコボコとした、刃には異物がついてとても斬れるような代物ではない。たたき割るようなその動きに、足元を潰され、建物の壁を壊され、欠片を避けながら、肥前は胸の痛みと戦っていた。
     お前は、アンタは、そんな、そんな刀なんかじゃない。
     綺麗な切っ先で真っ直ぐと伸びた、そんなお前の、姿は、もうどこにも見られないのか。
    「肥前さんっ!」
     肥前の切っ先があと一歩で届かなかったところに敵の刃というより鈍器が突き出されたのを、前田が自身で滑らせて流す。あまり離れると審神者を守ることも出来ないので少し距離をおいて近づいてもらっている。近すぎてもこの鈍器では一瞬で届いてしまう可能性があるからだ。
    「っち! いったん離れろ!」
     だが、距離を見誤った審神者が近すぎると思った瞬間、敵の動きは早かった。
     ただの人間だと判断したその次には大きな一歩が踏み込んでおり、前田の足ではいくら早いといっても物理的な足の長さには追い付かない。
    「主君!」
     前田がそれでも走る。

     昨日の「チョコレート」の菓子は、初めて食べた。
     今までほとんど食べ物を食べたことがない肥前にとって、「嗜好品」というものは想像もしたことがなかった。
     泥水や雨水ではない水はなんと穏やかに喉に馴染んだことだろう。
     出会ってたった一日。
     自分の目的はただ一つ。コイツを殺すこと。そこに違いはない。絶対に達成しなくてはならない。
     そうでなくては、生きる価値などない。

     だが、考えるより先に前田をただ足の長さの違いだけで追い越して、振り下ろされた長い刀を、自身の刃で受け止めた。
     すごい力で押し潰され、膝を着いてもなお、刃によって圧迫される。審神者にはなんとか当たらなかったらしい。
    「お覚悟っ!」
     そういう前田の声が横から響いて、敵の脇腹を斬りつけると、体当たりで刃の重心をずらしたことで、肥前が立ち上がり審神者を引っ掴んで、撤退した。
     しようとした。
     前田が銃兵を展開したが、敵が足元に転がっていた別遡行軍の壊れた破片が、壊された漆喰の壁の破片が投げつけられた。銃兵で撃ち落とすにも間に合わない。
     避けられない、と思った瞬間、目の前に別の刀が立っていた。

    「山姥切国広、参る!」
    「おんしが噂の肥前のか! 待たせたのう!」
     二人を守ったのは、おそらく審神者のところの刀剣男士だ。
     自分の両脇に、後藤藤四郎と骨喰藤四郎が降り立ち、その後ろから、見知った顔が現れた。

    「やあ、お待たせ。助けにきたよ。肥前くん」

     ああ、先生。待っていた。ずっと、ずっと。



     特命調査が終わってから、肥前はなんにも言い渡されることもなく割り当てられた部屋に閉じ込められていた。
     出陣はもちろん、食事に呼ばれることもなく、風呂も排泄もなくなにもかもを垂れ流しにする。
     あんなことがあったのだ。仕方がない。本丸の中の秩序を守るためにはそれくらい。そう思っていた。
     おれには、斬るしか価値がねえ。

     だが、その「斬る」という行為を封じられた今、じゃあ、おれは、自分は、一体なぜここにいるのだろうか。

     わからなくなってきた。
     政府によって顕現させられ、放棄された世界の監視と調査を行う任務についた。
     任務の最中は嫌ではなかった。南海太郎朝尊と一緒に過ごし、同郷の刀と出会えたことは少なからず肥前の心を慰めた。
     そう、あんなことが、起きなければ、きっと先生もこの本丸にもっと早く来ることが出来ただろう。

    「先生は、先生は来んのじゃ」
     あまりにも遅い南海太郎朝尊の未顕現に肥前は驚きをあらわに昔馴染みを詰る。
    「どうしてだ! なんで……」
    「主がまだ動けん。出陣が出来んきに」
     陸奥守は、扉越しに肥前にそう告げる。実に悔しそうな口調で、嘘をつくことも隠すことも上手い奴だが、きっとこれは本物だろう。そう信じるしかない。
     ここから出れない肥前にとって、陸奥守だけがこの本丸の外の情報を教えてくれる唯一の命綱だった。
     時折、肥前との接触を咎められるのかひどい怪我をして、肥前の前に現れることもあった。自身の食事を削って肥前に分け与えているのにも気が付いていた。
     いつも冷や飯だったのが、そのうち腐ったようなものが出てくるのがだんだん増えてきた。胃痛を起こして、胃液を吐いても、糞便を垂れ流しても、肥前に食べないという選択肢はなかった。どうせ死ねないのだから。それならば、なんとしても南海太郎朝尊にもう一度逢うまでは、生き延びてやる。それだけが希望だった。
     なのに、あの世界への道は、現在すでに閉ざされたという。
     ならば、あそこに残してきた南海先生はどうなったのだろう。
     なあ、陸奥守、教えてくれ。取り残された先生は、どうなったというんだろうか。



    「肥前くん?」
     ハッとしたように、肥前忠広は審神者を後藤と骨喰に手渡す。特に怪我はしていないが、時間の流れない空間で一日分以上を過ごしており、極度の緊張の中にいたためか、自分の本丸の男士が来た事に安心したのか、審神者はヘラリと笑って、ガクリと膝をついた。
    「大将! 大丈夫か?」
    「大丈夫、大丈夫。骨喰、肩貸して……」
    「わかった」
     ずっと南海が肥前を見ている。
    「ねえ、肥前くん」
    「おれは、アンタんところの肥前忠広じゃねえ。いるんだろ、アンタんところに」
    「アレは、誰だい」
     黒手袋の細い指先が陸奥守と切国、そして前田が戦っている相手を楽しげに指さした。
     誰も見た覚えのない時間遡行軍。いや、あれは本当に時間遡行軍なのか?
     なにかが、違う。
     審神者は思い出す。そうだ。あの敵を見て、なにかを、思い出したのだったと。

    「あれは、南海、太郎朝尊なのではなくて?」

     ビクリ、と肥前の肩が揺れた。
    「ほう、詳しく、教えてくれるかい?」
    「……アンタたちには、関係ない。
     アイツを斬るのが、おれの役目だ」
     もう一度刀を抜く。

    「やめておけ。その錬度じゃ無理だ」
     下がって来た切国が、肥前に言う。
    「肥前の、あれは、元は刀剣男士じゃな。男士を素体に時間遡行し、時空を違法に越えようとした罰なんじゃろか。
     のう、アイツは、げにまっこと、おんしに斬られるのを望んじゅーのやろうか」
     陸奥守の言葉に、刀を抜いた肥前の動きが止まる。
    「それでも、おれが斬らなくちゃ、いけないんだ……!
     それが、アイツをあんなにしてしまった、おれの役割なんだから!」
    「待て! 肥前!」
     走り出した肥前を追って切国が走る。
     陸奥守は肥前を見ていた。
    「どうする? 陸奥守くん?」
    「ん? どうするもこうするもないきに。やることは一つだけやって」
     そういって、銃を取り出す。
    「なあ、待ってくれ、二人とも、肥前は、あの……」
    「主。肥前くんがどうこうという話ではないんだ」
    「あの男士の落とし前の付け方の話やけんき」
     審神者は迷っていた。
     気が付いてはいたのだ。あの敵からうっすらと感じる「刀剣男士」のような気配に。
     だが、肥前がなぜそれを追っていたのか、それを知らずに突きつけることも出来ずに。
     そして、ずっと肥前がただ「斬る」ことだけを求めていたことも。
    「オレは、肥前に、斬らせてやりたい」
    「あの錬度で? 元々素体の男士はそれなりに強かったんだろうねえ。
     あの肥前くんは、特にすらなっていない。刃が通らないよ」
    「そこは同感じゃな」
    「でも……」
    「それと、もう一つ大事なことが」
     前田が、審神者の傍らに寄り添った。

    「もう、霊力が尽きてしまいそうです。肥前さんの」

    「なんだって!」
     そういわれて戦っている様子を見ると、切国は肥前をサポートしてやろうと、敵の攻撃を薙ぎ払い、避けつつ、足元などから敵の動きを封じているが、肥前のほうはそんな切国の行動についていけていないのが明らかだ。先ほどの前田の与えた横一文字の切り傷から臭気のようなものが流れ出ており、周辺の空気を汚している。それにすら視界を、嗅覚を、捉えられて肥前は突然力を抜かした。全身がスローモーションのように倒れていくのが見えた。
    「肥前!」
    「大将! ダメだって!」
     審神者が駆け寄ろうとしたのを当然後藤が引き留める。
     南海が審神者よりも早く肥前を回収してきた。
     もう息が絶え絶えとしており、唇が青い。元々土気色をしていた顔面はもう紫色に変わり始めていた。
    「肥前さん、あなたの、主君が、まさか……」
    「は、ははは、死んで、当然なんだ、あんな奴……」
    「は?」
    「人の身体を、好き勝手に、しやがって……。抵抗できない者を相手に、よくも、勃つもんがあるってことだ……」
     とっさに、骨喰が後藤の、審神者が前田の耳を抑えていた。明らかに間に合っていなかったが。
    「まさか、お前、そんな本丸で過ごしていたのか……」
    「あの化けモンは、アイツは、おれを助けた。
     だから、おれが、最後の引導を渡して、やらなきゃ……いけないんだ……。おれのせいで、あいつま、で……巻き込んだ……。
     おれがいたから、おれのせいで……あの本丸が、潰れたのは、おれが、いたから……!」
     肥前は自身の刃すら持つ手が震えていた。
    「もういい! 肥前! コイツなら、俺が倒す!」
    「駄目だ! 切国! それじゃ意味がない! 肥前が、やらなきゃ、意味がない!」
    「だが、どうするというのかね。もうこの肥前くんに霊力を供給する審神者は死にかけ、いや、死んだのかな?
     顕現した男士は他の霊力を受け付けないと聞くが」

    「少しの間なら、持つと思う」

    「大将?」
    「主君、待ってください」
    「前田、頼む」
     そういって、審神者が右腕を差し出そうとした。
    「駄目だ!」
     遠くから、敵を抑えている切国が声を上げる。さすがに陸奥守が応援にそちらにかけていった。
    「利き手じゃないほうにしろ!」
    「え、そっちの理由!? 大丈夫なのかよ、大将?」
    「実は、もう何回か微々たるものだけど、霊力は少し分けたんだ。そのどれもに拒絶反応が無かったから、最後のひと頑張りくらい、イケるんじゃないかな」
    「無理は、してないか」
     骨喰が、審神者の瞳をしっかりと見ながら確認する。ゆっくりと頷いた。
    「うん。大丈夫だ」
    「……承知しました」
     前田が、審神者の前に片膝をつく。
     差し出された左腕の、前腕の真ん中辺りに、スッと一本切れ込みを入れた。綺麗に斬れば痕も残らないだろうと、誰かが言っていたのを思い出す。お前たちは手入れがあるから傷なんて残らないだろうと言ったら、はははは主の話だぞ、と笑われたことがあった。あれは、いつの話で、誰が言ったんだったか。
     じわりと、垂れてきた血液を、肥前の口元に運ぶ。
    「実の主の霊力じゃないから不味いかもしれないが、我慢しろよ」
    「は、あんな腐った野郎の霊力なんて、こっち、から、願い下げだ……」
     チロリと舌で血を舐めとると、急速に、肥前の顔色が明るくなる。口元に、頬に垂れた血液を、ベロと舐めとって、ゆっくりと立ち上がった。
    「すまねえ。感謝する」
     それだけ言うと、もう一度かつての仲間に向かって走っていく。

    「陸奥守! 今、楽にしてやる!」
     肥前の刃が、振り下ろされようとしていた。


     そこはいい本丸だった。
     当たり前に毎日を出陣や遠征、内番で過ごし、毎日の食事を楽しみにし、人間の肉体であることを楽しく思う。「審神者」という主に仕える者として、仕えるに値する男だと思ったし、彼はどの男士たちにも平等に接していた。
     そう思っていた。あの日まで。

    「清光っ! 撤退じゃあ! これ以上いったらあかんちや!」
    「駄目だ! ここまで来たらもう戻ることは出来ない!」
     清光はたった一人、部隊の最前線に立っていた。極になってさほど練度の上がっていない中、文久土佐藩での特命調査は難攻していた。普段さほどの激しい戦闘を経験していない本丸だった。あまり無理な出陣はせずに、中傷になれば撤退するという慎重な進軍が主だった。そして、この本丸では初めての特命調査だったのだ。
     だが、ここ特命調査の最中、そして最後の進軍では撤退が出来ないという、なにがしかの力が働いているようだった。
     清光は特ばかりのメンバーの中、ただ一人極の刀として時に先頭を走り、危ないと殿を守りと奮闘していた。陸奥守も練度は低くはないが、他の面子が追いついていない。最後に戻れるポイントでの帰還をし損ねたのが原因だ。低レベルの短刀を連れて、高レベルの太刀、打刀が戦っていたが、刀装ももうそれぞれ無くなっている。
     このままでは折れる刀も出てくる可能性がある。緊張感を持った状態で部隊は下がることが出来ず、ただ進むしかなかった。主がとても不安げな声を出す。早く戻ってくれ! と。しかしこちらもそんなことは当然望んでいない。戻れるものなら帰りたい。しかし、帰ることが許されない。管狐の無慈悲な「進軍してください」という声だけが、現実を知らしめていた。
     そのあとのことはあまりみんな覚えていないだろう。
     最後の戦闘は苛烈だった。装備も手薄で錬度も足らず、ここまでかと誰もが思った。その中で最後まで諦めなかったのは加州清光だった。
     結果、清光は折れた。それも肥前忠広を庇って。

     本丸に顕現した肥前を、明るく出迎えるものはいなかった。
     肥前が悪いわけではないと誰もが理解していたが、なによりも審神者にとって一番大切にしていた初期刀の加州、それもこの本丸で修行に行った初めての刀であったのだ。
     誰も、どうすることも出来ず、審神者が引きこもってしまったのをきっかけに本丸は崩れ始めた。
     最初に動いたのは最も清光と親しかった安定だった。
    「清光はなんのために折れたの?」
     彼は真っ直ぐだった。あまりにも。新選組の刀たちですら瞳を逸らしてしまう。まるで清光がそこにいるようで、同じ強さを湛えた瞳を見つめ返す者はいなかった。
    「あのまま肥前を放っておいたらきっと清光は一番怒るよ。僕はそう思う。
     こんなのおかしいよ!」
     その声は誰にも届かなかった。
     審神者はますます意見する者を遠ざけた。それは悲しみを纏う者の力ではなく、次第に淀んだ力となって。
     結局、今の主と、かつての士道を天秤にかけても、自分たちがこの主から顕現したという事実を絶対的に覆せないことから、そして兄弟刀たちがいる者たちが動けない理由を、そのうち肥前の元を隠れて訪れていた陸奥守は知った。
    「肥前。なんじゃ、その傷は」
     硬い自分の声は、初めて発したものだった。こんな声が自分の口からも出るのだな、と他人事みたいに。
     身体中から見える痣や、縛られた痕、明らかに人間に対して行うものではないだろう行動が目に余る。その赤い髪についた血が時間が経って黒く染まってまるで全部が黒髪のように見えた。そして赤い瞳、つり上がった目。ああ、審神者は、肥前を、違う刀に見立てようとでもしている。
     ゾッとして、吐き気がした。
    「……なんでもねえ」
    「こがなところに閉じ込められちょって、そがな怪我するわけがないろう。一体なにがあった」
     決して肥前は口を割らなかった。
     本体は審神者が持っている。時折、審神者の部屋から異音が発するようになり、出陣は無くなり、畑は荒れだした。刀たちも黙したまま。気付かないはずがないのだ。我ら主の動向を、みんなが固唾をのんで見守っている。夜な夜な肥前のところを訪れる審神者がなにをしているかなど。押し殺した青年の声が、時折「ぶっ殺してやる」と反抗する、意味のある人の声が漏れ聞こえると、すぐに何かを打ち付ける音が聞こえる。気の弱い短刀の幾振りかが、母屋で寝られなくなったていた。
     安定の言う通りだ。清光が生きていたら、こんなことには絶対にならない。折れたのが清光でなかったら? そんなバカな。そんな発想は無駄でしかない。折れたのが清光であることは純全たる事実でしかなくてそれを受け入れて生きていくしかないのに。誰もが誰かと誰かを天秤にかけていると思い知らされた。自分たち、刀でさえも。
     なんのために、顕現した? この主のために、命を尽くそうと戦ってきたはずだった。
     肥前と、南海と出会って陸奥守は嬉しかった。ようやく出会えた同郷の、昔馴染みたちの刀に、心が躍った。
     清光とはこの本丸で出会ったばかりだが、ほぼ最初期に顕現した陸奥守と清光は安定も含め、かなり親しかった。逆に遅く顕現した長曽祢よりもよっぽどだ。
     このまま肥前を危険な目に遭わせるわけにはいかない。南海太郎朝尊の迎えも出来ていない。それではあの閉ざされた世界に置き去りにされてしまう。なんとしても、放棄された世界が閉じてしまう前に、先生を助けに行かなくては。だが、今の状態で新しい刀を受け入れることは出来ない。
     なにより、肥前がなにを考えているのか。今更、陸奥守は気が付いた。
     他の刀たちが動かないのと同じだ。

     陸奥守吉行がこの本丸にいる。
     それが理由に違いない。

     本丸の中にいるのに、陸奥守は襲撃を受けるようになった。
     肥前を救おうと画策を始めている陸奥守を止めるためだろう。傷を負っても手入れは施されない。隠し切れない傷は肥前に見られるたびにあの眼光がますます光を失っていく。彼の生きる力がさらになくなっていくのが目に見えてわかる。死んでほしくない。なんとしてでも生きて欲しいと自分勝手な気持ちを押し付けるように自分の食事を削ってでも飯を与えた。ろくな霊力すら与えられておらず、人間ならとっくに死んでいるのに、霊力が残されているからこそ死ぬことが出来ない身体になってしまった肥前を、本当に楽にしたいなら、きっと食事を与えるべきではなかったのに。
     そんな陸奥守の唯一の理解者は結局安定のみだった。
     とにかく主に会いに行こうとするも妨害され、二人は本丸内での居場所を失っていった。
     守るものがない刀は彼らくらいしかいなかった。
     強行突破しようとする安定を、陸奥守は根気強く説得し続けた。
    「今はまだあかんちや」
    「なんでだよ! このままじゃ、肥前が死んじゃう! あんな、どうして……こんなことに……」
    「安定」
    「もう僕は我慢ならない」
     清光の名を呼ぶ安定の声は、審神者には届かない。

    「単騎、出陣」
     近侍の堀川から告げられたのは安定の出陣だった。刀装は当然ない。手入れもう何ヶ月もされていない。
     実質上の死刑宣告だった。告げた堀川は涙の痕がひどい。彼もわかっている。なんにも感じないわけではない。それでも、主の命を伝えにきた。それが、答えなのだ。
     もう時間がなかった。
     安定の出陣の前に、なんとか視線を潜り抜け、陸奥守は安定と堀川の手を借りて文久土佐に出陣した。南海太郎朝尊を迎えに行くために。
     帰って来た時には、新選組の刀は一振りもいなかった。

     それ以降、審神者が母屋に姿を現すようになった。その身にはいつも肥前忠広を携えて。
     そして時折、本丸から刀がいなくなるようになった。一期一振がいつも弟を探している。他の刀たちも、次第に焦りが見え始めた。もう他人事ではないのだと。
    「加州清光を、復活させる」
     主がそう言い出した時、もうこの本丸は終わりだと思った。
     本丸全体が臭気に覆われ、地獄のような澱が足元にまとわりついているような気配が消えない。一歩前に進むごとに身体の内部が腐っていくような、そんな内側からなにか得体のしれないものに蝕まれている。主は、とても痩せていた。彼もまた、霊力だけで生きているようで、窪んだ眼には狂気の光が煌々と輝いていた。
     なにもかも手遅れだった。時間遡行軍と手を組んだ自分たちの主は、もう正気ではない。まだ正気を保っていた刀たちが立ち向かおうとしたが、人としての生活から離れかけていた彼らに戦う力は残されていなかった。幾振りもの刀が為す術なく折れた。
     陸奥守は、狂気に乗ることにした。肥前はまだ死んでいない。肥前を救うにはこの道しかない。
     こんな荒れ野に、顕現してから一切戦いを経験していない肥前を放ってもすぐに殺されてしまうだろう。
     そんなことは耐えられないと思った。
     ずっと、蛍丸を守るために沈黙を貫いていた愛染国俊が陸奥守の手足として最後の伝言を引き受けてくれた。結局は彼も保護者との再会は望むことが出来ず、蛍丸は、愛染を庇って折れてしまった。もう愛染が審神者に汲みする理由がなかった。
     あの戦いの時、加州清光の亡骸を拾って帰っていた。あの亡骸と、他の男士たちを連結、習合してあの「加州清光」を蘇らせる。
     誰もが不可能だと知っていた。誰の言葉も主には届かなかった。人間は愚かだと三条が嘲笑う。だが、彼らは最後まで主の側につくようだった。
     そこに、錬度の高い刀を必要だと言ったのだ。これしかない。陸奥守は名乗りを挙げた。自分を使うがいい、と。



    「肥前!」
     聞いたことのない声だった。扉が開かれ、赤い髪の短刀が入ってくる。自分よりもクッキリと明るい色の。服も身体もボロボロだったが、自分よりはマシなようだ。
    「こっちへ来い! 陸奥守が、銃を撃つ。
     それが合図だ。そしたら、ここから出ていくんだ。
     アンタは、こんなところにいちゃいけない」
     そういって、その短刀は肥前を引っ張って母屋の一つの部屋に肥前を押し込んだ。なにをされるのか分からず部屋を出ようとするも、短刀のほうがよっぽど力が強い。
    「安心してくれ。ここは手入れ部屋だ。すぐに終わる」
     言われた通り、すぐに部屋から出される。身体中の痛みが引いて、両目が見えるようになっていた。昨日まで、右目しか見えていなかったのが嘘のようだった。身体も軽くて、体中に力がみなぎっている。自分の周囲をチラチラと散るものが見えた。
    「悪いけど、元いたあそこの部屋で待機していてくれ。もう、おれとも二度と会えないだろう。
     ごめんな、肥前のにーちゃん。助けてやれなくて」
     そういう短刀は、零れる涙も拭くこともせず、言うが早いかピューッと肥前を元の部屋の前に連れていってあっという間に走り去った。
     仕方なしに肥前は言われるがままにその部屋で「合図」を待った。
     なにかが終わる。そんな予感だけは理解した。

     パァン! と銃声が肥前の脳内を貫いたように、クッキリと聞こえた。そんなわけはない。遠方だ。だが、嫌な予感だけが胸の内で大きくなる。
     この銃声は聞いたことがある。陸奥守だ。陸奥守の持っている銃だ。アイツが撃っている!
     やめろ! おれを助けるというのなら、抵抗はやめてくれ!
     今までの屈辱が、非抵抗が、全て無駄になってしまう! そんな考えもまた自分勝手だとわかっていたけれど、音のする方向に気がつけば向かっていた。部屋を出る時に、ごとりと音がしたのでそちらを見ると自分の本体だ。小さな手形の血糊が付いている。さっきの短刀だったのかもしれない。腰にサッと差して、初めてこの本丸の中を肥前は走っていた。

     物陰に隠れて進む。他に刀たちの姿が見えない。どうしてだ。いつもザワザワとした気配がいっぱいあったはずなのに、どうして誰もいないんだ。
     そして、あちこちに時間遡行軍たちの気配を感じる。審神者は、どこに行ったんだ……。襲撃を受けているということなのか?
     遠目に一番大きな姿の遡行軍を見つけて、そいつに焦点を合わせた瞬間、肥前は中身のない胃液を吐いていた。両足が震えて、四つん這いになって、口の中の酸っぱさを吐き出す。
    (陸奥守だ!)
     あれは陸奥守吉行だ。
     肥前の知っている姿ではない。陸奥守だけではない。他の刀の姿も混ざっている。不可思議な姿をして、刀は大きく脆く、刃があちこち欠けて、その両足は獣のように曲がっており地響きを鳴らす。
     どうして。なぜ、あんな姿に、なっている。
     その手には、審神者の首があった。まだ胴体と繋がっているが、審神者の口が動いている。その両手になにか札のようなものを握っているので、なんらかの呪符か身を守るための護符なのだろう。くだらない。刀剣男士の前ではなにもかも無駄だろう。あの怪物を、「刀剣男士」と呼ぶのなら、だが。
     自分を、折れた刀の代わりに寵愛しようとして、失敗して、現実を受け入れられずに、人間の身でありながら末席の神を踏みにじり蹂躙した、あの愚かな人の子であえる「審神者」の首だ。
     いつか、自分の手で殺してやろうと思った。不必要な痛みと、苦しみを与えたあの人間を。この身など与えられなければよかったと心底思ったあの日々の中で、いつかこの審神者を殺してやると思っている時にだけ安らかさを得られた。
     だが、あの首を見て、思ったのは、「安堵」でしかなかった。
     自分の手で、斬らなかった。そのことに安堵してしまった。笑いたいような、泣きたいような、なんだかわからない気持ちになって、笑い泣きのような声を上げた。

     斬りたくない。斬りたいわけじゃない。
     自分だけが、酷い目に遭うのならいくらでも耐えられる。どんな目に遭ってもいい。だから、どうか、その男を、返してくれ!!
     そして、その怪物の気配に南海太郎朝尊が混ざっていることも、苦しみに加速をかけた。

     無造作にどさりと、審神者を投げ捨てると、肥前を見つめ返した怪物は、本丸の外に出て行こうとした。
     ゲートはすでに開かれている。誰かが開け放っていたようだった。怪物の両掌を見て、他の男士たちはあの元陸奥守が殺したのだろう。
     どうして、なんで、お前が、そんなことを。
     このままでは、陸奥守は、外に行ったら、他の誰とも知れない者に殺されてしまう。

     それなら、アイツを殺すのは、おれだ。
     おれが、アイツを、殺す。



    「陸奥守!? え、あれは、南海太郎朝尊なんじゃあ……」
    「いや、あれは陸奥守くんで合っているよ」
     肥前が陸奥守の名を叫びながら遡行軍に向かっていった時、審神者は驚きの声を上げた。なにを言ってるんだと言わんばかりに南海がやれやれと呟く。
    「だって、気配がする」
    「え?」
    「あの中に、南海太郎朝尊の気配がある。きっと、まだ顕現されていない、刀があそこに混ざっているんだ。
     最初はわからなかったんだ。いろんな気配が混ざっていて、なんだろうと思ってたけど、さっき朝尊が来たときに、ああ、あれは南海太郎朝尊だって思ったんだけど」
    「あの中に? まさか、まだ残っている刀がいるのか?」
     南海が立ち上がり、そちらに向かおうとする。それを後藤が押さえた。
    「先生。まずはあの肥前がやってからだ」
    「……そうだね」
     肥前の刀が何度も通らずに、もてあそばれているようだった。

    「っくそ! くそ!」
     もう本当に時間がない。先ほど舐めた血から得た霊力はすごい勢いで吸収したが、一瞬で消費していっているのがわかる。電池切れの瞬間がわかるように、じりじりと指先が力が抜けていくのがわかっていた。だが、もうこの刃を離すことなど絶対にない。
    「斬りたいわけじゃねえんだ……斬りたいわけじゃねえんだよ!」
     斬れない。届かない。当たらない。
     それでも、斬らなくてはいけない。それが今なのだ。
     ああ、わかった。入った。肥前の刃が、一瞬の隙間に、元陸奥守の胸めがけて、突き刺さった。

    「あかんのう」
     明らかに入ったはずの刃は、陸奥守が滑らせて、肥前の刃を捉えていた。
    「なっ! てめえ!」
    「斬りとうわけじゃ、ないんじゃろう? 知っとるよ」
    「は……?」
    「もうええんや、肥前の。斬らんでええ」
     肥前の刃をはじき返すと、そのまま受け身も取らずに肥前が尻もちを着いた。
     元陸奥守が自身の刃を振り上げたが、陸奥守が銃を向ける。
    「おんしが斬りとうないんじゃったら、わしらに任せちょけ」

     ぱあん、と刃を持っていた腕を撃たれ、どすんっと地面が揺れて落ちた。
    「邪魔なので、斬らせてもらうよ」
     後ろから、南海太郎朝尊が元陸奥守の身体を貫いていた。
     ガクン、と膝から落ちた大きな体躯が、肥前の前に倒れ込んだ。南海の刃が抜かれる。血糊のついたそれを、何の気なしに振った。
    「陸奥守!」
     肥前が、駆け寄ると、怪物の身体がパリ…と音がして、ガワが剥がれる。筋肉のような繊維が見えたり、見たことのある他の刀剣男士の腕だったり、皮膚だったり、髪の毛らしきものが、あちこち、体中が剥がれて見えて、抜け落ちて、崩れていく。顔に当たる部分の暗闇が剥がれた。
     見慣れた瞳だった。明るい太陽のような、輝きを、決して損なわない「朝日のような」瞳だった。

    「もう、え……えんじゃ…あ、肥前」
     瞳だけしか見えない。あとの部分はもう陸奥守吉行には似ても似つかない。声だって、違う。しわがれて、幾重にも重なって聞こえる不可思議な響きのそれ。それでも、その言葉を発しているのは、明らかに陸奥守だった。この肥前のところの、陸奥守だろう。
    「す、まんかったのう……。
     斬りたいんやと、思うとった……わしを討って、おんしが、それで落ち着くと、思うちょった……そこまで、面倒みて、ようやく、終われるきに……思うとったんに…なぁ……」
    「もういい! なんだっていいそんなこと!」
    「のう、肥前…の。この世には、美味い……ものがよけあるがよ。何にも食べさせちゃれんかったな。
     ぬくい米はきっとおんし好きやろう。その喉をいくつのものが通ったろう。なあんにも、食わせてやれんかった…のう」
     片方しか見えない瞳から涙が落ちる。
     瞳だけなのに、人間のようで、瞳の周りはずっと固い皮膚がどんどん硬化していっている。パリパリという音と、割れていくピシピシという異音が、同時になっている。
    「この世はもっと、明るいがよ。
     楽しゅうて、眩しゅうて、苦しゅうて、それでも生きちょりたい思える。
     肥前がここに来てくれて、ようやくわしもそう思えた。一人でも十分やったのに、おんしが来て、先生も来たらきっと世界はもっと良うなる思うちょった。
     なんもかんも、夢幻となってしもうた。
     炊き立ての飯、腹いっぱい食わしちゃりたかったなあ」
     人の手とは思えない、歪な爪をした手先が、肥前の頭に伸びた。触れることはせずに、ただ、その頭上にだけ、腕を上げて、ボロボロとその腕が肥前の上で崩れ落ちた。
    「な、肥前の…。
     折れたらいかん。
     生きてくれ。
     おんしゃあ、はまだなにも成しちょらん。
     どうか、折れる時……には胸を張って、わしらは地獄におる。もう二度と会うことはない」

     そして、後ろに立っていた南海を見た。
    「先生。ありがとう。
     地獄で待っちょってくれ言うたのに、迎えに来てくれたんやな」
     瞳を一度ぱちくりと瞬いて、南海が、笑った。
    「当たり前だろう。ずっと、待っていたよ」
     そして、その瞳に向けて刀を突き刺した。

     その直後、完全に霊力切れを起こした肥前忠広も倒れ込み、関係者各員の息が無くなった。


     何事も、後始末が一番大変だ。
     このたび事件に巻き込まれたとはいえ、盛大に関わってしまった結果、だいぶ時間を取られてしまった。
     経緯はたまたま審神者が肥前忠広と異空間に飛び込んでしまったことが原因だが、以降に最後時間遡行のような姿になった陸奥守を討ったことは政府側の調査員からかなりこってりと絞られてしまった。まずは政府に知らせろ、と。まあ、その通りだろう。
     実際には長義が連絡をしていたので、全くなんにもしていないわけではないのだが、展開が早すぎた。
     南海が陸奥守を討つと、もうほとんど原型を残していなかったところ、残りの身体も全て黒い塵となって掻き消えてしまったのだ。
     肥前は霊力不足で意識を失い、顕現すら解けてしまっていた。
     直後に来た政府の刀たちに事情を話して肥前を託したものの、主はずっとあの肥前の行方を気にしていた。

     さすがにこの状態でなんにも言わないわけにはいかないだろう、と長義が色々と手を回してくれた結果、調査報告はこちらの本丸にも随時回してくれたのが幸いだった。
     結局、ほとんど審神者たちが予想した通り、初期刀を失ったショックによる時間遡行軍への傾倒およびブラック本丸化ということで、あの本丸に残っていた審神者も男士たちも殺したのは陸奥守だったらしい。肥前一人を残して、全て。
     肥前は結局錬度上げを一切されていなかったので、陸奥守が肥前を生かそうとした結果そうしたのだろうと判断された。
     審神者自体も、最終的には肉体改造をしており、人としての形を保っていなかったという。首を切り離されても一週間以上霊力を保ったとのことなので、人外もいいところだ。

     主が気にかけていたもう一つの事項であった「南海太郎朝尊」の気配についてはあの場ですぐに解決した。
     陸奥守吉行が塵となって消えた後に、一振りの刀が残された。
     これが、南海太郎朝尊だった。拾って、抜き取ろうとした時には、やはり全てが消えてしまった。
     おそらく陸奥守は、顕現出来ないことを予言していた。だから文久土佐で南海を回収した折、折って連れて来たものと思われた。

     そして、今日、もう一つの結末を迎える。
    「主、そろそろ時間じゃないのかい」
    「山姥切! あれ? 茶菓子用意してあったっけ? 歌仙に確認……」
    「もう~、そんなの後でいいよ」
     ピルルルルルル! と情けない電子音が部屋に響く。男士たちには不評だが、主が昔の家の呼び出し音がコレだった! と言って譲らないインターフォンを取る。
    『来たよ、政府の方』
     燭台切からの連絡に、ありがとう! と礼を言ってバタバタと玄関口に入っていく。
     まったく、我が主ながら、落ち着きのない。しかし、こちらもその様子に安心感を覚える。
     こんな胸糞悪い話を聞いたあとに、うちの主を見ると間が抜け過ぎてて逆に笑ってしまうくらいだ。
     近侍の自分が一緒に行かねば、と山姥切長義もまた歩き出した。
     政府預かりになっていた「肥前忠広」を迎えに。



     勝手に自分以外の刀に霊力を供給するんじゃない! とはちゃめちゃに病院で怒られた。
     審神者は霊力を与える側だが、それがどんな風に作用するかわかったもんじゃない。そこから霊力を感知され、本丸全体を狙われることもある、もっと危機感を持ってください! と審神者の地区の政府担当者が半泣きで審神者に訴えかけた。いやあ、うちの営業担当の人、いい人でよかったな~なんて笑うと「営業ではないです!」とそこは訂正された。
     顕現も解けてしまい、本丸は解体し、審神者は死亡。生き残りは肥前のみだったので、しばらく調査、事実の解明のため、肥前は政府預かりとなっていたが、結局本刃はずっと閉じ込められ、虐待を受けていたということばかりが浮彫になり、処分としてどうするかと話題になったが、なにかあれば自分のところにほしいと申し出ていたのが聞き届けられ、また肥前も承諾したため、本日無事に二度目の本丸顕現となった。

    「……肥前忠広。人斬りの刀だよ。で、誰を斬ればいいんだ?」

    「誰も。斬りたくなったら、斬ればいい。
     存在意義として、斬りたいと思ったら」

    「はっ、アンタも、大概物好きだな」
     こうして、二振り目の肥前忠広が、この本丸に顕現したのだった。
    みどり(aomidori003) Link Message Mute
    2022/09/03 22:30:58

    未来を見ないで

    (2021年5月29日追記)
    2021年5月30日の0530超エアブー 【凍結ぶどう】みどりの新刊です。
    A5/50P/600円/小説/全年齢
    初期刀・山姥切国広、初鍛刀・前田藤四郎のとある本丸の話。男性審神者がいます。
    肥前忠広と出会った前田藤四郎と男審神者がとある事情から一緒に同行し、戦いを介して、
    肥前の本丸の陸奥守吉行、南海太郎朝尊との関係を探っていく物語。
    土佐組の関係性のあり方の一つとして、肥前を中心に描いています。
    こちらの話を加筆修正したものです。ラストは追加されています。

    全編シリアス。ブラック本丸、刀剣破壊表現、間接的ですが流血、暴行描写があります。
    なんでも平気な方向け。

    通販はこちら
    https://pictspace.net/items/detail/276503

    よろしくお願いいたします!

    ===========================

    初期刀・山姥切国広、初鍛刀・前田藤四郎のとある本丸の話。個性の強くない男審神者います。
    単発で読めます。
    土佐組中心というか肥前くんメイン。審神者が事情ありそうな肥前くんと出会ってドタバタする話。

    ・流血、負傷、嘔吐シーンなどあります。
    ・ブラック本丸表現あり。刀が折れるシーンもあります。
    ・最後はハッピーエンドです。

    5月30日のインテックス大阪・超閃華の刻2021に加筆修正を加えて出す予定です。
    おそらく通販になる予定です。

    別途、イベント情報などはツイッターのほうが多少お知らせしているかと思います。よければどうぞ。>https://twitter.com/aomidori003

    pixivからの移行です。

    #刀剣乱舞 #土佐組 #肥前忠広 #前田藤四郎 #男審神者 #陸奥守吉行 #南海太郎朝尊

    more...
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    • ナルキッソスの終局初期刀・山姥切国広、初鍛刀・前田藤四郎のとある本丸の話。
      男性審神者がメインです。審神者視点の話です。

      山姥切国広、修行から帰る、の巻。
      審神者の過去あり。若干暗めです。

      pixivからの移行です。

      #刀剣乱舞 #男審神者 #山姥切国広 #前田藤四郎
      みどり(aomidori003)
    • 現パロ三池兄弟まとめ②ツイッターで上げてた三池兄弟の現パロ小話まとめ②
      (実は血が繋がってない)三池兄弟が、なんか手作りの店をやっている話。時々、幼馴染の友人として古備前がいます。
      日常ほのぼの小話多め。時々、ソハヤの鉛食ってるみたいな話があります。

      ①お揃い
      ②探し物はなんですか
      ③ひだまり
      ④独立宣言
      ⑤醤油と山椒は欠かせない
      ⑥黄色い果実
      ⑦優しさに包まれて
      ⑧君と今年

      #刀剣乱舞 #ソハヤノツルキ #大典太光世 #三池兄弟 #現パロ
      みどり(aomidori003)
    • その腕を伸ばせ霊力フェス2!用 無料配布です。
      ソハヤ中心のCPなし、男審神者ありのどたばたオールキャラ風味の事件物です。
      初期刀・山姥切国広、初鍛刀・前田藤四郎の本丸です。
      戦闘シーンはありませんが、若干痛い描写はあります。最終的にはハッピーエンドです。
      DL版と中身は変更ありません。

      #刀剣乱舞 #ソハヤノツルキ #大典太光世 #三池兄弟 #男審神者 #霊力フェス‼︎2 #霊力フェス2
      みどり(aomidori003)
    • 【サンプル】こりゅうと!2【長船DASH】2022年10月16日 閃華の刻38内プチオンリー「長船DASH」参加します。
      『あたらしい橋をわたる』みどり 西1ホール ク32b
      新刊『こりゅうと!2 ー沼地のある本丸ー』 58p/A5/600円

      新刊は以前出した『こりゅうと!』と同コンセプトの『こりゅうと!2』(まんま)です。
      前作読んでなくても問題ないです。前作『こりゅうと!』も再販します。
      よろしくお願いいたします!!

      ツイッターで書き下ろし以外はほぼ読めます。
      長船たちがわちゃわちゃ本丸での平和な暮らしをしている小話たちと(炭作ったり、衣替えしてたり、かき氷食べたりしています)、
      書き落としは謙信くんの修行に伴い自分の行く末に悩むとも悩んでないような感じだけど、やっぱり修行行く決心をする小竜さんの話。最後だけ初期刀がいますが、あとはほぼ景光兄弟中心の長船。いろんな刀の名前は名前だけ出てきます。
      表紙はいつものようにすあまさんがやってくれました。本当に忙しいところありがとうございます……。

      サンプルは各話冒頭。
      上記に書いたように書き下ろし以外はツイッターで大体読めます。(https://twitter.com/aomidori003/status/1576498463780372480?s=21&t=ersI-MzJs0nDH1LOXbLH_w)ツイッターであげたものに加筆修正をしています。
       愛の詰まったお弁当   ……長船全員。謙信のお弁当をみんなで作る話
       薄荷の香りを撒き散らし ……小豆、謙信と衣替えをする話。南泉と堀川派がいる。
       ブルーハワイの夢    ……小竜と大般若が謙信と小豆にかき氷を作ってもらう話。
       望んでもない      ……光忠兄弟+景光兄弟。髪の短い小竜さんの話。ちょっとだけ獅子王。
       砂糖まみれに固めて   ……長光兄弟+景光兄弟+五虎退、日向。みんなで花の砂糖漬けを作る話。
       全て洗ってお湯に流して ……景光兄弟+長義。炭を作って風呂に入る話。
       酔っ払いたちの純愛   ……長船全員+長義。タイトル通り飲み会の話。日本号いる。
       二人の景光       ……書き下ろし。小竜さんが修行に行くまで。

      #刀剣乱舞 #小竜景光 #謙信景光 #長船派 #景光兄弟 #長船DASH #サンプル
      みどり(aomidori003)
    • ただの少年ですゲームDP。男の子主人公がチャンピオンになった後、なかなか助手のヒカリちゃんと会えなくてずっと主人公を探していたヒカリちゃんの話。
      主人公の名前は「ニコ」くんです。
      恋愛未満なDP主人公ズが好きです。

      pixivからの移行です。

      #ポケモン #DP #ヒカリ #男主人公
      みどり(aomidori003)
    • 自覚のない可愛げ初期刀・山姥切国広、初鍛刀・前田藤四郎のとある本丸の話。
      男性審神者がメインです。初鍛刀・前田がめちゃくちゃにかわいいと思っている審神者と、自分の言動が短刀らしくなくかわいくないというのが自覚あって軽いコンプレックスな前田の話。

      #刀剣乱舞 #男審神者 #山姥切国広 #前田藤四郎
      みどり(aomidori003)
    • 誰が為のお茶初期刀・山姥切国広、初鍛刀・前田藤四郎のとある本丸の話。
      男性審神者が出てきます。鶯丸が夜寝る前にお茶の準備をしている話。大包平が顕現したてで鶯丸が浮足立ってる。
      単品で読めますが、この話の続きみたいなものです。
      >「本心はぬくもりに隠して」(https://galleria.emotionflow.com/115535/635572.html

      pixivからの移行です。

      #刀剣乱舞 #男審神者 #鶯丸
      みどり(aomidori003)
    • 理由はいらない単発。これだけで読めます。
      本丸内で寝無し草をしていた小竜さんと、小竜さんに世話を焼かれていたけど本当は一番小竜さんを受け止めていた謙信くんの話。
      それとなく長船派が大体出てきます。

      ついでに、この堀川くんは、この堀川くんと同一です。本丸もここ。
      『そして「兄弟」となる』(https://galleria.emotionflow.com/115535/626036.html

      pixivからの移行です。

      #刀剣乱舞 #長船派 #景光兄弟 #小竜景光 #謙信景光
      みどり(aomidori003)
    • 闇こそ輝くと知っていた初期刀・山姥切国広、初鍛刀・前田藤四郎のとある本丸の話。
      男性審神者がメインです。山姥切国広視点の話です。
      山姥切国広、修行に行く、の巻。

      実際には私は即出しましたけど。
      でも、山姥切国広は「修行に行く」と言い出した時点で修行完結と思ってる派なのでそれだけで尊いです。

      pixivからの移行です。

      #刀剣乱舞 #男審神者 #山姥切国広 #前田藤四郎 #薬研藤四郎
      みどり(aomidori003)
    • 現パロ三池兄弟まとめ①2021年7月11日の『閃華の刻緊急SUMMER2021』に参加します。
      【凍結ぶどう】青海Bホール テ64ab
      『鈍色の日々』(にびいろのひび)
      70P/600円/小説/全年齢
      通販はこちらから。
      https://pictspace.net/items/detail/276506

      ======================================
      ツイッターで上げてた現パロ三池兄弟の小話をまとめました。
      とりあえず10本です。

      こちらの内容に加筆修正して書下ろしを追加したものを7/11閃華に出す予定です。
      ツイッターにはもう少し載っています。

      気がつけばすごいたくさん書いていた……。
      色々感想いただけて三池界隈の優しさに甘えています……。ありがとうございます。

      別途、イベント情報などはツイッターのほうが多少お知らせしているかと思います。よければどうぞ。>https://twitter.com/aomidori003

      pixivからの移行です。

      #刀剣乱舞 #ソハヤノツルキ #大典太光世 #三池兄弟 #現パロ #物吉貞宗 #包丁藤四郎 #大包平 #鶯丸
      みどり(aomidori003)
    • 家族になろうよ昔サイトに載せてたプラ澪+正宗くん関連小話まとめ。
      一応おそらく時系列順。

      妄想過多。過去捏造。
      子ども時代~修行時代~本編~プラ澪告白編から結婚まで。
      短い話の連なりです。なんとなく全編がゆったり繋がってます。

      なんとなく明姫のプラ澪もこの前提ですけど、子どもはいないので時系列は少し違います。

      pixivからの移行です。

      #みえるひと #神吹白金 #火神楽正宗 #湟神澪 #プラ澪
      みどり(aomidori003)
    • どうか全力で構わないからイナイレ二期の真帝国戦後の鬼道さんと円堂さんの話。
      ほんと、あそこの春奈ちゃんのこと考えると鬼道さん殴りたいけど、鬼道さんも誰か抱きしめてあげて、みたいな気持ちになる。円堂さんも豪炎寺抜けて傷心中だし。
      二期鬼道さんの良妻ぷりが、好きだけど、鬼道さんももっとワガママ言ってほしかったな、という話です。書いたのは結構前です。

      pixivからの移行です。
      #イナズマイレブン #イナイレ #円堂守 #鬼道有人 #音無春奈
      みどり(aomidori003)
    • まがい物の恋初期刀加州本丸の、ソハさに。
      神様ムーブなソハヤと、ソハヤに片思いをしていたけど鈍感な審神者の話。ハッピーエンドです。
      ちょっと女性の生理描写あります。

      ソハヤ視点の補足のような何か→「作り物の気持ち(https://galleria.emotionflow.com/115535/635625.html)」

      ソハさにがめちゃくちゃキている。これはこれで終わりなんですけど、続きというか、補完があるので、また適当にあげにきます……。とにかく一週間くらいで4万字以上ソハヤ書いてて、書かないと日常生活に支障が出るレベルでソハヤいいです……。ソハヤぁ……。神様ムーブしてくれえ……。
      あと、毎回毎回糖度が低い。どうしてなんだろう……。

      別途、イベント情報などはツイッターのほうが多少お知らせしているかと思います。よければどうぞ。>https://twitter.com/aomidori003

      pixivからの移行です。

      #刀剣乱夢 #ソハさに #女審神者 #ソハヤノツルキ #加州清光
      みどり(aomidori003)
    • 変わらない寂しさ明姫の続きものその⑥。番外編。
      明姫です。が、ほぼ明神とエージ。
      初期三人組が大好きすぎて書いた。明姫が付き合い始めて寂しくなるエージと、でもそれに派生してそれぞれ寂しさを抱えてる明神と姫乃、みたいな感じですけど、エージと明神には永遠に兄弟みたいでいて欲しいです。

      pixivからの移行です。

      #みえるひと #明神冬悟 #明姫 #桶川姫乃 #眞白エージ
      みどり(aomidori003)
    • ライオン強くなりたいエージと、明神の話。
      昔出したコピー本です。

      #みえるひと #明神冬悟 #眞白エージ
      みどり(aomidori003)
    • 本心はぬくもりに隠して初期刀・山姥切国広、初鍛刀・前田藤四郎のとある本丸の話。
      男性審神者がメインです。初太刀・鶯丸からみた主の話。近侍で明石が賑やかしにいます。

      話の中で大包平が十数万貯めても来なかった、という話は、実話です。

      pixivからの移行です。

      #刀剣乱舞 #男審神者 #明石国行 #鶯丸
      みどり(aomidori003)
    • あまやどり昔出したみえるひとの同人誌です。
      明神冬悟と正宗くんの話と、ひめのんとプラチナの話。

      pixivからの移行です。

      #みえるひと #明神冬悟 #桶川姫乃 #神吹白金 #火神楽正宗
      みどり(aomidori003)
    • 君に花束をn番煎じのタイトル。光忠が顕現してからの福島の兄ムーブと己を大事にしすぎる言動に頭を悩ませているけど、福ちゃんは福ちゃんで弟との距離感に諦観感じていた話。最後はハッピーエンドです。
      加筆修正して、光忠兄弟ワンドロで書いた話たちとまとめて春コミに出す予定です。

      光忠、なんでも器用に出来る男が全く頭回らない癖強兄に振り回されてほしい。

      #刀剣乱舞 #光忠兄弟 #燭台切光忠 #福島光忠 #不動行光 #サンプル
      みどり(aomidori003)
    • こんな苦味も口に含めば初期刀・山姥切国広、初鍛刀・前田藤四郎のとある本丸の話。
      男性審神者がメインです。甘いものが好きなんだけど、ずっと隠し続けていた審神者と、それに気付いて色々と察した安定が審神者と甘いものを食べに連れ出す話with骨喰。
      脇差たちには元気いっぱいもりもり食べててほしいです。

      pixivからの移行です。

      #刀剣乱舞 #男審神者 #大和守安定 #骨喰藤四郎
      みどり(aomidori003)
    • ここから単発。これだけで読めます。
      ソハヤの顕現から、大典太の顕現して、三池兄弟が「兄弟」となるまで。
      兄弟のすれ違い話好きすぎて、堀川派と貞宗派と三池で書いてる……。
      同じようなものですが、兄弟好きなので許してください。

      ソハヤのポジに見せかけたネガがめちゃくちゃ好きです。あと、大きな刀が小さい刀とわちゃわちゃしてるの好きです。徳川組かわいい~~~、好き~~~という気持ちで書きました。

      ついでにこの物吉くんは、多分この物吉くんです。
      「うちのかわいい太鼓鐘(https://galleria.emotionflow.com/115535/635603.html)」


      以下、余談。
      刀ミュ、三池兄弟、本当にありがとうございました……。
      ソハヤツルキ、最高でした……。本当に、東京ドームシティに帰ってきてくれてありがとう……。推しが自ジャンルに来る経験初めてなので、挙動不審ですが、応援していきます……。
      本編より、推しの観察に費やす経験初めてしました。ソハヤしか観てない。健やかでいてくれてありがとう……。

      別途、イベント情報などはツイッターのほうが多少お知らせしているかと思います。よければどうぞ。>https://twitter.com/aomidori003

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      #刀剣乱舞 #三池兄弟 #ソハヤノツルキ #大典太光世 #物吉貞宗 #包丁藤四郎
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    • 夕陽の向こうの顔明姫。GW前。雨降って地固まる系の話。
      いつもどおりの展開で、愚鈍な明神と、情緒不安定なひめのん。

      pixivからの移行です。

      #みえるひと #明神冬悟 #桶川姫乃 #明姫
      みどり(aomidori003)
    • 一瞬だけの信頼みえるひと小話。サイトにあげてたもの。2008年くらい。本編前の明神師弟の話。
      冬悟がひたすらにネガティヴボーイで、師匠もつられてネガティヴになってる。

      pixivからの移行です。

      #みえるひと #明神冬悟 #明神勇一郎 #黒白師弟 #明神師弟
      みどり(aomidori003)
    • 二人で見る月みえるひと、学パロ冬姫(明姫)です。
      以前書いていた『もっともっと』(https://galleria.emotionflow.com/115535/626025.html)の前日譚というか、くっつく時の話。

      pixivからの移行です。

      #みえるひと #明神冬悟 #桶川姫乃 #明姫
      みどり(aomidori003)
    • 花火の夜明姫。7月、夏休みの話。
      R15くらいかなぁと自分比で思っていたんですが、特に大したことはなにもしてなかったです。おかしいな……。書いてる間は死ぬほど恥ずかしかったんですが。二人で花火を見に行く話、ですが、花火は見れませんでした。

      pixivからの移行です。

      #みえるひと #明神冬悟 #桶川姫乃 #明姫
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    • シンフォニアまとめ十数年前に書いたTOSの短い小話のまとめです。ほぼCP要素なし。時折ロイコレ風。
      ロイド、ゼロス、ジーニアス多めです。9本。
      本当に、名作で、ロイドくん、一生好きな主人公です。

      最近ひとさまのテイルズシリーズの実況を見てはちゃめちゃに好きだったことを思い出したので昔のを引っ張り出してきました。
      は~~~、ゲームやりたいな~~~~~~。

      pixivからの移行です。

      #テイルズオブシンフォニア #TOS #ロイド #ゼロス #コレット
      みどり(aomidori003)
    • 隣室の明石くんとソハヤくん(2022年3月17日追記)
      2022年3月21日の閃華春大祭 【凍結ぶどう】みどりの新刊です。
      【凍結ぶどう】東2ホール ケ43ab
      『隣室の明石くんとソハヤくん』
      100P/文庫/1,000円/小説/全年齢
      カバー、表紙はいつものようにすあまさん(https://www.pixiv.net/users/158568)が描いてくれました!!!推し二人描いてもらえてめちゃくちゃ嬉しい!!!!

      通販はこちらから。
      https://pictspace.net/items/detail/276508

      よろしくお願いいたします!

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      単発。隣室になっている来派の部屋の明石と、三池の部屋のソハヤが大して仲良くならずに隣人として過ごしている短編集です。日常ほのぼの~シリアスまで。

      全話に明石とソハヤ。時々、愛染国俊、蛍丸、大典太光世、虎徹がちょっと、名前だけは他の男士も居ます。
      明確なセリフはありませんが、審神者います。
      CP要素はありません。

      なお、最後の「⑦隣に立つもの」ですが、戦闘描写あり、流血、重傷表現があります。

      pixivからの移行です。
      みどり(aomidori003)
    • ドラクエ2~8まとめ十数年前に書いたドラクエ2~8の短い小話のまとめです。
      2は5本。CPなし。3人組がわちゃわちゃしてるだけ。
      3は3本。CPなし。パーティは勇者・盗賊♂(賢者)・武闘家♀(遊び人→賢者)・商人♀(賢者)の4人。
      4は6本。CPなし。勇者、クリフと、ライアン、マーニャ。
      5は5本。主ビア。主人公単独とCP物。
      6は3本。とても短い。ミレーユとテリーが好きです。主人公の名前は「ボッツ」。
      7は4本。CPなし。ほぼキーファの影を引きずってる話。主人公は「アルス」。
      8は5本。若干主姫。パーティ4人がわちゃわちゃしているのが好きです。

      11を書きたくて、昔の整理しました。
      ドラクエ、一生好きですね。

      pixivからの移行です。

      #ドラゴンクエスト #DQ2 #DQ3 #DQ4 #DQ5 #DQ6 #DQ7 #DQ8 #主ビア
      みどり(aomidori003)
    • 【ペーパー】コンクリの森【閃華春大祭2021】春コミおよび閃華春大祭 2021お疲れ様です。ありがとうございました。
      マジで前日に作ったペーパーです。少部数だったので、無配で終わりなんですがせっかくなのでこちらにも。
      明石と不動(極)が一緒に現代遠征に行く話です(単発)。
      表紙はすあまさん(https://www.pixiv.net/users/158568)が描いてくれました!

      前提は、初期刀・山姥切国広、初鍛刀・前田藤四郎のとある本丸の話。
      ほとんど姿のないセリフのみ男性審神者が出てきます。

      pixivからの移行です。

      #刀剣乱舞 #明石国行 #不動行光
      みどり(aomidori003)
    • そして「兄弟」となる初期刀・山姥切国広、初鍛刀・薬研藤四郎の本丸に権限した、十振目の堀川国広が、山姥切と山伏を心から「兄弟」と呼べるようになるまでの話。うちの本丸始動話でもあります。

      堀川派の「脳筋」と呼ばれているけれど、実際には三人とも内に籠るタイプなのがめちゃくちゃ好きです。他者に向かわず、自分自身ときちんと向き合うタイプの国広ズ、推せる。

      pixivからの移行です。
      #刀剣乱舞 #堀川派 #堀川国広 #山姥切国広 #山伏国広 #国広三兄弟
      みどり(aomidori003)
    • 三池兄弟まとめ①ツイッターで上げてた三池兄弟(本丸設定)をまとめました。
      ①絶対言わない。
       鬼丸とばかり飲んでる大典太に構ってほしいけど言えないソハヤの話。ちょっと獅子王と小烏丸。
      ②仲直りの夜食
       喧嘩してトンデモおにぎり作ったけど、後から悪かったなと反省してるソハヤの話。大典太目線。
      ③それならいい
       酒量を注意された大典太が、ごめんねと言えなくて詫び弁当を作る話。
      ④その声が呼ぶ限り
       兄弟を庇ってソハヤが幼児化する話。

      すこしだけ修正済。

      「沼地のある本丸」は初期刀と初鍛刀が同じなだけで審神者が出てこないものです。特に繋がりはそんなにないです。沼があります。

      別途、イベント情報などはツイッターのほうが多少お知らせしているかと思います。よければどうぞ。>https://twitter.com/aomidori003

      #刀剣乱舞 #三池兄弟 #ソハヤノツルキ #大典太光世
      みどり(aomidori003)
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